ゆっくりだが、着実に、取り払われてきたようだ。外資と国内企業との垣根である。あの日本IBMの(米国IBMによる)完全子会社化から半世紀。椎名武雄氏(当時の社長)が標榜した、日本の産業界の発展に資することによって外資は認知を獲得するという概念が、ようやく〝普通〟になってきたということだろう。

そこで今回から小誌は、「外資系進化論」と題し、今、有望視されるアグレッシブな外資系企業を直撃、そのビジョンとビジョンの実現に向けたトップの構想、気概ほかを紹介する。

 

第一弾は、工業部品や食品パッケージ等に印字する産業用プリンターの旗手、マーケム・イマージュ社(本社/東京都渋谷区)の代表取締役副社長、吉江和幸氏(2011年11月時の肩書)だ。

 

持続可能(環境保護)性とTCO(総所有コスト)、
操作性などを徹底して追求

新製品〝9232〟で俄然注目!産業用プリンターの旗手
マーケム・イマージュ社/代表取締役副社長吉江和幸氏

まずは同社の概要について、簡潔に述べておきたい。
産業用インクジェットプリンター並びにレーザーマーカーと、その周辺機器や消耗品等を販売し、メンテナンスを行う、100%フランス系資本の日本支社だ。

 

設立は1987年だが、ルーツはちょうど100年前、1911年のマーケム社(米国)創立にまで遡る。

そのマーケム社が日本市場に参入したのは1963年で、さらに24年後には、フランスのイマージュ社が日本上陸。

 

その後、世界的なM&A旋風による業界再編が起こり、両社はそれぞれ米国のドーバー社(製品識別ソリューションのシステムインテグレーターで同機器メーカー)グループ傘下に編入、これによってマーケム社がイマージュ社に合流する形で誕生した(2010年)のが、このマーケム・イマージュ社というわけだ。
ニッチな分野のせいか、派手さこそとくにはないものの、はっきり言ってモノづくりに当たっての高い目標意識と誠実さ、思いやりにすこぶる富んだ、ある意味で日本企業以上に日本的な企業である。そのことを示す例をひとつふたつ挙げたい。

 

まずは2011年2月にプレス発表された、「9232」なる新製品である。ひと言でいうと持続可能(環境保護)性と総所有コスト、操作性など、すべてを徹底して追求した、めっぽう完成度の高い産業用プリンターなのだ。

 

「少々手前味噌ですが、革新的といっていいと思います。使用条件によって多少は前後しますが、1ℓのインクで最大9千万字の印字ができますし、溶剤消費量は2・5ml/時にまで低減できます。その分、排出量と廃棄物量を抑えられるということですね。また部材の約80%がリサイクル可能素材でつくられておりますし、使用電力も60VAに低減しております」(マーケティングマネージャー/近藤真理氏)

 

もちろんそのパフォーマンスも従来製品とは段違いだ。

 

「新開発のプリンターヘッドを用いることで、印字速度を平均約2割アップさせることに成功しました。超高速モードですと最大で6・6m/時も可能です。しかも印字を中断することなく、消耗品の交換もできます」(同)

 

おまけに保障期間が1年と半年(従来製品は1年)。確かに革新的といっていい。ちなみに発表直後から同製品は、予約待ち状態のヒット製品になったそうだ。

 

被災事業者に
新型プリンター貸し出し&無償修理

今ひとつは、唐突に聞こえるかも知れないが、2011年の大震災の〝復興に向けた支援と節電応援キャンペーン〟である。ここからは吉江氏の話を中心に進めよう。
「(当時)マーケム・イマージュは日本から撤退するんじゃないかという噂が、まことしやかに業界に流れましてね」

 

各国駐日大使館が自国民に避難を促し、多くの在京外資が拠点を関西に移す動きを活発化させた、あの桜が開花する少し前の頃の話だ。

 

「冗談じゃないですよね。だってあの頃は全社員が大童だったんですよ。撤退どころか被災地支援のために」

 

といってもよくある生活物資のそれではない。震災でプリンターが使えなくなった被災事業者に、発表したばかりの新型プリンターを貸し出し、無償で修理するという社としての決定を、社員提案で打ち出したことだ。

言わずもがなだが、パンも即席メンも野菜も肉も、製造年月日や消費期限を印字しないことには出荷できない。被災地の事業者はもちろん、消費者にとってもこの貸し出しがどれほど大きな意味を持つか、想像に難くはないだろう。

 

節電応援キャンペーンは、文字通り事業者の節電を後押しするためのインセンティブ付きセールで、先の8月、9月のどちらか1カ月でも、対前年比で15%以上節電した事業者にはすべての自社製品を15%引きで販売しますよ、という企画である。

 

撤退なんて噂を流した御仁の、顔が見たいというものだ。

 

食品系の顧客開拓
により注力

さて、これまでの話からこの会社の事業内容や企業風土等については、それなりにお分かりいただけただろう。そこで本題に入りたい。吉江氏が描くビジョンと、そのビジョンに向けた構想と気概である。

 

「これまでは機械部品など工業系の企業がメインの顧客でしたが、今後は食品系の顧客開拓にも、より力を注ぎたいと考えています」
前述した被災地の例を見ても分かるように、確かに食品系は需要が多いし、しかも尽きることがない。ただし、このデフレである。人件費すら上げられないでリストラに走っているのが実情なのに、果たして積極的な設備投資に業界は踏み込めるのだろうか。ついでにいえば、日立やキーエンスといった先発大手がかなりのシェアを占めているのだ。その牙城を突き崩すのも容易ではない筈だ。

 

「おっしゃる通りです。確かに客観情勢はかなりキツイとは思いますよ。しかし食品メーカーは、仮にどんなに空洞化が進もうと工場は日本に残るんです。要はメンテナンスやコスト面を含むTCOなど、こちら側でどう対応し、どう提案し、もっといえばどうパートナーシップを構築するか、だと私どもは思っています。それにこれは食品系に限りませんが、各メーカーさんも今回の震災で考えが少し変わってきたと思いますよ。現に私どもにも多くの声が届いていますが、1社購買はリスクが高い。プリンターはもちろん、とくにインクなどの消耗品はセカンドソースが絶対に必要だってことを痛感したって」

 

となるとつまりは、技術力と提案力の勝負になる。技術力は先の「9232」でも見たように、おそらくは1歩、控え目にいっても半歩は先んじているといっていいだろう。したがって問題は提案力だ。

 

日本の企業のお役に立つこと
日本の産業界に貢献すること

「これははっきり言って、少し時間がかかると思います。何より認知度を上げなければなりません。認知度が上がれば社員のモチベーションも上がりますし、同じことを言っても説得力がまるで違ってきますから。そのためには地道に私どもの理念、the team to trustの精神を分かっていただけるように行動し、訴えていくしかないと思っているんです。

具体的に言うと、まずは日本の企業のお役に立つこと、そして日本の産業界に貢献することです。それが先に申し上げたパートナーシップを構築する道じゃあないでしょうか。そんなわけで私どもの社員はみんな、顧客に向かっては最後に必ずこう言うんですよ。いっしょにやりませんか?って」
ちなみに同社は吉江氏以下、常勤の社員は全員日本人だという。ひと昔前なら考えもつかなかったことだろう。誤解を恐れずに言わせていただくと、これが前記した製品に対する高い目標意識と誠実さ、思いやりの源泉である。

 

「もちろん海外から学ぶことも少なくありませんが、ことモノづくりに関していえば技術的にも考え方も、日本以上に研ぎ澄まされた国はありません。それだけユーザーの目も厳しいということです。ですから本国での会議でもよく言うんです。日本の要望に合わせて設計して欲しい、そうすれば世界のどこに出しても通用しますからって」

 

最後にきて話を横道に逸らすようで恐縮だが、吉江氏の話と対比するということでお許しいただきたい。かつて中国に進出して失敗した、とある中堅の製造業経営者が記者の前で吐き捨てた言葉である。

 

「ダメダメ。何人か責任者を取っ替えてみたけど、どいつもこいつも現地を見ないでこっちの顔色ばかり窺ってるんだよ。あの調子じゃあ100年経ってもあっちには根付かないね。やめたやめた!」
宜なるかな。     ■

 

印字イメージ

<プロフィール>
よしえ かずゆき…1962年生まれ。
1984年大学卒業、1989年アンリツ入社。1995年から2002年にかけて中国(上海)、香港と海外勤務を続け、帰国後は産業用パッケージング事業を担当する。その後、ヘッドハンティングで外資系の精密ディスペンシング機器メーカー、ノードソンに転進。2006年、旧・イマージュ社に入社。2010年、マーケム社との合併と同時に代表取締役副社長に就任。現在に至る。

マーケム・イマージュ株式会社
〒151-0072 東京都渋谷区幡ヶ谷2-19-7
TEL 050-8881-1680
URL http://www.markem-imaje.ne.jp

 

※本記事は2011年11月号の記事を基に構成しています。