台湾発でグローバルに展開するKdan Mobileは、約17億円の資金調達を実施し、日本市場に本格参入した。同社の主力事業は、ドキュメント管理アプリ、クリエイティブ制作アプリ、電子サインアプリなどのSaaSサービスの開発・提供だ。世界167カ国でサービスを展開し、2億ダウンロード、延べ1,000万人以上のユーザーを抱える。2009年に同社を立ち上げ、CEOを務めるケニー・スー氏に、起業の経緯、グローバル戦略、日本市場における展望を聞いた。

 

iPhoneのビジネスモデルに興味を持ち、起業を決意

――起業の経緯を教えてください。

 

「私は台湾の工業技術研究院(ITRI)で、研究員として2003年から2009年まで在籍していました。当初はスマートホームのプロジェクトに携わっていて、携帯電話、自動車などのいろんなデバイスの情報をサーバーに集める研究をしていました。

 

そんななかで、2007年にiPhoneが発売され、翌年の2008年にApp Storeがリリースされたのを見て、『このビジネスモデルはすごいぞ』と。App Storeにソフトウェアやアプリを載せることができるし、購入できるというのがとても新鮮に映りました。

 

研究をしている最中に、アメリカからiPhoneを1台買ってきて、さらにビジネスモデルに大きな興味を持ち、自分でビジネスをやりたい気持ちを駆り立てられました。グローバルなビジネスモデルが自分にもできるのではないかと思い始めたんです。そこで、2009年に工業技術院を離れて、故郷の台南で4人の友人たちとKdan Mobileを立ち上げました」

 

 

アジア発の企業であることが最大の強み

――現在、どんなサービスを展開していますか?

 

「主に3つのプロダクトラインがあります。まず、『Document 365』は、PDFのアプリから広がってきたもので、今ではクラウドでも使えます。

 

次に『Creativity 365』は、Animation Deskなどのクリエイティブアプリを備えた総合的なコンテンツ作成サービスです。いつでもどこでも、デバイスを横断したコンテンツ作成などを可能にします。

 

『DottedSign』はデジタルサインのようなもので、これは3年前、つまりコロナ前から当社は手掛けております。

 

『Document 365』と『Creativity 365』はBtoCのモデルで始めていたのですが、ユーザーは個人であるように見えても、企業の中にそれを持ち込んで使っているとわかってきたので、サブスク制で大量に権限を付与する方式を取るようになりました。もう一つは『DottedSign』はBtoBのモデルで、3年前から、企業サイドから広がっていきました。電子サインとか、フローの後押しをするようなサービスです。

 

ダウンロードによる売上割合で言うと、当社の主力となるのは『Document 365』で70%、『Creativity 365』が25%、そして『DottedSign』が5%という割合になっています」

 

――御社の強みはどんな点ですか?

 

「まず前提として、世界でアプリケーションの市場規模は30〜50%ほどのスピードで伸びています。またSaaSでサブスク制の市場規模は、世界で2020年が1000億ドル、そして2022年には1500億ドルに広がるということで、上向きな市場であると言われています。そのなかで当社の強みは、モバイルサイドに優位性がある点です。

 

モバイルファーストでUI/UXを構築しています。MicrosoftやAdobe、GoogleはもともとPCを使うことを出発点としていますが、我々はモバイルファースト。

 

『スマホを使ってドキュメントを処理したい』『コンテンツを制作したい』といったお客様のニーズを、シンプルな方法で満たすことができます。もちろん最終的にはPCで最終仕上げをすることも可能ですが、当社の切り口としては従来の企業とは本質的に違っています。

 

また、欧米ではなくアジア発の企業である点も強みです。欧米の企業は、製品・サービスの開発に成功すると、それを一つのプラットフォームとし、そこにお客様が来て『我々のプラットフォームを使ってください』というスタンスのビジネスモデルが多いと思います。

 

一方で、当社は各地域のユーザーのみなさんの習慣に合ったサービスの提供を常々考えています。例えば、電子サインでは、商慣習に合わせて電子印鑑の機能もつけているのがその典型です。大企業の内部のフローや使い勝手に応じて、フレキシブルに対応させていただいています」

 

 

日本市場に本格参入。認知を拡大し、潜在的な顧客にアプローチしたい

――今回の資金調達を受けて日本市場へ本格参入されますが、今後の展望をお聞かせください。

 

「資金は主に我々の技術のさらなるグレードアップに投じる予定です。年間、12億のドキュメントファイルを処理していますが、これらをAIで分析をすることができれば、さらなる企業の価値を見出すことができるのではないかと思っております。

 

さらに、国際的なBtoBの強化にも投資していきたいです。日本、アメリカ、韓国などでBtoBの開発を行っていますので、開発そのものと各地のカスタマーサービスやオペレーションを増強するために、現地のスタッフもさらに増やしていきたいと思います。

 

日本の市場にもっとKdanのサービスを知っていただいて、潜在的な顧客にアプローチしていきます。特にポストコロナの世界を見据えるならば、今のような遠隔での働き方というのはモバイルの活用が企業にとって良いソリューションになると思いますので、期待したいと思います」

 

――YouTubeに貴社の動画「Work Hard, Play Hard」を見ました。遊ぶことも大事ですか?

 

「当社のようなタイプの企業は、クリエイティビティが求められます。もしかすると、我々の一部の仕事はAIに取って替えられるかもしれませんが、残るのはクリエイティブの力です。新しいことにチャレンジして、試して、価値を築いていく。仕事ばかりしていると、インスピレーションや想像力が途切れてしまうので、仕事からいったん離れて、ちょっと遊ぶこと、リラックスすることは新しいインスピレーションが得ることに役に立つと思います」

 

――最後に、日本のスタートアップ企業が貴社のようにグローバル展開を成功させるためにどんなことが必要だと思いますか?

 

「日本は大変ユニークで、大きな市場規模がある国です。ですから、日本のスタートアップは、国内市場を頼りにしてなんとか生きていけるところがあるのかもしれません。ただ、その分、グローバルに目が向きづらくなりがちかもしれません。そうなると、さらなる成長には限界があると思います。

 

当社は創業した日からグローバル市場向けに運営・開発をしています。多くの企業はまず国内をやって、そこから海外に行くやり方だと思いますが、それとは異なります。いま当社のサービスのユーザーは欧米が主で、アメリカが40%、ヨーロッパが25%、中国が20%、そして日本が5%、その他が10%です。海外の企業や顧客とともに成長してきて、いまは従業員も40%は海外にいます。

 

インターネットがこれだけ発達した現代では、ボーダレスで何でもできます。『自社の本部は台湾だ』『日本だ』ということではなくて、『うちはインターナショナルな企業です』と。どこにいてもオフィスがあってオペレーションするチームがいるのが、グローバルで成功できる企業だと思います」