株式会社EiShin 代表取締役 安永知恵氏

クルマのエアフィルターに吹きつけるだけで排気ガスをクリーンにし、燃費を向上させるスプレーがある。多くの人が疑いの目を向けそうな商品だが、このスプレーは国連機関UNIDO(国連工業開発機関)の環境技術データベースの審査を通過し、その技術を高く評価されているのだ。

この「eco–SPRAY」(以下、「エコスプレー」)を製造・販売している株式会社EiShinの代表取締役・安永知恵氏に、この商品にかける思いについて伺った。

 

自動車のエンジンには
海藻成分が効果あり?

株式会社EiShinは、エコスプレーなど環境商品を製造・販売している会社だ。同社代表取締役の安永知恵氏に、商品開発のきっかけを伺った。

「もともと環境問題に興味があって、オーガニック商品などを日常でも使うようにしていたのですが、ある人物からこの『エコスプレー』のアイデアを聞いたのがきっかけになりました」

クルマが大好きで、自分で運転することはもちろん、クルマの改造もしていたというその人物(現在は同社で役員をされている)が注目したのが、エンジンに空気を送り込むエアクリーナーだった。

エアクリーナーはエンジンのエアインテークに付けられ、エンジン内に取り込まれる空気に含まれるチリやホコリを取り除くもの。「エアクリーナーの性能が良いと、エンジン出力が増し、しかも燃費も良くなる」と安永代表は話す。

 

エアクリーナーから取り込まれる空気がクリーンになり、また量が多くなることで、エンジン内の燃焼効率が増し、出力が高まる。また、ガソリンを効率よく燃やすことができるようになるので、燃料消費も軽減できる。エアクリーナーの性能が良くなることには利点が多いのだ。

エアクリーナーの性能改善に取り組み、様々な方法を試していた彼がたどり着いたのが、ワカメや昆布、魚介類を使うことだった。

 

「私も初めて聞いた時は『?』と思いました。機械に海藻が効果があるなんて、聞いたことがありませんでしたから! けれども、彼は大真面目に『人のカラダに良いものはエンジンにも良いはず』と考えていて、海藻を煮込んだエキスをエアクリーナーに吹きつけて使用してみたそうです。そうしたら実際に性能がよくなった、と言うのです」

その効果を科学的に確かめるべく大阪大学に試料を持ち込むと、確かに含まれている成分の界面活性効果によって、燃焼効率が高められることが解った。

 

こうして誕生したのがエコスプレーだった。スプレーを使用すると一酸化炭素排出量を30%、炭化水素量を23%、窒素酸化物を15%減少させることができる(※公的データ調べ)。そして燃費についても10~20%ほど向上させる効果があった。

その後、改良が加えられた現在の商品も、海藻類をはじめ、魚介類、檜樹液、鉱石接触水など、天然由来の成分から作られている。

 

 

海外に活路を見出し国連機関からも高い評価

株式会社EiShinの主力商品である「エコスプレー」と、その製造現場。海藻類や魚介類など天然成分由来のスプレーが、自動車の排気ガス軽減や燃費向上に一役買うとは、意外な組み合わせといえよう。

効果が実証され、2011年にテスト販売をスタートした安永代表だったが、その道は苦難の連続だった。

「私自身が環境問題に興味があるということもあり、大気汚染を減らすことや、燃費向上によって化石燃料の使用を削減することを積極的にアピールしていきましたが、伺ったどこの企業も良い顔をしてくれませんでした。『そんな話は聞き飽きたよ』『今まで色々使ったけど、効果なかった』と全く聞いてもらえないことが多かったのです」

運送会社やタクシー会社には、燃費向上を謳った商品の営業が引きも切らないという。いくらエコスプレーの性能が証明されている商品とはいえ、受け入れてもらうのは難しかった。

「中には全く効果が無いものを売りつけてくる胡散臭い業者もあるそうです。それでも、試しに使ってみたら効果があったから、とその後も継続して使ってくれるところはありました。しかし、なかなか業績が伸びることはありませんでした」

そんな中で安永代表は、ならば海外に活路を見出そうと動いた。

 

「海外では、クルマは日本より遥かに過酷な環境で使われています。年式の古いもの、メーカーの整備をきちんと受けていないものに、大量の荷物が積まれています。ですから、エコスプレーの効果が日本よりハッキリと出る、と考えたのです。それで各国のカー用品の展示会に出展するようにしました」

エコスプレーの効果に最初に注目してきたのは中国の企業だった。

中国は毎年冬になると、暖房に使う石炭の煙が大気中に拡散し、その中に含まれるススなどの粒子、いわゆるPM2・5による大気汚染が深刻な問題になっている。

 

「エコスプレーを使えば、PM2・5も濾過できるので、非常に効果が良く現れて、現地で好評を得ることができたのです。現在は、中国やタイに総販売元を置き、アジア各地で販売しています。今後は中国よりさらに大気汚染が10倍もひどいといわれるインドや、自動車の本場・北米への進出を計画しています」

2016年11月には、国連工業開発機構(UNIDO)が、「気候変動対策と省エネ」「環境汚染対策」への効果が見られるということで、エコスプレーを環境技術データベースへ登録した。現在では、世界77ヵ国からオファーを得ている、と安永代表は話す。

 

一方、国内での展開はどうなっているのだろうか?

「2016年1月に国内タクシー会社16社で使用を始めていただいたのを契機に幾つか販売契約を結ぶことができましたが、UNIDOで紹介されたことで大きな企業も目を向けてくれるようになりました。2018年に入ってからは日本郵政様からも試したいという連絡を受けていますし、東急バス様や佐川急便様などとも話が進んでいます。やっとこれまでの苦労が実を結んできているかな、と思えるようになってきました」と、安永代表は微笑む。

 

 

「一刻も早く環境改善を」とBtoBを選択

エコスプレーを実際に使用している様子。自動車のエアフィルターに噴霧するだけで、一酸化炭素排出量、炭化水素量、窒素酸化物を減少させることができるうえ、燃費向上にも一定の効果があると言うから、驚きだ。

 

以前はBtoCでの販売を考えていた安永代表だったが、今はBtoBにシフトしている。

「直接カスタマーに広げていこうと考えていたのですが、それだと商品が浸透するのには時間がかかります。環境改善に少しでも早く取り組むためには、多く使用されているバスやトラックなどの商用車にアプローチしたほうが良いと考えたのです」

保有台数だけ見れば国内のシェアは乗用車・軽自動車が約90%を占める。しかし、それらのほとんどが年間の走行距離1万km以下だ。

 

「その程度の走行距離ですと、燃費向上の効果はあまり目に見えるものにはなりません。しかし、1ヵ月で5000kmも走ってしまうバスやトラック、タクシーでは僅かな差でも大きな効果になり、経費を削減できるのです。40台の車両を保有する運送会社で、年間の燃料費は1億円にもなります。エコスプレーを使い続けることで、その2割削減が可能です」と安永代表は話す。
他にも、ディーゼル車に設置が義務付けられているDPF・DPRといった排ガス浄化装置のクリーニング・交換頻度を低下させる効果もあるという。クリーニングには1回2万円ほど、交換には車種によっては100万円もかかるというから、この差は大きい。

また、これらの排ガス浄化装置のクリーニング・交換は、毎回、車両を停止させて行わねばならず、頻度が多いと業務に支障をきたしてしまうし、整備の費用も深刻だ。

「こういった負担を軽減し、何よりクルマを長持ちさせることができるのです。その点も環境保全に繋がる、と考えています」

大手企業が動けば、状況は一気に変わる、と安永代表の意気は高い。

 

 

人が安全に暮らせる環境を作るために

 

「3人姉妹の長女として生まれ、学校はデザイナーの専門学校に進みました。卒業後は広告代理店に2年ほど勤めていたのですが、父の会社でデザイナーの人手が足りなくなり、そこを手伝うことになりました」と、安永代表はご自身の経歴について話してくれた。

安永代表の父は、大手楽譜出版社の創業者だ。1990年代には世のバンドブームに乗り、有名バンドのスコアを販売、10万部の売り上げもあったという。

 

「社長の娘ですから、従業員はみんな顔見知り。だから、そこで働くのには、プレッシャーがありました。『ちょっとだけ手伝って、すぐ次の仕事を探そう』と思っていたのですが、結局15年も在籍してしまいました」と安永代表は笑う。

その間、安永代表はデザイナーとして様々なアイデアを出して、業績アップに努めた。「楽譜は、中身はどこも同じ。ですから、手にとってもらえるように背表紙をカラフルにしたり、アーティスト写真を多用したり、工夫をしました。そのおかげか、クラシックの楽譜が何万部も売れたりしていましたよ」と当時を振り返る。

 

一時期は月間50冊も出版していたが、2000年代に入り、それも徐々に下火に。

「その時には、30代も後半に差し掛かっていたので、外の世界を見てみたいと思って、父の下を離れることにしました。それで一度別の楽譜出版会社の下請けに入ったのですが、いよいよ楽譜業界が不況になってきたので、次にITの会社に移ったのです」と安永代表は話す。

 

その頃に知り合ったのが、今も尊敬し交流を持っている、自分の母親と同年代のある女性社長だった。

「その方は昔から恵まれない子供たちの救済事業などをされている方。彼女から社会貢献、特に地球環境に貢献できる仕事をしていくべきだというお話を伺い、私もそういう問題には興味があったので、これに取り組む事業をスタートしようと思って、この会社を立ち上げたのです」と安永代表は語る。

こんなにも環境問題に心血を注いでいるのは何故なのだろうか、と伺うと、安永代表はこう応えてくれた。

 

「……小学生の時なのですが、私は2人の友達の死を目の当たりにしました。1人は白血病で。そしてもう1人は小人症の子だったのですが、育児ノイローゼ気味だった母親によって殺されてしまったのです。それが、私が『人が死ぬ』ということに触れる最初の体験でした」

人が死ぬことは、もう二度とその子と会えなくなるということに他ならない。その衝撃が安永代表の心に強く残ったのだという。

 

「だからなんとしても人は自ら命を絶ってはいけない」と思い立った安永代表だったが、現代社会では人ならざるものの手による死が身近にある。それが環境問題だった。

「これから生まれ育っていく子供達のためにも、より良い地球環境を残しておかなければならない。だから私はエコスプレーをはじめ、環境に良い商品を多くの人に紹介していきたいのです」と安永代表は決意を口にする。

 

2018年8月には健康商品の新会社「愛LINC」もスタートさせた安永代表。環境と、そこで暮らす人々の命への思いが、彼女を突き動かしている。

EiShinのエコスプレーは、国連UNIDOの環境技術データベースにも登録されており、国内外を問わず斬新なエコカー商品として注目を集めている。

 

 

代表取締役 安永知恵

環境問題に取り組む安永氏の熱意は、彼女が幼い頃に友人を失ったことに由来する。「これから生まれ育っていく子供達のためにも、身近な人々を死に追いやるような環境問題を私たちの世代で根絶しなければなりません」と、その悲痛な決意を語ってくれた。

株式会社EiShin

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株式会社愛LINC

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