オビ 企業物語1 (2)

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不動産投資は大手企業だけのものだけではない

不動産市場に一石を投じるクラウドファンディングの可能性

 

ロードスターキャピタル株式会社/代表取締役社長 岩野達志氏

◆取材:綿抜幹夫

 

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個人の不動産投資と言えば、ワンルームマンションかアパート。数十億円のビルなんか大企業しか関係ない……。だがそんな常識も変わる時が来ているのかもしれない。2012年に設立されたロードスターキャピタル株式会社では、個人投資家の不動産市場参入に向けた新しい取り組みが進んでいる。少数精鋭の約20人の社員を率いる代表取締役社長・岩野達志氏に、その挑戦について伺った。

 

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起業のキーワードは「社会に役立つ」こと

 岩野氏の不動産業界でのキャリアの第一歩は1996年。東京大学農学部を卒業し、新卒で「日本不動産研究所」に入社した時に始まる。当時はバブル崩壊後の、いわゆる「失われた10年」真っ只中。不動産市場の混乱はまだ収まらず、不動産の評価方法についても、土地と建物の値段の合計値で評価する「ガラパゴス的」な日本独自のやり方に変わって、諸外国と同じように収益性を重要視する方法が徐々に浸透し、不動産業界全体が変化している時だった。

 

 「日本は優秀な人が大企業に残る傾向があるから、自分はそこからはみ出た方が向いているだろうなとは思っていました。サラリーマンとしてやっていくというイメージはあまりなかったですね」という岩野氏。日本最大規模の不動産の鑑定評価を行う法人に入ったのは、正確な価格を把握する力がすべての基礎であり、その技術を習得すればさまざまな不動産ビジネスにも展開することができると思ったからだという。そうして4年間勤務した後、縁あって移ったゴールドマン・サックス・リアルティ・ジャパン、ロックポイントグループでは不動産の取得・運用を経験。3社で出会った志を同じくする仲間らと共に、2012年、独自の不動産会社・ロードスターキャピタル株式会社を設立した。

 

 その志とは、「〝大手企業と金持ちだけのもの〟というイメージが強く、一般の人にあまりいい印象を持たれていない不動産投資業界に一石を投じる」ことだ。「マンションやビルを作ることで町作りに貢献しているディベロッパーさんは少し別としても、大部分の不動産屋はほぼ〝自分たちで儲けて、自分たちで銀座で飲んで終わり〟で自己完結してしまっていて、我々は社会で何の役にも立っていないという感覚はずっと持っていました。不動産屋がどうしても社会的に見て地位が低いというか、尊敬されないような感じがする理由の一つもそこにあると思います。だから、何かしら個人に利益を還元できる仕組みができないか、と考えたわけです」というその思いはIT技術と掛け合わさり、一つのサービスとして具現化することになる。

 

「OwnersBook」のトップページ

「OwnersBook」のトップページ

クラウドファンディングを利用した新しいサービス

 現在の同社の主力事業は大きく分けて4つある。まず収益の柱となっている、東京都内で自己投資した不動産の運用業務、それから外部向けのマーケット分析などのコンサルティング業務と投資家に代わって不動産の取得、管理、売却などを行うアセットマネジメント業務、そしてメンバーの志を反映し、同社が最も力を入れているクラウドファンディング(インターネットを通じて多数の人から資金を集める仕組み)を利用した個人投資家向けのサービス「OwnersBook」だ。

 

 「OwnersBook」の仕組みは簡単に言うと、会員登録者はサイト上で同社が選んだ投資用不動産投資案件の概要を閲覧でき、その中から好きな物件に一口1万円単位から投資できるというもの。投資された金額を基に、同社の100%子会社を通じて物件を担保とした貸付が行われ、投資家には平均年4〜5%の利回りの配当がなされるという仕組みで、同じ物件に出資する会員同士が情報交換をするためのSNSなどのコミュニティ機能も備えている。出資者は直接不動産を所有するわけではないが、ごく少額から個人で不動産投資をする感覚で利用できるのが特徴だ。投資先は、岩野氏らから見るとリスクが低いものの銀行のルールなどの関係で借り入れが難しい企業や、他事業で不動産を扱う中で十分な信頼関係を築いている企業などで、リスクが低いものを厳選。貸付によって得られた金利はほぼそのまま、出資した個人の利回りとして還元される。

 

 ウェブサイトにもある通り、時には実質年利回り14%前後になる場合もあるが、それはあくまで例外的なもの。貸付後売却してもかまわないなどの特約付きで投資して不動産の売却益が多く出た場合など、利益が上がった分を投資家に分配した結果であり、ここでも貸付によって得た利益をほとんどそのまま個人投資家に還元している構図は変わらない。つまり同社にとってはあまり儲からないわけだが、それでもこの事業に力を注ぐのは、「ここで儲けたいわけではなく、個人が不動産投資をするためのインフラを作りたいから」なのだという。

 

「OwnersBook」の投資案件紹介ページ

「OwnersBook」の投資案件紹介ページ

 

不動産市場に個人投資家参入の道を開く

 そのメリットはまず、不動産市場の安定につながることだ。経済の悪化を受けて事業者や機関投資家、銀行は新たな投資がなくなれば、不動産自身には価値があっても、売りたい人・買いたい人共にマーケットからほとんど撤退してしまうために市場は停滞してしまう。けれど、そうやってマーケットが悪くなった時にも、個人投資家は投資を続けることが多いからだ。それに個人がアクセスできるマーケット作りがしっかりできていれば、投資したい個人にとっても利点がある。

 

 そしてもう一つ大きなメリットは、企業しかプレイヤーとして参加できなかった大きな投資案件に個人が参加できるようになること。それは個人にとって不動産投資をより身近なものにし、今まで「大企業と金持ちのもの」だと思われていた不動産取引に新しい道を作るもの、社会の役に立つものだと岩野氏は話す。

 

 「例えば同じ100万円を集めるとして、100万円を持っている一人から集めるのも、100円を持っている一万人から集めるのも理屈上は同じはずです。クラウドファンディングという手法で個人のお金をマーケットに引きこむというインフラを整えることで、1万円からでも投資できるという道が開けていけば、間違いなく個人投資家の利益になり、社会貢献にもつながるはずです」

 しかしインフラの構築は一朝一夕にできるものでもなければ、簡単な仕事でもない。それはもちろん、岩野氏も承知の上だ。

 

 「この先〝OwnersBook〟で利益が出るかと言えば4~5年は出ないと思います。けれど、インフラ作りは利益だけを求めていてはできない仕事で、ある意味ボランティアの精神を持った人間が旗を振る必要があるもの。我々の目指す〝社会の役に立つ〟にはぴったりの仕事だと思います」

 そう話しながら、他事業である物件の売買や所有する物件の家賃収入などで会社としての利益を確保しながら、事業の継続・拡大を続けている。

 

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IT技術が消した物理的障害の壁

 しかし、新しい取り組みには既得権益を持つ側からの反対がつきもの。もちろん不動産業界についてもそれは同じだが、すぐには解決が難しくても、世の中や不動産業界の当事者が声を上げ、少しずつ改善していこうとする流れが大事だというのが岩野氏の考えだ。

 

 「賃貸住宅の敷金や原状回復義務についても、従来の慣習に疑問を唱える声が上がり、徐々に変わってきました。海外と比較してあまりに逸脱しているような悪しき慣習は直した方がよく、みんなが少しずつ努力して変えていくべきものだと思いますし、我々もそこに参加していきたい。昔なら一万人相手に契約書を作ることは面倒すぎてできませんでしたが、IT技術の進展で、今はクリック一つでできるようになりました。これはイメージ的には、今までは漁師が釣った魚は競りにかけられて落札され、スーパーで切り身に加工された姿でしか消費者に届かなかったのが、インターネットで直接漁師個人から買うことができるようになったほどの変化です。言い方は悪いですが、不動産でも同じように、真ん中で権益を持っている人から、魚を釣った人と最後に買って食べる人たちに、もう少し利益が回るような仕組みを作っていきたいと思っています」

 

目指すのはフェアなマーケットの創出

 今、岩野氏の目標は、1年以内に「OwnersBook」の仕組みをさらに一歩進め、出資者が実際に不動産を持っているのと同様の投資案件を作ることだ。それにより、従来用意できる資金額からワンルームマンションやアパートの購入しかできなかった個人投資家に、20億円、30億円のビルの持ち分を所有することができる道を開きたいのだという。

 「そうしてこれまで大手企業しか買えなかったものを個人でも買えるようになれば、不動産市況そのものの情報がどんどん広がってきますし、大手企業内で囲われていた情報の共有や開示も進んでいくはず。そうすることで、一部の人たちだけが情報をコントロールして利益を上げるのではなく、フェアなマーケットを作ることにもつながる。それが、不動産業界全体の評判の向上にもつながると思うんです」

 

 「社会に役立つものを」から出発した変化はどこまで広がっていくのか。不動産のイメージをがらりと変える可能性を秘めた、岩野氏と同社の挑戦に期待したい。

 

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いわの・たつし氏…1973年5月生まれ。兵庫県神戸市出身。小学校1~3年はアメリカ、小学校4年〜中学校3年は千葉で過ごす。開成高校を経て東京大学農学部を卒業後、1996年に財団法人日本不動産研究所に入社。ゴールドマン・サックス・リアルティ・ジャパンでの勤務、ロックポイントマネジメントジャパンLLCディレクターとしても不動産取引・運用の経験を積んだ後、2012年にロードスターキャピタル株式会社を設立。代表取締役社長に就任。不動産鑑定士、宅地建物取引士。

 

ロードスターキャピタル株式会社

〒104-0061 東京都中央区銀座2-6-16 ゼニア銀座ビル6F

TEL 03-6264-4270

https://loadstarcapital.com

https://www.ownersbook.jp

◆2016年5月号の記事より◆

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