オビ 企業物語1 (2)

世界で戦えるビジネススキルを身につける!〝第3の学校「サードクラス」〟誕生秘話

株式会社BYD/代表取締役 井上創太氏

オビ ヒューマンドキュメント

大学の授業に飽き飽きしていた井上さんが出会った、ある外国人教師。

「こんなに面白い授業があるなんて!」

株式会社BYD井上創太代表は自身が衝撃を受けたその授業で、日本の教育を、そして若者たちの意識をも変えようとしている。

◇文:菰田将司

 

 

 

 

単なる就職塾ではない

学校でも予備校でも無い、第3の学校だから「サードクラス(3rd Class)」。代表を務める井上さんは、そこで学べる内容をこう話す。

 

「大学のように科目を学ぶのではなく、資格を取るための勉強でもない。

社会人としての基礎思考やコミュニケーション能力、リーダーシップ、プレゼンテーション能力といった、実際に使えるビジネススキルを高めることができるのが、私たちサードクラスです」

 

現在の大学は、いうなれば「就職予備校」。大卒という資格を取るために行くだけ、とも言われている。

また高い授業料を支払って卒業したまではいいが、希望通りの職に就けずフリーターになり、高額の奨学金の返済に苦しむ者が多い、というのも問題になっている。

 

しかしながら、大学の授業は実社会で果たしてどれほど役に立つものだろうか?

 

「自分は大学で経済学部にいたのですが、とにかく大学の授業がツマラナイ(笑い)。貿易とか組織論とかを、薄ーく学ぶだけ。だからバイトばっかりやっていました」(井上代表)

 

そんな毎日を送っていた井上代表が、特にツマラナイと思っていたのがビジネス英語の授業だった。

そこでちょっとした事件が起こる。

 

「1年通しての授業だったのですが、前期がもうつまらなくて。これが後期も続くのかとげんなりしていたんです。

そして前期の成績も悪かった。でも僕は英語好きで、この授業でも抜群にできていたはずなのに。これはオカシイと、仲間数人と教務課にクレームを言いに行ったんです。

そうしたら、その先生はお気に入りの生徒を贔屓したりしているという証拠がでてきて、実際に成績評価が不当だったんです。

結果、その先生はクビになり、その代わりとして来た先生が、ジョー・ハグでした」

 

ニューヨーク大学で講師を勤め、コカ・コーラや三菱商事など数々の大手企業でのコンサルタント経験もあるハグ氏の授業は、井上代表が今まで受けたことのない、新鮮な魅力に溢れたものだった。

 

「初めて授業が面白い!と思ったんです。ジョーの授業には面白くする工夫が色々なところにありました。プレゼンの工夫、トークの面白さ。

そして、クラス全体が授業に参加している気分にさせてくれる。それでいて、実用性に富んだことをきちんと教えてくれる。

こんな授業なら楽しんで学べるのに、と思いました」

 

井上代表が夢中になった授業は半年で終わり、ハグ氏との関係も一旦、幕を閉じる。

 

時は過ぎ、大学4年になった井上代表は、学外でとあるプレゼンテーションのセミナーを受けた。

それは受講料が3万3千円という高額なもので、その事を自身のフェイスブックに書くと、フェイスブックで繋がっていたハグ氏からコメントが書き込まれた。

 

「コメントの内容は『それは高い。自分ならフリーで教えるよ』というもの。

それを読んで、彼の楽しくて役に立つ授業を思い出した僕は、すぐに返信しました。

『だったら、僕の友達のために授業をしてもらいたい。あなたは最高の先生だから』。

こうして僕たちは再会したんです」

 

話し合いを重ねるうち、プレゼンテーションだけでなく、ライフマネジメントも教えようとハグ氏が提案してきた。

井上代表もその必要を感じていたので、この提案に賛成し、今の学校では教えてくれない、人生をトータルでプランニングしていく力を身につけられる授業を、というプロジェクトがスタートした。

その名は「Be Your Dream Project」。

 

「自分で考える力を学生が得られ、そうすることで、日本の若者たちにもっと夢を与えたい、そう思って命名しました。それが2013年の8月です」

 

翌9月に開催された第1回のセミナーは、井上代表の必死の集客の結果、会場のフリースペースが満席になるほど盛況となった。

参加者たちからも好評。これに手応えを感じた井上代表は、大学を休学し、就職の内定もキャンセルして、この活動に取り組んでいった。

 

「それから1年ほどの間に、計7回セミナーを開催しました。

ジョーは全て英語で授業をするので、他にマイクロソフトのエバンジェリスト西脇資哲さんなどにも講師をしていただきました。

回を重ねるうちに人気が高まってきたので、改めてこれからどういう形でやっていこうか、講師たちと話し合ったんです。

そこで一致したのは、このままだとただの〝良いセミナー〟で終わってしまう、それでは人生は変えられない、ということでした」

 

では、どうすればよいか。

辿りついた結論は、スクールにして生徒の指導を続けていき、何度も授業を受けて確実に力を身につけてもらう。

単発のセミナーではなく「ビジネスにしていくべきだ」ということだった。

 

「こういうプレゼンテーションに特化したスクールにニーズがあるのか分かりませんでしたが、受けた人の人生を必ず変えていける、そんなスクールを作る。

それが出来るのは僕とジョーだけだ、と思いました」

 

それが一番、自分がワクワクする選択だったんです、と井上代表は決意の理由を語ってくれた。

 

BYDで活用しているENAGEEDという教材

 

 

アクティブ・ラーニングで生まれる「創造する力」

スタートから2年を経た現在までに200人以上が卒業し、現在は6期生が学んでいる。

 

「サードクラスは、他のいわゆる就職塾とは違います。

まず就活中の大学3年生だけではなく、1年生からでも入ることができます。

それに、卒業後も戻ってきて何度でも受講することができる。

何故なら、うちは就職の内定を取ることが目的ではないからです」

 

そう話す井上さんが、もう一つ特徴として挙げているのが、生徒一人ひとりについているメンターの存在だ。

 

「最初は高いモチベーションを持っていた生徒も、続けるうちにどうしても下がってきてしまう。

だから、最初に決めた目標、『こうなりたい自分』を再確認するために、メンターがついて日々相談に乗ってくれる。

メンターたちも、ここの卒業生にやってもらっていますから、心強いです」

 

HPを見ると、ハグ氏の英語プレゼンテーション講座などのほかに、ベーシックコースというカリキュラムがあった。

 

「これは週1回、3カ月を通して、本当に基礎的な、ベーシックな部分を学ぶ授業です。

コミュニケーションや、グローバルな知識など。こういうことを学んでからでないと、いくらプレゼンやマーケティングを学んでも活きてきませんから」

 

受講料はベーシックコースが1カ月1万円。それに加えてより専門的なアドバンス講座も1カ月1万5千円で学ぶことができる。

 

授業では、講師がまずロジックを説明し、次に生徒たちが実際にやってみることを繰り返し行う。井上代表は、この形式を「アクティブ・ラーニング」と言う。

アクティブ・ラーニングは2014年11月に下村文科大臣(当時)の「小中高の学習指導要領の見直し」という諮問で使われて以来、

全国の学校で導入が進められている形式の授業で、より主体的に生徒に考えさせる「能動的学修」とされている。

 

「思考力・判断力・表現力を磨き、クラスの仲間と協働して問題を解決したり、新しいことを創造する力を育てる。

それが僕の考えるアクティブ・ラーニングです。

過去に、表現力を身につける一環として映像作成のクラスを開設したこともあります。

これからは演劇とかミュージカルなども授業に取り入れていきたい。演じることによって学べることもたくさんありますから」

 

「ここで得られることは社会人にも求められるスキルだと思いますから、今後は社会人クラスも充実させていきたいですね」と井上代表はビジョンを語る。

 

こちらを卒業することで、どんな変化が見られますか?と尋ねた。

 

「皆言ってくれるのが『仲間ができた』ということです。

クラスメートとお互いに高め合うことで、仲間が生まれる。他者を評価し讃える、という学校授業では教えてくれないことを身につけられる。

今、卒業生たちが集まってサードクラスラウンジというコミュニティを作っています。そこで情報交換をし、自らの目標を再確認する。

このスクールの一番の価値は、仲間を得られる、ということなのかもしれません」

 

 

「意識高い系をマジョリティに」

最後に、井上代表は学生時代、自分が「意識高い系」と揶揄されていたことを明かしてくれた。

 

「自分の目標を見据えて頑張っている人に対して、『ナニ頑張っちゃってんの?』と馬鹿にする雰囲気が、今の日本にはある。

このスクールが普及して、それを逆に『今、頑張んないのヤバくない?』という雰囲気に変えたいんです。

意識高い系がマジョリティになる。そうすれば、日本はもっとアツい国になるはずです」

 

〝Be Your Dream〟は、訳せば「夢中になる」ということ、と話す井上さん。

若者を夢中にさせる授業から、日本を変える人財が飛び出してくる日も遠くないだろう。

 

 

 

オビ ヒューマンドキュメント

●プロフィール

井上創太(いのうえ・そうた)氏…株式会社BYD代表取締役、一般社団法人グローバル教育研究所 役員。大学在学時に世界トップクラスのプレゼントレーナーから一年間プレゼンテーションの指導法を学ぶ。そこで学んだことを活かし、多くの学生や社会人にプレゼンテーションの指導を実施。数々のビジネスコンテスト優勝者を育てた。アクティブラーニング形式で行われる、実践中心のワークショップは学生だけでなく、経営者、教育関係者からも高い評価を得ている。

 

●株式会社BYD

〒150-0031 渋谷区桜丘町15-8 高木産業会館・423号室

〈3rd Class〉http://www.3rd-class.jp/

 

 

◆2017年6月号の記事より◆

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