オビ 企業物語1 (2)

株式会社大王製作所 ‐ 「メイド・イン・ジャパン」力が未来を拓く

◆取材:綿抜幹夫

 

株式会社大王製作所/代表取締役社長 田代 肇氏株式会社大王製作所/代表取締役社長 田代肇

モノからコトへ、人の心を鷲づかみにするグッズとは? 

昭和34年に東京の荒川で小さな企業が生まれた。 その名は「大王製作所」。三人で始めた事業で、『三人』がバランスよく、ぶれることなく、頑張っていこうという想いから『三』の中心に一本の線を引いて『王』となった。どうせやるならトップを目指そうということで『人』にも一本の線を加えて『大』となった。

崇高な願いを込めて『大王』という名を冠した企業は、先代の地道な経営基盤を引き継いだ二代目が「下請け的仕事からメーカー志向」へと変革を目指し、時代の先を見据えたさまざまなアイディアを繰り出しながら奮闘中だ。

 

トップダウンとボトムアップの狭間で

「ウチは現在〝ノベルティ、携帯ファッショングッズの総合メーカー〟と言っていますが、ノベルティは法人向けの配りもの商品で、中国で生産を行っています。私が入社してから力を入れてきた分野で、売上げ割合は全体の3分の1ぐらい。ほかの3分の1は先代の頃から開拓してきた神社仏閣、観光地、全国の土産店などでのグッズ販売、残りの3分の1は貴金属や新商品などで、ひとつに特化していないことが強みかもしれません」(田代社長、以下同)

 

先代が大王製作所を立ち上げたのは26〜27歳の頃だ。高度成長期であったこともありトップダウン方式で会社経営を進めた。いまの二代目・田代社長は『蛙の子は蛙』と言われ、会社を継ぐのは当たり前という環境の中で成長した。ところが先代の意に反して二代目は大学進学時に理工学部を選択し、卒業後はソニー株式会社に入社してしまった。転機は数年後。

同氏が体調を崩した時期と大王製作所の創業メンバーが辞める時期とが重なり、先代から初めて見るような真剣な顔つきで頼まれたことがきっかけになった。

 

入社して同氏が感じたのは「バブルがはじけて景気が落ち込んでいる時に、1人のトップダウンの力だけでは今後の経営は難しい、ボトムアップで社員それぞれの力を引き出して伸ばして、いろんな方面に力を入れていかないと」ということだ。ただアナログとデジタルの関係も同様だが、トップダウンもボトムアップもバランスが大事、ということも学んだ。

「社員は今までのトップダウン方式に慣れていたわけで、急にボトムアップ方式に転換して、それぞれが考えて行動しなさいと言ったところで、やはりすぐには行動できなかったんですね」

 

二代目としては〝これからの会社をなんとかしよう〟という想いから、書物を読み、セミナーにも出るなどのインプットを続け、その中で何かしらのアウトプットもできる。だが社員は先代の頃に社員教育をあまり重要視していなかったため、自ら何かをすることは難しい。そんな状況を同氏は変えたかった。

社長一人のがんばりでは、興味のある範囲やアンテナを張る範囲は限られてしまうが、社員32人がひとりひとりアンテナを広げていくことで、これからどこが伸びてどこにチャンスがあるのか、常にウォッチできる仕組みにしていくことが、今後は重要になると考えた。

 

「我々が扱っている商品の世界はサイクルが非常に早い。これからは短時間で商品を開発してお客様に提供する、早いサイクルの体制づくりが必須です。それには社員に投資して教育していかなければならない。人材育成ですね。それとデジタル化の弊害ともいえる希薄化する人間関係を改善するために、飲み会だとか、人と人との交わりを増やすことも必要だと思っています」

 

ブランド構築とオリジナル体験型商品を開発して

株式会社大王製作所 (7)東京都美術館のミュージアムショップで販売されている、限定付録つきの『あそぼーたんフォトフレームキット』

以前はパーツを中心に下請け的な商品が多く、大王製作所を前面に出した商品はなかった。〝お客様が企画されたもの〟を作る、完全なるOEM、つまり黒子役だった。二代目が入社した当時は会社の中に開発部門もなかった。そもそも商品を自社で企画してオリジナル商品を作るという発想自体が全くなかった。

「お客様から言われたものを作って納める、ただそれだけ。一番楽だったかもしれません(笑い)。だけど、モノづくりに携わっている人間としては面白くないですよね」

 

また同氏はこうも考える。

「私自身もそうですが、社員も含め、大王製作所に勤めていることを誇りに思えるようになりたい。そのひとつの方法が大王製作所の名が書かれている完成品への取り組みなのかなと」

完成品としてお客様に提供できている商品であれば、お客様からのフィードバッグもダイレクトに受け取れる。これまで何社も間に入っていて、お客様の生の声を聞き取れない、聞き取ろうとしても色々なフィルターがかかるし、正しい情報かどうかも判断できない。孫請けになってしまうと利益も出ない、納期までの時間もないしコストも取れない。そんな先代までの業界での立ち位置や状況を、大王製作所というブランドの構築によって変えることができるのだ。

 

追い打ちをかけるように販売チャネルのひとつである神社仏閣観光地での売上げが、少子高齢化の影響で減ってきている。顧客として有望だった修学旅行生が減少の一途をたどっているのだから仕方あるまい。それに加えてモノが飽和状態の世の中にあって、モノを売ろうとしてもなかなか売れない時代。企業に提案する場合でもモノの魅力だけでは容易に受け入れてもらえない。

ただ単なる大王ブランドでは通用しない時代にもなってきた。

「最近では〝モノからコトへ〟と社員に言っています。そのモノを使ってどんなコトができるのかを考え、お客様にモノを売り込むのではなくコトを提案していきましょうと」

 

たとえばどんな商品だろうか。

昨年から販売している『あそぼーたん』いう商品がある。これは手芸商品ではあるが、提案の仕方としては〝親子で一緒にモノづくりをすることで、親と子のコミュニケーションを増やして時間を共有できる〟体験型商品だ。この商品は手芸店をはじめ百貨店や美術館など販売チャネルの新たな開拓も期待できる。

株式会社大王製作所 (4)子供服売り場の特設スペースにて行われた『あそぼーたん』実演イベントの様子

ただ体験型商品ということで、モノをディスプレイするだけでは販路開拓には結びつかない。実際に作るところを見せたり、親子で体験している姿を見せるイベントなどを通しての地道な販促活動が続いている。そのひとつの成果として、東京都美術館のミュージアムショップでの販売があげられる。

 

顧客も、〝経験〟や〝体験〟というものに関してはあまりシビアにならずに、財布のひもがゆるむ傾向にある。親子のほかに孫とおじいちゃん、おばあちゃんの関係にうまく結びつけられる商材を提供できれば、さらなる展開も見えてくるだろう。

「父の時代で認めなくてはいけないなと思うのは、汎用の利くパーツを扱っていたことです。先見の明があったというか、いいところに目をつけたと思います」

株式会社大王製作所 (3)『あそぼーたんフォトフレームキット』は『花束』『ケーキ』『お手紙』の3種類。親子で一緒にモノづくりができる体験型商品として人気だ(写真右3枚)

汎用性のあるものなら、多少の在庫リスクはあっても様々な注文に対応できるうえ、流動性があるから必ずはける。逆にブランドがついて完成品になれば、どうしても特定のターゲットを対象にした商品となる。とすれば在庫リスクが高くなる。

「そういう意味では今の方がリスクは増えてきているなと感じますね。しかしながら、結局はこれもバランスが大事で、父の代でやっていた安定的に収益が取れるパーツの部分はしっかり土台として守りつつ、新たな展開をしていく。具体的には多品種少量をスピーディーにできる体制を整えて『あそぼーたん』のような体験型の商品をどんどん増やしていきたいですね」

 

『メイド・イン・ジャパン』の底力を発揮して

モノづくりからスタートし、金属製チェーンを製造してアメリカなどに輸出していた時代もある大王製作所だが、約60年の時間の流れの中で採算が合わなくなり、現時点ではモノづくり部分を全てアウトソースにしている。

はじめは国内に外注先をもとめ、時代とともに中国にも進出し独立法人も立ち上げ、現在は商品の半分以上を中国で生産して逆輸入をしている。一方で現在のように円安に振れれば、中国でのモノづくり部分を国内へ戻すといった現状もある。

「そこで思うのが国内にある外注先の将来です。残念ながら跡継ぎがいないなどの理由で廃業されるというところも増えてきています。外注先の町工場がなくなれば、我々の国内での商品作りは難しくなってきてしまうので、協力できるところは協力して存続できるようにしたいですね」

 

株式会社大王製作所 (2)2015年4月8日~10日に開催された『プレミアムインセンティブショー2015春』に出展。
訪日外国人観光客向けの商品等、OEMオリジナルノベルティグッズをメインに展示を行った

明るい見通しもある。それが2020年のオリンピックに向けて『メイド・イン・ジャパン』製品を後押しする動きだ。行政でも大手企業でも国産物を積極的に取り入れていく方向なのだ。大王製作所も「もう一度初心に帰って、国内で作れるものを増やし『メイド・イン・ジャパン』製品を販売していきたい」という。

 

また国が唱える観光立国・日本もビジネスチャンスだ。大王製作所ではすでに日本にやってくる外国人向けの商品の開発にも着手している。たとえば、神社仏閣向けといいながら、外国人を意識して4カ国語を表記した商品もある。それらはすでに免税店などでの販売実績がある。また本社のある山谷地区は土地柄、外国から来るバックパッカーが多い街。格安宿の畳の部屋や共同浴場など日本情緒を楽しむ外国人の生の声を聞きながら、外国人向けの市場を開拓していこうという意欲を覗かせる田代社長。

 

株式会社大王製作所 (1)外国語にも対応したおみやげ『十二支まもり』。十二支の説明や各動物のご利益、生年早見表を日・英・中・韓の4カ国語で表記している

日本の将来に向けて過渡期を迎えている時期。企業経営者も方向性を見誤らないようなカタチでやっていかないと、多くの従業員が路頭に迷うことになりかねない。

とはいっても大王製作所の場合は、そのような懸念は不要であろう。二代目として地ならしができた所で先代の想いをしっかり受け止め、必要な土台はしっかり残しつつもオリジナルブランドとして世の中に認識させる力強さとリーダーシップを田代社長に感じ取ることができたからだ。

今後、大王製作所がさらなる『メイド・イン・ジャパン』力を発揮されることを期待したい。

 

オビ ヒューマンドキュメント

田代肇(たしろ・はじめ)氏…1967年9月東京生まれ。1992年慶應義塾大学理工学部大学院卒。ソニー株式会社入社。コンサルタンティング部門にて工場のコストダウンなどを担当。1996年株式会社大王製作所入社、取締役社長室長に就任。同時に営業部、製造部門、開発部門、総務部門などを経て、2008年代表取締役社長就任。現在に至る。

株式会社大王製作所

http://www.daiomfg.co.jp/

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2015年12月号の記事より
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