IPOやM&Aなどを目指す地方のスタートアップの成長加速を支援する、アクセラレーションプログラム「FASTAR」。第3期に採択された企業によるプレゼンテーションが10月27日、オンラインで開かれた。医療や食品事業などを展開する全国から集まった9社が成長戦略や事業計画を発表した。

 

FASTARは独立行政法人・中小企業基盤整備機構の事業で、スタートアップや個人に対し、事業成長を支援する事業。2021年度からは、株式会社サムライインキュベートが採択企業のサポートや一部業務の運営を支援している。

 

今回から外部有識者らによる特別賞を設けた。「経産新規室賞」にアルム株式会社が、「インキュベイトファンド賞」に株式会社八代目儀兵衛、「サムライインキュベート賞」にアットドウス株式会社が選出された。

 

 

「経産新規室賞」 アルム株式会社(石川県金沢市)

 

自動車や半導体の自動化装置、ソフトウエアの製造・設計などを手掛ける。金属部品の加工は、工作機械を動かすための「NCプログラム」というプログラムが必要だ。これまで職人が作ってきたが、製造コストの半分以上をNC旋盤作成が占め、大きな課題だった。

 

NCプログラミングをAI(人工知能)で完全自動化したのが「ARMUCODE1(アルムコードワン)」だ。アルムコードワンはAIが図面を読み取り、最適な工具を選び、NCプログラムを生成する。子会社に導入したところ、通常のCAM(コンピューターによる製造)では76分かかっていたが、アルムコードワンは約3分10秒で、時間コストが96%削減できた。平山京幸代表は「夜間に無人のNCプログラム作成ができるため、年間の機械稼働率が3割から8割にアップした」と話す。

 

2021年9月からベータ版をリリース、導入企業は全国に31社、商談中の企業は中国など海外を含め100社以上に上る。

 

スマートファクトリー市場は2025年には50兆円に拡大すると言われている。同社は販売店を介して、工場単位でライセンス制を採用する考えだ。「人手不足という多くの中小企業の課題を解決するDXの好例」と評価され、本賞を受賞。

 

 

「インキュベイトファンド賞」 株式会社八代目儀兵衛(京都府京都市)

 

コメの通販から飲食店、卸事業まで幅広く手掛ける。農業支援事業として全国のコメのコンテストも行う。2006年、代表の橋本隆志氏が家業のコメの販売店から起業した。

 

橋本代表は「コメは産地と銘柄が一つのブランドになっていることが多いが、それ以外のアプローチができるのではと考えた」と説明する。

 

有名、無名問わず全国の産地のコメを集め、精米しブレンドし、独自の炊飯メソッドも確立する。大手企業もこのユニークな取り組みに注目する。大手家電メーカーが炊飯器に八代目儀兵衛の炊飯メソッドを導入している。このほか、ANAのファーストクラスでもブレンド米が採用された実績がある。

 

日本人の米離れは深刻で、1人当たりのコメの消費量は40年間で半減しているという。

一方、栄養価の高い玄米が注目されている。同社はプレミアム玄米「金のいぶき」を生産。通常の玄米と比べ、胚芽が約3倍あり栄養価が高い。今年7月、JR京都駅に「金のいぶき」を使った玄米のいなりずしのテークアウト専門店を出店した。2022年に大阪エリアへの出店をはじめ、全国に拡大する計画だ。

 

「日本の食に根付くコメはD2Cの親和性が非常に高く、事業拡大のポテンシャルが高い」と本賞へ選出。

 

 

「サムライインキュベート賞」 アットドウス株式会社(神奈川県横浜市)

 

モバイル型投薬・点滴デバイス開発のアットドウスは2017年9月創業。中村秀剛代表は義父をがんで亡くした自身の経験から、がんの治療技術に取り組むために起業した。

 

抗がん剤は吐き気や脱毛など副作用があるが、同社は抗がん剤投与の方法を変えることで副作用を低減できるとしている。コア技術は「電気浸透流ポンプ」で、電気の流れを水の流れに変える技術装置だ。セラミックを加工して電気浸透流を作り出す。既存の装置と比べ、100分の1の大きさを実現、軽量かつ低価格だ。

 

ピッチでは城西大学と共同で進める実験結果も紹介。ラットに抗がん剤をごく微量に投与した結果、腫瘍の拡大を抑えた。来年には2億円の資金調達を予定する。

 

ピッチでは審査員から「大企業との連携が必要になると思うが、どんな体制で臨むか」という質問が出た。中村代表は「まず事例を出し、論文を発表する。どのような領域で使えるかを明確にして製薬会社と連携したい。米国やインドなどの海外市場を目指したい」と答えた。

 

 

株式会社血栓トランスレーショナルリサーチラボ(熊本県熊本市)

 

2019年10月設立。国内製薬会社や米国の研究所で約30年間血栓形成のメカニズムを研究してきた神窪勇一社長が立ち上げた。

 

血栓症は予防することが重要だが、予測することは現在の技術では難しい。同社は高感度の血液凝固検査「SMAT検査」を開発。現在は研究用の試薬を販売している。神窪社長は「従来の検査よりも高感度で微量の血栓を調べることができる。未病の段階で血栓症を予測できることが大きな利点だ」と説明する。

 

例えば人間ドックなどで脳梗塞や心筋梗塞のリスク検査として活用を想定する。現在は前段階で複数の専門家とプレ研究会を発足させ、SMAT検査の有用性の証明を進めている。

 

 

株式会社ソラハル(京都府京都市)

 

2020年に創業し、カウンセリングのマッチングプラットフォームを開発、販売する。

 

北村健代表は「日本には社会的な課題を解決する臨床心理士や精神保健福祉士など専門家が約25万人いる。これは日本中の美容院の数よりも多い」と説明。それにもかかわらず社会が専門家の力を十分に活用できていないことが問題だとする。

 

サービスの一つが、法人向けの「ソラハルメンターギフト」だ。チケットタイプのサービスで、チケットを贈られた社員や家族が、カウンセリング、コーチング、キャリアコンサルティングの3つのプログラムの中から選んで受けることができる。

 

今後は利用者情報のデータを蓄積し、AIによる心理支援の質の向上を目指す。

 

 

株式会社調和技研 (北海道札幌市)

 

2009年に設立した北海道大学発のベンチャーで、AI導入コンサルや、AIエンジン・ライブラリの開発、提供、人材育成事業も行う。

 

大学の研究室発という高い技術力を生かした『匠のAI』で、社会課題の解決を目指す。「ここ数年市場のニーズが増えてきており、事業領域が非常に広い」(中村代表)。創業からこれまでに蓄積された強みは①画像・言語・数値と幅広い技術領域への対応②製造、流通、運輸、農業などの事業分野に対応③100を超えるケーススタディーの3つ。

 

現在、フロービジネスからストックビジネス(ライセンス事業)への拡大を進める。「受託、ライセンスによる相乗効果を生み出し、会社を成長させたい」(中村社長)。先行して感情を分析するAI、話し方の評価エンジンなどのライセンス事業化を行う。22年3月までに2億~3億円の増資を検討する。

 

 

株式会社ブルー・スターR&D(神奈川県相模原市)

 

 

金属やプラスチックなどを加工する時にできる不要な部分を「バリ」と呼ぶが、ブルー・スターR&Dは超音波を使ったバリ取り洗浄装置メーカーだ。柴野佳英会長は「超音波によるバリ取りは、世界でも当社だけ」と話す。

 

既存のバリ取り手段はさまざまだが、柴野会長は「どれも現代の精密加工には対応できておらず、コストも高い。バリ取りの多くは人の手で行われている」と指摘する。同社の超音波バリ取り洗浄の特徴は、材質を選ばず、有害物が発生せず環境にも配慮している点。精密洗浄も行うことができる。

 

自動車メーカーをはじめ化学メーカーなど国内外の大手企業への納入実績がある。次のステップとして、中国に実験センターを設立し顧客を開拓する。

 

 

株式会社東京ダイヤモンド工具製作所(東京都)

 

1932年の創業で、ダイヤモンドを材料にCBN工具全般の製造、販売を手掛ける。これまでに蓄積された技術を外に切り出し、CMG砥石マーケットで新しい事業を展開する。

 

CMG砥石のマーケットは数千億円以上。濱田洋右社長は「CMGは原子配列が見えるレベルの優れた加工特性がある」と説明。この技術を用いてメモリーの多層化に生かす。

 

半導体の製造工程では、シリコンウェハーの表面を研磨するために「スラリー」と呼ばれる研磨剤を使う。濱田氏は「半導体メーカーにとってコストがかかり、環境の負荷も大きい。一方、CMGは研磨液をはじめ化学薬品が必要ないため、環境負荷を低減できる」と説明する。計画では、装置と消耗品であるCMGを同時に提供し、高収益のビジネスモデルを構築する考えだ。半導体装置を開発する企業とタッグを組み、グローバル事業展開のシナリオを描く。

 

 

アンヴァール株式会社(静岡県浜松市)

 

「日本を資源大国に」と、海水からマグネシウムを造ることに挑戦する。櫻井重利社長は「マグネシウムはほぼ無尽蔵の資源。海中のマグネシムは1800兆㌧」と説明する。

 

マグネシウムの生産は中国が世界の85%を占める。同社では海から純国産マグネシウムを生成するための研究を進める。桜井氏は「構想の実現には、大企業や研究機関を含むコンソーシアム形成が必要」と話す。実現すればCO2排出量も削減できる。

 

ピッチでは櫻井社長は「マグネシウムを燃やした時の熱を使い水素も生成したい。CO2を減らしながら水素を作ることも可能だ。本当にできるのかという声もあるが、絶対に実現させたい」と語った。

 

 

今後、参加企業9社はFASTARのプログラム期間中に得られた成果をもとに、さらなる事業の拡大を目指していくとしている。

 

「FASTAR」特設サイト

https://fastar.smrj.go.jp