オビ 企業物語1 (2)

不動産会社の若き経営者が、老舗バイク用品販売店の4代目社長へ。ナップスの経営改革はバイク業界を復活させられるか

株式会社ナップス/代表取締役 望月真裕氏

オビ ヒューマンドキュメント

 

2017年2月、大手バイク用品販売の老舗「ナップス」の4代目社長に、35歳の若き不動産会社の経営者が就任した。バイク市場は斜陽業界となって久しい。そんな中、4代目社長となった望月真裕氏が率いる新体制で、ナップスは業界ナンバーワンを目指していく。

ナップスの経営を継いだ望月氏は創業オーナーの孫にあたる。しかし大学時代から同氏は「バイク用品だけは売らない」と決めており、自身が起業した不動産会社の経営者として敏腕を振るっていたという。

自力で大きくした自社の経営を譲り、縮小し続ける市場にある企業を継承したのはなぜか。バイク業界の復活を賭けた、若き経営者の挑戦を伺った。

 

 

バイク用品販売で55年。バイクブームに乗った創業

株式会社ナップスは、大手の老舗バイク用品販売店だ。1962年(昭和37年)1月にプロショップチェーン「株式会社日京」として望月清三氏が創業した。株式会社ナップスと社名変更したのは2007年4月。創業時の社名の英語表記「Nikkei Automobile Pro Shop」の頭文字をとって名付けたという。

四輪車のアフターパーツの販売からスタートし、二輪車用品の販売を始めたのは35年前。当時はスクーターに乗る学生の増加や、峠を走る「走り屋」が現れるなど空前のバイクブームであった。そのブームに乗る形で、関西のバイク用品店「南海部品」のフランチャイズショップとして関東に出店。その後、南海部品から独立、1993年にナップス1号店の相模原店が誕生した。

現在は、首都圏を中心に東北から九州福岡までチェーン店を展開。さらに、インターネットを利用したECサイト上での通信販売、メンテナンス専門ショップをオープンするなど、バイクのトータルサービスショップとして新たなサービスの提供を始めている。

 

 

縮小するバイク業界と後継者問題

同社外観

同社は創業55周年。「転びもせず派手に盛り上がることもなかった55年でした」と、新社長・望月氏は言う。

しかし現在、設立当時のバイクブームは影を潜め国内のバイク市場は減少。年々下がる業界の売り上げに、関連各社は「厳しい状況」と声を揃える。

 

「人口減少、少子高齢化、経済的な問題などにより、若い世代のライダーが少なくなっています。40代50代のバイク回帰に期待している状態です」

 

市場の衰退は、当然バイク用品販売にも影響する。同社にとっても市場の減少は大きな課題であり、増収増益戦略の改革は急務であった。

 

同時に、ナップスでは後継者問題も抱えていた。後継者がいないまま団塊世代の経営者が一斉に70歳を迎える「2017年問題」。同社も例外ではなく、すぐにでも経営を継承し、戦略改革を行うことができる人材が必要だった。

そこで白羽の矢が立ったのが、創業者の孫であり、既に不動産会社の社長として経営者の経験を積んでいた望月氏だ。しかし、「本当は、ナップスにはいかないと決めていたんです」と同氏は笑う。

 

 

大きな船を操縦したい。経営者魂が決心させた継承

ナップスの創業者は同氏の祖父、その後、同氏の叔父が2代目社長として同社を継いだ。3代目の社長は銀行出身の小島氏。現在は同氏に事業を継承し会長に就任している。すぐ近くに入り込める企業があるにも関わらず、なぜ望月氏は不動産業界で起業したのだろうか。

 

「大学に入った時から自分は経営者になると決めていました。でも、当時バイクに興味がなかったこともあってバイク用品の販売はやらない、やるのなら別のことでと考えていました」

 

祖父が創業した会社ではなく、親族が経営に関わっている業種でもなく、自分で選び起こした会社の経営者になりたい。丸腰で臨む、起業家としての挑戦であった。

経営者となるためには、勉強と経験が必要だと考えた同氏は、大学在学中に宅建を取得。卒業後は不動産会社に就職するが、ここを2年で退職する。

 

「この2年間が私の唯一のサラリーマン経験です」

 

その後、24歳の時に不動産会社を立ち上げた。

不動産会社を経営して10年。5人で立ち上げた会社は従業員数70人に増え、新卒を採用できるまでに成長した。経営者としては順風満帆であり、成功を勝ち取っていたといえるだろう。

苦労して軌道に乗せた会社を手放してまで、なぜナップスの後継者になる道を選んだのか。その理由について2つあると同氏は言う。1つ目は創業者親族としての責任感だ。

 

「市場が縮小している中、このままではナップスは立ち行かなくなるかもしれません。従業員450名とその家族、合わせて1500人を路頭に迷わせてはいけないという思いが強くありました」

 

そしてもう1つは「経営者として大きな船を操縦してみたいという気持ちになりました」

 

大きなフィールドで勝負したいとの思いが、新たなステージへ同氏を押し上げた。 こうして同氏は、2012年にナップスの常務として入社。同時に、前社長である小島氏と共に、新生ナップスへの基盤作りが始まった。

 

 

入社すぐに改革を実行。事業継承の3年で学んだ帝王学

同氏は事業継承までの期間を「ナップス事業継承3カ年プラン」とし、小島前社長と共に改革を始めた。

「自分で起業して経営者になるとしか思っていなかったので、2年間のサラリーマン時代は鼻っ柱が強くて上司の言うことを全く聞いていませんでした。ですから、小島前社長が私にとって人生初の上司と言えますね」と笑う。

改革には、不動産会社で経営を行ってきた同氏の経験が随所に活かされた。ウェブ戦略の強化、外国人や女性の採用強化、総社員の3割以上の人事異動など、企業成長に必要と考えられるものを積極的に実行していった。同時に小島前社長からは、在庫や回転率、ローコストオペレーションなど、小売業の経営を教わった。

 

「会社の数字やナップスの歴史を3年かけて家庭教師のように教えてくれました。小島前社長は、就任して3、4年で継承すると初めから決めていて、もっと良い会社にしてから渡したいと言ってくれていました。経営判断する時も必ず私に相談してくれました」

 

小島氏は最初から同氏を経営者として扱っていたことがわかる。

こうして2017年2月、望月氏が4代目社長に就任した。新たな船は100年企業を目指し、新操縦士の舵で大きな海原へと漕ぎだしたのだ。

 

店舗にはバイク用品がズラリ。豊富なラインナップを取り揃えている

 

 

3年後には業界ナンバーワンへ。ミッション達成に向けた3つの戦略

同氏が社長として表明した公約は「3年後の2019年に売上高140億800万円、業界ナンバーワンを目指す」というものだ。

 

「ミッションを全うし、100年企業になるためには、いろいろなことを同時に行わなくてはなりません」。

 

実現するための経営戦略は、人材にフォーカスする「ヒトのナップス」をテーマとし、「EC事業強化」「コンセプト型店舗出店」「アライアンスによるシナジー効果」を軸として進められている。

EC事業強化としては、インターネットによるバイク用品販売や取り付けサービスが始まっている。2月にはメンテナンスをコンセプトにしたショップ展開を開始した。また、初心者ライダーやリターンライダーが安全にバイクを運転できる技術を身につけるライディングスクールも行っている。この活動は、業界全体のバイクへの関心を高め、バイク人口の裾野を広げる役割を担うと期待されている。

 

「バイク用品は売って終わりの商売ではありません。タイヤを売ったらメンテナンス、オイルを売ったら交換など、次につながるサービスがあります。バイクに関するあらゆるチャネルを網羅することがミッションです」

 

販売チャネルの拡大として、リユース市場への進出も考えているという。中古バイクの販売だ。バイクに関する様々な分野へのトライが、既に始まっているのだ。

 

「でも、あくまでナップスのストロングポイントは〝店舗〟です。ECサイトは、お客様にナップスを知ってもらうためのきっかけです。ナップスを知らないエリアのお客様にも知ってもらい、いつかは店舗に来て欲しい。そうして店舗でのラインナップの豊富さや接客の良さを感じてもらって、どんどん店舗にお客様を引き込んでいきたいと考えています」

 

 

日本から世界へ。海外進出も視野に

100年企業計画では、海外進出も視野に入れている。「日本にいたままでは、この先50年、大きくしていくことは無理だと考えています。スタッフに給料を払い、企業として増収増益をしていくためには、海外、特にアジア市場を見ていかなければなりません」と同氏は言う。

日本の市場が減少傾向にある中、アジア諸国やインドにおける日本の二輪車の需要は伸びている。人口が増えていることもあり、今後も更なるバイク市場の拡大が予想される。

しかも、世界的に見ても日本車の価値は高く、ホンダ、ヤマハ、カワサキ、スズキなどは世界中で販売され人気も高い。バイクメーカーが世界へと進出している今、アフター用品ショップとして海外に進出することは必要不可欠なのだ。

同氏は市場調査のため、毎月海外での視察を行っているという。世界進出第1号店は6月にオープンする台湾だ。

 

「ナップスには国産車のメンテナンスなら世界一という自負があります。日本車のアフター用品ショップならナップスが世界一という立ち位置で、世界中で商売できると思っています」

 

しかし、本格的な海外進出は、業界ナンバーワンの数字である140億800万を達成してからだという。

 

「ちゃんとした柱をまず作ることが必要です。国内の市場でナンバーワンになってから本格的な進出を考えています」

 

店舗に併設されているピットでは、買った商品をすぐに取り付けてもらえる

 

 

ブーム再来を担い、バイク市場の復活へ

将来の海外進出を見据えて始動したこれらの戦略について、同氏は「業界全体の改革も必要です。国内の市場の底上げを行うことがナップスの使命だと思っています」と語る。

バイクやバイク用品販売は、娯楽産業の動きと似ている。それは、バイクを趣味の1つとして乗っているユーザーが多いためだ。景気が落ち込むと、趣味にお金をかけなくなり業績も落ち込むなど、景気に左右されやすい。さらにライバル会社も増えており、内部の改革だけでは業績を伸ばしにくい。市場を動かす影響力を持つことが必要だ。

 

「現在バイクに乗っている世代は、若いころバイクに乗っていて、もう一度バイクに乗り始めた50代が中心です。このままでは市場はますます減少していきます。

今まではバイクの免許を持っている見込客へのアプローチでしたが、今後は、免許をまだ持っていない若年層へもバイクのかっこよさを知ってもらい、潜在的な客層の集客を行う必要があります。もう一度バイクブームに火をつける役割を、ナップスが担う時だと思っています」

 

 

若き経営者が挑戦する経営改革。それは、業界全体の市場復活を呼び覚ます大きな波へと繋がっていく。

ナップス4代目社長・望月氏が、日本を飛び越え世界を走り抜ける日は、すぐ近くまで来ている。

 

オビ ヒューマンドキュメント

●プロフィール

望月真裕(もちづき・まさひろ)氏…1982年神奈川県横浜市生まれ。大学在学中に宅地建物取引士の資格を取得。関東学院大学卒業後、不動産会社であるスターツ株式会社に入社。2年後退社。24歳で不動産会社 株式会社NIKKEI(現株式会社日京ホールディングス)を設立。2017年2月、株式会社ナップスの代表取締役に就任。趣味はモーターサイクル、マラソン。

 

●株式会社ナップス

〒236-0003 神奈川県横浜市金沢区幸浦2-17-1

TEL 045-790-1170

https://naps.co.jp/

 

〈店舗一覧〉

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◆2017年7月号の記事より◆

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