泡の力で農業を活性化!「マイクロバブル」の可能性に注目

株式会社幸陽農舎/代表取締役 高林稜

◇文:菰田将司

 

「日本の農業は閉鎖的過ぎる。せっかく世界に誇れる技術を持っているのに」。そう話す幸陽農舎代表高林稜氏は、慶応大に在学しながら農業ベンチャーを立ち上げた異色の経歴を持つ。

今回は、彼が注目する「マイクロバブル」を使った農業の可能性と、その情熱の源を伺った。

 

 

「こんな会社に入ったら殺される」

マイクロバブルの様子

高林代表の運営する幸陽農舎は、主にマイクロバブル製造機の販売とレンタルを行っている会社だ。

マイクロバブルとは何なのだろう? まず、それを高林代表に尋ねた。

 

「50マイクロ以下の小さな気泡を溶け込ませた水で、気泡の持つマイナス電子が、ゴミや粒子を吸着してクリアな水にする。また水中の酸素量が増えるので、生物の育成に効果があると言われています」

マイクロバブルが入った水は、その微細な泡により白く濁って見えるのが特徴だ。この泡の効果は他にも、塩害を受けた農地に散布すると、土中の塩分濃度を低下させるなどの研究結果もあるという。

 

「下水処理施設で多く使われていて、水質浄化に利用されています。他にも、細胞を活性化させ、アンチエイジングの効果もあることが名古屋大学の研究で証明されるなど、今、マイクロバブルは注目のワードなんです」

そう語る高林代表だが、そもそもなぜこれに注目したのだろうか。そしてなぜ農業をしたいと思い立ったのだろうか。

 

「父が土木会社をしていたので、自分もいつか起業したいとは思っていました。でも、何を扱うのかは思いつかなかった。大学は慶応に進んだのですが、本当は一橋に行きたかった(笑い)。だから、慶応でしかできないことをやってやろう、自分を落とした一橋を見返してやろうと思って、1年の時からインターンで大企業に飛び込んだり色々な事をしていました」

そんな学生時代を送っていた高林代表だったが、仕事を体験すればするほど、こみ上げてくる不満があった。

 

「人材系の企業にインターンに行った時に、気になることがあったので提案してみたのですが、全く耳を傾けてもらえなかった。挙句は『オマエしゃべりすぎだから、もうしゃべるな』。こんな会社に入ったらツブされてしまう、と思いました」

「若い人でも活躍できるって、ないのかな」。そんな思いを持ちながら、高林代表は父の経営する土木会社を手伝うようになった。2年ほど前のことだ。

 

その会社は、耕作放棄地を再利用して、駐車場や太陽光発電用地にしていた。そこで営業をしていた高林代表は、人生を変える2人の人物と出会う。

 

「1人目は、太陽光発電の最初のお客さんになってくれた工務店の社長さんです。初めて会ったのに、買ってくれた。なぜ?と尋ねたら『自分にも独立したばかりの時に仕事をくれた人がいた。その人のおかげで今の自分がある。今度は自分の番だ、と思ってね』。その言葉にとても感動しまして。自分も起業して、こういう経営者になりたいと強く感じるようになりました」

 

 

農業、そしてマイクロバブルとの出会い

事務所裏のスペースでマイクロバブルを作っていただいた

「営業で回っている内に、地主さんから『お金払うから、私の土地を使ってくれよ』と言われることが多くなった。それで農業をやってみようかな、と思い立ったんです」

しかし農業のノウハウなど持っていない高林代表は、農業を学ぶために須賀農園の須賀社長を訪ねた。この須賀社長が、人生を変えた2人目の人物だった。

 

「種の買い方・トラクターの使い方から経営哲学まで、何もかも教えてもらいました。素人の自分に、懇切丁寧に。本当に恩師だと思っています」

こうして農業の魅力を知った高林代表だったが、同時に日本の農業を縛る〝鎖〟にも気づく。

 

「一般人が農業を始めようとしても、色々な制約があるんです。農地を買えないし、5年間実績を残さければならない。農業をしたい、と埼玉県に相談したら『農家の嫁さんを貰ってください』と(笑い)。農業は新規参入し難い、閉ざされた世界だったのです」

日本の農業人口は、1985年には542万人だったが、30年で6割も減少し、200万人ほどになっている。しかも年齢別に見ると、65歳以上が64%を占め、39歳以下は僅か7%ほどしかいない(農林水産省「農林業センサス」より)。だから農水省や各地の農協では、新規に農業を始める人に支援策を用意しているが、始めてはみたものの、その辛さにすぐ投げ出す人も多く、まず充分な研修を受けなければならなかったり、農業法人に就職してから、という過程を求められているのが現状だ。

農業を始めるのがこれほど難しいとは、と頭を悩ませていた矢先、高林代表はマイクロバブルと巡り合う。

 

「ある胡蝶蘭農家の作る花が、日持ちもするし、色も鮮やかで。その秘訣を聞いたら、最初は教えてくれなかったんですが、しつこく問いただすと、マイクロバブルだ、とコッソリ教えてくれた。それで閃いたんです。『農業とは、根っこに如何に空気を送るかによる』という言葉があるのですが、それに使えるんじゃないかって」

そう思い立ち、装置の価格を尋ねると、400万円と。「それじゃ、使えない(笑い)」。

しかしその時、高林代表の頭にある思いが生まれていた。

 

「自分がまず、低価格でマイクロバブルを売る。そうすれば農家は喜ぶし、若い人が農業し易い環境を作れるのでは、と思ったんです。農業生産も面白いけど、農業そのものを変える仕事も面白い。そう思いました」

こうしてマイクロバブルを発生させる装置の開発を始めた時に、父から紹介されて出会ったのが、エンジニアの横田氏だった。希望に合わせた特殊な機械を作る達人である彼と共に、実験に明け暮れる毎日が始まった。

 

「毎日、泡を見続けてました(笑い)。目標はコストをいかに下げるかということ。それまでの商品が高額だったのは、一度タンクに水を貯めてから、そこにマイクロバブルを発生させるから。それを簡略にして、新開発したソケットを装着するだけでマイクロバブルを注入できるようにしました。結果、従来品の10分の1ほどという低価格で販売できるようになりました」

マイクロバブル事業に光明が見えてきた矢先の今年1月、恩師である須賀社長が亡くなったという知らせが飛び込んできた。

 

「ガンだったそうです。そんなこと一言も教えてくれなかったので、ショックでした。隠していたんですね、自分の体調を。『高林くんに面白い農業を伝えたかった』と話されていたそうです。多くの人が農業に携わってくれるのが夢だったから、時間を惜しんで私に教えてくれた。だから絶対に自分が農業を変えてやる、自分の商品でそれをやってやる。それが創業の思いになりました」

こうして生まれた低コストのマイクロバブル製造機。これで高林代表は日本農業に立ち向かおうとしている。

 

◎インタビュー…「農業って面白い!」と思ってもらいたい。

 

─販売を開始してみて、農家の反応はいかがでしょう?

農家はどうしてもレイトアダプター、周囲に広まってから使い出すユーザーです。何年も利用しないと効果が分からない仕事柄からかもしれません。ただ、農家は水が大事と思っている方が多いので、導入したいという人は増えています。今後、効果が認知されれば、更に広まっていくと思います。

 

─眉ツバだ、とか言われませんか?

水素水みたいなイメージもありますからね(笑い)。けど美容業界ではもう普及し始めていて、炭酸ヘッドスパの次に注目されるサービスとして、洗髪の水に使ってもらっています。美容は効果が出るのが早いので、すぐに反応が返ってくる。『シャンプーがいつもの10分の1の量になった』『トリートメントがいらない』なんて声を聞きますよ。

 

─マイクロバブルには今後どのような業界に広がる可能性がありますか?

今お話したように、まず美容業界。あの頭皮がピリピリするブリーチの薬剤量が、マイクロバブルを使うと3分の1で同じ効果が得られる。勿論、それで痛みも少なくできる。他にも飲食業界でも、水中の泡が時間が経つと無くなっていくという見た目の珍しさや、皿洗いの洗剤が少なくて済むといった利用法が見込まれていて、応用範囲は非常に広い。ただ、私はそういう一過性のブームで利益を得るより、やはり農業に普及していって欲しいと思っています。

 

─キャンパスベンチャーグランプリ(大学・大学院・短大・高専・専門学校の学生を対象にしたビジネスプランコンテスト)には何故応募したのでしょう?

2年前に慶応の先輩が優勝したという話を聞いて、広告になるかなと思って。私たちの商品は、初期投資を劇的に抑えることができる、蛇口に取り付けるだけで水道水の酸素量を5倍にできる、新開発ソケットを使うことで気泡の濃度を下げないといった点を評価され、全国で勝つことができました(2016年度全国大会経済産業大臣賞ビジネス部門大賞を受賞)。

 

─今後はどのような問題が?

大豊作ジェット

農業を抜本的に変えていくためには、農家と消費者を直接結ぶことが第一だと思っていますので、今は農作物の販路を持っている会社と繋がっていけたらいいと考えています。企業としても、「マイクロバブルを使った野菜を扱っていますよ」という売り方ができるようになるので、魅力的に思ってもらえるのではないでしょうか。

「農業って面白いな」と若い人に思ってもらいたいんです。マイクロバブルを使うことで、農業がビジネスになり、社会貢献にもなる。大学を出て農業を始めてもいいじゃないですか。身近に農業に携わってもらって、そこでできた人脈を使って、更に世界に飛び出して日本の農業を売っていく。それが私のビジョンです。どこで止まってもダメなんです。

 

─ありがとうございました。

 

 

株式会社幸陽農舎

埼玉県草加市青柳6-55-1

048-936-6904

http://koyo-bubble.com/

髙林 (代表取締役社長)

1993年5月12日生まれ。県立浦和高等学校卒業。慶應義塾大学

商学部卒。実家の経営する土木会社で営業職2年、産業用

太陽光発電の仕事を開拓し、会社の業績を著しく伸ばす。耕作

放棄地の活用企画をするなかで、自ら農業生産を2年研修・実践。

あるとき大成功した蘭農家にて、高額なマイクロバブル装置を発見。

実用的な導入を目指し、装置の徹底的な低コスト化に成功。株式会社幸陽農舎を設立。

・CVG東京大会 大賞

・CVG全国大会 ビジネス部門大賞 経済産業大臣賞 受賞

・起業チャレンジ 最優秀賞

・UVGP全国大会 優勝

・GSEA起業家コンテスト全国大会 準優勝