近年の採用市場も「格差」が激しい。学生が大挙して訪れる大企業と比して中小企業の採用は今も経営者の悩みのタネだ。

「日本の採用と人材育成は時代と合っていない」と話すのは株式会社ココスペース代表取締役牧口和弘氏。

アルバイト入社から僅か6年で代表に就いた彼から、日本企業の行先について伺った。

 

 

大の音楽好きだった両親その影響で1度は音楽の道へ

株式会社ココスペース 代表取締役
牧口和弘氏

IT技術を使って人材育成サービスを行っている株式会社ココスペースの代表取締役牧口和弘氏の経歴は異色だ。

「両親が大の音楽好き。そんな環境で育ったので自分も幼い頃から音楽に親しみ、そのまま音楽の専門学校に進みました」

特に好きだったのはドラム。一時期はそのまま音楽家の道へ向かおうともしていたという。

 

しかし牧口代表はそれを選ばなかった。なぜだろうか。

  「バンドをやりたかったのですが、それには当然ながらメンバーが必要になる。よくバンドが『音楽性の違い』と言って解散するでしょう? あれは音楽性もさることながら、成長して人間性が変化したからです。音楽性と人間性は一緒。だからバンドというのは同じ時間に同じ志向を持った人間が集まらないと成立しない。これは難しいな、と(笑)」

卒業後、そのまま同学校のドラム講師として生活をするようになったが「先生を特にやりたい、というものでもなかった」と牧口代表は言う。

 

 

CD売れず斜陽の音楽業界から得意なPC生かせるIT業界へ

折しも音楽業界は斜陽に向かっていた。

世界中を驚愕させたアップル社の音楽端末iPodが発売されたのは2001年。これが大ヒットし、音楽はCDを買って聴くものからネットを通じてダウンロードして聴くものへと変化した。

それに先立って日本の音楽市場は、1998年のミリオンヒット20作を頂点に急速に下り坂に転じ、2001年以降は年にミリオンヒットは1作あるかないか、という時代になっていく。

 

音楽業界に身を置きその風向きの変化を肌身に感じていた牧口代表は、別の仕事を身に付けようと思い立つ。

 「CDが売れなくなってきて、縮小していく業界があれば、反対に伸びている業界もある。

それで、PCが得意だったということもあってIT業界に飛び込んだのです。ずっと音楽という専門性の高い世界に身を置いてきたので、全く違うこともやっておかないと、と思って」

こうして牧口代表が扉を叩いたのが、当時は住宅街にポツンと佇み、WEB系のシステム開発を行っていた株式会社ココスペースだった。

2006年、24歳の時だった。

 

 

沢山失敗を繰り返し苦手克服 アルバイトから6年で代表に

「入社時の社長は創業者だった先代です。そこに、当初はアルバイトとして入社しました。先

代はある意味天才の人で、その高い技術力で高い評価を受けている業界では名の知れた人。彼の下で本当に様々な経験をさせてもらった」

 

全く独学でのスタートだった、と話す牧口代表だがその後プログラミングから営業まで凡ゆる仕事をこなし、入社から僅か6年で先代から代表職を譲られるまでになる。

 

どうしてそこまで自分を成長させることができたのですかと尋ねると「誰よりも多く失敗し、二度と同じ失敗を繰り返さないこと」と牧口代表は答えてくれた。

 

「私の心理・考え方の土台は音楽です。私が音楽の業界でやっていくことができたのは、幼い頃から両親の下で人一倍練習していたからだと思います。人より多くの時間を楽器の練習に費やすことができた。

だから沢山失敗を繰り返し、苦手を克服していけばその分上手くなる、そういう方程式が身についていた」

 

 

失敗恐れぬ努力とプロ根性 自分自身も楽しむことが大事

ですが、と牧口代表は続ける。

「上手いからといってプロとしてやっていけるわけではない、ということも音楽を通じて学んでいました。

プロの価値はどれほど努力をしたかではなく、どれだけお客様を満足させられるかということで決まる。例えどんなに体調が悪かろうと、来てくれたお客様に支払った金額以上の満足を感じて帰ってもらう。それがプロ根性だ、と先輩の名のあるミュージシャンの方々から教えてもらいました」

インターンシップの学生たちの前で話す牧口氏

だから、IT企業に入社しても楽器を身に付けるのと同じ感覚で仕事を覚え、ステージに立つのと同じ気持ちで仕事に取り組んだ。

 

そんな「覚悟」が心にあったから今の自分がある、と牧口代表は語る。

「それに音楽業界という特化した業界にいた自分が、ITという今後幅広くなる可能性がある世界にいったら、更にそこに刺激を与えて『何か』を生み出すことができる。それが想像できるのも楽しかったですね」

 

失敗を恐れぬ努力と、お客様に最高のパフォーマンスを見せたいという気持ち、そして何より自分自身がそれを楽しむこと。人が成長する秘訣がそこからは垣間見える。

 

 

3人に1人が3年以内に離職 採用と育成に課題残す日本社会

牧口代表が入社してから、ずっと感じていたことがあった。

「自分は大学生活を経験したわけではありませんが、大学を卒業した人はビジネスのスペシャリストとして社会に出てきているのだと思っていました。だからこそ彼らと渡り合っていくために、先述のような『覚悟』を持ってやってきたのですが、肩透かしだった」

 

何故、大学を卒業した人が意欲的に仕事に取り組んでいないのか。

今、会社を率いる立場になってその疑問が日本社会の構造、特に採用と人材育成の問題だということに思い至った。

 

「日本では学歴があっても社会に出て活躍ができない人が多すぎる。

これは社会的・経済的に大きな損失でもあります。

2012年に経営を受け継いだ時、弊社のインターン生は100人ほどになっていましたが、彼らが各界で活躍している姿を見て、この問題解決にはインターンシップの活用が有益だと考えたのです」

 

 

学生が入社以前に実務に触れるインターンシップを活用する

新卒生の6年以内離職率は30%を超えており、この10年ほどはその高水準が維持されている状態だ(平成26年度新卒の離職率は32・2%。近年で最高は平成16年度新卒の36・6%。厚生労働省調べ)。しかし、新卒生人口が減少し続けている今、3人に1人が辞めることを見越して採用するというのは年々厳しくなってきている。

また退職の主な理由が「仕事が合わない(19・8%)」「キャリアアップが望めない(25・5%)」というのが半数近くを占めている(vorkers調べ、2015年)ことからも、採用と育成の改革は急務だといえる。

 

「弊社は既にオンラインを利用した日本初のインターン生管理ツール『JUMP』をスタートさせていますが、今年4月より新たに実務経験の全くない学生が仕事上の実務を学べる場として、中長期の実践式インターンシップ『ビジれん』をスタートしました。

これにより企業は即戦力としての人材を育成でき、学生も入社以前に実務に触れ、自分の能力を客観的に把握し『身の丈』を知ることができる。

適材適所、企業と学生が共に益のある関係を生み出せる。

弊社が培ってきた10年間延べ7000人以上のインターン生教育のノウハウをここに集約しています」

インターンシップの学生を指導する水口氏

 

日本の採用・育成方法に〝ズレ〟気づいて対応できる企業が飛躍

「やっと社会が追いついてきた」という自負を牧口代表は口にした。

「10年間逆張りをしてきた、という思いはあります。昔は日本社会に合っていた採用と人材育成が近年ズレてきていた。そのズレにいち早く気づき、対応できている企業が飛躍できるのは間違いない。

今、弊社の目標はそんな羽ばたく機会を探している企業を援助すること。だから目先の利益を顧客の前にぶら下げて一時の満足をしてもらうつもりはありません。

もっと大きな社会の車輪を動かして、その先で多くの人々が利益を上げられるようになればいい。

今、花を摘むのではなく、将来のためにタネを埋め水を撒くのが第一の仕事です」

 

だから提供するサービス自体に価値を見出すのではなく、それによって人が価値ある行動ができるようになるのが重要だ、と牧口代表は言う。

 

「今後、第4次産業革命が更に本格的に進む中でITは更にインフラとして、紙やペンと同じくらい仕事をする上での基礎になる。

だからこそその価値は、利用者が最大限の利益を上げることができるかどうかに関わってくる。

ですから活用できる人材育成はもとより活用できる企業を育成していくことも重要だと考えています」

 

医療・教育・そしてビジネスマッチング。今後はそういった分野でも、ITインフラを活用して問題を解決し、社会全体の底上げをしていく。

「そういった道筋を示さずに目先の利益だけを吹聴する企業は詐欺と同じ。その場だけの利益を掠め取ってよしとしている凡百の企業とは違う。それが私たちです」と話す牧口代表。

 

彼の次なる一手は、果たして何年先の世界を見越した一手になっているのだろうか。

 

 

牧口和弘

1982年大阪府生まれ。音楽の専門学校を卒業後、音楽講師を務める。

2006年、アルバイトとして株式会社ココスペースに入社、2011年、役員を経て代表取締役(オーナー)に就任。以後、現職。

 

 

株式会社ココスペース

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