株式会社TonTon/代表取締役 今川博貴氏

三方良しの「〝人〟儲け」でアジアをひとつに

お金を儲けるよりも、仲間や顧客と共に真の豊かさを目指す株式会社TonTon

同社は、不動産事業を中心に、飲食事業、ドローン開発を行うベンチャー企業だ。創業3年で10億の売り上げを叩き出し、弊誌4月号で宣言した中国での飲食店チェーン展開を早々に実現。予告するのは事業のさらなる躍進だ。

しかし、同社代表取締役・今川博貴氏が目指す真の未来は、世界を変える大きなものであった。実現化のために信念を貫き通す、同氏の根底へと迫る。

 

「超人間中心経営」で誓った成長

お茶漬けもアジアをひとつにするための大事なきっかけ(鮭と漬けイクラの海鮮茶漬け

株式会社TonTonは、代表取締役・今川博貴氏が、2度の倒産を乗り越え立ち上げたベンチャー企業だ。人と想いを第一に考える「〝人〟儲け」という同氏の座右の銘のもと、超人間中心経営を貫く企業として2013年に創業した。不動産仲介事業を中心に、創作茶漬け専門店「だよね。」などの飲食店のチェーン展開、ドローンを使った不動産管理事業の開発を行っている。

創業から3年で従業員は仲間5人から107名に増え、10億を売り上げるまでに成長した。

弊誌4月号での取材時点では上海証券取引市場のQボードに上場、中国でのチェーン展開の準備中だったが、わずか半年後の10月3日には上海に第1号店がオープンするという。

「まだオープン前なのに、うちの国でもやらないかって声をかけられているんです」と、多くの引き合いに戸惑いつつも、台湾、上海、香港のラインを固め、中国本土へとチェーン展開を進める計画だ。

 

なぜ中国への展開に「茶漬け」を選んだのか、その理由について「どの世代も仲間外れにせずに、みんなで一緒に美味しく食べられるものは何かと考えました。それに、中国にもご飯にお湯をかけて食べる文化があるので、違和感なく楽しめるはずです」と同氏は言う。ひとりよがりの儲け主義ではない、顧客の幸せに焦点をあてた商品選択だ。

そんな「人」と「想い」を第一に考える同社の「超人間中心経営」は、今川氏の信念でもある。貫き通す意志の根底には、2度の苦渋を舐めた倒産と、仲間と誓った約束があった。

 

 

2度の失敗から得た、想いと絆の気づき

創作お茶漬け専門店「だよね。」店内

同氏が最初の事業を立ち上げたのは、若気の至りの19歳だ。高校卒業後に電気通信工事会社に就職するも、面白みを感じることができずに1年で退社。高校時代の仲間5人と共に、先輩が経営する会社の自社ブランドを扱うアパレル事業を始めた。

ブランドは一部の若者達の間で人気となり、あっという間に業績を上げる。その苦労知らずの成功が間違いを引き起こした。

ブランド名があったからこその成功を、自分たちの能力によるものだと勘違いし、「自分たちだけでもっと儲けよう」と、仲間5人で独立を企てたのだ。

先輩への恩を裏切る形となったこの転換に、当然のように信頼を失った同氏は、事業を続けられないまま解散した。「人生最大の過ち」であったと、同氏は語る。

 

独立志向の強い同氏が懲りずに再び立ち上げたのが、ティーンズ雑誌の読者モデルのブログサービスだ。この頃、同じようなビジネスモデルが多く現れたこともあり、大手企業からも問い合わせがあるほどの反響ぶりだった。

しかし、目論んでいた肝心の広告収入が入らず、収益は全く上がらない。モデルたちへの原稿料が圧迫し始め、ついに廃品をリサイクル屋に売って金を作るという事態へと陥った。困窮は空腹に耐えかねた従業員がベランダの土を食べるほどに極まり、同氏は事業がすでに失敗していることを悟った。

 

「リサイクル屋で手に入れた7600円で居酒屋に集まり、話合いをしました」。一度、各々社会に出て勉強しようということになったのだ。しかし、同氏はこのまま終わりにしないことを誓う。

「必ずもう一度みんなで結集できる場所を作る」。事業の解散は、誓った未来へのスタートでもあった。

 

広告代理店に就職し営業パーソンとして死ぬ気で働いていたある日、電話がかかってきた。電話の主は、あの日裏切った先輩からだ。「沖縄のホテルのM&Aをやらないか」。再び声をかけてくれたことがうれしかった。今度こそ先輩に恩を返すべく、協力を決意。広告代理店で培ったプロモーションと営業力を発揮させていくうちに経営も覚えていった。

 

同氏が協力を始めた1年後には、月の売り上げは前年の10倍。不動産投資で得た資金も増えた。「約束を果たす時が来たと思いました」。その約束の場が、今の「TonTon」だ。

2度の倒産から得た気づきは、人の恩と絆の大切さである。「私は仲間がいないと、何もできません。仲間が一緒だからこそ、ここまで来れたんです。私の仕事は、仲間集め。社員も外部パートナーも、みんなで一緒に成功しようと動くことが、自分の役割だと思っています」。

 

 

逃げないことでやってくるチャンス

2度の失敗を経験しても立ち上がろうとするバイタリティ、約束を違わずに信念を貫く強さ、人を惹きつけるカリスマ性。同氏が持つこれらの飛び抜けたエネルギーはどこから来ているのだろうか。その問いに、同氏は幼少期の家庭環境について語る。
「自分には2つ上の兄と、年の離れた妹がいます。私が小学5年生の時に兄が不登校になり、ある日学校から帰って来たら、家中の家具が壊され、ソースやケチャップでぐちゃぐちゃになっていました」。母親が泣きながら片付けている横で、妹は無邪気に遊んでいる。この光景を見た瞬間「やばい」と理解したという。

 

「親父が家にいないこの家で、母ちゃんと妹を守っていくのは自分しかいないと悟りましたね」。少しくらいの辛いことがあっても、口に出してはいけない。心配させてはいけない。そんな環境の中で育つうちに、ある意味「不感症」になっていたという。

「でも、どんな状況でも〝なんとかなるだろう〟と捉えられるようになりました。その状態を楽しんでしまうんですよね」。それはポジティブではない、「逃げない」という決意だ。同氏の「逃げずになんとかしてやろう」という思考が、人の縁とチャンスを引き寄せているのかもしれない。

 

 

三方良しで繋がるアジアと日本

人との縁と想いを大切する「超人間中心経営」を掲げ、再起をかけた「TonTon」。目標であったアジア進出を達成した現在、さらなる展開を目指している。
アジアに進出する理由について、「今後伸びていくのはアジアだと思っています。アジアを制するものは世界を制します。でも、私の中にはもっと大きな目標があります」と同氏は語る。「ビジネスを通じてアジアをひとつにしたいんです。それが、先人が遺した想いを形にするために、私たちができることだと思っています」。同氏にとってビジネスは、この大きな目標を達成するためのツールでしかないという。

 

「私が大人になってから知った日本の歴史は、教科書で習ってきた歴史とは真逆のものでした。日本は欧米に植民地とされていく国々を取り返し、統治して独立国家へと導いてきた。その真実はまるで語られていません」。

先人たちが血を流して守ってきたアジアの誇りが、今は何ひとつ残されていない。先人たちが遺し伝えたかった想い。それは目に見えないものであるけれど、一番大切なものだと同氏は言う。

 

「アジアをひとつにするために、今は『お茶漬け』がフックとなっています。でも、人々の幸せにプラスになる要素があれば、何だって良いんです」。商売の次元を超えた大きな目標に、利益や売り上げはおのずと付随する。人と社会の幸せを第一に考える「超人間中心経営」は、古来より日本人の根底にある売り手よし・買い手よし・世間よしの三方良しの商人哲学だ。「昔の日本のような温かみと思いやりのある国へと変えていきたいと考えています」。

今川氏が紡ぐ三方良しの輪は、幾重にも巡り日本とアジアをひとつにする。「私は、心に鮮明に描けるものは必ず実現すると信じています。例えば、会社のビジョンとか理念は、紙に書けばなるほどと理解した気になります。でも、想いというのは、心に鮮明に描けなければ本物ではありません」。

 

資本主義と物質主義である今の時代、不必要なものが多すぎると同氏は言う。ものにこだわって利益を得たとしても、形あるものはいつか壊れ、欲で集めた金も有限だ。しかし、「想い」と「絆」は違う。目に見えなくても想いは未来へとつながり、絶えることなく紡ぎ出されるものなのだ。

やがてビジネスは、「人中心」に変わっていくだろうと同氏は予測する。「CtoCの時代がくると思います。人と人がダイレクトに繋がる場所を提供するビジネスが最後に勝つ時代がくるでしょう」。
現在、同社が行う事業の割合は、不動産事業7割、飲食事業2割、ドローン開発1割となっているが、今後この割合は時代と共に変化すると同氏は言う。「人と人を繋ぎ社会貢献となる新しい不動産事業を考えています。ドローンも、新たな可能性を広げるツールです」。アジアをひとつにするという飲食事業展開も、さらなる拡大を目指している。

「色濃く描ける本物の信念を持っていたい。その信念を鮮明に描いていくことができれば、TonTonはこれからも拡大していくと信じています」

同氏のいう「拡大」は売り上げではなく、「人」だ。「利益をどれだけ上げたかよりも、どれだけ信頼できる仲間と共に成長できたかの方に価値があります」。

仲間5人で始めた会社は今や107人となり、今川氏と同じベクトルで想いを紡ぐ。2度のどん底で手に入れた経験と、運命が気づかせた信念とが導く先には、やがて現実化する大きな未来への扉が待っている。

 

【プロフィール】
今川博貴(いまがわ・ひろき)氏…1985年岡山県に生まれ、1歳より神奈川県横浜市で育つ。高校卒業後、19歳という若さで独立し、ファッションブランドを立ち上げる。その後、ブログ事業に参画。広告代理店の営業マンなどの経験を経て、2013年に不動産事業と飲食事業を軸に展開する株式会社TonTonを設立、現在に至る。
株式会社TonTon
〈本社〉 〒153-0043 東京都目黒区東山1-5-4 KDX中目黒ビル3階
TEL 03-3711-8358
http://tonton-inc.com
〈熊本支社〉 〒866-0844 熊本県八代市旭中央通3-11 TSビル5階
TEL 0965-30-8395

年商:15億9,677万円(2017年1月時点)

従業員数:107人