オビ 企業物語1 (2)

社会保険からM&Aまで、自身も経営者だからできるニーズに即したコンサルティング

会社の課題、社会的問題の困りごとの解決が使命

オビ ヒューマンドキュメント

OLYMPUS DIGITAL CAMERA社会保険労務士法人 三島事務所/代表社員 特定社会保険労務士 三島幹雄

経営者の相談役として、経理や法務、人事、労務など中小企業の経営に関わる士業は少なくない。しかしその士業自身は、多くの場合が個人事業主。「本当に有益なアドバイスが聞けるのだろうか?」と不安に思う経営者がいるのも、当然のことだろう。社会保険労務士法人 三島事務所の代表・三島幹雄氏は、同じ疑問を感じ、自らも法人のトップに立つ社会保険労務士である。その経営理念である「社会的な問題で困っている人を助けたい」の原点や、激動の時代を迎える年金・保険・介護の未来を聞いた。

 

 

 

 

 

業務範囲は労務から医療・介護まで

社会保険労務士(略称:社労士又は労務士)は、中小企業経営者からすれば「人事・労務の専門家。就業規則の作成や労働争議の際に相談する労働法関連の専門職」というイメージが強い職業だ。

 

だが、実はそれは社労士の担当業務の一部でしかない。「社会保険労務士」という名称が示す通り、厚生年金や医療保険、介護保険など、誰もが馴染みのある社会保険も実は社労士の専業分野。障害年金の受給申請や要介護認定の申請など個人が社会保険を利用するためのサポート、介護事業の指定申請・助成金申請をはじめ医療・介護分野を支える事業者の支援など、その業務範囲は非常に幅広く、社労士・社労士法人の多くは「人事全般までカバーした労務管理コンサルティング」、「介護保険に特化」など、その扱う業務の傾向を事務所の特色として打ち出している。

 

そんな中、「社会的な問題で困っている人を助けたい」というストレートな思いを経営理念として掲げ、社会保険関連を中心にしつつ、個人の障害年金申請から企業の就業規則や人事システムの作成、運用開始後のアフターフォローまで含めたコンサルティングなどを行う一風変わった社労士事務所、それが三島氏率いる「社会保険労務士法人 三島事務所」だ。

 

 

原点は助けられた人々への恩返し

三島氏は広島県福山市の出身。当初は社労士になる気はまったくなく、中学・高校と打ち込んだテニスのスポーツ推薦で進学し、将来は社会人プレイヤーになる予定だった。しかし高校3年生の時に身体を壊してしまい、プレイヤーへの道を断念。療養しながら浪人生として受験勉強に打ち込んでいたが、そこへ突如、当時中学生の妹が脳内出血で倒れるという大事件が起こってしまう。

 

「昨日までの日常が突然途切れた状態に、家族全員がうろたえてしまって。動かない妹を中心にただ時間が流れていきました。でもある日、指が1本、ぴくんと動いたんですよ。そこから徐々に回復に向かい、リハビリを重ねることで、妹は2学年遅れましたが高校・大学も卒業しました。今も障害は残っていますが、自分の車で通勤し、社会人として自立して立派に働いています。

 

そこまで行き着けたのは妹の頑張りが第一ではありますが、医師や看護師、リハビリスタッフなど支えてくれた方々と、生命保険や障害年金などの社会保障制度の双方のおかげだ、と強く感じたんです」

 

そこから湧き上がってきた「どうせ働くなら、助けられた人々に恩返しをしたい」との思いが、経営理念にも通じる三島氏の原点だ。

 

そんな思いに突き動かされるように、進学した獨協大学外国語学部在学中には、アルバイトで資金を貯めて福祉先進国と言われる北欧の国々の介護施設の見学へ。同時期頃、父親の紹介で社労士という資格の存在を知って受験を決意し、奨学金返済のためにアルバイトと受験勉強の両立という過酷な環境の下、3度目の挑戦で見事合格を手にする。

 

実務経験を積むために就職した大手訪問介護企業では約4500人の従業員の人事労務を担当し、責任者を務めた。そして2007年、同社の分割に伴い、三島氏は分社後の社会保険業務を一括して請負うため社労士として独立する。このとき、三島氏は29歳。思いがけない開業ではあったが、三島事務所がM&A業務に強みを持つきっかけとなった。

 

 

経営者だから分かる、経営者の知りたいこと

現在、同事務所のスタッフは18人。手がける案件は医療・介護・福祉関連が約8割を占めており、医療・福祉事業の従事者向けの専門誌「メディカルクオール」でも同事務所所属の社労士が記事を執筆するなど医療・介護・福祉業界に強い事務所として知られている。しかし三島氏は「だからと言ってこの分野に特化しようとは思っていない」と言う。

 

それは1つには、社会的な問題や課題自体を解決するような仕事がしたいという思いがあるからだ。

 

「例えば、M&Aは企業の大小・業界を問わずどこにでも起こりえる大きな課題の1つ。もともと日本にはなかった文化なので、経営統合の際の人の移動や人事の手続き、ルールや規則をどう合わせるかというノウハウが非常に少ないんですが、これがきちんとできないと従業員の雇用が不安定になり、無茶な退職勧奨につながることもあります。

 

退職する人が出る場合、本来なら再就職支援を行うなど、その方の次の労働関係を整えてあげるところまでが企業がするべき所。しかしそういう文化が育っていないので、不幸な終わり方をされている場合が非常に多く、これも1つの社会的問題です。コンサルティングではそういうことまでお話しますし、そういうサービスが提供できるのが当社の強みでもありますね」

 

もう1つ、より実践的な理由は、相談する企業経営者側に立った時の利便性の問題だ。企業内では日々さまざまな問題が起きているわけだが、それを「あの人は社労士だから相談できるのはここまで。これは税理士の領域」などと考える経営者はまずいない。社労士法人が担当できるのは人事労務分野のみだが、税務まで聞ける、訴訟には弁護士と一緒に対応できるなど、「対応範囲は広いに越した事はない」というのが三島氏の自論だ。

 

OLYMPUS DIGITAL CAMERA事務所の入口には業務案内のパンフレットのほか、三島事務所のコンセプトも掲示

2011年には組織を法人化し、より総合的なサービスを提供できる体制と会社経営の経験がない士業が経営者の相談を受けるという矛盾を除く体制も整った。「自分は経営していないのに経営者の相談に乗る、というのは違うだろうと。一度は同じ所に立って、同じ風景を見ないと経営者の方の話も聞けないし、同じ所に立つことで共感力が養われて、解決法も提案できるんじゃないでしょうか」と言い、「お客さんは法律の話なんか聞きたくないと思うんです。知りたいのはどう法律を使えば課題が解決できるのかという、その方法。その領域をどう学び、実際に即した解決策を提示できるかが士業としては非常に大事な視点なのかなと思っています」とも語る三島氏。

 

それぞれの業界・会社で抱えている課題を一緒に解決していく姿勢を基本とする同事務所のコンサルティング内容は、新システム導入や労使のトラブル対応に留まらず、システム運用開始後に必ず出てくる問題点のフォローアップや紛争の予防対応までしっかり行っているのが特徴となっている。

 

 

保険・年金のプロとして、制度を変える声を上げる

総務省統計局の調査及び予測値によると、日本の65歳以上の高齢者人口は2013年に3186万人となり全人口の25%を突破した。2025年には30%、2035年には33・3%に達し、将来的には3人に1人が高齢者となる時代が来ると予測されている。厚生労働省の主導で健康寿命を延ばす取り組みや在宅医療の充実などを図る地域包括ケアシステムも進められているが、医療・介護・社会保険・年金は果たしてこれからどうなっていくのだろうか。

 

三島氏の見解は「給付金の減額や個人が払うお金を多くすることで対応できる範囲を超えて、仕組み上は壊れているといっても過言ではないところまで来てしまっている状態。しかし、2025年まで後10年もない中で今の仕組みを1から作り直せるのかといえば、それも現実的ではない話。結果として、恐らく医療も介護も福祉も自由化の幅が広がり、1層目の保険の仕組みの上に、2層目として民間ビジネスで解決していく時代になっていくのではないか」というものだ。

 

それを踏まえて社労士という仕事を考えると、大きな問題は「保険や年金の制度が破綻しようとしているにも関わらず、その道のプロである社労士から〝じゃあこうしよう〟という意見が出ないこと。確かにそこに産業はないし、お金を生むのは難しいけれど、放っておいていいものではないはずです」と三島氏は指摘する。

 

同事務所が手がける病気や怪我で働けなくなった人が受け取れる障害年金の申請は、根本的解決策ではないものの今できる方策の1つ。障害年金を受け取るには自己申告で複雑な申請を出す必要があるため、申請せずに生活保護を受け取っている人は多い。

 

しかし、障害年金は働きながら受給可能であるのに対し、生活保護は収入分は減額されるため、どちらを受け取るかで労働意欲には大きな差がつく。働きながら障害年金を受け取る人が増えていけば、国や地方全体の支出を減らすことができるというわけだ。

 

「そういうところも社労士として議論するか、声を上げても変わらないなら、みんなで作っていくしかない」と言う三島氏はまだ38歳。この先波乱必至の社会保険・介護問題の最前線で存分にリーダーシップを発揮してほしい。

 

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◉プロフィール

みしま・みきお氏

1977年生まれ。広島県福山市出身。獨協大学外国語学部フランス語学科を卒業後、26歳で社会保険労務士試験に合格。大手訪問介護企業に入社し人事・労務を担当する。2007年に独立し、三島幹雄社会保険労務士事務所を開設。2011年に法人化し、社会保険労務士法人三島事務所となり、現在に至る。

 

◉社会保険労務士法人 三島事務所

〒104-0032 東京都中央区八丁堀4-10-11 ネオ神谷ビル2F

TEL 03-5834-2004

http://mishima-office.net/

 

 

 

2016年6月号の記事より
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