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鳥海やわた観光株式会社 ‐ 鳥海山の恵みで地域が潤うために 第三セクターの挑戦

◆取材:綿抜幹夫

 

鳥海やわた観光株式会社 和田邦雄氏

鳥海やわた観光株式会社/代表取締役社長和田邦雄(わだ・くにお)氏…山形県酒田市内生まれ。専修大学卒業。酒田市役所41年勤務後、2012年に鳥海やわた観光株式会社の6代目代表取締役社長に就任。

地方自治体と民間企業が共同で出資して事業を経営する、いわゆる第三セクターと呼ばれる事業共同体では、全体の40%近くが赤字経営との調査結果もあるほど、その成功例は多いとは言えない。そんな中、山形と秋田の県境にほど近い鳥海山の麓では、〝6次産業連係〟をキーワードに地域振興、地域開発、地域雇用の促進を実践している優良企業がある。酒田市の鳥海やわた観光株式会社だ。就任して3年目になる6代目社長の和田邦雄氏にその戦略の真意を伺った。

キーワードは「鳥海山6次産業連係」

2005年酒田市に合併される以前は飽海郡八幡町という町だった地域に公の施設がいくつか存在する。その管理運営と地域振興のために1981年6月に設立された会社が、現在酒田市にある鳥海やわた観光株式会社だ。第三セクターゆえに株式の50・2%は酒田市が持っている。

「昭和30年代頃の八幡地区は、冬になるとそれこそ電柱が隠れるほど雪が積もる豪雪地帯だったのです。冬の間、山間部の人たちは八割方炭焼きに従事していたと聞いています。その炭焼きも高度成長とともに石油に燃料が変わり、需要も急激に落ちていった。そうした状況の中で地域の雇用を支えることは大きな問題でした。そこで公の施設を作りながら雇用を生み出すという流れになったわけです」

設立から30数年経ってみると、当初の目的である公共施設等の運営管理業務の受託のほか、観光レクリエーション施設並びに宿泊施設・スポーツ施設の運営管理、加えて鳥海高原ヨーグルトの製造販売や地場産品の販売へと事業が拡大し、雇用創出の受け皿にもなった。

鳥海やわた観光株式会社 (2)

のむヨーグルトやフルーツオンヨーグルト、豆乳&ヨーグルトなどバラエティに富んだ「鳥海高原ヨーグルト」シリーズ

「地域振興のために作られた会社なので、わが社だけ利益が上がればいいというわけではありません。地域全体が活性化しないとダメだと思っています。ですから私の名刺には『鳥海山6次産業連携』と印刷してあります」

 

〝6次産業〟という考え方は、東京大学名誉教授で農業経済学者の今村奈良臣氏が提唱した。第1次産業の農畜産物、水産物の生産だけでなく、第2次産業の食品加工、第3次産業の流通・販売にも農業者が主体的かつ総合的に関わり、加工賃や流通マージンなどの今まで第2次・第3次産業の事業者が得ていた付加価値を農業者自身が得ることによって農業を活性化させようというものである。1次×2次×3次で6次産業となる。酒田市でも今村氏の指導のもと農業の6次産業化を進めてきた。

「私たちが掲げる『鳥海山6次産業連携』は、農業・林業・水産業の1次産業すべての分野で6次産業化を目指していいます。鳥海山の恵みを受けている八幡地域の1次産品を使い加工し販売することで、6次産業化を地域全体の力で成し遂げようとしている。生産加工製造の過程で地域に需要や雇用を生み、お金を地域内で循環させようとしているのです」

 

そのいい例が鳥海ヨーグルトの製造から派生したレトルトタイプの鳥海高原ヨーグルトカレーの開発と発売だ。もともと八幡地域にある産直たわわ内の飲食コーナーで提供していたカレーだが、隠し味の特産ヨーグルトがこくとまろやかさを生むと好評でリピーターも多かった。さらに市が土地利用型作物導入支援事業、カレーライスプロジェクトを推進していることもあり、鳥海やわた観光にカレーの新製品開発の誘いが来た。具材となる高原野菜は地元の生産農家に、そして加工は升田缶詰にそれぞれ協力してもらった。

「地域内でお金が循環することによってお金が他所に流れない、地域内で作った商品を地域外で販売できれば、地域全体が潤うと考えています」

 

民間と同じ感覚で目標設定

鳥海やわた観光株式会社 (3)鳥海山を望む「鳥海高原家族旅行村」

酒田の中でも八幡地区といえば鳥海山の存在は大きい。

「私は酒田生まれの酒田育ち。鳥海山は、私が小さい頃から憧れていたように酒田の人間は皆シンボルだと思っています。その鳥海山の山麓に、わが社が管理運営する湯の台温泉鳥海山荘や鳥海高原家族旅行村、鳥海高原牧場などがあります。これらの公共施設は市民の税金で作った、いわば地域の財産です。そこを有効活用できないなら、税金が死んでしまいます。私は長年、市役所勤めをさせていただきましたが、市民から集めた税金で作った公共施設をもっと活用できるようにしたい、それこそが市民の皆様への恩返しだと思っていました」と、就任当時を振り返る和田氏。3年目を迎えて、経営状態はどうなのだろうか。

「全社で見れば売上的には順調ですが、いくつかある温泉施設では燃料費の高騰による影響を受けて、なかなか経営は厳しいです。それでもわが社は地域振興のための会社でもありますし、来ていただいてお客様を喜ばせる企業でもありますから、経営は厳しくてもお客様の数は増やそうと努力しています」

 

そのための方策が、7つある施設ごとに立てた目標だ。たとえば家族旅行村なら『夢が見られ感動が得られる施設の一番を目指す』、八森温泉ゆりんこなら『明るい笑顔と親しみやすい接客のできる一番の施設を目指す』など、一番になるための目標に向かって、創意工夫をしながら活性化していくというのだ。その結果、入場者数が右下がりだったゆりんこでは上昇に転じた。ほかの施設でも利用者数が伸びてきた。2001年に開始したヨーグルト事業も2010年の新工場完成やそれに伴う営業努力の甲斐があって順調だ。ほかにも東日本大震災の被災地を継続して支援する仕組みづくりのために、ひまわりの明路(迷路)を作った。

 

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鳥海やわた観光株式会社 (5)(上)『明るい笑顔と親しみやすい接客のできる一番の施設を目指す』と、一番になるための目標を掲げる八森温泉ゆりんこ。(下)ヨーグルト工房鳥海の工場脇につくられたひまわりの明路(迷路)は保育園の子供たちの格好の遊び場となっている。

「現状に満足することはありません。立ち止まったら、そこからマイナスに転じると思っています。常に前を向いて新しい事を考えていく姿勢は持っていないといけない。それは新製品でもあり、新しいアイディアの提案でもあります。こうした姿勢は全施設で持っていないと成り立たない。全社員みんな一緒になって考えようと思っております」

 

和田社長が考える最終目標を聞いた。

「いつかはわが社が八幡という鳥海山を仰ぐこの地域の活性化の核になって、『鳥海やわた観光があって良かった』と、思われるような企業にしたいですね。ただそのためには会社の足腰が強くならないといけない。トータルでは黒字ですが部分的にマイナスの部分はある。まずはそこをクリアしなければならない、まだまだ道半ばです」

そう気を引き締める顔には、第三セクターの代表としてではなく民間企業の社長としての覚悟が見えた。

 

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鳥海やわた観光 株式会社

〒999-8231山形県酒田市麓字緑沢29-8

TEL 0234-61-1235

http://www.choukai.jp/

〈管理運営施設〉八森温泉ゆりんこ/鳥海高原家族旅行村/湯の台温泉鳥海山荘/酒田市八森ゴルフ練習場/八森自然公園/八森荘/ヨーグルト工房鳥海/乳製品直売所産直たわわ内/鳥海高原牧場

 

2014年12月号の記事より

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