オビ 企業物語1 (2)

「出張のコンシェルジュになりたい」ボーダー株式会社の提案する新しい海外出張のカタチ

◆取材:加藤俊 /文:菰田将司

 

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(写真=pixabay)

 

海外出張先、初めて降り立った土地で右も左も分からず途方に暮れる。誰しも覚えのある経験だろう。

では、あなたはその日のホテルをどのように探すだろう?

グーグルマップで近くのホテルを見つけ、アゴダやエクスペディアのような情報サイトで評価と宿泊代をチェックするのではないだろうか?

しかし数多い情報を判別するのは手間がかかるし、その情報が正しいとも限らない……。

Border(ボーダー)を運営するボーダー株式会社細谷智規社長は「そんなことに時間を使うのなら、プロの私たちに任せてください。私たちは皆さんの出張のコンシェルジュです」という。

ボーダーを使うとどのようなメリットがあるのか。そしてこれからの出張の姿はどうなるのか。

 

「自分で探す」から「プロに選んでもらう」に 

ボーダー株式会社ボーダー株式会社 細谷智規社長

「飛行機の関係で遅い時間にホテルに到着したのですが、事前に連絡してくれていたのでスムーズに宿泊できました」

「現地での利用が不安でしたが、実際には名前を伝えれば問題なくチェックインできました」

ボーダーのHPには、こんな言葉が並ぶ。海外出張に慣れているいないに関わらず、海外でのホテル手続きには若干の緊張感がある。そのストレスを解消してくれるのはありがたいが、ボーダーが解消してくれるのはそれだけではない。

 

海外出張は海外旅行全体の内15%弱を占める。その経済規模は約4.7兆円という大きなものだ(共に2012年、一般社団法人日本旅行業会調べ)。海外との貿易が大きな比重を占める日本の産業において、海外出張は避けては通れない。

海外出張させることが多い大手企業は、大手旅行代理店に飛行機チケット・現地ホテル・移動などの手配を一括で任せている場合が多い。しかし、それほど海外出張が多くなく、また予算も限られている中小企業の場合では、社内の総務が手配するか、出張者個人に依存しているのがほとんどではないだろうか。

 

「それだと、『ブツ切り』で調べることになってしまいます。フライト・ホテル・送迎をバラバラに探す。とても手間ですし、それぞれに支払いが発生し、総合するとコスト高になってしまう。……ウチに任せてくれれば、提携している現地の旅行会社を通じて全てが繋がった、ベストなプランを提案することができます」

 

細谷社長が始めたサービスは、国内の大手旅行代理店を通さず、直に現地の旅行会社と契約し、顧客の要望に合わせた出張先での行動プランを提案する方法だ。

「国内旅行代理店を通さないことで、手数料が安くなります。その結果、10〜20%ほどの明確なコストダウンをすることができます。多分、お客様がエクスペディア等で一時間、必死に調べたプランと同等かそれ以下の価格にできますよ。それができるのも、現地の会社と直接繋がっているから。そういう会社は、昔から付き合いがあるホテルがあり、そういうツテで安く部屋を確保できる。例えば香港のホテルで一泊3000円〜4000円、エクスペディアより安く提供したこともあります」

 

現在、HP上で提案をできる国として、香港、台湾、ベトナムなど12ヶ国が上げられているが、希望があればもっと多くの国へのプランも提案することができるという。

 

「実際には50ヶ国に提携している会社があります。しかし、時差の関係などで、リニアにレスポンスが貰えないところも多い。だから迅速にお返事できる国だけを上げてあります。レスポンスの早さはとても重要です。

第一に、顧客の希望に即座に応対できる。我々は予め決まったプランを用意するのではなく、提案型でやっています。顧客からのオーダーは最初はフワッとしたもので、こちらからの提案を受けて具体化してくる。

例えば、最初は日時だけの指定だったのに、提案を見てから空港を成田から羽田にして欲しい、と変わったり。こういう提案後のケアを当社は重視しています。

 

そしてもう一つは安全管理の点。今の世界情勢を見ても、出張者がどこにいるのかを会社が把握していかければならなくなっています。テロなどの大事件が起こったとき、どこにいるのか、どこのホテルに泊まっているのか、こういうことを個人に任せていては安全確認が遅れてしまいます。

また出張者自身にも、出張先での急病などの時に助けることができる、などの利点があります。もしタイで腹痛で倒れてしまっても、タイ語を喋れない。そんな時でも、ウチなら現地の会社を扱っているので大丈夫。すぐに駆けつけることができます」

 

オビ インタビュー

「バーチャルな出張サポートチーム」 

―かなり異色の経歴をお持ちですが、どうしてこのサービスを思いついたのですか?

 

細谷:大学院で応用数学などを研究し、その後日本総研に入社しました。6年半ほど、国からの仕事をしていましたが、自分が民間のことを全く知らない、ということを危惧して32歳の時、英語の勉強がてらUCLAのMBAに留学しました。

UCLAでは、アントレプレーナーシップという起業家教育プログラムを中心に学びました。アメリカの西海岸という特有の地域性もあり、起業に対する意識の高い生徒が多く、同期の学生も3分の1ほどがアントレプレナーシップクラブに入会しており、私も友人と共同で起業してみました。

 

その時に地元の旅行業者と話をしたのが、この業界に触れた最初のきっかけです。そこで気がついたのは、旅行のキーパーソンは現地の旅行業者なのに、代理店が間に入ることで取り分が少なくなっていて、旅行業者の経営が厳しくなっているということ。

なので、もっとITを使ってユーザーとの間をダイレクトに結べば上手く出来るのではないか。そして日本の市場が小さくなっていく今、もっと海外に気楽に行ってビジネスができればいい、と考えました。

 

―新参者として旅行業界に入ってきたわけですが、どんなことに苦労しましたか。

 

ネットワークも知識もないところからスタートしたので、とても苦労しました。とにかくメールや電話、手紙を送ってまずは会ってと頼み込みましたが、なかなか主旨を理解してもらえず、会ってももらえない日々が続きました。

やっと、La-vie+というサイトを運営しているエーペックスインターナショナル株式会社さんが協力してくれたのが最初です。

ここはベトナムをメインで取り扱っているところなのですが、社長がITに興味を持っていて、それに、旅行代理店に仕事を貰うことに頼っていないで、現地のランドオペレーターと新しい仕事を模索していたところでした。

 

旅行代理店からの仕事は観光旅行が多い。しかし、ビジネス客も無視できない割合があるので、ここにマーケットを広げたい、と考えていたんです。そこが、ウチのビジネススタイルと合致したのです。

……今は大分認知されてきたので、10社中7社くらいは会ってくれます。彼らも代理店の下請けのような立場になっていて、お客様と直接話す機会もなくなっている。そこを取り結ぶプラットフォームになれると自負しています。

 

―今後はどのようにサービスを拡大していきたいと考えていますか?

 

現在のスタイルにたどり着くまで、一年ほどかかりました。お客様が必要としているものをいかに提供するのかを掴むため、何度もブラッシュアップしました。

今後はもっとサポートチームを充実させて、どんな要望にも即座に対応できるオペレーションの構築を進めています。

最終的にはどんな問い合わせにも3分以内に返答することが目標です。また、今は月に10社ほどずつですが、提携会社を拡大しています。提携を増やすことでより要望に応えることができるようになるはずですので、これからも精力的に拡大していきたいと考えています。目標は3年以内に1000社です。

 

 ……「コンシェルジュ」という名称がHP上に掲げられていたが、私には細谷社長から発せられた「中小企業の黒子になりたいんです」という言葉が印象に残った。

異色の経歴を持った新進気鋭の経営者が、海外出張の常識を大きく覆そうとしている。しかし、その心には、苦しむ中小企業が活路を探すのを手助けしたいという熱意があるのが感じられた。

 

資料 ボーダー - コピー

 

資料 ボーダー

オビ ヒューマンドキュメント

細谷智規…1980年7月3日東京都生まれ。慶應義塾大学大学院理工学研究科修了後、株式会社日本総合研究所にて官公庁向けのコンサルタントとして従事。気象衛星打ち上げ・運用プロジェクトなど、技術系プロジェクトのマネジメントを担当。2012年に同社を退職し、UCLA Anderson(MBA)へ留学。在学中、米国にて旅行プラン作成支援サービス(Laife, Inc.)を立ち上げた。その後、現ビジネスモデルにピボットし、2014年8月、日本にてBorder, Inc.を設立。

ボーダー株式会社

https://www.border.co.jp/

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