オビ 企業物語1 (2)

エンジニアの派遣常駐システムに革命を! 請負の共同受注とサポートでエンジニアの地位向上と働き方改革

株式会社PE-BANK/代表取締役社長 櫻井 多佳子氏

オビ ヒューマンドキュメント

 

労働者派遣法が改正となり、国が働き方改革を推進する中、人々が働く形も正社員にこだわらず、様々に変化している。しかし、ITエンジニアたちの働き方は相変わらず、グレーでブラックな派遣常駐型が圧倒的に多く、社会問題にもなっている。

そんな中、株式会社PE-BANKが提唱するのは、個人事業主ITエンジニアと請負案件を共同受注するという画期的な契約形態だ。同社に登録しているのは、経験も実績もあり、即戦力となる高スキルのフリーランスITエンジニアたち。その人材数は約3,000名にものぼる。

これだけの高スキルの人材を持つにもかかわらず、人材派遣ではなく、リスクの高い請負を共同で受注する理由は何か。彼らをサポートし、エンジニアの働き方改革を推進する、櫻井多佳子代表取締役社長に話を伺った。

 

 

ただの案件紹介ではない。共同受注でエンジニアを徹底サポート

システム現場のITエンジニアというと、派遣エンジニアを思い浮かべる人が多いだろう。実際、ITの開発現場で働くエンジニアは、自社の社員ではなく外部の派遣エンジニアが圧倒的に多い。

株式会社PE-BANKは、フリーランスITエンジニアを派遣するのではなく、共同で案件を受注し、サポートする業務を行っている。同社が共同受注の代表となることで、個人事業主が抱える営業やトラブル対応などの問題を代行することが可能となる。

「フリーランスのITエンジニアたちは、請負業務を責任持って受注できるほど腕が良い人たちが多いんです。そういったエンジニアと企業とのマッチング、コーディネートをしています」と、同社の代表取締役社長・櫻井多佳子氏は語る。

 

もともと同社は、「首都圏コンピュータ技術者協同組合」として、個人事業主ITエンジニアのための営業支援や福利厚生サービスなどの組合事業を行っていた。現在の「PE-BANK」はプロエンジニアの人材バンクという意味を持ち、櫻井氏が社長に就任した2015年に、フリーITエンジニアのブランド化プラットフォーム事業会社として社名を変更した。

 

「エンジニアたちの福利厚生や営業、事務代行、スキルアップ支援などのサポートも行います。ここまでサポートできる会社は、他にないと思います」

 

請負契約は、派遣契約に比べ、受注側のリスクが大きい。受注側は期間内に契約内容を全うしなければならないうえに、仕様変更があった場合や期間が延びる場合には持ち出しをしなければならないこともある。

そんなリスクが伴うにも関わらず、同社がなぜ「人材派遣」という手段を取らず、個人事業主と共同で業務を請け負うことを選んだのか。そこには、エンジニア派遣事情と、日本のITイノベーションへの提言があった。

 

 

労働者派遣法の改正で失業するエンジニアたち。市場は人材不足という矛盾

エンジニアたちの働き方が大きく変わることになったきっかけは、2015年の9月に改正された労働者派遣法だ。この改正により、これまで無期限だった派遣社員の契約が3年の期限付きとなってしまった。撤退する派遣会社もあったためエンジニアたちは職を失い、しかし企業は常に人材不足という矛盾した状態になっている。

この問題を解決するキーワードについて、企業が率先して高スキルエンジニアを発掘し、獲得する「人材の流動化」だと指摘する。

 

「人材不足であることはエンジニアたちの耳にも入っています。その中で、自分たちの能力が正当に評価されているのか、キャリアアップのチェンジの時期ではないかと気づき始めています」

 

しかし、保守管理業務が中心のIT現場にはキャリアアップできる機会がない。本当に能力のあるエンジニアたちが、行き場を求めて3年ごとに失業する状態になっているのだ。

 

「実際、登録しているエンジニアたちは、経験値が高く、実力と即戦力があります。日本のITイノベーションを促進するにも、派遣エンジニアたちには個人事業主として独立するという選択肢があることを知って欲しいですし、企業は能力のある個人事業主エンジニアに発注し、保守管理だけではない攻めのIT戦略を行って欲しいと思っています」

 

 

エンジニアと幸せな環境を作りたい。「社長やります」

労働者派遣法の改正や国による働き方改革よりもずっと前から、フリーランスエンジニアの働き方改革を提唱してきた同社。その業務を社長として受け継いだ同氏は「入社当時は、それほどITに興味がなかったのが本音です。個人事業主という言葉を理解したのも入社してからでした」と振り返る。

 

「エンジニアとクライアント、双方から感謝されることは大きなやりがいとなっていきました。契約内容や報酬の分配率など三者合意の上で契約を結ぶので、弊社はとてもクリーンな契約を行っています。私にすごく合っているなと感じましたね」

 

営業一筋20年。一線で働きながらも「社長にも役員にも、なろうとなんて思っていませんでした」という。しかし、長く勤めている間にトップが替わり、社会が変わり、自分の考えに反する出来事が起きた時、同氏の思いも変わり始めた。

 

「自分たちとフリーのエンジニアたちが、本当の意味で豊かで幸せになれる会社にしていきたいと思い始めました」

 

そのためには、自分の立ち位置を変えること。自分の意見が反映され、判断ができる地位とは何かと考えた時、答えはやってきた。

 

「『役員をやりたいです。社長やります』って言いました」

 

こうして同氏は、法改正に揺れるIT人材業界の新たなイノベーターとしてスタートを切った。

 

 

インターネットの時代でも、敢えて実際に会うことを大切に

社長に就任して2年。櫻井氏は現在、社長室に留まることなく全国を飛び回っている。

 

「当社の強みは、高い能力を持つ人材数と、適材適所の正確なマッチング力です。そのためには、必ずその人と会って顔を見て話をします」

 

登録もマッチングもネットできる昨今、アナログのコミュニケーションを重要視しているのだ。

 

「うちでも、サイト上でマッチングできる仕組みを作ろうという案が出たことがあるんです。でも、『それをやったら、ITエンジニアとコーディネーターの信頼関係を築く場が減ってしまうのよ』と言いました。やはり、担当しているエンジニアに会い、クライアントには出向いて行かなければ、クオリティの高いマッチングはできないと思っています」

 

エンジニア同士の情報交換の場として、全国規模のフォーラムやフェスティバルなどを開催している(写真はプロエンジニアフォーラム2016の様子)

同氏は、全国の支店で行われるイベントに出席する際も、必ずその先で一泊し、エンジニアたちのイベントに参加する。

ある時、イベント参加を理由に業界の社長たちが集まる会合を断った時、「櫻井さん、それ誰かに任せられないの?」と言われたことがあるという。

 

「ITを扱っているのに、まだこんな古いことやっているの?と言う人もいますけど、必ず人と会って話をすることは、もはや私の信念です。絶対に必要なことだと思っています」

 

イベントでフリーランスのエンジニアと話すことで様々な発見があり、それが新しいサービスのヒントとなることも多いという。

 

「福利厚生も、イベントのセッティングも、マッチングもアドバイスも、私たちは全て自分たちで勉強して工夫して考えながら行っています。他には絶対に負けない自信があります。もっと中身を濃くしていきたいですね」

 

 

自分の価値に自信が持てない? 能力のあるエンジニアを発掘したい

そして、エンジニアのスキルを正しく把握し判断することも、コーディネーターの仕事だ。新しく登録してくるエンジニアたちのスキルを、どのように見抜いているのだろうか。

 

「やはり、必ず面談してじっくり話し合います。実際に会って話しながら、今までの経験や参加したプロジェクトなどを細かく聞いて、その上で、プロエンジニアとなって共同受注を行うか決めます。中にはスキルに見合わない契約金が欲しいと希望される人がいますが、そういう時も、正直に時間をかけて、スキルに応じた金額を提示します」

 

同社の場合、エンジニアとの共同契約で案件を請け負うので、スキルを正しく読み取ることは何にも勝るリスク回避となる。

 

「エンジニアたちは、コンサルティングもできる高スキルから、技術的にはプログラマーレベルまで様々です。大切なのはレベルの高さではなく、自分のやるべき業務を全うさせる責任感と、スキルに見合う報酬をいただくという意識があることです。そういうところも含めて、総合的に判断するようにしています」

 

中には、自分の価値が想像以上であることに気づかないエンジニアも多いという。

 

「以前、時給2000円で派遣されていたエンジニアが登録してきました。派遣で時給2000円といえばかなりの高時給です。スキルも申し分ない。そこで、月70万円で契約しようとしたらその方はびっくりしてしまい、そんなにもらえないと辞退されてしまいました」

 

高い技術を持っていても正当に評価されていないことがある、フリーランスという働き方があまり知られていない、という問題があると言えるだろう。こういったエンジニアたちを発掘し、共に仕事をしていきたいと同氏は言う。

 

「ものづくり、技術に関わりたいと思う人は年々減っています。そんな今の日本に、ものづくりは素敵な仕事であると伝えられる、若い人が憧れるようなエンジニアが、この会社からもっと現れて欲しいですね」

 

 

エンジニアの独立を応援する、ダントツ日本一の会社へ

業界団体での社会貢献・福利厚生委員長を務めている

労働者派遣法の改正、国を挙げての働き方改革が進む日本。

同社のこれからの未来戦略を聞くと「フリーランスのエンジニアならナンバーワンでオンリーワンの存在になりたいです。

エンジニアたちには、フリーランスになるんだったらPE-BANKに行こうって思ってもらえるようなコーディネートをしていきます」と同氏は言う。

 

やりがいのある仕事に専念し、本来の能力を発揮することが、エンジニアの責務であり願いだ。

フリーである今の働き方のまま、その希望をかなえられる自信が同社にはあるという。

 

「個人を応援する企業なら、どこにも負けません。ダントツで日本のトップになります」と、同氏は力強く宣言した。

 

日本の闇とも言われるエンジニアの労働と派遣事情。闇に切り込むのは「みんなが幸せになる働き方」を提唱する女性視点の働き方改革だ。時代の声に耳を傾け続ける櫻井氏とPE-BANKが進めるもうひとつのITイノベーションが今、うねりを上げようとしている。

 

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●プロフィール

櫻井多佳子(さくらい・たかこ)氏…東京都大田区出身。1992年イベント企画会社を経て、首都圏コンピュータ技術者協同組合(現:株式会社PE-BANK)に転職。2015年株式会社PE-BANKの代表取締役に就任。趣味は20年続けているゴルフと、ホットヨガ。

 

●株式会社PE-BANK

〒108-0074 東京都港区高輪2-15-8 グレイスビル泉岳寺前

TEL 03-6757-2092

http://pe-bank.co.jp

 

 

◆2017年7月号の記事より◆

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