オビ 企業物語1 (2)

売り手・買い手・世の中に笑顔をもたらす三方よし。元吉本芸人社長の「笑い」の商人哲学とは?

〈妊活応援サプリメントの製造・販売を手掛ける〉

ゲンナイ製薬株式会社/代表取締役 上山永生氏

 

オビ ヒューマンドキュメント

妊活応援サプリメントの製造・販売を行うゲンナイ製薬株式会社の特徴は、何と言っても一風変わった福利厚生にある。

「笑いがある職場なら、お客様も社会もみんなが幸せになる」と編み出したルールは、

子連れ出勤・育児時短勤務の他、会社経費のドレスアップ女子会、毎朝行う「運試しゲーム」等、笑いと謎に満ちている。

元吉本芸人である社長が「笑い」にこだわる原点とは何か。

同社代表取締役・上山永生(うえやまひさお)氏に、自身が持つ商人哲学について伺った。

 

 

未来に笑いが生まれる商品を提供したい

ゲンナイ製薬株式会社は、化粧品やサプリメントなどの医薬部外品の製造と販売を行っている。

中でも主力商品は「妊活応援サプリメント」。

子供を健康に授かり、産み育てたいと願う女性のための、不足しがちな栄養を補うことができるサプリメントだ。

 

これらの商品名は、ミトコンドリアに着目した「ミトコプラス」、肌環境を整える「もうかかんクリーム」、

産中産後のための「Umu(ウーム)&Bon(ボーン)シリーズ」など、

さすが元吉本芸人社長率いるメーカーの商品だけあって、シャレが効いている。

 

「何か人に喜ばれる商品を売りたいと考えていました。

そんな中で、どうせ売るのなら未来に笑いをもたらす商品を売りたいと思ったのです」(上山氏、以下同)

 

日本は結婚出産適齢期に子供が産みにくい国。

国全体が晩婚化し、働く環境が整っているとは言えず、慢性的なストレスが重なり、

子供を産むことも育てることも難しくなっている。

それでも子供が欲しいと思っている人たちに笑顔になって欲しい、子供たちの笑顔がある明るい未来を作りたい。

その想いから妊活応援サプリメントを始めたと同氏は言う。

 

同社の理念は「お客様を笑顔にする社会貢献」。

「社員もお客様も笑顔になることができる商品を始めたいと思ったのです」と同氏は言う。

 

この「笑い」「笑顔」にこだわる同氏の原点は、どこにあるのか。

それは、同氏が親に教わった「おたがいさま」の精神と、お笑い芸人を目指した同氏の信念にあった。

 

 

商人の原点「おたがいさま」と、笑いがもたらす三方よし

大阪枚方市生まれの同氏は、2代続く中華料理屋で育った。

子供の頃から両親とも店に出ていて、放課後は店の2階にある自宅で過ごす。

忙しい時には7歳の頃から店の手伝いをしていた。

 

「今思えば、そこで商売の基本を学んでいたのかもしれません。

お客様のおかげで自分たちが食べることができているということを、幼いながらに知っていました」

 

ある日、いつもビールを頼むお得意さまへ、注文が来る前にビールを持っていくと、

「気が利くな。ありがとう」と言われた。同氏は不思議に思った。

 

「お客様がえらいはずなのに、どうして礼を言うんだろう。

そういえば、料理を持っていった時、お金を払う時、みんな『ありがとう』と言う」

 

疑問に思った同氏は親に聞いてみた。

すると「自分たちはお客様のおかげで生きていける。でも、お客様だって自分たちがいないと、

美味しい中華料理を食べることができない。商売はおたがいさまなんやで」

 

それは目から鱗の教えであった。

「おたがいさま」の視点があれば、双方が笑顔になり、互いに利を受け取ることができる。

この「おたがいさま」の精神はWin-Winであり、西日本にある古来の商人哲学「三方よし」である。

江戸時代、近江商人が大阪商人や伊勢商人、

そして現在の経営者たちに多大な影響を与えた「売り手よし、買い手よし、世間よし」の精神を、

上山少年は身を以て知ることとなったのだ。

 

商売の精神を知った同氏は、率先して客と話すようになった。

すると、客は同氏の話に笑い、やがて話をすることを求められるようになっていった。

そんな時、見ていたテレビ番組に明石家さんまとビートたけしが出演していた。

「こんなに人を笑わせていて、この人たちは普段何の仕事をしてるん?」と親に聞くと、

「これがこの人たちの仕事や」と返ってきた。

 

「これだ」。自分の話で世の中を笑わせる。そう決心した瞬間だった。

高校を卒業してすぐに吉本興業へ。

 

「みんなモテたいからってお笑いをやっていたんですけど、自分は『笑わせたいから』だったんです。

だって笑わせることができたなら、最終的にモテるじゃないですか。ひねくれものの考え方なんですけど」

 

32歳の時に吉本興業を去りお笑い芸人を引退する決意をする。

 

「30過ぎても親に心配かけていてはいけないと思いました。断腸の思いでしたね」

 

しかし、この芸人の経験が同氏の信念に繋がっている。

「笑いはお客様と世の中を幸せにして、最終的に儲かることに繋がっていく」

笑いが生む三方よし、上山流商人哲学はここから生まれたのだった。

 

 

すごい福利厚生。まずは社員が笑って過ごせる会社に

上山流商人哲学とは、「笑いはお客様を幸せにして、やがて売り上げに繋がる」。

そのためには、社員が笑って仕事ができる環境が必要だ。

 

同社の福利厚生には、社員が楽しく過ごすための項目がずらりと並んでいる。

子連れ出勤OK、育児のための徹底した時短制度、ドレスアップして行う月イチの女子会はなんと会社経費、

笑って1日を過ごすための朝礼での運試しゲーム、好きなケーキを選ぶことができる社員の誕生会等々。

さらに社員が改善案を直接社長に伝える「目安箱」、社訓に代わるものは社員全員で決めたルール。

ベンチャー企業によく見る項目もあるが、ここまで「笑って過ごすため」に徹底しているのはめずらしい。

 

(写真)同社では「CID(ちょっといいでっか)カード」を導入。給与と人の悪口以外は何でも書き込むことができ、記入したカードは「目安箱」に投入。細かな提案や口に出しにくいことなども伝えやすく、社内環境のさらなる改善に役立っている。

 

 

「小さい頃から不思議だったのは、好きで選んでクラブ活動をしているのに、練習が休みになると喜ぶこと。

社会に出ても、やっぱり仕事が休みだとみんな喜ぶんですね。

好きでやっていることなのに、なぜ仕事を休みたがるのか不思議でした」

 

人生80年、同じ人生なら楽しく笑って仕事をした方が良い。

そして、笑顔を届ける商売には、売り手の笑顔が必須であるはずだ。

 

誕生会では好きなケーキをリクエストできる

「自分たちがムスッとして、電話で注文を受けて、お客様に届けて、

本当にお客様はそれを受け取って笑顔になるのか。なりませんよね?

だから『自分たちは楽しく仕事しています』という魂を製品に込めて送りたい。

製品と一緒に笑顔をお客様に届けたいんです。

だったら、社員が笑顔になることができる職場にしようと考えました」

 

笑いは連鎖して、妊活応援サプリメントを受け取るお客様の笑顔となる。

すると互いに「ありがとう」が生まれ、双方の家族も笑顔になる。

毎日の笑顔の積み重ねが、笑顔がある世の中へと繋がり、将来の利益となる。

「福利厚生は未来への投資です」と同氏は言う。

 

しかし、これらの環境を「ぬるま湯」だと批判する経営者もいる。

 

「ぬるま湯なのかもしれません。でもそれで良いんです。

私が求めているのは、ぬるま湯であることに気づいて、自分で熱くできる社員です。

そんな社員たちが集まってくれていると思います」

 

社員は現在10名。これから目標としている会社の規模を訊くと、

「私は少数精鋭が好きなのです」と同氏は言う。

 

「目が届くのは10人程度。もちろん儲けるためには大きくすることも必要なのかもしれませんが、

今はまだこの人数がちょうど良いと思っています」

 

 

目の前にある一両より未来の百両。幹が太い会社になるために今できること

2009年に設立した同社は8期目。

ヒット商品を掲げてあっという間に稼ぎを生み出すベンチャー企業が多い中で、

「儲け一番という精神が自分に合わない」と同氏は言う。

 

「もちろん若い時分には儲けたいと思っていました。

でも、売れたら粗悪品でも良いのか、それで幸せなのかという自問を論破できなかったんです」

 

そうしているうちに社員が結婚し、子供が生まれた。

「社員が自慢できる会社にしたい」と、

扱う商品を「笑顔」が生まれる妊活応援サプリメントに変更したのは40歳の時だ。

 

「お客様に喜んでもらって結果的に売上を上げる形を選びました」

 

それは同氏が少年の頃から培い形にしてきた、自身の商人哲学に基づく決断だった。

 

「まだまだ地に足が付いていないですね。やっと根が生まれたところです。

自分たちは、会社にも製品にも信用がなくて売っている状態です。

50年、100年という歴史がある企業と渡り歩いて行くためには、

会社を最低でも15年は継続させなくてはなりません」

 

一過性ではなく、誠実な商売を行う目安は15年。

その15年を継続させた事実から、信用は生まれるのだ。

 

「売上を上げるなんて、まだまだおこがましいことです」と同氏は笑う。

 

「10年後の売上のために今は根をしっかりと張ることです。

自分たちの根が育てる未来の幹は、どこよりも強いと信じています」

 

信用という根が、ブランドという名の強く大きな幹を作り育てていく。

 

「出る杭は打たれるといいますが、出過ぎた杭は打たれません。

出過ぎた杭になるために、着実に根を張り、笑いを届けていきたいです」

 

 

ともすれば利益一番、儲け至上主義に走りがちである日本のベンチャー起業気質を、

「おこがましい」と一蹴する、商人上山氏。

座右の銘は「笑う門には福来たる」と、吉本芸人であった顔をのぞかせる。

 

上山流商人哲学の根幹にある「笑い」は、売り手、買い手、世の中の三方へ根を張り、

やがて強く大きな幹へと成長する。

上山氏を守護する笑いの神は、もうすぐ福の神を連れてくる。

 

子連れ会議の様子。社内には子供用のおもちゃも完備!

 

子連れ出勤がOKなのはもちろん、育児のための時短勤務制度も整っている

 

オビ ヒューマンドキュメント

同社の「癒し」担当!

●プロフィール

上山永生(うえやま・ひさお)氏…1973年12月4日生まれ。大阪府枚方市出身。1992年大阪府立枚方高校卒業、1993年吉本興業(現:吉本クリエイティブ・エージェンシー)NSC12期入学、2005年フリーの構成作家として活動後、2009年ゲンナイ製薬株式会社設立。代表取締役就任。現在に至る。特技は人を笑顔にさせること。座右の銘は「笑う門には福来たる」。

 

 

●ゲンナイ製薬株式会社

〒104-0033 東京都中央区新川2-9-6 シュテルン中央ビル3階

TEL 03-6222-8440

http://gennai-seiyaku.co.jp/

 

 

 

◆2017年5月号の記事より◆

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