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有限会社システマックス ‐ どんな災害にも対応できる担架の常識を覆す一人用担架。発明家高野山文夫 物語

◆取材:加藤俊 /文:菰田将司

 

有限会社システマックス 高野山文夫

「あってよかった」と言われるものを作りたい 高野山文夫氏

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「一つ目の特徴は一人で楽に使えるということ。二つ目は、乗っている傷病者が安心して利用できるということ。揺れ・振動がないんです」

高野山さんの言葉は力強く、自信に漲っていた。 彼の生み出した「タフレンジャー」は、たった一人でも扱え、悪路でも使用できる「万能担架」だ。

 

現場優先・利用者目線の商品開発

担架の話をする前に、有限会社システマックスの人気商品から説明する。発明家高野山さんは企業に二十年勤務後、脱サラして独立した。起業してまず売りだしたのは、選挙カーに載せるルーフキャリアとスピーカーだった。

 

「こういう部品はネジ留めするタイプが多いので、着脱に手間がかかります。選挙の時にしか使用しないのに載せっぱなしだと不便だし、スピーカーとかは雨に打たれて劣化してしまう。搭載できる車種も限定される。この問題に目を付けて、吸盤で設置できる着脱が簡単なスピーカーのセットを作ったのが、私の最初の発明です。このセットは、素人でも取り付けが可能で、コンパクトに収納でき、軽自動車でも使用可能なものにしました。選挙の時期になると、毎回よく売れてくれます(笑)」

 

この使い勝手の良さが好評で、リピーターも増加。会社の経営は軌道に乗ることができた。商品コンセプトは、「新しいものを創作するのではなく、組み合わせのアイデア」と話す高野山さんの下に、次に舞い込んだのが、誰でも・どこでも使える担架を作れないか、という話だった。

 

一人にも扱え、悪路をものともしない担架

高野山さんが参加している「かつしか異業種交流会」の、ものづくりをテーマとする小さな分会の中で話し合っていたプロジェクトの一つに、その話はあった。五年前のことだ。

 

「元々は、分会仲間のミヤジマ工業さんというリヤカーメーカーが携わっていたプロジェクトでした。自分も防災活動の責任者を任されて、初めて担架を扱ったのですが、その重いことにびっくりしました。かなり扱いにくい。怪我人を乗せた担架を2人で運ぶにも、例えば足の動かし方なんかも順番が決まっている。これはある程度の意思の疎通というか、練習が必要なんです。ましてや、人の重さが負荷としてそこにかかりますから。つまり子供やお年寄り、女性など誰もが扱えるワケではない。

実際に、海沿いの漁師町などでは、男手が漁に出てしまうから、女性が防災活動を行っていることも少なくなく、担架を持ち運べない問題が指摘されています。でもメーカーは対応してこなかった。女性だけで担架を運ぶ事態は容易に想像できるハズなのに。まぁ、大手のメーカーはどうしたって収益を考えますからね。現場の要望に応えることにはさほど興味がないんです」

素人が使う・荒地で使う・緊急時にも使用できる。このような条件をクリアするものを、初めて製品化できたのが二年前。現在は、更に改良が進められ、商品名「タフレンジャー」として、三号機が販売されている。

 

「たとえば老人施設などでは、移動の手段が担架やストレッチャーしかないのに、運ぶための人員が少なすぎるという状態にあります。乗せたり運んだり下ろしたり、それを全て一人でやるのは大変ですよね。こうした点が、『タフレンジャー』は評価されています」

 

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こういったタフレンジャーの利点に目をつけた葛飾区は、二年前から購入を進めていて、今後も増台の予定だという。ただ販売価格は25万円。この価格では個人の購入は難しい。もとより行政や施設を意識した商品なのだろう。しかし、救急車のストレッチャーが30万円前後という点を考えるとタフレンジャーの価格設定は妥当なのだろうか。ネットで担架を探すと、1万円前後の価格で販売されている中国製の担架が見つかる。あまりにも価格差が開きすぎている。この点を指摘すると、「あれは、使い捨てなんです」(高野山さん)とのこと。

「実際に購入して調べてみましたが、帆布が弱く寝そべると伸びてしまったり、ネジが緩んだりしていた。救命という観点で、人命を安心して任せられるものでしょうか? ですからタフレンジャーは、生地から考え抜いています。テント屋に聞いて材質を選んだ。部品も一つ一つ選び、無いものはこちらで作っています。さらに、救急車に搭載されているストレッチャーとは用途が根本的に異なる。救命ストレッチャーは使用が平坦な場所に限定される。震災などの災害地での活用を想定したものではない。その点、タフレンジャーは防災を意識した商品。悪所に強いんです」

 

本当に必要とされているもの

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車で運搬しなければならないような遠距離なのに道路が使えない、という時でも、これなら病院まで傷病者を寝かせたまま運んで行くこともできる。がれきの中での傷病者の運搬がいかに難しいかは先の震災で多くの事例が報告されている。この担架は条件さえ整えば、一人で利用できる。疲れてもスタンドを立てれば、傷病者に負担をかけることなく休むこともできる。

ただ、こうしたタフレンジャーの利点を認知させる難しさに直面していることは事実らしい。

 

「大手商社はたくさんの商品を抱えているので、あまり熱心ではありません、積極的に販売してくれるところが今のところあまりない。出展した展示会では、今までのものと違う、いいな、という評価をもらってはいます。しかし、自治体など、防災を担う多く団体は、大手メーカーの出す最先端の安否確認システムなどに関心が向いている。誰でも扱えるアナログな製品には興味が薄いんです。タフレンジャーの価格は25万円程度ですが、競争力がないとは思っていません。ただ、先述の中国製とここまで価格が違うので、消費者に理解してもらいにくく、そこに苦悩していることは事実です。実際に、25万と1万ではあまりにも違いがありすぎる。個人が購入するのであれば、多くの人は1万を選ぶでしょう。 求められるのは、中国製担架とタフレンジャーとの強度などの違いをアピールすること。更には、救命ストレッチャーとタフレンジャーとの違いを、データ化して消費者に見せる必要があるのでは、と考えています」

 

……江戸時代に怪我人を戸板に載せて運んでいる頃から、担架の仕組みはほとんど変わっていない、と高野山さんは話す。ということは、いつの時代も必要とされているということだ。災害が起こった時に、本当に人々に必要とされ、あってよかった、と思われるものを作りたい、そう言って発明家高野山さんは微笑んだ。

 

 


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高野山文夫(たかのやま・ふみお)氏

有限会社システマックス

〒277-0005千葉県柏市柏558-7

℡04-7163-9631

http://members3.jcom.home.ne.jp/systemax/

 

2014年12月号の記事より
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