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モノづくりを楽しめる異色の創造空間浅草橋工房OPEN!

◆取材:姜英之

 

浅草橋工房 株式会社ベラ (4)浅草橋工房・地下1階の工作室。個人ではなかなか所有できない工具や機械の数々が取り揃えられている。

去る9月1日、モノづくりの町、台東区浅草橋に画期的な工房がオープンした。圧巻のラインナップを誇る機械や工具を自由に使ってモノづくりを楽しめるというレンタル工房、『浅草橋工房』である。工作好きの子どもだけでなく、工作好きな子どもだった大人たちにとっても、胸躍らずにはいられない〝遊び場〟だ。さっそく同工房を訪ねてみると、存在感たっぷりに鎮座する3Dプリンターとレーザーカッターが出迎えてくれた。

 

趣味が高じて閃いた『レンタル工房』というアイデア

浅草橋工房 株式会社ベラ (2)

株式会社ベラ/代表取締役 坂本 誠(さかもと・まこと)氏…1976年、東京都保谷市(現、西東京市)生まれ。2014年5月、『浅草橋工房』の運営会社である株式会社ベラを設立。代表取締役。2014年9月、レンタル工房『浅草橋工房』オープン。

坂本誠氏は、1976年、東京都保谷市(現・西東京市)生まれの38歳。大学卒業後、サラリーマンとしてIT業界を歩んできたというから、モノづくりの工房を開く人物像としては意外だ。

「父が鉄工所を営んでいた影響で、子どもの頃から工作が好きでした。それは今でも変わらず、趣味が高じて3Dプリンターやレーザーカッターを個人で買ったんです。ところが、買ってはみたものの場所は取るし、大きな音も出るしで、これは個人レベルで所有するようなものではないなと。そして、それらを置く場所を探している時に浮かんだのが『レンタル工房』のアイデアでした。工具や機械を貸し出すサービスは、企業や団体向けにはあったのですが、個人向けのものはあまりなかったんです」

趣味として楽しむ個人向けにもそうしたサービスがあれば、それぞれが大金を投じて自分で機械を購入したり、スペースを確保したりしなくて済む。さらに同氏は、「人が好きでやっていること、趣味って、バカにできないと思っています」と語る。費用が下がれば裾野が広がり、仲間同士の交流も盛んになる。それはやがて大きな流れを形づくり、文化や産業として海を成すこともあり得るからだ。

 

 

モノづくりに興味のない層にこそ食い込みたい

同氏が目指すのは、マニアの溜まり場ではなく、むしろそうでない人たちにモノづくりの楽しさを広める場所だ。

浅草橋工房 株式会社ベラ (3)「日本はモノづくりの国と言われますが、車や家などが壊れたときに自分で直すDIYが盛んなのはアメリカというイメージですよね。日本人は、何でも壊れたらすぐ買い換える人が多いように思います。確かに日本には、世界に誇れる優れた職人が大勢います。しかし、一般市民が生活に根ざして日常的にモノづくりをしているかというと、そうではない。浅草橋工房で、モノづくりに興味がない人にこそ、モノづくりの楽しさをアピールしていきたい」

レンタル工房は、同氏自身の趣味から生まれたアイデア。利益を上げることだけが目的ではない、地に足の着いた事業だ。一本芯の通ったサービスだから、のめりこんできた歳月や注いできた愛情に比例してその品質も上がる。自分が好きでたまらないものをみんなに伝えたい。その思いの強さが、きっと人を巻き込んでいく。

 

 

ビジネスとしての展望やいかに

「学生の頃から、起業してみたいという気持ちは漠然と持っていました」という同氏。浅草橋工房を始めるにあたり運営会社として株式会社ベラを設立、社長として一国一城の主となった。サラリーマンから経営者へ、起業も経営も初めての経験だ。

起業に際しては、金融機関からの融資を受けるのに苦労したという。今までにない未知のビジネスだけに、貸すのは不安と断られることもあったようだ。また、巨大な機械をたくさん置き、作業スペースとしてもある程度の広さを確保する必要があるため、物件探しも容易ではなかった。作業によって発生する音やニオイにも留意しなければならない。

 

新しいビジネスで、物理的に広い場所が必要となれば、その分ビジネスとしてのリスクは高くなる。収益モデルを訊ねると、メインの事業である工房レンタルのほかに、工房からの発信としてイベントを開催していくという。さらに、いずれは他地域にも工房を開いての多店舗展開や、工房を運営していく中で蓄積したノウハウを活かした製品開発への意欲も聞かせてくれた。

昨今の製造業では、中小企業を中心に、自社完結ではなくコラボレーションやタイアップで製品を作っていく動きが盛んだ。趣味の場として様々なジャンルの工作を行える浅草橋工房なら、幅広いノウハウを蓄えられるだろうし、協力相手との出会いの場にもなるだろう。新しいモノづくりが始まる起点としての役割も担えそうだ。

 

 

地元地域に根ざした工房を目指して

浅草橋工房 株式会社ベラ (5)革製キーホルダーの作成風景

9月1日の正式オープンにさきがけ、8月中旬から仮オープンしていたが、その期間の手応えとして予想外だったのは、通りかかってふらりと立ち寄る近隣の住民が多かったことだという。

「モノづくりを仕事にしている方や、現代美術家などのクリエイター、また当工房のように起業したいという方など、さまざまな方が来てくれました。今まで接点がなかった方々との出会いは刺激にもなりますし、楽しみのひとつでもあります。元来、台東区はレザークラフトなどモノづくりが盛んな地域。レンタル工房は地域密着型サービスですから、いずれは地元の方々と一緒に面白いことをやっていけたらと思っています」

工房の外には、看板娘である3Dプリンターでプリントアウトした手のひらサイズのサボテンを並べ、〝ご自由にお持ち帰りください〟と添えてある。取材中にも、通行人が興味深そうにサボテンを触っていく光景を目にすることができた。「日々、減っていきます」というそのサボテンを見ていると、浅草橋工房が地元に溶け込む日は遠くないように感じる。

また、仮オープン期間中に、講師として理科の教員を招き、子どもたちに向けて『炎色反応を利用してキャンドルをつくろう』というイベントも開催。カラフルな色の炎が灯るキャンドルに子どもたちは大喜びだったという。収益の要のひとつとなるイベント事業も、滑り出しは順調だ。

 

 

こどもたちにモノづくりの楽しさを

浅草橋工房 株式会社ベラ (6)浅草橋工房 株式会社ベラ (7)炎色反応を利用したキャンドルづくりの様子。イベントでは、カラフルに燃える炎を前に大人も子供も夢中に……。

レンタル工房サービスとしては全年齢向けだが、とりわけ子どもたちに利用して欲しいという。

「私にも小学2年生の息子がいるのですが、自分がその年齢だった頃を思い返してみると、工作に夢中で、ハンダごてぐらいは軽く使いこなしていました。しかし、いまハンダ付けを息子にさせられるかと考えてみると、正直それは難しい」

道具を使う能力が伸びないのは、工作に親しみ道具に触れる機会そのものが減っているからだ。教育の場でも道具を使って工作の技術を学ぶ時間が減り、デザインなどに取って代わっているという。とはいえ、タブレットに入れた3Dプリンター用のデータを持って工房にやってくる子どももいるというから、世に連れて様子を変えながらも、モノを作るのが好きな少年少女はいつの時代にも存在しているようだ。

 

 

利用は月額の会員制、1日単位のスポット利用も可能

工房の利用は会員制で、利用料金は月額およそ1~2万円。全営業時間を利用できる「全日プラン」から、「平日日中プラン」「平日夜間プラン」「土日祝日プラン」「平日週1日プラン」など、さまざまなプランが用意されている。保護者が会員であることを条件に小学生の利用は無料で、中高生や大学生・院生・専門学校生にもそれぞれ学生割引が適用される。もちろん、1日単位でのスポット利用も可能だ。詳細は浅草橋工房HPを参照して欲しい。

当初、台東区にモノづくり工房ができたと聞いて脳裏に浮かんだのは、町工場を引退した老職人といったイメージだった。そんな先入観を裏切る38歳の元IT企業サラリーマンが、人材不足や後継者不足に悩むモノづくりの現場を変えるかも知れない。そう、変化をもたらすキーパーソンは、意外なところからひょっこり現れたりするものである。産業を救うんだ!とか、変に力んだところもなく、それが良かったりもする。

同社の「レンタル工房」というサービスは、実はものすごく重要なところに斬り込んでいるのではないかという予感がする。日本の将来を背負って立つ少年少女に夢を与える異色のモノづくり創造空間「浅草橋工房」の誕生。都会のオアシスとして地域住民を癒してくれる新たな地域密着型のベンチャー企業に万感の拍手を送りたい。   ■

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プロフィール

浅草橋工房

(運営会社:株式会社ベラ)

〒111-0053 東京都台東区浅草橋1-サンヨン-3 宏和浅草橋ビル1階

℡ 03-5820-8141

http://www.craft-studios.com

 

2014年10月号の記事より
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