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株式会社ウエノ ‐ 勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし

◆取材:綿抜幹夫 /撮影:寺尾公郊

オビ 特集

02_Ueno01株式会社ウエノ/代表取締役社長 上野隆一氏

ユニークな人材育成プロジェクト続々

アベノミクスでいうトリクルダウン(大企業が潤えばやがて中小零細企業もその滴りで潤うという経済効果)は、一向に起こりそうにない。それどころか多くの製造業は、国際化の荒波に翻弄されるばかりで、経営の方向性すら見い出せないでいる。

しかし一方では、それら周囲の動向に関わりなく、がっちり業績を伸ばしている兵(つわもの)企業もないではない。この違いはどこからきているのか。そこでその兵の一、「アジア広しといえど、この種の製品を国を跨いで売っているのはウチだけだ」という、独自路線を貫いてきた部品メーカー、「ウエノ」(山形県鶴岡市)の上野隆一社長を訪ね、中身の濃い話をたっぷり聞いてきた。とりわけ印象に残ったのは、〝勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし〟─。この言葉だ。

 

 人はよく、コスト、コストと言うけれど……

何はともあれこのウエノという会社の輪郭を、手短かにでも最初に述べておかねばなるまい。

 

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パソコンから家電製品、自動車の制御装置まで、身の回りのありとあらゆる電子機器に使われているノイズフィルターコイルの、紛れもない国内トップメーカーである。つくっている数はなんと1カ月当たり800万個(!)。エアコン用に限っていえば、国内に設置されている台数の約9割を、同社製のコイルが占めているのだ。

1個40~50円が単価だから、売上自体は取り立てて驚くほどではない(年商30数億円)ものの、それでも従業員(国内外8拠点に合わせて110数人)1人当たりにすると、約3000万円にも上る。

 

ちなみに市場の動向を見ると、他社製のコイル(ほとんどが中国製)は、1個10数円から40円くらいで取引されている。ということは、ざっくり言ってウエノのコイルは、値段が他と比べて2倍もするということだ。それでいて他を寄せ付けない圧倒的なシェアを占めているのである。コスト削減が何より優先されるこの時代に、何故そんな現象が起こりうるのか。まずはこの辺りから、話を進めたい。

 

「手前味噌で恐縮ですが、ひと言でいえば総合的な競争力の違いですよ。すでに業界では広く知れ渡っていますが、競合するどの製品より、ウチの製品のほうが、結果としてコストパフォーマンスが格段に優れているんです」(上野氏、以下同)

 

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どの分野、どの業界でもそうだが、製品を供給する側が競争力を論じるときによく使う言葉は、品質、価格、そして納期という概ね3つの要素である。おそらくこれに異論を挟む余地はあるまい。しかし問題は、この3つの要素がそれぞれ別のものであるかの如く、別々に議論しがちなことだ。一方で受け手側が言うコストパフォーマンスとは、それら3つの要素をすべて関連付けて議論し、トータルしてどれがもっとも効率的か、という視点から導き出されるものである。

氏の言葉を借りるとこうだ。

 

「例えば同じ機器に取り付けるコイルだとしてですね。ウチの製品なら1個で済むのに対し、中国製だと2個必要になることが少なくありません。要するにできる仕事量が半分だということですよ。しかし値段はというと、ウチのが45円で向こうのは30円です。また、ウチのなら最低でも3年は大丈夫なのに、同じレベルの向こうのコイルは、1年でダメになるなんてこともままあります。ユーザーにとって、どちらがコストパフォーマンスに優れているでしょうか。

人はよく、コスト、コストと言いますが、コストっていうのは、価格だけじゃないんですね。トータルなんですよ。他にも限りなくゼロに近い不良品率や、スピーディーな対応力など、彼らには絶対に真似のできないスキルとノウハウが、ウチにはうんとあります。それらすべてを駆使して、顧客のコスト削減に繋げているわけです。口幅ったいことを言うようですが、それらをトータルした飽くなき取り組みが強い競争力となり、大きなアドバンテージになっているんだと、私は思いますよ」

むべなるかな。

 

 

負けたら負けた理由を精査して、
クリアしないと次もまた勝てない

とまれ上野氏は、山形県ではよく知られた極めて有力な産業人であり、篤志家であり、自治体の委員会や大学の運営にも長く携わってきたという意味では、もはや歴とした公人と言っていい。そんな立場や背景もあってのことだろう。話を聞いている間に何度も感じたが、地元産業界の振興や、青少年の教育の在り方などに思いを致し、心を砕いている日々が、どうやら少なくないようだ。そんな氏が、おもむろにこう言う。

 

「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし……。この言葉が、すべてを表していると思うんですよね」

地元の中小企業、とりわけ製造業の現状に対する、氏の憂いであり、ある種の苦言でもある。言うまでもないが、「勝ちに不思議の…」は、プロ野球楽天イーグルスの元監督、野村克也氏が記者会見で頻繁に引用したことから世に広まった、肥前平戸藩第9代藩主、松浦静山の名言である。意味するところはこうだ。

 

─勝負に負けるのは、負けるだけの要素、理由が必ずある。勝ったときは勝ったときで、負けに繋がる要素が、必ずしもなかったとは言えない。いずれにしても、負けの要素をそのままにしてはならない。

要するに、剣士、勝負師の心構えを説いた訓えである。

 

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「ビジネスに生きる人間もまったく同じなんですよ。負けた、受注できなかった、売り上げが落ちた。それにはそれなりの要素、理由が必ずあるわけで、そこから目を逸らしてはいけないんです。その理由をきちんと精査し、課題を見付けてクリアすれば、次は勝てる可能性が大きいんですから。

ところが悲しいことに、そのための勉強をする機会や余裕がなかったという背景もあって、中小零細の経営者というのは、往々にしてそれができないんですね。だから、経営が苦しいのは不景気のせいだ、中国企業の安売りのせいだ、円安で材料費が高騰したせいだとか、何の意味もない言い訳をするしかない。それじゃあいつまで経っても、課題は見付けられませんし、見付けられなければクリアできませんし、そうすると次もまた勝てません」

 

蛇足ながら、こう聞いて多少なりともギクッとする向きは、とくに中小零細企業の経営者だけとは限るまい。

「だから若い経営者や社員に、私はよく言うんです。課題を見付けて解決することは、とても楽しいことなんだよ。新しい世界をつくり出すチャンスなんだよ。それによって地域社会が元気になってごらんよ。どれだけ楽しいことか。そう考えれば、人生を賭ける価値が十分にあるじゃないか。要は志だよ、志ってね」

 

 

男子、三日会わざれば刮目して見よ

地域の活性化や産業振興の問題となると、どこの誰が論じても結局は10年、20年先を見据えた教育課題、つまり今の若い人を、どう教育するかという話に落ち着かざるを得ない。その落ち着いたところで、議論はたいがい終わることになる。何故か。〝三つ児の魂、百まで〟で、青少年といえばすでにある程度は人格が形成されている。自分では手に負えないし、かといって学校のせい、国のせいにしても埒が明かないからだ。しかしこの人の考え方は少し違う。

 

「三つ児の魂は確かにそうでしょうけど、一方では〝男子、三日会わざれば刮目して見よ〟とも言うじゃないですか」

というのだ。しかも(三日はさすがに無理だが、4年間あれば何とかなるんじゃないか)と考え、実際の教育現場に立ち向かうから、要するにタダの〝論客〟ではない。

遅ればせながら言うと、氏は「社長インターンシップ」(小誌前号にて既報)なる産学連携の極めて実践的な人材育成プロジェクトで話題を集めた、あの東北公益文科大学(山形県酒田市)の理事兼後援会会長を務める、歴とした教育者でもある。

 

最後になったが、同大学がこれまた新たに、ユニークな人材育成プロジェクトを立ち上げているので、簡潔に紹介しておきたい。

テーマはズバリ、〝一流体験〟である。

 

ひと言でいうと、あの下町ボブスレーで一躍名を馳せた東京大田区の町工場や新橋演舞場、東京ディズニーリゾートほか、一流ホテルなど、首都圏の有名な施設やスポットを2泊3日で見学して回り、精緻でシャープで洗練された一流の技術、芸能、ホスピタリティー、行動規範、マナー等に直に触れさせようという、言わば〝セレブリティー実体験学習〟である。

これの主導的役割を果たしてきた1人が、誰あろうこの上野氏で、氏は町田睿学長とともに臨んだ記者会見の席で、次のように語っている。

 

「社会からある意味で隔離された学生たちが、閉鎖的な精神状態から抜け出し、実社会の空気に触れるとともに、〝一流〟を体験することで、強い人間力と自信を身に付けさせたい」

庄内の漢たちが、いよいよ〝勝ちに出た〟と見ていいだろう。

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上野隆一(うえの・りゅういち)氏…1948年山形県東田川郡生まれ。農林水産省・農業者大学校卒業後、先祖代々の家業(農業)を継ぐも約10年で撤退し、トロイダルコイルの巻線業に転身(1982年)。更にはコイル製造業へと転進し、1984年上野製作所設立とともに代表取締役社長に就任する。1996年株式会社ウエノに改組。山形県産業構造審議会委員。東北公益文科大学理事。同大学後援会会長。

■トロイダルコイル生産高日本一認証(2004年)、山形県経営革新賞(2007年)、日経ものづくり大賞特別賞(2008年)、ものづくり日本大賞東北経済産業局長賞(2009年)、文部科学大臣表彰科学技術賞(2010年)、山形県産業賞(2011年)ほか。

株式会社ウエノ

【本 社】〒999-7634 山形県鶴岡市三和字堰中100

TEL 0235-64-2254
http://www.uenokk.co.jp/

【事業所】三川事業所(山形県東田川郡)、藤島工場(山形県鶴岡市)、八戸工場(青森県八戸市)、大阪営業所(大阪市北区)、韓国ウエノ(韓国京畿道)、中国東莞工場(中国広東省)、中国大連工場(中国遼寧省)