オビ 企業物語1 (2)

経済成長の〝足枷〟とは何か。元大手調査会社の調査員が、日本の企業体制を斬る!

〈太陽光発電事業を軸に多種多様なビジネスを展開する〉

株式会社バイタルフォース/代表取締役 澤井孝夫氏

オビ ヒューマンドキュメント

 

太陽光発電事業を中心とした、多業種経営を行う株式会社バイタルフォース。代表取締役の澤井孝夫氏が持つビジネススタンスは「ニーズがあるものを探してきちんと売るだけ」と、いたってシンプルだ。

そして同氏は、優良な中小企業や経済成長の〝足枷〟となる存在について指摘する。日本の中小企業が持つ課題と、必要な構造改革とは何か。日本経済を立て直すために同氏が推進する「個人事業主意識」と真の理念を伺った。

 

 

太陽光発電からペット保険まで。ニーズがあるからビジネスになる

株式会社バイタルフォースが取り扱っている商材は幅広い。

太陽光発電システムの部材「アマテラスソーラー」の販売や、太陽光発電用地や中古発電所のマッチング、メンテナンス・コンサルティング「Your Profit(ユア・プロフィット)」など太陽光発電事業を中心に、ペット保険や里親マッチングなどのペット事業、店舗不動産のマッチングの他に、自社の営業システムを元に構築した、営業社員育成研修プログラム「バイタルフォースメソッド」の提供も始めている。

 

これらの商材をなぜ選んだのかの問いに、「エコや社会貢献というよりは、ニーズの高さで選びました。太陽光発電事業もペット事業も、欲しいと思う人がいる商材。それらを選んで提供しています。哲学と商材は別物です」と同社代表取締役・澤井孝夫氏。

創業は5年前の2012年。太陽光発電関連事業会社として、3人の仲間で起業した。

 

「住宅用太陽光発電事業の会社にいたのですが、産業用太陽光発電事業をやりたいと思ったのです」

 

住宅用太陽光発電システムは、個人住宅の屋根に取り付けるもの。一方、産業用太陽光発電は、広大な土地や公共施設の屋上などに発電システムを設置する。

電力を売る仕組みにも違いがあり、住宅用は余った電力を買い取ってもらう「余剰電力買取制度」方式だが、産業用は発電した電力の「全量買取制度(FIT)」となっている。この制度が適用されたのが2012年の7月1日。同社の設立と産業用のFITは、ほぼ同じスタートであった。

 

「住宅用太陽光発電事業は、当時既に過当競争。ちょうど産業用のFITが始まったタイミングで産業用を選びました」

 

スタートしたばかりの産業用太陽光発電業界だったが、そこには悪しきブローカーたちの存在があった。

 

 

真っ当なビジネスの足を引っ張る悪徳ブローカーの存在

同社は、悪徳な太陽光発電ブローカーからの詐欺被害を食い止めるための「ブローカー対策室」を運営している。サイトで詐欺手口を公開し、被害を未然に防ぐことが目的だ。

 

「私たちの信念は、きちんとしたものをきちんと売ることです。当たり前のことなのですが、それをしていない業者はものすごく多いのです」

 

今から4年前、新しいビジネスモデルであった産業用太陽光発電事業に、事業主たちは一斉に群がった。その中には、「まともではないこと」をして稼ぎをあげる仲介業者たちがいた。太陽光発電仲介業におけるその〝悪徳率〟は、なんと90%だという。

 

「発電所の土地や中古の発電所を仲介するのがブローカーの仕事ですが、悪徳ブローカーがやっていることは、発電所が作れないような土地を売りつけて手付金を取ります。また、他の会社の発電所を見せて、いかにも自分たちが作ったように紹介し、土地の所有者と売買の話をしていない土地を売って、いなくなってしまいます。こんなことが普通に行われているのです」

 

実態のない取引きで詐欺を行う彼らは、真っ当な同業が行う営業活動の大きな足枷となる。放っておけば、市場全体を下降させてしまうのだ。

それは、太陽光発電業界だけではない、日本の中小企業全体にも当てはまると同氏はいう。

 

「日本には、経済成長の妨げになる〝足枷〟が山ほどあるんです」

 

 

瀕死の中小企業は退場すべき? 転落へと向かう日本経済に危機感

かつて大手調査会社に在籍していた同氏は、多種多様な中小企業を見てきた。その中には、座して死を待つ企業が多数あり、優良な中小企業の足を引っ張っているというのだ。

 

「社会に貢献している、社会の役に立っている会社が潰れないのは事実かもしれません。でも、世の中に全く役に立っていない会社が全て倒産しているかといえば、そうではないのです」

 

今の日本経済は、社会の役に立ち、経済を回している一部の優良な中小企業があるから回っている。これは、「売上の8割は、全営業マン内の2割の優良営業マンが上げている」という80対20の法則に当てはまる。

同氏の言う通り、優良な2割の企業が、倒産間近な企業が出した損失を補填し、更に食い扶持をせっせと稼いでやっているようでは、日本経済の発展は見込めないだろう。

 

「リーマンショックで多くの中小企業が倒産しましたが、本当はもっと整理されるべきだったのではないかと思っています。お金が回っていない企業には、経済の場から退場してもらう環境が、日本には必要です」

 

大手調査会社での、膨大な数の企業データから読み取れた「転落の法則」が、現実となることを同氏は恐れているのだ。

 

「私は、〝労働者〟という立場はもう不要だと思っています。全員が〝個人事業主〟であるべきなんです」

 

一定時間の勤務で賃金をもらい、年功序列で出世していく日本企業の体制。従業員を増やして規模を拡大し、一部の人間が売上を上げていればよかった高度成長時代。しかし、今は企業規模を大きくするどころか現状維持さえおぼつかない時代だ。

 

「〝自分の食い扶持は自分で稼ぐ〟という意識を持たないと、足の引っ張り合いで日本の経済はダメになっていきます」と、同氏は指摘する。日本の企業体制による、経済転落の危機が迫っているのだ。

 

 

社員全員が「個人事業主」という意識

太陽光発電所のイメージ(中央は水上発電所、下は学校の屋根に取り付けられたソーラーパネル)

では、同社が推進している、未来型ビジネスモデルとは何か。

そこには同氏の哲学が反映されている。集客に無駄な時間と労力をかけず、個々の能力を最大限に活かす「売り込まない営業」だ。

 

同社の集客は、インターネット広告とサイト発信のみで行う。ルートセールスや白地開拓営業はしていない。現在、社員6名のうち内勤営業は3名。いずれも女性で、着実に売り上げを上げ続けているという。

 

「うまくいっている理由は、ニーズがあり必ず売れる商材を見つけて、それを当社のビジネスモデルに当てはめて売っているからです。商材をネットで発信し、欲しいと思っている人に見つけてもらう。見つけてくれた見込み客のうち、その何割かは必ず契約に結びつきますから」

 

サイトから問い合わせてきた見込み客に対して、質問に答えることで見込み客から顧客へと近づけていく。

その営業方法は体系化され、営業員育成研修プログラム「バイタルフォースメソッド」として、他社への提供も行っている。

 

しかし、この体系化されている営業方法を基本とするだけで、営業成績を上げるためのテクニックについての細かい指示は全くしていないという。

 

「基本的に自分で調べて勉強して、スキルアップしてもらいます。自分の頭で考えて、自分が思う最善の提案をすることで、社員たちは数字を上げています」

 

内勤営業社員は、外回りも飛び込み営業もせずに、メールと電話のみで契約を上げていく。「売り込まない営業」を実践できるのは、企業側にきちんとしたベースがあるからだ。

 

「発電機器などは、売りやすい価格になるように仕入れの努力を行っています。サイトも、興味がわくような仕掛けをすると同時に、広告を出しています。また、全てのサービスについて営業担当者が即答できるようにもしています。自社のサービスや製品について明確に答えられない業者というのは、結構多いんですよ」

 

更に、正直で真っ当な商売で利益を上げていることは大きな信用となり、ブローカーまがいの業者との大きな差別化になっているという。

 

「売上目標というものは考えていませんでした。それぞれが自分の食い扶持を自分で稼ぐという意識を持っているので、数字は後から付いてきましたね」

 

社員全員が個人事業主という意識を持つことで、価格競争とは無縁の市場を独占することが可能となっているのだ。

 

 

時代の波を見極め、変革の時を待つ

同社女性チームが中心となって立ち上げた「くれあしおん」。ペット事業部として、犬や猫、小動物の里親探しや、ペット保険比較サイトなどを展開する。

これからの同社の戦略について問うと、「戦略はこの先も変わりません。冒険はしませんよ」と同氏は言う。

 

「この先どうなるかまだわからない時には、戦略を変えることはしません。変革を起こして成功すればすごい経営者として賞賛されるかもしれませんが、失敗すれば社員を路頭に迷わせてしまいます」

 

未来のことはわからない。しかし、ニーズや市場の動向など様々なデータを見て、変わる時期になったと読み取り判断した時には、体制の変革は必要だという。

 

「その時には、私だけが変わるのではなく、会社全員で変わります。変わろうと思える、向上心と信念が私と同じ人たちと一緒に、会社を維持していきたいですね」

 

 

ニーズが高く、且つ売れる商材を見つけて販売する。同社のシンプルなビジネスは、優良な中小企業であるという矜持とともにこれからも続いていく。

日本の経済を底上げしなければならないはずの中小企業が、今もなお惰性で持ち続けている体制に、同氏が信念を以って喝を入れる企業活動は、実は大志を以って行う社会貢献なのかもしれない。

 

 

オビ ヒューマンドキュメント

●プロフィール

澤井孝夫(さわい・たかお)氏…1973年生まれ、京都府出身。立命館大学卒業後、マンションの管理会社に入社。その後転職し、大手調査会社を経て、住宅用太陽光発電事業の会社へ転職。半年後に退職し、2012年8月「バイタルフォース」設立。代表取締役就任。

 

●株式会社バイタルフォース

http://vitalforce.jp/

〈東京本社〉

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TEL 03-6869-7458

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TEL 06-6943-6226

 

 

◆2017年6月号の記事より◆

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