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未来の沃野を拓け!ビジネスニューフロンティア 14

日本の家電修理技術を世界に売り込め!

◆取材・文:佐藤さとる

オビ スペシャルエディション

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高齢化も進んでいる。「平均年齢は60歳を超えていると思う」と神田さん。技術の伝承はどの業界でも共通のテーマである。

家電業界はグローバル戦国時代を迎えつつある。家電市場には、見たこともないような家電が続々と登場している。提供するメーカーも名の知れた大手国内メーカーだけでなく、内外のベンチャーなど。

こうしたなか懸念されているのが、その保守修理だ。技術のキャッチアップ、メーカーのボーダーレス化、修理技術者の高齢化などにより、その修理体制が崩れつつある。

こうした状況に際し、この3月に立ち上がったのが家電の修理エンジニア集団の「日本家庭電化製品修理業協会」だ。メーカー縦割りのサービス体制を見直し、よりユーザー視点に立った修理と技術の向上を目指す。

続々登場する新型家電と家電メーカー

スイッチを入れるだけで勝手に家中を掃除するロボット掃除機、汚れたら自動で掃除をするマイナスイオンの出るエアコン、羽根のない扇風機……いま電器店の店頭には、見たこともない家電製品が続々と投入されている。

人口減少で市場の縮小が懸念されるなか、2014年の日本の家電市場は前年比、消費増税前の駆け込み需要などもあり、前年比1.2%増の7兆5400億円となった(ジーエフケー マーケティングサービス ジャパン調べ)。

 

牽引したのはタブレット端末。前年比で17%も伸びた。テレビも台数こそ伸びなかったが、大型化や五輪睨みの4Kテレビが売上を上積みした。白物家電なども市場は頭打ちと言われて久しいが、確実に技術革新は進み、その技術力は世界トップレベルであることは間違いない。

現に隣の大陸からは日々多くの観光客が訪れ、日本の先端機能満載の家電を大人買いして帰る。そもそも市場が縮小しているかどうかも怪しい。というのもかつて業務用としてのみ使われていたコンピュータがPCとして家庭に入り込んだように、続々と現れるジャンルを超えた家電をどこまで家電市場と括るべきかという問題があるからだ。

いずれにしても家電市場はまだまだ活気と成長性に溢れているのは確かだ。

 

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部品のユニット化、それに伴う単価の向上で修理価格が上がっている。4万円ほどのパソコンで修理に出すとマザーボードだけで5万円になることも。

ここで気になってくるのは、こうした家電が故障した場合の修理だ。

かつては家電が故障すると販売店の店員が自宅にやってきて直してくれたものだが、そういう機会は確実に減ってきている。故障した場合、修理するより新品を購入したほうが安くつくことがあるからだ。PCなどは典型で保証期間を超えた場合、メーカーに持ち込んでもかなりの修理代がかかる。とくにデータの復旧は高額で、知人のライターは「10万円ほどのPCのデータ復旧に30万円かかった」と妙な自慢をしていた。

メーカーとしては、古い機種を修理して使ってもらうよりは、新規購入につなげたほうがおいしいのは確かだろう。ただ保守や修理体制が整っていないメーカーはいずれ消費者の信頼を失う。

 

 

家電修理の空白地帯も

実は、家電の修理業界は大きな変革期を迎えている。

「家電の修理業界は90年代に大きく変わった」と語るのは、この3月に立ち上がった「日本家庭電化製品修理業協会(J-HARB=ジェイハーブ)」の事務局長の神田和則さんだ。

 

「家電修理業界の構造的な問題解決について長年取り組んできた」という神田さん。「家電修理業界がやれること、やりたいことはたくさんある。誇りを持てる業界にしていきたい」と意欲を語る。

「量販店が伸び始めた頃から、メーカーが販売と修理サービスを明確に分けるようになったんです。修理の専業化が進みメーカーが専門の修理業者に依頼するようになった。だいたい8割以上がそう」(神田さん)

一般に専業化が進むと技術が向上し、効率性が高まる。ユーザーにとってもメリットが出る。だが神田さんは「そうではない」という。こうした修理業者はメーカーと専属契約しているため、他メーカーの修理ができず、量を増やすことができないからだ。

 

とくに地方が厳しい。過疎化が進んで移動距離が長くなり1件の仕事のために1日が潰れることもある。それに見合った修理代が取れればいいがそうならない。出張料を加えることもあるが、単価の低いものに乗せることは難しい」と神田さんは顔を曇らせる。

 

修理の中身も変わってきた。「かつてはテスターを当てて回路図を追いながら、修理箇所を探していましたが、いまはデジタル化で回路がモジュール化し、そのユニットを交換することが仕事になってきている。修理単価は上がっているが、その大半が部品代となっているので儲けは少ない。また修理エンジニアが慢性的に不足しているので、地域によっては修理の空白地帯も出てきている」という。

 

 

高齢化と技術継承の難しさ

若いエンジニアを育てる体制も壊れつつある

「かつてはメーカーが修理学校を置いて自前で育てていたんですが、それがなくなった。また昔は専門学校などにテレビ修理科や家電修理科などがあったんですが、いま全国どこにもない」(神田さん)という。

現状は修理業者がOJTなどで育てているが、「心許ない状況」(神田さん)だ。「求められることが増え、技術のキャッチアップが難しくなった」と危機感を募らせる。

 

加えて家電自体がボーダーレス化している。太陽光発電やそれをコントロールするHEMSなど、従来住宅設備機器と呼ばれたものが家電とネットワーク化されつつある。

若手を育成し、技術のキャッチアップ、伝承に取り組んでいかない限り、家電のコモディティ化や部品の高騰による家電の使い捨て化、続々と生まれる新カテゴリーの家電、短くなる新商品の発売サイクルに対応はできない。

J-HARBは、こうした業界の抜本的課題に取り組むために生まれた。

 

 

増える新興メーカー、広がるチャンス

決して修理ニーズがないわけではない。むしろチャンスは増えている。プレーヤーの数は確実に増えているからだ。家電はいまや日立やパナソニック、東芝といった国内の代表的家電メーカーだけでなく、海外メーカーや国内新興メーカーも家電産業に続々と参入している。

協会には「全国規模の修理会社を紹介してほしい」という海外メーカーからの問い合わせが来るという。

「ただ現状の対応は難しい。先ほど言ったように大手でも地域単位で契約しているので、日本には全国一律でできる修理サービス会社がないんです

アメリカでは、メーカーと販売、修理が明確に分かれており、「修理はサードパーティ会社が行っている。日本もいずれそういう形になるのかもしれない」が、「いまはまず全国規模での会員のネットワーク化が優先。会員の空白地域をなくすこと。全国ネットになれば、かなりの対応が可能となる」と神田さんは期待を寄せる。

 

 

運送業、住設業界など隣接業種との連携、国際化が鍵

たとえば、協会独自の認定制度のもとで、トラックやタクシーなど運送業と組めば家電の訪問診断なども可能になるだろう。あるいは工務店など住宅設備を扱う業種や、最近では便利屋と言われる業態が家電修理、リフォーム工事まで手がけることがある。こうした隣接業界との提携もある。

 

また技術の習得に関しては、協会で研修や技能大会などを設けて、業界全体の底上げも必要だ。修理のノウハウを集めたデータベース化も必要だろう。ただ技術者によってはノウハウの流出になるため、情報開示を拒否することもあろう。だがそもそも技術のタコツボ化が現状を招いたとすれば、技術の積極的開示は必然だ。すでに上流のメーカーはオープンソースにシフトしている。修理業界だけがクローズ化していては発展は見込めない。

 

もとより神田さんが協会設立の一番の意義として掲げているのが、業界の地位向上だ。

「縦割りの下請け構造となっているため、顔が見えにくく、どうしても下にみられる。メーカーに対しても、もっと意見が通るように存在感を上げれば、上流での歩留まり向上にもつながる」

実際、新興メーカーなどからは、「使用する部品の品質レベルを確認してほしい」といった相談もあるという。きちんとした修理技術は、適切な部品があって可能となる。さらには適切な廃棄のノウハウにも通じる。エコロジー全盛時代、修理技術を抜きにリサイクルやリユースは成り立たない。エコロジーも考えた日本の優れた修理技術は、海外でも求められるはずだ。

 

すでに自動車修理業界では、アジアやミクロネシアなどに進出し、技術指導を行っている企業もある。

新興国でのドメスティックメーカーのサービス体制、日系メーカーの修理体制や部品部材の品質の見極めなど、日本の修理技術ができることはまだまだありそうだ。J-HARBがそういった技術、人材の情報センターとして機能することを期待したい。

 

オビ スペシャルエディション

2015年7月号の記事より

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