不正アクセスやサイバー攻撃からウェブサイトを守るサービスを提供するサイバーセキュリティクラウド。コロナ禍で企業のDX化が加速し、2021年12月期第2四半期決算は、売上高が前年同期比56.9%増の8億5300万円、営業利益が84.7%増の1億9200万円と堅調に推移している。今年3月に代表取締役社長兼CEOに就いた小池敏弘氏に戦略と展望を聞いた。

 

――今年3月にサイバーセキュリティクラウドに参画しました。これまでどんなキャリアを歩んできたのでしょうか。

 

「新卒で入社したリクルートでは、主に営業部門で企画職の仕事をしていました。子どものころからパソコンが好きで、IT周りのことは得意でしたので、システム部門とともに新規プロダクトの開発などにも関わっていました。2014年ごろ米シリコンバレーのスタートアップがブームになり、日本でも知られるようになりました。現地の技術を日本のビジネスに生かせないか、一度ベンチャーの本場で働いてみたいという気持ちがあり、2016年にリクルートを退職して渡米しました。」

 

――思い切りましたね。

 

「シリコンバレーではチャットボットを開発する企業のCOO(最高執行責任者)に就きました。皆、明確な目標を持ちながらも楽しそうに働いていて刺激を受けました。スタートアップで経営やファイナンスを学んだことも大きかった。また、ウクライナやベトナムなど文化が違う国のメンバーと一緒に働くことができたのもプラスの経験です。」

 

――2018年に帰国してから、M&A仲介会社を立ち上げ後、サイバーセキュリティクラウドに参画した経緯は何だったのでしょうか。

 

「M&A仲介会社は、事業承継問題もありニーズは大きく業績も良かった。しかし、サービスをさらに伸ばすためにはより多くの資本力が必要であると考え、結果として売却しました。売却を進める過程で、サイバーセキュリティクラウドを知りました。当時のサイバーセキュリティクラウドは営業を強化しようとしている時でした。これまでのキャリアで、経営スキル、営業力、ITの知見を持つ自分であれば会社を成長させることができると感じ、参画を決めました」

 

――サイバーセキュリティクラウドの主軸である「攻撃遮断くん」の特徴は何でしょうか。

 

「WAF(ウェブアプリケーションファイアウォール)と呼ばれるセキュリティーツールで、Webアプリケーションの脆弱性を悪用した攻撃からサイトを保護します。保有する過去の攻撃パターンと、未知の攻撃を予測するAIを活用して、不正なアクセスを検知・ブロックすることが特徴です。『攻撃遮断くん』は約1万2000サイトで導入され、クラウド型WAFサービスでは国内トップシェア※ですが、日本の企業は全国で約300万社。まだまだ開拓の余地があります。このほか、WAF運用代行サービスなども展開しています」

※出典:「クラウド型WAFサービス」に関する市場調査(2019年6月16日現在)<ESP総研 調べ>(2019年5月〜2019年6月 調査)

 

実は国内で使われているセキュリティーサービスは米国やヨーロッパなどの会社が開発していることが多く、日本におけるセキュリティ企業の多くは代理店として海外サービスを販売しています。つまり、『国産』サービスはほとんどないのです。私たちは設計、開発、運用まで国産にこだわっていることが強みです」

 

――コロナ禍でどんな業界のニーズがあるのでしょうか。

 

「クレジットカード決済が必要なEC運営会社などのニーズは大きいですね。ただ、今は企業のDX化が加速している段階なので、セキュリティーに目が向くのはあと1、2年たってからでは。逆に言えば、セキュリティーが甘いサイトが増えているので、ハッカーの攻撃にあう危険性が高くなっている。日本ではまだお金をかけてセキュリティー対策をしようという意識が低いと感じることがあります」

 

――企業がサイバー攻撃の被害を受けたというニュースはよく聞きます。ですが、実際に被害に遭わないと自分ごとと捉えることが難しい印象です。

 

「今年、ある企業で大規模な情報流出があり報道で大きく取り上げられました。こうした場合、会社への信用度が下がり、新規顧客が獲得できなくなりますよね。その結果売り上げが落ちます。さらに株価が下がることによって投資もしにくくなります。訴訟になると賠償金などの金銭的負担も大きい。最も深刻なのが、流出した情報が闇マーケットで売り買いされてしまうことです。サイバー攻撃による被害はどの企業でも起きる可能性があることなので、企業として適切な事後の対応が求められます」

 

――米国でも子会社を設立し、事業を拡大しています。

 

「米国は6月に新製品を出しました。米国では『攻撃遮断くん』ではなく、大きなシェアを持つAWS(アマゾンウェブサービス)が展開するAWS WAFを自動運用するWafCharmを売り出しています。自動運用における直接的な競合は見当たらないため優位性はあると考えています」

 

――米国以外で海外展開の計画はありますか。

 

「EU圏内ではGDPRという個人データ保護やその取扱いについて細かく定められた法令が適用されるなど、乗り越えなければならない壁があります。当面は米国での事業拡大に注力します」

 

――2021年12月期第2四半期決算では、売上高が前年同期比56.9%増の8億5300万円、営業利益が84.7%増の1億9200万円と堅調です。好調の要因は何でしょうか。

 

「主力の『攻撃遮断くん』の新規顧客企業が増えたことに加え、第2の柱と位置付けるWafCharmが大きく成長しました。内的要因に加え、コロナ禍でDX化が加速する外的要因もあると思います」

 

――今後の成長戦略をどう描きますか。

 

「マーケティングでは、広告宣伝などでWAFへの理解を深めてもらいたい。また、地方の中小企業開拓のために代理店契約を増やしています。プロダクトでは、前期子会社化したソフテックとノウハウ共有や相互送客を進めます。DX化を絶好のチャンスと捉え、地方企業を開拓していきたいと考えています」