◆文:菰田将司

転職事業や起業支援、人材教育などを手がける株式会社トライングの代表取締役社長、國府田良貴氏は今年25歳という新進気鋭の事業家だ。

「今、どこの企業も20代の人材が弱い。それを苦慮していると思います。私たちはそんな企業へ人材を提供しながら、同時に20代の若者たちが夢を実現していくための支援をする、そういう会社です」

 

若者に「なぜ仕事をするのか」を教える

今年3月に法人化したばかりの新しい企業である株式会社トライング。その事業は3つの柱からなる。

「1つ目はゼロキャリ事業。これは18歳から25歳までの若者に仕事をしてもらいながら『なぜ仕事をするのか』を学んでもらうものです」

「25歳までに3回も転職をしている人もいる」と國府田代表は話す。

日本の若年層の離職率は高い。近年の安定志向・経済状況の中、2000年代に比べて下がったとはいえ、今も大卒で30%、高卒では40%を超える(厚生労働省調べ)。また次の就職先でも上手くいかずに転職を繰り返す早期退職者の場合、企業の採用担当に「また辞めてしまうのではないか」と採用を避けられてしまう。そうなると非正規社員などで糊口を凌がざるをえなくなり正規採用の道が更に遠くなっていく。

「そうなっていくのを防ぐため、まず週5日、弊社が紹介する職場で仕事をしてもらいつつ毎週1日、勉強のために集まってもらう。そこで仕事への考え方、なぜ仕事をしているのか、というマインドを教えています。多くの若者が退職する理由は、仕事と自分の希望のミスマッチや自身の将来への不安です。そういった点をクリアにしていく」

この中で自分の本当の目標に気づいてもらい、そこへ向かって道を踏み出してもらいたい、と國府田代表は話す。

「2つ目の事業は、ゼロキャリ事業に伴った転職事業です。多くの同業他社ではネットを介して仕事を紹介することがほとんどですが、弊社では何度も面談を行い、充分にヒアリングをしてから仕事先を案内する。紹介先も職場をよく知っている所ばかりですから、マッチング率は高い。現在まで50人ほど新しい仕事先で働いてもらっていますが、一人も辞めた人が出ていません。それが弊社の強みですね」

紹介先の業種も多岐に亘っており、そういった点でも転職希望者の要求に応えられるようになっている。

では最後の3つ目の事業は。

「You Place事業、と銘打って起業支援事業をしています。若者たちを教育していると『むしろ、起業させたほうが希望に叶う』と思う人が現れてくる。そういう人には転職ではなく、起業家育成のためのプログラムを組んでやってもらっています。このように今、伸び悩みくすぶっている若者たちを多方面からバックアップする、それがこの会社です」

 

「自分をブランド化していく時代」

「突然、当たり前にできていたことができなくなった。それが人生の転機になったんです」と、國府田代表は起業のきっかけについて語ってくれた。

「私は東京の江戸川区出身です。小さい頃は野球に熱中していて、高校でも野球部に入ろうと思っていました。しかし高校に入ったら急に熱が冷めてしまって。そのうち地元のワルい先輩方と遊ぶようになった。改造したバイクを仲間と乗り回すような、そんな生活をしていました」

その生活が一変したのは高校2年生のある日のことだった。地元江戸川区で友人が運転するバイクの後部座席に跨っていた國府田代表が、一時停止を無視して道路に飛び出すと、そこに脇から来た車と衝突、重傷を負う。

「『死んだ』と思いました。いわゆる走馬灯というヤツです。思い出が一気に頭を駆け巡って……。なんとか一命は取り留めましたが、その後何ヶ月もの間、不自由な生活になってしまった。足も動かせず、退院後も松葉杖を使う日々。それまでカンタンにやれていたことが、誰かの助けを借りないと何もできない体になってしまった」

リハビリも含めると完治するまで1年近くかかった、と國府田代表は言う。

再び健常な体を取り戻そうと、人に勧められて整骨院に通い始めた國府田代表は、そこで整骨院の先生の技術に感動する。

「整骨院の先生の下に通い、施術を受けているうちに動かなかった手足が動くようになってきた。その時に『なんて人の役に立つ仕事なんだ!』と驚いて、それで柔道整復師の資格を取ろうと思ったんです」

再び体が自由に動くようになった國府田代表は専門学校に進学、柔道整復師の資格を取得する。

そのまま開業、町の整骨院の先生としての道を歩むことになるかと思いきや、その頃の國府田代表の心中には別の思いが生まれていた。

「資格を持ち、店があるというだけでは経営は続けられないのではないか。自分をブランド化していかないと経営は成り立たない、と学生時代から考えていました。ですから実際に開業した後も売上を伸ばすために様々なことを試しました」

店を持った國府田代表は、昼は整骨院、夜は経営に役立つ情報収集にと寝る間も惜しんで走り回っていた。

「当時21歳。何でもできる、と思っていたのにそれができないことが悔しかった。一人ではできないことを痛感しましたね」

試行錯誤しながらも中々それが業績に繋がらない。そんな鬱屈した毎日だった。

 

「人を軸にする」。迷っている人を導く会社に

そんな時、人材育成コンサルティングをする人と知り合い、そちらの仕事をしてみないか、と誘われることがあった。

「整骨医として働いている限り、どうしても限界がある。それに資格があるからといってそれに囚われることもない。しかしここで新しい道へ踏み出していけば可能性が開けるのではないか。今の年齢だからこそ新しいことに挑戦できると思ったんです」

そうして始めた営業・店舗経営のコンサルティング事業で高成績を上げた國府田代表はそこで3~4年前に知り合った人材事業の人と手を結び、現在の事業を立ち上げることになった。

「私は学生時代からイベントを仕掛けるのが好きで、100人規模のイベントをやっていました。特に人気があったのはモノポリーや人狼ゲームなどの世界のボードゲームのイベント。ゲームは種類によってはビジネスに役立つものもあり、イベントに参加していた人からビジネスの悩みを聞くようになった。そこで気づいたのは『人は常にライフスタイルの向上を考えている』ということ。そして私ならそれを手伝うことができるのではないだろうかと考えたんです」

「山を登っていると、上に行くに従って見える風景が変わってくる。人も成長すると目指すものが変わってくる」。國府田代表はその思いを今、道に迷っている若者に伝えるためにこの会社を立ち上げた。社名をTrying、「挑戦すること」にしたのは、そのためだという。

 

20代にはもっと可能性がある

「これからも若者が自己実現できる環境を作っていきたいと思っています。仲間の中から様々なことに取り組む人が現れ、より良い社会を作り上げていく。いずれそれをホールディングス化できたらいいなとは思っています」と國府田代表は将来像について話してくれた。

最後に「今の20代」について伺ってみた。

「今までの日本の価値観が崩れつつある今、上からチャンスが落ちてくるのを口を開けて待っているだけではダメ。もっと自分で考え行動し、掴み取ってくる20代の人材を育てたい。若者一人一人がそういうチカラを発揮できるようになれば、社会はもっと良くなっていくと思いますから」

「そのためにも若者には、自分のダメさに早く気づいてもらって、それを乗り越える能力を身に付けてもらいたい」。そんな言葉も残してくれた國府田代表。20代の苦悩と可能性。それを自身が体験してきたからこそ、その言葉には重みがある。

 

國府田良貴……1993年東京都出身。東京医療専門学校卒業後、整骨医として開業。以後、人材育成コンサルタントを経て2018年、株式会社トライングを創業、代表取締役社長。以後現職。

株式会社トライング

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