要刮目!? 日々加速する〝SEC進化論〟

これには泉下のダーウィンも目を白黒させているのではあるまいか──。

国内屈指のエレベーターメーカーであり、独立系メンテナンス業者としては最大手のSECエレベーター(本社・東京都台東区)が、ここ数年、恐ろしいまでのスピードで進化を続けている。ダーウィンはその過程を〝自然選択〟と表現したが、その伝でいけば同社のそれは、〝自然環境ソリューション〟と言っていい。人や企業が生きていく上で、いつか必ずぶつかるに違いないエコロジー&エネルギー問題を、早々と見越し、解決の道を拓くべく、型破りなイノベーションとその事業化を意欲的に推進しているのだ。そのSECのトップリーダー、鈴木孝夫氏(69歳)を直撃した。はっきり言って発想が半端ではない。どこがどう半端でないか。とくとご吟味いただこう。

 

四重ブレーキの安心エレベーターからLED、新エネルギー、デジタルサイネージetc 独立系エレベーターメーカー&メンテナンス国内最大手 エス・イー・シー・エレベーター 代表取締役社長 鈴木孝夫氏

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2ダブル(四重化)ブレーキで安全の上にも安全を

─まずは〝本業〟のエレベーターの話からいろいろとお訊きしたいと思います。

ちょっと待ってください。そう言われますと、今進めているエコロジー事業や新エネルギー事業が、副業のように聞こえるじゃないですか。

 

─(!)これはのっけから失礼をいたしました。他意はありません(恐縮)。

ハハハ。冗談ですよ。気にしないで始めてください。

 

─いやはや、聞きしに勝る兵(つわもの)ですね(笑)。ではお言葉に甘えて…。今、国交省がしきりにエレベーターのリニューアルを勧奨しています。背景にあるのは高経年化と、それにともなう2012年問題(1980年代以前に設置されたエレベーターの部品供給ができなく  なるという問題)ですが、まずはこれに対する社長の考え方からお聞かせください。

はっきり言って役所のやることは遅いですね。話になりません。やがてそういう時期がくるというのは、とっくに分かっていたじゃないですか。だったらもう少し早く手を打っても良かったんじゃないでしょうかね。現に私どもでは、もっとこうすればこうだとか、このように行政が指導をすべきだとか、国交省にはこれまで何十回も提案書を出しています。それはそれとして、私どもの考え方は一貫していますよ。

売りっ放しは許されないということです。オーナーも利用者もそういうことはあまり考えないでしょうけど、エレベーターは電車や自動車と同じ乗り物なんですね。ということはある意味で危険と隣り合わせなんですよ。常にメンテナンスをし、ある程度高経年化したら、劣化する前にそのことをオーナーに伝え、しっかりとしたリニューアルを提案する義務があるんです。もちろん、私どもの企業努力によって、少しでもオーナーのご負担を軽くした上でのことですけどね。

 

─ごもっともな話です。

ところがそのごもっともな話が、この業界ではなかなか浸透しないんですね。Wブレーキってご存知ですか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─ええ。一つのブレーキがダメになっても、今一つのブレーキが働く装置のことですね。

そうです。では、2009年に施行された法改正のことはご存知ですか?

 

─はい。当面は新たに設置するエレベーターに限ってのようですが、主たるブレーキが故障したときのために、補助ブレーキをつけなければ設置を認めないという法律です。

その通りです。でもそれって、今ごろになって何を言ってるんだと思いません?当然のことじゃないですか。人の命が懸かっているんですから。

 

─そう言えばそうです。なぜこれまで法制化されなかったんでしょうか。

例のWブレーキです。片方がダメになってももう片方が止めるじゃないか。その上にまだブブレーキを付けろというのはユーザーに負担を強いるだけだ、という不文律が業界に根強くあって、あまり口幅ったいことを言うつもりはありませんが、役所も暗に、仕方がないと思ってきたフシがあるんですよ。

しかし通常言われるところのWブレーキは、正しくは二重化ブレーキと言いましてね、モーターの回転軸と一体化した巻き上げ機のドラムを、左右からギュッと締め付けることによって掛かる仕組みになっているんです。仮に片方のパッドが摩耗してダメになっても、もう片方のパッドで止めることができます。その意味では確かにWブレーキですけど、ユニット自体が一つですから、電気系統の故障だとか、ちょっとしたことでどっちもダメになっちゃうんですよ。

 

─なるほど。現にそのことによる事故やトラブルが後を絶ちませんしね。では、御社はどのように取り組んでいるのでしょうか。

私どもでは2ダブルブレーキと呼んでいますが、ユニットを二つにすることによって、結果的に四重にブレーキが掛かるように設計し、早くからオーナーに提案しております。自動車に例えればリアブレーキとフロントブレーキの両方を装備するようなもので、作動イメージとしては、4つの車輪全部にブレーキを付けたような感覚ですね。ちなみにこのシステムを使っているのは私どもだけです。

 

─なるほど。安全の上にも安全をということですね。でも、それくらいの装備は、どのエレベーターにも普通に着けていて欲しいですね、利用者の一人としては。

だったらアナタ方ももっと、2ダブルブレーキを広める手伝いをしてくださいよ(笑)。

 

─分かりました。折に触れてあちこちで喧伝しておきます(笑)。

 

照射角度がなんと!280度、300度、360度のLED直管蛍光灯

─さて、話を本題に移しましょう。ズバリ訊きますが、御社はエレベーター会社なのに、なぜエコロジーだとか、新エネルギーといった、まったく畑の違う事業に手を伸ばし始めたんでしょうか。

 

畑が違うという指摘は、必ずしも当たっていないと思いますよ。エレベーター事業というのは、大きな視点で見ると、ビル建設業とも、ビル管理業とも密接に連携する、言わば〝ビルを快適にする〟ための技術とサービスを提供する事業なんですね。ビルには多くの人が居住し、多くの人が働き、多くの電気が使われ、多くの機械が導入されているじゃないですか。当然そこには、環境問題も、コストや危機管理の問題も出てきます。それらを一つひとつ吸い上げていくと、自ずとそういう業態に〝進化〟していくということですよ。

 

─なるほど。そういえば〝ビルをまるごと心地よく〟なんてキャッチコピーを打ち出している同業他社があります。

ハハハ。そう言えばそうですね。でも手前味噌ですが、私どものほうが少しばかり野心的と言いますか、一歩先んじていると思いますよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─一つ二つ、例を挙げていただけますか?

例えばLED(発光ダイオード)ですね。ちょっと大きなビルになりますと、1000本も2000本も蛍光灯が使われていますが、その電気料金を半分に減らすことができます。それだけではなく、1本で最大2本分の明るさを実現できますから、本数そのものを大幅に減らすこともできるんです。

 

─今少し詳しく説明してください。

同じLEDでも照射角度が違うんですよ。一般的なLED直管蛍光灯は照射角度が180度ですが、私どものそれは280度、300度、360度とありましてね。360度だと壁はもちろん天井にまで光が当たりますから、その反射光で室内が一層明るくなるんです。

 

─ちょっと待ってください。200度や250度なら分からなくはありませんが、300度とか360度となると、放熱するアルミ板はどう処理するんですか?

その辺が私どもの野心的で他社に先んじているところですよ。研究に研究を重ねて開発した特許製品です。だって面白くないでしょ?さっきの2ダブルブレーキもそうですけど、どこでもできることをやってるだけじゃあ。

 

─恐れ入りました。ところで消費電力はどうなりますか?

20W/時から26W/時になります。それで従来型の蛍光灯の40W/時と同等の明るさを得られますから、単純に比較すると半分から半分ちょっとですね。仮に毎日16時間点灯していたとすると、1本当たり年間にして約1800円のコストダウンになります。1000本だと180万円にもなる計算です。イニシャルコストとランニングコストを足して追っていきますと、約2年半後には減価償却できますから、後はそっくり節約できるというわけです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─他にはどんなメリットがありますか?

消費電力が節減されると、その分、大気に排出されるCo2も減りますね。計算では、私どものLEDを仮に100本導入しますと、5年間で約60トンもの削減になります。おまけと言ってはなんですが、白熱電球や従来型の蛍光灯と違ってUV(紫外線)や赤外線をほとんど出しませんから、食品の衛生面にも、皮革製品や絵画の保存状態にも、悪い影響を与えることがまずありません。

 

─恐るべし。

 

拠点150超のインフラ背景に「まだまだこんなもんじゃない」

─もう一つお訊きします。新エネルギーサイエンス開発課という部署を立ち上げられたそうですね。これもやはり、〝ビルを快適にする〟ための事業化に向けた布石ですか?

う~ん。当初はそうだったんですが、これはもっと広がりを見せそうですよ。ハウス栽培の農家だとか、漁業関係だとか…。あとはロハスって言うんですか?健康とか環境とかを意識した新しいライフスタイルを目指す人たちですね。(写真を取り出して)これは千葉の御宿のとある別荘の庭園です。

 

─え!?これは風力発電装置ですか?

そうです。千葉マシナリーという研究所と共同開発した「エコ・ウィング」という風力発電装置に、ソーラーパネルを併設したハイブリッド発電システムですよ。

 

─なるほど。昼間は燦々と降り注ぐ房総の太陽光で発電し、夜は九十九里の海風で発電するという24時間対応のシステムというわけですね。それにしてもユニークな形をした風力発電装置ですね。

ヨットの帆布を使っているんですよ。この帆布ってところがミソでしてね。そよ風のときはしっかり風を受けて発電しますし、強い風のときは上手く風を逃がしながら効率よく発電するんです。それに何より、驚くほど低価格で設置できるんですね、これが。海外でもけっこう評判を呼んでいまして、つい数日前には、ミャンマーから引き合いがきているんですよ。あとはフィリピンですね。ほら、あの国は電気の通っていない小さな島がいっぱいあるじゃないですか。

 

─はい。大体のところは分かりました。ところで先ほどのLEDといい、この発電システムといい、どういう販路で広げるお考えですか?

ソーラー発電システムについては一部代理店にお手伝いいただいていますが、基本的にはすべて直販です。というのも私どもには全国に150を超える拠点、つまりインフラが整備されているんですね。いずれもそのインフラがあってこそ吸い上げられたニーズであり、そのニーズに応えるべく始めたのが、これらの新規事業ということですよ。それにもう気が付かれたと思いますが、どの事業も私どもで開発し、パッケージにしたワンストップサービスなんですね。設計施工から保守管理まで。

例えばLEDですが、蛍光灯だからって家電量販店に置いて勝手に買っていけというわけにはいかないんです。設置環境を丹念に調べて、それに沿った設計をし、取り付け工事をし、さらに何かアクシデントがあればすぐに飛んでいける体制がないと売れないんです。ソーラー発電システムにしてもそうです。ただ設置するだけじゃなく、発電状況を24時間体制で監視し、売電計画までこちらで立てて、事務手続きなどもすべてこちらで代行するんですよ。今はそういう時代です。エレベーターのオーナーだって、メーカーごとに違うメンテナンス会社に依頼するより、一社であっちのもこっちのも見てくれるメンテナンス会社に頼んだほうが安上がりだし、手間も省けていいじゃないですか。それと同じですよ。

 

─それにしても150以上というのは凄い数ですね。私の調べた限りでは、独立系ではもちろん断トツのトップで、電機系の大手メーカーともほとんど遜色ありません。やはりこういう時代がくると予測して拡大路線を取られたんですか?

いや。最初はメンテナンスのことだけしか頭になかったと思います。エレベーターっていうのは元々がナーバスな乗り物でしてね。停電とか地震とかがあるとすぐに停まったり、なにがしかのトラブルが起こるんですよ。そんなときは一つの目安として、30分以内に駆け付けて、1時間以内に直すのが掟のようになっているんですね。そのためには近くに拠点がないと行けないじゃないですか。でも実際に拡大してみると、それまで見えなかったものが次々と見えてきた、というのが実際のところですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─それにしても凄い進化ですね。しかも恐ろしいまでのスピードです。

まだまだこんなもんじゃないですよ。デジタルサイネージって分かります?

 

─電子看板のことですね。

そうです。これもやはり私どもの新規事業の一つでしてね。オリジナリティに富んだコンテンツやデザインがかなりの評判を呼んでいるんです。これもインフラを上手に活用してサポート体制をしっかり整えてやれば、かなり有望ではないかと考えています。

 

─しかしホントに、発想が半端じゃないですね。

 

もう、一人で美味しい思いをしようなんて時代ではない

─最後にもう一度、エレベーターのほうに頭を戻してください。その上で、業界のオピニオンリーダーとして、また業界の発展のために、ひとつ大所高所からお話をいただけませんか?

あまり偉そうに言うのも何ですが、ここらでぼちぼち、業界全体が脱皮するというか、大胆に改革を進めてもいいのではないかと思っています。例えば自動車の車検制度のようにですね、メーカーに関係なく、ユーザーが自分の判断で掛かり付けのメンテナンス業者を選べるような環境づくりをすることですよ。そうすれば競争原理も市場原理も働きますから、全体としてよりスキルアップできますし、価格面も含めてより健全化すると思うんですね。

確かにこ れまでは顧客を囲い込むことによって、とくにメーカー系列は安定経営ができたかもしれませんが、その一方では、事故や不祥事が後を絶ちませんし、顧客の不審は増すばかりといって過言ではないでしょう。このままでは早晩、顧客も背を向け始めるに決まっています。そうすると顧客はどこに目を向けるかというと、やっぱり海外ですよ。これから更にグローバル化が進んで、ネットで安くていいエレベーターが手軽に買えるようになると、みんなそちらへ行っちゃうってこともあるんじゃないですか?

そうなる前に、誰彼なくみんなで話し合い、切磋琢磨して市場を健全化することが何より大切だと思うんです。それには一にも二にも、まずは情報をオープンにし、顧客も含めて、業界全体で共有することですよ。情報をひた隠しにして、一人で美味い思いをしようなんて時代ではないですからね。

 

─ありがとうございました。益々のご発展をお祈りしております。

 

【取材を終えて】

実に豪快で、それでいて進取の気象に富んだ、紛れもない好漢である。聞くと、これまで数多くの実績を残している割には、どの団体にも属していないという。そこでもし、読者の中に日本エレベーター協会に関係する御仁がおられたら、お節介を承知でぜひ進言申し上げたい。ご意見番のような立場で、この人をお迎えしてはどうだろうか。少々波紋を呼ぶかも知れないが、業界の発展には必ず寄与すること請け合いですぞ、はい。

 

鈴木孝夫(すずき・たかお)

SECエレベーター代表取締役社長。1943年生まれ、岩手県平泉町出身。東京電気大学卒業。エレベーター関連の技術者として3年間のサラリーマン生活を送った後、下請け業者として独立。1970年、有限会社鈴木エレベーター工業設立。1978年、SECエレベーター株式会社に社名変更。独立系のエレベーターメーカー、メンテナンス業者として、ユーザーの安全と利益を確保するために、これまで多くの斬新な提案を国交省に進言するなど、業界の発展と健全化に大きく寄与している。

エス・イー・シー(SEC)エレベーター

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