田畑明氏社労士プロティアンコンサルタンツ代表 人事評価総研株式会社 代表取締役

 

「働きやすく、人に優しい職場環境を作っていけば企業の業績は必ず良くなっていきます。しかし、その対策が単なる小手先のテクニックだけで、企業の根本の改善になっていないところが多すぎる」

そう語るのは社会保険労務士・中小企業診断士として日々、企業のコンサルティングに携わっている社労士事務所プロティアンコンサルタンツ代表・人事評価総研株式会社代表取締役田畑明氏。

長年、労使の問題に取り組んできた田畑代表から、多くの企業が抱える様々な問題の解決糸口について伺った。

 

船乗りを目指した少年時代

社名に人事評価と入れてあるのは何故だろうか。そこから伺った。

「人事評価は単なる給料査定だけではなく、人材育成という重要な一面もある。人事評価を通じて部下を高めることができ、また上司も適正な評価を下すことで自身が高められる。そういう人事評価、そして人事制度の本来の良さを引き出していくことで、職場を活性化し会社を良くすることができるのではないか。そう考えたのが人事評価を主たるターゲットにしてコンサルティングを行おうと思ったきっかけでした」

 

田畑代表がこれほど人事に注目しているのには、彼が歩んできた人生に理由がある。

千葉県に生まれた田畑代表は中学校を卒業した後、親元を離れて単身、三重県の鳥羽で暮らし始めた。

「入学したのは鳥羽商船高等専門学校という学校です。ここは全国に5つしかない商船高等専門学校の一つで、開校から100年を超える商船高専の中で最も歴史のある学校です。生徒は卒業までの5年6ヶ月を全寮制の中で過ごし、航海士を目指す」

 

千葉で普通に育っていた田畑少年が、何故船乗りを目指そうと思ったのだろうか。

「いやあ、ただ単に普通にサラリーマン人生を送りたくなかったからです」と田畑代表は笑う。

学校のカリキュラムの中には1年間の外洋航海もある。船の上での暮らしにも慣れ一人前の船乗りとして学校を卒業した田畑少年だったが、入学当初の希望に反して海の男の道へとは進まなかった。

 

「実際に海に出て生活してみると『どうも自分は船乗りには向いていないな』と思い始めた。船の上の生活は、思ったほど波乱もなく、単調なものです。狭い生活空間で決まった業務をこなしていく日々。サラリーマンになりたくなくて踏み出した道でしたが、そこの生活も変わらないものだった」

ハッキリとした将来像を失って東京に戻ってきた田畑少年は、同じ商船高専の先輩の紹介で老舗百貨店、伊勢丹の施設管理の仕事に就く。1981年のことだった。

 

労使交渉の中で見つけたやりがい

伊勢丹での仕事にも慣れてきたころ、田畑代表は労働組合に誘われる。

「労働組合の活動に参加するうちにのめり込んでしまって、その後、都合14年間組合活動に参加することになりました。その間専従職員にもなりましたし、中央執行役員も経験しました」

 

「会社に入ったのか組合に入ったのか分からないくらい」と当時の活発な活動を思い出して田畑代表は笑う。最終的には副委員長にまでなり、従業員を代表して会社側と様々な交渉に立ち向かった。

 

「その活動の中で社労士の資格を取りました。会社側と色々な交渉をしていく上で役に立つと思ったからです。そうして会社側にいくつも提案をして、労働条件の改善に取り組みました。休日も増やしましたし、賃上げ交渉も行いました」

 

その中で最も苦心したのが人事・賃金制度の改革だった。

人事制度に手を加えることによって、利益を得る人も生まれるが同時に不利益を被る人も生み出される。それが田畑代表の悩みのタネだった。

 

「より多くの社員が利益を得られるように改革をするわけですが、中には逆に厳しくなってしまう人もいる。しかし会社が今後発展し、社員が喜んで仕事をしていけるようにするために改革は必要なもの。ですから改革に反対する組合員と何度も話し合って説得に努めました。何ヶ月もかかって一人一人が納得できるものを作り上げていった」

 

こうした経験が、田畑代表の心に影響を及ぼす。

 

「正直、組合に入る前には理念とかそういった大それたものは考えていませんでした。しかし実際に自分たちが改革を実現し、働く人々が喜んでくれている姿を見て、自分の仕事にやりがいを感じられるようになった。それで働く人の役に立ちたい、働きやすい環境を作りたいと強く願うようになったのです」

 

また、自分の成し遂げた改革によって、会社の業績は長期的に見れば向上しているだろうし、社員のモチベーションも上がっただろう。そういった成果を感じることができたのも、田畑代表には嬉しかった。

 

その後、グループ会社へ出向し人事部長や取締役などを勤めた後、今年3月に退職する。

 

「合計で36年半ほど勤めましたが、うち半分ほどは組合活動。その活動も割と自由な裁量で仕事をさせてもらえた。それが面白かったですね。就職した頃には『さっさと辞めて自分で事業を立ち上げよう』と思っていたのですが、結局57歳まで勤めてしまいました」

 

偶然にも組合活動に参加したことで田畑代表のサラリーマン生活は、少年時代にイヤがっていた平凡な人生からはかけ離れたものになった。そして彼は企業と人の関係改善を模索する道へと歩みだしていく。

 

ハラスメント対策は 中小企業の急務

組合活動や人事の仕事で培ってきた経験を生かし、社労士事務所プロティアンコンサルタンツと人事評価総研株式会社をスタートした田畑代表が今、積極的に取り組んでいるのがハラスメント問題だ。

「中小企業でハラスメント問題に悩んでいる所は多く、なかなか有効な措置がなされてないのが現状です。ハラスメント対策をしっかりやっていくことは、今後の企業経営にとって非除に有益だと私は考えています」

 

平成29年度の民事上の個別労働紛争相談件数の内訳を見ると、23・6%と案件第1位を占めるのが「いじめ・嫌がらせ」だ。僅か10年前まで案件の圧倒的1位は「解雇」に関する案件だった。それが近年、各社が条件改善に取り組み、沈静化に向かっているのと裏腹に「いじめ・嫌がらせ」が急激に伸びてきている。

その原因の多くがパワハラ・セクハラ問題にあることは論を俟たない。

昨年アメリカに端を発し、世界的規模のムーブメントに拡大した反セクシャルハラスメント「me too」運動や、日本のスポーツ界に吹き荒れているパワハラ問題など今、ハラスメントは各方面で切迫した問題だ。

 

「中小企業向けハラスメント対策講座など開設されているのを見ますが、そのほとんどはカウンセラーが講義していることが多く、私のような現場にいた者が聞くと物足りなく感じることがあります。カウンセリングだけで人がハラスメント行為をすることを抑え込むのは不完全だからです」

 

厚生労働省プレスリリース

ハラスメントは労務管理の面から抑制していかねばならない、と田畑代表は考えている。

 

「個人的な問題としてハラスメントを考えるのではなく、マネジメントの観点から企業全体で対処していく。そうすることで初めてハラスメントに悩む経営者や被害者を救済することができる。今進めているのはそういった面からハラスメント対策に取り組むことができる社団法人の開設です。

既に登記は済んでおり『ハラスメント対策協会』と名づけています。ハラスメント対策のカリキュラムの作成や、対策ができる人材育成などを行っていこうと考えています。実際の活動開始は来年の1月を予定しています」

 

……「ハラスメント問題を考えていると、上司が部下を育てようという愛情がないのかな、と思う時があります。ただ裁判沙汰になった時のために備えておく、というのではなく、そもそもそういう問題が生まれてこない企業体質を作っていかなければならない」。田畑代表はそう話す。

 

「社労士も人事評価もコンサルティングも、そしてハラスメント対策も根本は全て同じです。いかに働きやすい、人に優しい職場づくりができるのかに繋がっている。社員に優しい会社組織を作っていくことで業績は向上していきます。その経営方針は日本のみならず海外でも普遍的に受け入れられるもの。今後は海外にも目を向け、働く人に優しい環境を作る事業を広めていきたいと思っています」

 

労務、人事、そしてハラスメント。これらの問題を解きほぐし、会社と人のより良い関係を作っていきたい、そう願っている田畑代表。

 

悩める経営者たちが待つ大海原に田畑代表は今、進んでいこうとしている。

 

<プロフィール>

田畑明

1961年、千葉県生まれ。1981年株式会社伊勢丹入社、30年以上にわたり三越伊勢丹にて主に総務人事関係の仕事を担当。30歳代に労組の執行部として関連企業約20社の人事賃金制度設計と運用についての支援を行い、その後グループ企業の人事部長及び取締役を経験。退職後、現職。

 

<企業情報>

社労士事務所プロティアンコンサルタンツ

人事評価総研株式会社

〒104-0061 東京都中央区銀座7-13-6サガミビル2F

TEL:03-4405-5935

FAX:050-3488-3823