オビ 企業物語1 (2)

 川田建築設計事務所 日本古来の伝統建築にこそ理想の暮らしの基本がある!

◆取材:綿抜幹夫

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08C_Kawada_kenchiku01川田建築設計事務所/所長・一級建築士  川田季彦氏

現在の「工業化偏重の住宅」には問題が山積。

今年上半期(1~6月)に着工された新築住宅(マンション含む)の戸数は昨年上半期より8.6%増の45万1063戸。これはリーマン・ショック前の2008年上半期(54万3621戸)以来の高い水準らしい。だが、活況である現在の住宅建築に異を唱え、伝統建築を啓蒙する団体がある。

その名は『ムクの木会』。庄内の地で広まる循環型の住宅とは? 一級建築士で事務局長の川田季彦氏が熱く語る!

 

伝統的工法に目覚める!

08C_Kawada_kenchiku02右上…伝統木構造1/2サイズ模型:若手大工が木組みなどの伝統技能を学ぶために造ったもので、家づくり講座やイベントで使用される。他三枚…地元産の天然乾燥木材で造られた住宅。「家づくりは、子孫や未来に何を伝えるかという『想い』が大切なんです」(川田氏)

山形県酒田市に事務所を構える一級建築士・川田季彦氏。父親も設計の仕事に従事し、かれこれ50年の歴史を誇っている。

地元で知られた建築士である川田氏は、それまで大きな公共施設や商業施設などの設計を行ってきた。だが、ある出会いをきっかけに住宅建築にシフトしていったという。

 

「伝統的な建築構法を伝える剱持猛雄棟梁(鶴岡市)との出会いで私の考えは一変しました。棟梁の造った住宅には、現在の住宅にはない異次元のような心地良さがありました。大きなショックを受けましたが、その時、『健康は住まいで決まる』ということに気付かされました」

ここから工業化された住宅との決別、伝統を基本とした住宅の普及・啓蒙活動が始まった。

 

「先日も展示会を行ったばかりですよ」

酒田市にある『山王くらぶ』で開かれた『酒田伝統工芸展と伝統木構造住宅展』がそれだ。

ちなみに『山王くらぶ』とは、港都酒田を代表する料亭で、国の登録有形文化財に指定されている名建築。明治28年に建てられ、110余年の時を経た現在は新たな観光拠点として生まれ変わっている。

その『山王くらぶ』の記念イベントとして開かれた『酒田伝統工芸展と伝統木構造住宅展』では、住宅模型や伝統木工品の展示が行われた。

そこで展示した模型は、伝統的な構法によるもので、いわゆる金物を使わない工法だ。若手大工職人が高度な技術を修得するために造ったものである。

 

「10年くらい前から、この工法を広めようと講座やイベントを開催しています」

展示と同時に開催された座談会には代議士、市長、地元の政治家、行政職員、学識者、林業・製材業者、設計・建築業者、建築・木工職人、一般の方合わせて75名が参加。大きな注目を集めた。

 

 

在来工法住宅に潜む問題点とは…

では、なぜそこまで伝統的な工法にこだわるのか。それは現在主流を成す工業化された『在来工法』の問題点があまりにも重大だからだ。

 

「現在の住宅は、耐震のためと言って金物でガチガチに固め、石油系の接着剤を使う。それでいて、住宅の平均寿命はたったの30年ですよ。海外では100年超も当たり前だっていうのに」

工業化された在来工法の住宅が広く普及し始めたのは1960年代から。この頃から徐々に、大手ハウスメーカーの仕様が標準とされるようになっていった。

住宅の工業化が推進されるようになったのは、政府の持ち家政策による。みんな豊かになりましょう、家を持ちましょうという政策だ。そのためには、安く・早く・大量に供給できる合理化された住宅が推奨されたというわけだ。

 

「これは高度経済成長を支える政策でした。ところが現在のような成熟した世の中になっても、その考えはそのまま踏襲されています。40年以上も変わらない政策に、ひずみが出てくるのは当然ですよね。ここでお断りしておきますが、私たちは工業化住宅を否定しているのではありません。工業化住宅には、時代や状況に合った役割があるからです」

確かに住居が30年しかもたないようでは問題だ。だが、長寿命の住宅では建て替え需要が起こらない。これでは大量販売に向かない。それで伝統構法を否定していったわけだ。結局、国や業界の都合のいいように国民は誘導されているようなものだ。

 

「伝統的な工法で建てられたもの、古くは法隆寺ですがこれは1300年以上も存在し続けています。優に100年を超える古民家も数多く使われています。伝統建築は幾度も襲った地震や災害に耐えてきた世界に誇れる構法です。しかし国は、伝統木構法で建てさせないのですから、大きな損失です」

もちろん建物の寿命だけが問題なのではない。

 

「今の住宅は集成材、合板、新建材等でできています。国はこれが耐震性に優れていると推奨していますが、これらには健康被害や環境破壊の問題があるのです。実際シックハウスは社会問題となりました。そこで新築住宅には化学物質を排出するために24時間換気を義務づけたわけです。もっとも、これは計画換気と称してごまかしていますが(苦笑)。そういう住宅を『優良住宅』といって推奨する。補助金が付いたりする。24時間換気扇を回さなければ病気になる住宅を、健康住宅などと言ったりする。これはやっぱりおかしいですよね」

国は真実を伝えない。既得権益をガッチリ押さえている人たちにとって都合の悪い話は伝わらないのが世の習いというものなのだろう。

 

 

優れた伝統工法!

昨今、顧客満足という言葉をよく耳にする。しかしそれは、販売する側に都合が良いように使われてはいないだろうか。健康的で永く住める住宅こそ本当の顧客満足ではないのか。その思いが川田氏を伝統工法に駆り立てる。

 

「啓蒙や普及のために『ムクの木会』を立ち上げ、精力的に活動を行っています。建築関係者はもちろんですが、大学や健康管理士の先生も参加してくれています。我々は建築を通じて、多くの人の健康を守ることを目的としています」

では、具体的にどんな思想がその中核をなしているのだろうか。

 

「〝循環〟がキーワードです。健康に良い住宅を追求すると、必ず循環型の建築にたどりつくのです。自然の秩序に則った生活をするために、気候風土に合った住宅が重要になります。そのために私たちは地元で採れる木材、天然乾燥材を使っています。地産地消、地材地建ということですね。これは地域の文化や産業にも貢献することになります。そしていずれその家が役割を終える時には土に還すという発想。これこそが自然の法則に従った住宅と言えるでしょう。リサイクルというとエコに聞こえますが、その過程で大量のCO2を発生します。現在の住宅性能評価に『土に還す』という評価項目がないのが不思議です」

ここで素朴な疑問がある。工業化された住宅が隆盛を極めた要因に価格があるわけだが、伝統的な工法で造る住宅はどうなのか。やはりあまりに価格差があっては、いいものと言っても手が出しにくい。

 

「実はトータルのコストは昔と違ってさほど変わらなくなっています。大手メーカーの住宅は坪単価おおよそ70万以上。これには広告宣伝費や営業費がかなりの割合で乗っかっているのです。だから原価は相当安く抑えられています。我々の推奨する方法で自然の建材を使っても、坪単価はそれらよりも安く納まるんです。しかも天然断熱材を使った高断熱だから、光熱費も安い。健康に良ければ医療費も少なくて済む。永く使える家は、本当に経済的なんです」

膨大なTVコマーシャルや全国に展開するモデルハウス。そして執拗に攻勢をかけてくる営業マン。それらの経費は当然消費者が負担するわけだ。知らず知らずのうちに、高い買い物をさせられているのが国民ということだ。

 

「我々はマスで広告は打てませんし、モデルハウスもない。営業所を作って積極的な営業もしていません。しかし、今の住宅に疑問を持つ人が出てきている。24時間換気なんておかしいと気付き始めている。本質を追求するお客様からご指名いただいています。ニッチはニッチなのでしょうが、需要は増大していますよ。古い建物を訪れると、造り手の思想や想いが伝わってきます。それが愛着となり、建物を大切に使ってくれます。ムクの木会では、できるだけ手加工にこだわっています。手で刻むことで、心を込めて家を造れるからです。家づくりは子孫や未来に何を伝えるかという『想い』が大切なんです」

これまでに建てた家が、評判となって「うちもこんな家に住みたい」というお客様が来てくださるという。実績こそが最大の販売促進になっているのだ。

自然豊かな庄内の地で、その自然を最大限に活かした暮らしを楽しむ。本当の意味での人間らしい生活を営むためにも、川田氏たちの取り組みが広く伝わっていくことを祈らずにはいられない。

 

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●プロフィール/かわだ・としひこ氏…昭和31年5月、山形県酒田市生まれ。昭和54年、武蔵工業大学卒業。東京で設計事務所に勤務後、酒田市にある父の経営する設計事務所に所属(今年で設立50周年)。現在、川田建築設計事務所所長、一級建築士、山形県消防学校及び日建学院酒田校講師。10年前に庄内の建築技術者などにより「ムクの木会」を結成し、循環型建築である伝統木構造住宅などの普及に努めている。

 

川田建築設計事務所

〒998-0838 山形県酒田市山居町1-3-19

℡ 0234-23-4237

http://www.kenchiku.gr.jp

 

 

◆2013年11月号掲載記事より◆