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株式会社ビオファームまつき 松木一浩 会長

日本の農業に新しいスタイルを提案する6次産業化の伝道師!

◆取材:綿抜 幹夫 / 文:北條 一浩

 

ビオファームまつき (2)株式会社ビオファームまつき/代表取締役会長 松木一浩氏 (まつき・かずひろ)…昭和37年2月23日長崎県生まれ。ホテル学校卒業後、ホテル・レストランのサービスの世界に。フランス料理店の支配人や3つ星レストランの給仕長を歴任後、有機農業の道へ転身。平成19年に法人化。現在その代表取締役会長。

 

 

近頃話題のTPPで、クローズアップされる農業。確かに日本農業の基盤である米作にとっては由々しき問題なのかもしれないが、その他の野菜については、すでに関税率は0から3%だ。それでも国産比率が80%を超えているのは、農作物に求められるものが価格ばかりではないということだろう。そんな日本の農業に、画期的なビジネスモデルで新風を吹き込む人がいる。静岡県富士宮市に松木一浩氏を訪ねた。

 

都会暮らしに疲れ果て、選んだのは農業の道

ビオファームまつき (3)

日本きっての名山・霊峰富士を臨む静岡県富士宮市。最近ではB級グルメの祭典・B-1グランプリ連覇の名物「富士宮焼きそば」で有名だ。地域興しの成功例として語られることも多い。

その富士宮市で、農業の新たなビジネスモデルを考案し、実践しているのが株式会社ビオファームまつきだ。会長である松木一浩氏自身にとって、富士宮は特別に思い入れがある土地ではなかったようだ。

「37歳の時でした。いろんなことがあって、東京での暮らしがいやになりました。田舎でのんびり暮らしたいと思い立ったんです」

松木氏は長崎県生まれ。ホテル学校を卒業後、ホテルやレストランのサービスの世界へ進んだ。フランス料理のサービスを担当し、1990年には渡仏し修業。帰国後はあの「フレンチの神様」ロブションの店で給仕長を務めた。

 

サービスの仕事は細やかさが求められ、見た目以上の激務でもある。名店の重圧も当然あっただろう。

「ずっと現場の第一線で頑張ってきたのですが、ふと自分の人生を振り出しに戻してやり直したいと考えるようになったんです。お金なんかは関係なく、自分の食べるものは自分で作ってそれをエネルギーに変える。そんな、人間らしいゆっくりとした暮らしに憧れました」

 

1999年、会社を辞めて有機農業の勉強を開始。

「栃木の農家に丁稚奉公みたいに弟子入りしました。そこで有機農業のいろはを学んだんです」

そうして翌2000年に就農した。

「どこかで新規就農しなければならなかったのですが、芝川町(現・富士宮市)に出会いましてね。妻が静岡出身で実家も近いし、富士山は見えるし。これからの残りの人生を生きていくのにいい場所だと感じました。東京に近いのもよかったかな」

当初は、ビジネスとして農業をやっていこうという気はさらさらなかった。

「自給自足の暮らしができればそれでよかったんです。家族も妻だけだったので、野菜でも作ってのんびりと思っていました。しかし、やっているうちに農業の面白さに目覚めましてね。作物そのものというより、出来上がったものにどう付加価値を付けて世に出していくかの面白さに気付いたんです」

 

 

図らずもたどり着いた6次産業化の道

ビオファームまつき (1)

実際、自身で農業を始めてみると、農業全体に横たわる問題点が見えてきた。

「周りを見れば、どんどん農業を辞めていく人がいます。なぜ辞めるかと言えば、儲からないからです。しかし、やり方次第では儲けられるのではないか。ただ作ってJAを通して出荷していたんじゃダメなんです。独自の付加価値を付けて自らで流通させていく。そうすればぼろ儲けは出来ないまでも、しっかりと利益は出るはずなんです。昔ながらの、単品だけの古いスタイルではそれが出来ないから、結局離農してしまう。事実、耕作放棄地がどんどん増えています。農業人口は減り、高齢化が進んでいる。ちゃんとしたビジネスモデルを作る必要があるんです。自分がそのビジネスモデルを作りたい、ちゃんと儲かる仕組みをつくりたいという思いが湧き上がってきたのは就農して3、4年目の頃でした」

 

育てた野菜に付加価値を付ける。例えば加工して販売したり、料理として提供することだ。

そこで松木氏は、採れたて野菜を使った総菜を販売する「ビオデリ」や、料理を提供する「レストランビオス」をオープン。生産から加工、販売を一貫して行うサイクルを構築していった。

 

最近、農林水産業の世界でよく言われるようになった言葉がある。「6次産業化」だ。

1次産業、2次産業、3次産業を連携させることで、1次産業とその周辺にある関連産業の業界規模を拡大させていこうとするものだが、1次、2次、3次産業のどこかひとつが欠けても成り立たないという意味で、「1×2×3=6」の6次産業というわけだ。

具体的に6次産業化とは、1次産業に携わる農林漁業者が、自ら加工や販売に乗り出していき、自分たちが作った農産物の価値を高めることで、所得を高めていくというのが最も基礎的な取り組みと言われている。

「私たちの取り組みは6次産業化というものにピッタリとはまっています。野菜を作り、付加価値を付け、販売もする。常にマーケットを注視し、何を作り、どんな付加価値を付けるのか。どういうターゲットに対して、どんな訴求をしていくのかを考えています」

しかし、ただニーズにだけ忠実というわけではない。

「どんなものが求められているのかという視点が作り手には必要ですが、一方で自分たちが大切にしているものをどうやって市場に訴えていくかも大事なんです。作っているものの良さ、貴重さ、付加価値を消費者にどうやって訴求するか、作り手自らが考えなければなりません」

 

 

便利さの中で失われたものを求めて

畑

松木氏はこの仕事を通じて、消費者に気付いてほしいことがあるという。

「日本は流通や情報の発達で、サプライチェーンマネジメント(物をよどみなく供給する効率経営手法)が進化しています。スーパーに行くと、いつでも同じような野菜がリーズナブルな価格で旬に関係なく並んでいるでしょう? それが原因で、地域内での生産から消費のサイクルが崩れ、地域の活気が失われている感じがしています。私たちが最終的にやりたいのは、6次産業化による地域内でのサプライチェーンマネジメント。生産から消費までのサイクルが地域内で無駄なくつながっている状態です。旬を感じられることの尊さを、消費者に気付いてもらいたいからです」

 

一方、農業の将来についても一家言持っている。

「日本の農業が生き残っていく道は2つ。コスト削減か、付加価値を付けるか、です。コスト削減には、農地を集約して法人化した経営をすることです。効率化、大規模化が不可欠です。しかし、中山間地では、農地の集約は困難です。そこで、付加価値をどう付けるかということになります。どちらの方向でいくにしても問題なのは農地法です。農地は持っていても非農家というケースが多く、その農地を集約しにくいのが現状です。いかに農地を流動化させて、農業をやりたい人、拡大させたい人に集積させていくかの仕組み作りを真剣に考えないといけないと思います」

 

そして、自らが実践している「6次産業化」の方向性も定まってきている。

私の考える6次産業化は、農地あたりの『収益の最大化』を図ることです。例えば、同じ農地で何かを作るにしても、米なら年に1回しか収穫できないが、小松菜なら年6回収穫できる。これでいくら売上が変わるのか。それを有機栽培で行ったらどうなのか。自分で収穫せずに、『小松菜狩り』にして入場料を取ったらどうなるのか。収穫した小松菜をピューレにして缶詰で売り出したらどうか。レストランに卸してそれをプレートにしたらお客様はいくらで食べてくださるのか。可能性はたくさんあるのです。その可能性を追求して、利益の最大化を図っていくんです」

 

農業の6次産業化の先頭を行く松木氏。そのノウハウを学びに訪れる業界関係者も多く、またそれを伝えていく講演活動にも積極的に取り組んでいる。だが、トップランナーとしての苦労も多い。

「私たちの行っている6次産業化には前例がありません。年間60品目の野菜を作りながら、レストランをやり、加工をやっているところはどこにもないでしょう。先頭を走っている以上は、自ら試行錯誤しながらやっていくしか道がないんです。おかげさまで規模は拡大していますが、利益という面ではまだまだです。何か1本に絞り込んでいけば、もっと利益の出る体質になるのでしょうが、常に新しいことに取り組んでいるので難しい面もある。やりながら結果を出さなければならない辛さもあります。まだ道半ばですが、将来は明るいですよ(笑い)」

雄大な富士山をバックに地歩を固め、日本農業に活気を与える「6次産業化の伝道師」。その使命が果たされる時、この国の農業はまだ見ぬステージに上っていることだろう。

 

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●株式会社ビオファームまつき

〒419-0303 静岡県富士宮市大鹿窪939-1

TEL 0544-66-0353

http://www.bio-farm.jp/

 

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