株式会社イリモトメディカル 代表取締役 煎本正博氏

2018年9月26日、東京商工会議所の第16回「勇気ある経営大賞」では、応募総数149社のなかから11社が奨励賞に選ばれた。奨励賞受賞企業のなかでも株式会社イリモトメディカル(東京都文京区)は、放射線科の専門医によるCT、MRIの遠隔画像読影サービスを提供する、医療業界でも注目の企業だ。

今回は、同社を起業した放射線科の専門医であり、代表取締役の煎本正博氏に、現代の医療界の抱える課題や今後の展望について伺った。

 

遠隔画像診断で日本の医療に貢献

ガン検診や脳ドックなど、現代の医療には欠かせないCT検査やMRI検査。これらの検査で撮影した断層画像を見て、患者の状態や病気の有無、進行具合を診断することを「読影」と呼ぶが、この「読影」に着目してビジネス化したパイオニア企業こそが、株式会社イリモトメディカル(以下「イリモトメディカル」)である。

イリモトメディカルは、遠隔地にあるさまざまな医療機関からデジタル送信されてきたCTやMRIの画像を放射線科の専門医が読影する「遠隔画像診断サービス」を提供している企業だ。同社は2001年に創業し(当時の名称は「イリモトメディカルイメージング」)、2003年には有限会社化、2006年には現在の社名へと改称して、株式会社化した。2018年現在、クリニックや病院、健康診断施設などおよそ115ヵ所のクライアントから、年間約60万件近くの依頼を受けるほど、急成長を果たしている。

創業者であり、自身も40年以上、放射線科医を務めてきた代表取締役の煎本正博氏は、イリモトメディカルの設立の背景についてこう語る。

 

「私がこの事業を始めた背景は、日本の放射線科医が不足しているという現状を目の当たりにしたことでした。放射線科医とは、医師のなかでもCT画像やMRI画像を読影する専門家です。現在、日本全体で医師の数が約30万人と言われていますが、放射線科医はその2%のおよそ6000人しかいません。

しかも、対人口比で換算すれば、アメリカの約1/3と、他国に比べても大幅に少ないのです」

 

その一方で、日本ではCTおよびMRI装置は全国で2万5000台ほどあり、OECD(経済協力開発機構)加盟国34ヵ国のなかで最多である。

この放射線科医とCTおよびMRI装置の数的ギャップについて、煎本氏は次のように指摘する。

 

「およそ6000人の放射線科医は、全国に160しかない大学病院とその傘下病院に集中しております。その一方で、CTおよびMRI装置は大病院をはじめ、地方の小さな病院やクリニック、健康診断施設など、日本全国に散らばっているのです。

そんななか、放射線科医が常駐していない病院では、専門外の内科医などがCTやMRIの画像を読影して病変を見落とした結果、患者さんが亡くなってしまうという痛ましい事件も少なからず起こっています。そのため、限られた医師資源である放射線科医がCTやMRIの画像の読影に専念する環境を作れば、もっと多くの命を救えるだろうと考えたのです」

 

そこで、煎本氏は、勤務医時代の経験を活かして、個人事業として、CTおよびMRI画像の「遠隔画像読影サービス」を始めたという。その後、イリモトメディカルでは、放射線科医が常駐する「画像読影センター」を開設。同社は現在、常勤2名、非常勤13名の放射線専門医を抱え、小規模診療所を含む日本全国の病院から送られてきたCTおよびMRIの画像読影に努めている。

このような功績から、今回、イリモトメディカルは、第16回「勇気ある経営大賞」奨励賞を受賞した。その受賞理由にもある通り、同社は、「地方や小さな病院にも高レベルな画像診断サービス提供への挑戦」を続けており、日本医療の品質向上に寄与しているのだ。

 

放射線専門医による画像読影が生む信頼

社内の読影室での診断作業の様子。イリモトメディカルでは、放射線専門医として40年以上のキャリアをもつ煎本氏が、画像診断のクォリティを常にチェックしている。

 

それでは、イリモトメディカルの具体的なサービスについて紹介しよう。イリモトメディカルの遠隔画像読影サービスには、「検診用画像読影」と「診療用画像読影」の2種類がある。煎本氏は、この両者の違いについて、次のように解説する。

 

「まず、医学用語として『検診』と『診療』という言葉には大きな違いがあります。検診とは、受診者に病気があるかどうかを確認する予防医療の行為になります。一方、診療とは、すでに病気にかかった患者さんを診察し治療する行為です。そのため、画像を読影すべき観点が異なってくるのです」

イリモトメディカルの検診用画像読影は、胃部造影、胸部単純写真、マンモグラフィ(乳ガン)検査、肺ガン検診CT、脳ドックMRIなど、多岐にわたる検診に対応可能だ。とりわけ、ガン検診の画像読影に力を入れており、このガン検診の画像読影が同社の売り上げ構成の90%以上を占めているという。

国内に約40社ある同業他社では、検診用画像読影が売り上げ構成の10%ほどしかないと言われるため、イリモトメディカルの高精度なガン検診画像読影が、いかにクライアントから信頼を得ているかを物語っているであろう。

一方の診療用画像読影は、単純X線写真、CT画像、MRI画像など、あらゆる画像読影に対応している。ちなみに、単純X線写真とはいわゆる「レントゲン画像」のことで、一定方向からX線を照射して、体内断層画像を2次元的にフィルムで撮影するもの。また、CTとは「コンピューター断層撮影」(Computed Tomography)の略称で、その画像は、レントゲンと同じくX線をつかうが、コンピューター処理でさまざまな角度から体内断層画像を3次元的に撮影できるので、レントゲンよりも精密な読影が可能となる。

 

MRIは「磁気共鳴画像」(Magnetic Resonance Imaging)の略称であり、電磁波を用いて任意の体内断層画像を撮影するものである。それぞれの撮影方法に一長一短があり、診療箇所によっても向き不向きがあるが、3種類の画像読影すべてに対応できるのは、キャリア40年以上の煎本氏をはじめ、多数のベテラン放射線専門医を抱えるイリモトメディカルの強みであろう。

煎本氏は、診療において放射線科の専門医が画像読影することの重要性を、次のように強調する。

 

「患者さんが『お腹が痛い』と訴えても、小さな診療所では、いつでも消化管の専門医が患者さんのCT、MRI画像を読影するわけにはいきません。また、腹痛といっても、心筋梗塞由来のものだってあるのです。現代は医師の専門性が細分化されている時代ですので、誤診を防ぐためには、私たち放射線科医が担当医に代わって読影しなければならないのです。患者さんの生死に関わるような緊急を争う場合は、特にそうです」

 

日本の総合医療の将来を担う旗手

CT、MRIの遠隔画像読影サービスのイメージ。全国の病院から検査画像を集め都内で専門医が遠隔診断している。

 

煎本氏は、1974年に順天堂大学医学部を卒業後、虎の門病院で放射線科医としてのキャリアをスタートさせた。1991年からは順天堂大学病院放射線科で研究・教育・臨床に携わり、1999年には都立豊島病院放射線科医長に就任している。このように放射線科医として44年間もの経験をもつ煎本氏は、放射線科医療の進展についてこう語る。

「私が放射線科医になった当時は、もちろんフィルムでのレントゲン撮影が主流でした。その後、大病院では画像のデジタル化が進むなかで、私もイリモトメディカルの創業後、大学の先輩・同級生に依頼されて、人間ドックなどの検診施設では日本でも初めてに近い画像のデジタル化にも挑戦しています。

そのような仕事のなかで、画像のデジタル化によって、ガン検診の診断精度が向上することなど、起業して初めてわかったこともあったのです。また、私が起業してからの17年間でも、昔は見つからなかった病気が見つかる、昔は治せなかったガンが治せる、といったことが多くなり、医療の世界はまさに日進月歩と言えます」

 

そんな煎本氏は、日本医療の将来について次のように語る。

 

「医師は、もともと患者さんの体を総合的に診察する職業でした。それが時代を経て、内科、外科のように分化し、さらに内科でも心臓内科、消化器内科、循環器内科と細分化していき、さらに現代では消化器内科のなかでも胃や肝臓など臓器ごとの専門性に特化した医師が当たり前になりました。

しかし、その一方で20年ほど前から、総合診療科という新しい科ができ始めてもいます。これは、総合診療科がプライマリーケア(初期治療)を担当して、患者さんの症例ごとにそれぞれの専門医を紹介し、医療全体の質を高めようという試みです。ただ2018年時点でも、十分な総合診療医(ジェネラル・フィジシャン)を養成する環境ができていません。この傾向は、地方の小さな病院では特に顕著です。このようななかで、私たちイリモトメディカルも、放射線科の専門医による画像読影サービスで総合診療を支え、日本の医療に貢献していきたいと思います」

煎本氏は、多忙な同社の業務をこなしながらも、最近の医療界の潮流をキャッチアップするために、日本人間ドック学会や北米放射線学会など、国内外の学会・研究会に参加し、イリモトメディカルでの経験を発表している。そんな煎本氏が率いるイリモトメディカルの今後に、日本の医療界は大きな期待を寄せていることであろう。

 

株式会社イリモトメディカル

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