オビ 企業物語1 (2)

株式会社ウエノ ‐ 技術を上げて価格を下げた新開発コイルでシェア巻き取り!

◆取材:綿抜幹夫 /文:渡辺友樹

オビ ヒューマンドキュメント

株式会社ウエノ 上野隆一氏株式会社ウエノ/代表取締役社長 上野隆一氏

祝・「新機械振興賞」受賞!

山形県鶴岡市のノイズフィルターコイル製造・開発メーカー、株式会社ウエノが、一般財団法人機械振興協会の「機械振興協会会長賞」を受賞した。表彰式のために上京した上野隆一社長を取材した。

 

■速報!第12回「新機械振興賞」受賞

2012年9月号、そして2014年4月号において、表紙・巻頭特集としてその経営手腕や人材育成術をたっぷりとご紹介した株式会社ウエノ。同社はこのたび、独創性や経済性に優れた機械工業技術による製造や製品などを顕彰する第12回新機械振興賞の機械振興協会会長賞に選出された。「次世代コイル自動巻線システムの開発」が評価され、東北で唯一の受賞という快挙だ。

3月9日、表彰式のために上京した同氏に、まずはその後の同社の近況について尋ねた。

「前回の取材でもお話しした新製品が少しずつ認知され、拡販・普及に努めている段階です。技術としては2、3年前に開発し、世の中に認知され始めたのが去年、一昨年ぐらいですね」

 

■まさに「三方良し」、2個が1個で済むコイル

02_Ueno02同社外観。下は、同社製のコイルの一部。左からコモンモードチョーク/ウエノコイル、コモンモードチョークコイル、ノーマルモードチョークコイル

身の回りにある様々な電子機器に使われているノイズフィルターコイル。おさらいになるが、国内トップメーカーである同社のこの新製品とは、これまで2個必要だったコイルが1個で済むという画期的なコイルだ。1個あたりの値段は割高だが、当然2個買うよりもトータルコストは安い。

さらに、品質の良さはノイズ除去の性能だけでなく、1年で買い替えが必要になることもある他社品に比べ、最低でも3年は持つという優れものだ。2個が1個で済めばCO2排出量削減によって環境への貢献にもなるという、まさしく「三方良し」の製品だ。

 

■中国やタイ拠点の現状、円安の影響は

20数年前、安い労働力を使って製品単価を下げるために中国に進出した同社だが、安い人件費で労働集約型の生産を行う手法は今や下火だ。同社も例外ではなく、現在は中国で作ったものは中国で、タイで製造したものはタイで販売している。販売できるだけのマーケットが育っていることに加え、日本のマーケットが伸びていないことがその理由だ。

このいわば地産地消のビジネス、ドルや人民元、バーツで取引するため円安の影響はあまりないというが、一方で「配当金ぐらいしか本社に利益がない。日本にお金が入ってこないし、本社が爪弾きにされ存在が薄くなってしまうリスクもある」と悩みもあるようだ。

とはいえ、海外での競争においても、2個を1個の同社のコイルは大きな武器となっており、中国やタイの拠点で作った製品をベトナムやインドネシア、カンボジアなどの第三国でも販売しているという。

 

■商売はいつでも厳しい。常に「ほんのちょっと」の差別化を。

日本社会を見渡せば、円安によって輸出が落ち込み、苦境に喘ぐモノづくり中小企業は多い。しかし、先祖代々の農家を継いで莫大な借金を抱え、巻線の2次下請けへの転業から同社を起こし、30年で国内トップメーカーへと成長させた同氏だ。

「今は今で厳しいけれど、昔は楽だったかというとそういうわけではない。だから別に今が取り立てて厳しいわけじゃなくて、仕事を続けていくのはいつでも厳しいではないか」と歴戦の勇士は言ってのける。

「いつでも厳しい中でそれを乗り越えていくためには、ほんのちょっとだけの差別化が必要。ほんのちょっとだけでいいんです。差別化しすぎると、20年後、30年後の話になるから現実が付いてこない。うちは研究開発の会社じゃないですから。だけど、ほんのちょっとなら別です。同業と比べてほんのちょっとだけ違ったものを作る、それを常に続けていけばいいんです」とさすがの説得力だ。

 

■技術が上がれば価格は下がる

「中国並みの価格で、日本標準の納期と品質」とのスローガンを掲げ、高品質を低価格で提供することでシェアを獲得してきた同社。同氏は「それで採算を取れるやり方を考えるのが経営というもの」と言い切る。

「そもそも、技術が高いから価格が上がるってことはありますかね? 高く売ってもいいよという話であって、原価が高くなるとは私は言えないと思う。当然、普及する前は開発コストはかかりますが、量産が始まってある程度の生産数量に達してしまえば、技術レベルが高いからコストが上がるということはないと思います」

となると問題は、量産に至るまでをいかに持ち堪えるかだが、その点も「その精神が理に適っていて、金融機関がそれを認めてくれるかどうかだけの話」と単純明快だ。

もう一歩踏み込むと、同社の特徴は「値段を安くするための技術を追求する」ということになる。技術によって付加価値を高め、値段を上げて価格競争を避けていく戦略はおなじみだが、「それではマーケットのボリュームが減ってしまう」と語る同氏の考え方は「数を増やすことによって今までのコイルよりもコストが落ちる、そういう製品を作ればいい」というものだ。

「技術が上がって価格も下がる、これはどこも矛盾していない。技術とはそういうものでしょう。値段を高くする技術は、たとえばクルマの自動運転のような新機能を開発すれば高く売れるでしょうけど、それができるのは立派な大会社や特殊な会社。

そうザラにあるものではありませんよ。我々のような中小企業にできることは、いま自分たちが作っている製品をよく見つめ直して、特性を高めて値段を下げること。これによってシェアを新興国まで伸ばしていくというのが、まず取りやすい戦略なんです」

 

■製造業は楽しいぞ!

つまり、同社にあてはめればこういうことになる。

「うちのコイルは2個のものを1個にしようというんだから、特性的には倍のレベルが必要。倍の特性レベルで作っても値段を上げない、これを実現すれば、うちにもいい、お客さんにもいい、環境にもいいものができる」

とはいえ、技術職は大変そうだが。

「大変よりも〝楽しい〟でしょう、うまく作れるかどうか分からないけど、材料を研究したり、材料メーカーに通ってお願いしたり、コイルの設計を工夫したり。電線の中身を変えてもいいかも知れない。考えられる工夫はいっぱいありますよ。生産技術はありますから、やりようはいくらでもあるわけです」

なるほど。前言撤回、モノづくりはやっぱり楽しそうだ。

 

■ウエノのコンペチターはウエノ

以前の取材時に訪ねた鶴岡市の工場には、コイルの巻き取りを自動で行うロボットが所狭しと並んでいた。しかし、そのロボットたちもあと数年で無用の長物となる可能性があるという。

「手の代わりにロボットを使っているに過ぎないので、費用対効果が低いんです。もっと早く巻けるようにしないといけない。そのために、コイルの生産工程を、コイルのデザインから含めて今までと全く違ったものに仕立て上げようと考えています」

今回の機械振興賞受賞が示すように、技術の研鑽に妥協はない。減価償却した途端に処分することも止むなしという同氏は「常に、現状のコイルに代わる新しいものを作ろうとしていますよ。要は、うちのコイルをうちの新しいコイルが食っていくんです。ウエノのコイルのコンペチターは、ウエノのコイルなんですから。自分で自分の手足を切っているようなもんです」と苦笑いしてみせる。

 

■ウエノのコイルを真似してほしい

取材場所であるホテルのロビーに並ぶ椅子を指し、「ここにいっぱい椅子があるけど、椅子がなくなるなんてことはない。日本では人口減によって減るかも知れないけど、新興国では増えていく。それなら新興国で売れるような椅子を作っていけばいい。そういうことですよ」と語る同氏。電子機器からノイズがなくなることがない以上、そのノイズを除去するためのコイルもなくならないというわけだ。

とはいえ、未来永劫コイル製造のみで会社が存続できるのかという不安はあるといい、コイルに限らず、ノイズ除去技術全般にビジネスを水平展開するアイデアも聞かせてくれた。会社の存続や後継者についても考えを巡らせる同氏だが、どう舵を切るにしても重要なのは企業価値を高めることだ。

「うちのものを真似してくれるところがないと困る」と語る同氏。「悪いものを真似する人はいない。いいものなら必ず真似されるはずです。模倣されて初めて、その道で優越性を持つ製品であると言える」と自社品の模倣を推奨する。

実は既に、同社を模倣する企業が出現しているという。「どうせ猿真似の会社なんてものは、そのモノだけを後から見て真似るだけで、中の理屈、製造に至る思想を考えない。私は初めから自分で生み出してきて思想を持っているから、次はあれをこうしよう、こういう問題があるなとか、今後の課題や方向性を考えます。猿真似の会社はそんなこと考えませんからね」

 創業33年、東北のモノづくりの雄。まだまだ兜の緒は緩まない。

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プロフィール

上野隆一(うえの・りゅういち)氏…1948年山形県東田川郡生まれ。農林水産省・農業者大学校卒業後、先祖代々の家業(農業)を継ぐも約10年で撤退し、トロイダルコイルの巻線業に転身(1982年)。更にはコイル製造業へと転進し、1984年上野製作所設立とともに代表取締役社長に就任する。1996年株式会社ウエノに改組。山形県産業構造審議会委員。東北公益文科大学理事。同大学後援会会長。

 

■トロイダルコイル生産高日本一認証(2004年)、山形県経営革新賞(2007年)、日経ものづくり大賞特別賞(2008年)、ものづくり日本大賞東北経済産業局長賞(2009年)、文部科学大臣表彰科学技術賞(2010年)、山形県産業賞(2011年)、一般財団法人機械振興協会機械振興協会会長賞(2015年)ほか。

 

株式会社ウエノ

【本 社】〒999-7634 山形県鶴岡市三和字堰中100

TEL0235-64-2254

http://www.uenokk.co.jp/

【事業所】三川事業所(山形県東田川郡)、藤島工場(山形県鶴岡市)、大阪営業所(大阪市北区)、中国東莞工場(中国広東省)、中国大連工場(中国遼寧省)、タイ工場(バンコク近郊)

 

2015年4月号の記事より
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