オビ 企業物語1 (2)

恩師との別れから奇跡の再会、そして社長就任へ……

「仕事も遊びも一生懸命」をモットーに、ふらりと立ち寄りたくなる不動産投資会社を展開する

 

株式会社クリスティ/代表取締役・富士企画株式会社/取締役営業部長 新川義忠氏

 

christie01_syacyo「会社員として経験を積み、同じ業種で起業する」のはよくある話だ。

しかし、「独立後、その手腕と人柄を見込まれて、かつて勤めた会社の社長になってくれと頼まれる」人はちょっと珍しいだろう。

 

2016年で創業20年を迎えた不動産投資事業会社、株式会社クリスティ代表取締役・新川義忠氏(写真)は、まさにそんな珍しい経歴を持つ人物だ。

 

顧客との信頼関係を何より大切にし、従業員にとっても楽しい会社であることを目指す経営の原点には、株式会社クリスティの先代社長、故・小林靖明氏の言葉があった。

 

 

入社の決め手は「怪しかったから」

新川氏は福岡県北九州市の出身。小学4年生からは埼玉で育ち、20歳で都内のインテリアデザインの専門学校を卒業した。

当時はバブル崩壊直後の景気後退期真っ只中。

将来への不安から多くの若者が安定した大企業に走る中、「あまり安定は求めていないし、それより自分の力で何かをしたい」との考えで建築業の小さな会社を目指し、住宅設備の販売を行う会社に就職。

営業職として社会人生活をスタートした。

 

最初の転機を迎えたのは7年後の27歳の時。会社を離れる決意をしたことだ。

退職の直接のきっかけは目まぐるしい人事異動だが、根本的にはやはり自分の力を試してみたかったからだという。

 

「その会社は社員50人ぐらいで、半世紀の歴史がある会社でした。私自身の営業成績はずっと良かったのですが、自分ではなく会社の名前で売れている気がして。

もっと自分の力を試したいという気持ちは常にあったんです。だけど自分で会社を興す勇気はないし、それだけの知恵もない。

そこで営業として回る中で、羽振りがよさそうに見えた不動産屋に転職しようと考えたんですね」

 

そうして転職先を探し始めたわけだが、会社を選ぶ際に重視したのは「できるだけ立地が悪く、歴史がないこと」。

一瞬聞き間違いかと思うが、決して「立地が良くて、歴史がある」の間違いではない。

敢えてそんな不思議な条件をつけたのも、自分の力だけで勝負してみたかったからだと新川氏は言う。

 

「不動産屋は駅前とか立地のいい所にあるのが普通だと思っていたので、たとえ立地が悪くても選ばれるなら、それは間違いなく人の力だと考えたんです。

また最初の会社では、上司から創業期の話を聞かされることがよくあり、自分も〝昔はこうだった〟と言えるようになりたいという思いもあって。

それは創業期のメンバーでないとできないし、新しい会社は自分が頑張れば一緒に大きくできるところにとても魅力を感じていました。

だからできるだけ立地が悪くてできたばかりのところ、要するに〝怪しい会社〟を探したんです」

 

その〝怪しい会社〟の条件に合致したのが、当時某社の持ちビル3階で元マージャン室兼倉庫を借りてスタートしたばかりの不動産投資会社・株式会社クリスティだった。

 

 

挑戦なくして面白さなし

営業だけで何千、何百といるような大企業では、たとえ1人の成績が悪くてもさほど大勢に響きはしないが、1人の頑張りが会社の成長にダイレクトに影響することもない。

それを楽で安定しているとみるか、面白味がなくてつまらないと見るかは人次第だろう。

 

新川氏は後者の人間であり、新川氏が不思議な縁で辿りついた不動産投資会社クリスティの初代社長・小林氏もまた後者の人間だった。

 

「不動産業界の経験は0だったので、面接では前職で自分の成績はよくても周りがダメだから給料は上げられないと言われたこと、自分の力を試してみたいと思っていることなんかをお話しました。

そうしたら社長も同じような経験をして独立したそうで。そこが噛みあって入社することができたんです」

 

類は友を呼ぶということなのか。こうして、新川氏の人生の第2ラウンドが始まった。

 

 

今に通じる生き方は、全部会社で教わった

「半年間売れなかったら辞めるつもり」でのぞんだ新しいステージ。

社会人になってからずっとやってきたサーフィンも封印して営業に取り組み、ようやく売れ始めたのは3カ月目のことだ。

 

「そこからはトントンといきました」と話す新川氏だが、その道のりは決して平坦なものではなく、入社時に5人いた社員は、一時社長、新川氏、後輩の3人になったこともあったという。

 

だが「会社を大きくする」との目標の下、No.2として仕事に励んだ結果、10年後には同社は40人規模にまで成長する。

現在の新川氏の生き方・考え方の核にあるのは、その過程での学びだ。

 

「10年過ぎた時にいろいろあって、社長と話して辞めさせてもらうことにしたんです。

3年かけて代わりになる人材を育て、2012年に退職して自分の会社を立ち上げたんですが、その時に元部下2人とお客さんも一緒に付いて来てくれました。

それは小林社長にずっと言われてきた〝お客さんがちゃんと儲からないと、自分たちだけが儲かっても意味がない〟を実践し、

次の不動産が買えるちゃんとした物件を紹介し続けてきたからだと思うんですね。

仕事のノウハウはもちろん、生き方についても多くを学ばせてもらいました」という新川氏。

 

christie02_fuji_office顧客が気軽に立ち寄るという、南国リゾートカフェ風の富士企画オフィス

設立した「富士企画株式会社」は、オフィスは南国リゾートカフェ風で顧客が喫茶店のように立ち寄ることは日常茶飯事。

毎月書初め大会や握力No.1決定戦などユニークなイベントが開かれ、たとえ名刺交換をしても電話営業は行わないなど、

従来の〝会社〟、〝不動産屋〟からは非常識と見られることばかりだが、それらはすべて顧客との良い関係作りを第一とする姿勢を実践するもの。

クリスティ時代の経験を活かして生まれたものだ。

 

小林氏に言われた中で忘れられないのが、「俺は今日死んでもいい。それくらい、一日一日を一生懸命生きている。それだけ一日を大切にして生きろ」との言葉だと新川氏はいう。

 

「だから時間の使い方は凄く意識しています。私自身、休みの日はほぼ毎日サーフィンに行っているんですが、

ある時雨だったので家でゴロゴロしながらふと波情報を見てみたら本当にいいコンディションで、行かなかったことを凄く後悔したことがあって。

〝こんなに後悔するならやりたいことはやろう〟と決め、その日からすべてにおいて、やる人生とやらない人生を意識して選ぶようになりました」

 

小林氏と新川氏は独立後も一緒に酒を飲む仲だったが、だがしばらくしてそれは終わりを告げることになる。

元部下を巡るトラブルで両者が一時疎遠になっている間に、55歳の若さで小林氏が急逝してしまったからだ。

 

 

奇跡の再会から古巣の社長へ

christie04_futari前社長・小林靖明氏(左)と新川氏

「故人の意思により葬儀は出さないため、線香をあげることもできない。どうしてもお線香だけでもあげたいが……」

 

そんな葛藤を抱えたまま訃報から1週間が過ぎ、いつもは行くことがない銀行へたまたま出かけた新川氏。

だが、その待合ロビーで、ささやかな奇跡が起こる。

順番待ちをしていた新川氏を、同じく偶然銀行を訪れていた小林前社長夫人が見つけたのだ。

 

「顔を見てわかった瞬間から、銀行にも関わらず2人ともずっと泣きっぱなしで、泣きながら会社に帰って、一緒にクリスティから来たメンバーと一緒にまた泣きました。

小林社長は会いたいと言ってくれていたみたいで、呼びましょうかという話もあったそうなんですが、元気になってから会いたいと言われていたとも分かったんです」

 

ただ話はそれだけでは終わらなかった。

この再会で前社長夫人が新川氏に会社を任せることを決断。いくつか来ていた会社買収の話を、帰宅後にすべて断ってしまったからだ。

 

もちろん、この段階では新川氏はそんなことになっているとは夢にも思っていない。

後日、改めて社長就任を依頼された時は、思いもよらない展開にとまどいがあったという。

 

「でも14年も勤めた会社で、会社を大きくしたのは私と今うちにいるメンバーだという思いがあったので、知らない大きな会社に任せるよりは、私ができたらなと思いました。

こんな神がかり的に出会ってしまったのは、やれといわれていることなのかなとも」

 

社長就任は2016年7月3日。新川氏の趣味であるサーフィンに掛けて、荒波を乗り越えて成長していくという願いを込めて73(なみ)の日が選ばれた。

 

 

どこでも買えるからこそ、大事なのは人間力

現在、富士企画は社員10名、クリスティは40名。

業種はどちらも同じ投資不動産業で、新川氏の指揮の下、協働で顧客とのよい関係作りを第一にしたビジネスを展開中だ。

 

「不動産はどこからでも買えるからこそ、勝負所は人間としての魅力。

ほかから紹介された物件を〝こっちでできない?〟と言われるぐらいになろう、というところを目指しています」という新川氏のモットーは「仕事も遊びも一生懸命」。

 

「会社を楽しいと思わない人は多いし、朝行って働いて時間が来たら帰るというのが普通の働き方かもしれない。けれど、それじゃつまらないでしょう?

厳しいことは言うけれど、誰一人としてクビにはしないから付いて来てもらいたい。そして楽しんでほしいんです」

 

顧客に選ばれる会社は、従業員にとって働きやすい会社でもある。その事実を、改めて確かめさせてもらった。

 

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株式会社クリスティの社員の皆さん

 

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業務提携祝賀会での記念撮影

 

 

同社のユニークな取り組みについてはコチラ

 

 

オビ ヒューマンドキュメント

christie03_surf●プロフィール

新川義忠(しんかわ・よしただ)氏…1972年1月12日生まれ。福岡県北九州市出身。専門学校でインテリアデザインを学び、住宅設備関連企業に就職。7年間勤務した後、1998年に株式会社クリスティ(スズコウハウス)に入社し、トップ営業マンとして1000件以上の物件売買を担当する。2012年に富士企画株式会社を設立して独立。2016年7月3日に株式会社クリスティの代表取締役に就任、現職。趣味はサーフィン。

 

●株式会社クリスティ

〒330-0855 埼玉県さいたま市大宮区上小町482-2 第8横溝ビル2階

TEL 048-645-3333

http://www.christy.co.jp/

 

●富士企画株式会社

〒160-0004 東京都新宿区四谷1-19-16 第一上野ビル6階

TEL 03-6380-6780

http://www.fuji-plan.net/

 

 

 

◆2017年2月号の記事より◆

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