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秋山鉄工株式会社  急がば磨け!?

最後にモノを言う人間力人間性先端技術だからって万能ではない

◆取材:綿抜 幹夫

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秋山鉄工秋山さん秋山鉄工株式会社/社長 秋山周三氏

大正、昭和、平成と、激動の時代を生き抜いてきた90年余の歴史は伊達ではない。子供をそこらの下手な大学に行かせるくらいなら、この会社に入れてもらったほうがよほど逞しく育つし、日本男児(大和撫子)としての徳目や教養も身に付くというものだ。

庄内地方はもとより、東日本では広く知られた真空装置及び各種機械メーカー、秋山鉄工(山形県鶴岡市)である。その逞しさと徳目、教養こそが日本人本来の人間力と人間性であり、それさえしっかり体得していれば、「日本のモノづくりは世界のどの国にも負けない」と、秋山周三氏(3代目社長・63歳)は断言する。

では何をどう実践すれば、それらが体得できるのか。同社の事例を基に詳しく紹介しよう。
キーワードはズバリ、急がば磨け──。これである。

〝日本国工場〟に込められた強い意志

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「秋山の周ちゃんが、また変なことをやってるぞ」

今から15年前、秋山鉄工の新工場の外壁に、日の丸と併せて〝日本国〟と大書されたのを見て、同じ団地(鶴岡西工業団地)の住人らが言った茶化し言葉だ。工場の名称は〝秋山鉄工日本国工場〟。なんと玄関には〝日本国入国管理事務所〟なる看板まで、デンと掲げられているのである。ある種の遊び心と見えなくもないが、実のところそうではない。

 

「ここらの正式な住所が、実は(鶴岡市大宝寺)日本国なんですよ。もしこれが観光業とか飲食店だったら、一も二もなく日本国店とするんじゃないですか? なんたって目立つし、話題になりますからね。ところが製造業は頭が古いというか、硬いというか、どこも山形西工場だとか、ありきたりの名前しかつけないんですよ。ましてや15年前といえば、バブルが弾けて日本のモノづくりが年々シュリンクの一途を辿っていた頃じゃないですか。本当だったらみんなが日本国を前面に打ち出して、無理にでも元気を出さなければいけない時期だったと思いますよ。ま、いつものことなので気にもしませんでしたが、それのどこが変なんですかね(笑い)」(秋山社長、以下同)

確かに言われてみればその通りだ。とまれ誤解があってはいけないので予め断っておくが、氏はいわゆる好戦的な右翼思想の持ち主ではない。少なくとも戦争については、どんな理由があろうと絶対に反対の立場(非戦論者)だという。ただしこれまた誤解があってはいけないので付け加えるが、かの教育勅語を自らの行動規範とし、精神的バックボーンとする、紛うことなき愛国者というか〝愛日本者〟である。

 

「日本国工場という名称には、私どもの思いやコンセプトがギッシリと込められています。中国をはじめとしたアジアの新興国とは、決定的に異なる人間力と人間性に裏打ちされた、モノづくり日本人としての誇りを胸に、より高い技術を追い求めるという強い意志です。

我々の祖先が一生懸命に開発し、連綿と伝え続け、発展させてきたこの国のモノづくりを、我々の時代で途切れさせては何の申し開きもできないじゃないですか。要するにこの鶴岡で、山形で、日本でつくり続けるしか我々に道はないんです。そのためには、モノづくり日本人にとっての、すべての力の源泉である人間力と人間性に、一層の磨きをかけることですよ。だって最後にモノを言うのは、結局それしかありませんからね」

 

 

モノも人も徹底して磨く秋山流企業カルチャー

 

では、そもそも人間力とは何か。人間性とは何か。いずれも厳格な定義はないが、その用法から次のように解釈されるのが一般的だろう。

前者は、「社会を構成し、運営するとともに、自立した一人の人間として、力強く生きていくための総合的な力」(内閣府の人間力戦略研究会/2003年)であり、後者は、「他人の幸福を自分の幸福と同一視し、家族や友人に対する深い愛情を伴う親密さと、すべての人の人間的状態に敬意を払い、理解することのできる共感性」(米国の心理学者、ゴードン・オールポートの健康なパーソナリティ=人格基準=より)である。

 

10a_akiyama_tekkou03秋山鉄工の工場の様子

「例えば金属加工で言うと、今はそのほとんどの工程がNC化、デジタル化されています。しかしそれですべてこと足りるかというと、そんなことはありえません。要するに、いくら先端技術だと言っても万能ではないんです。

最後の最後にモノを言うのは、やはり経験であり、感覚であり、在来技術を駆使した知恵と工夫です。これが職人の人間力というやつですよ。これがないと、張子の虎をつくるようなもので、けっして完成度の高い製品にはなりません。

現にウチでは、あえていただいた図面通りに加工したり、組み立てたりしないことがときとしてあります。金属の特性や機微を熟知したウチの職人が、図面通りにやったらロクなモノができない、明らかにこうしたほうがいいモノができる、コストが低く抑えられるなど、顧客にとってメリットが大きいと判断したときです。

もちろん普通は事前に顧客に意見として言いますが、こちらで独自に判断して進めることも少なくありません。顧客はその辺りの人間性も含めて、こちらの仕事の仕方をよく知っていますから、全幅の信頼を寄せてくれるんです」

 

と氏はこともなげに言う。周辺を取材して筆者もようやく分かったが、確かに同社が獲得している顧客の信頼は、常人にはちょっと理解しにくいほど厚く、強固と言っていい。なぜそれが可能なのか。ひと言で表すなら、この会社の企業風土という言う他ない。

 

とにかく何でもかんでも、ピカピカになるまで磨き抜くのだ。事務所の床やトイレは言うに及ばず、ユニフォームの着方や挨拶の交わし方、手紙の書き方や親孝行の仕方に至るまで、誰ひとり例外なく、全員が徹底して人間力と人間性を磨くのが、言わば秋山流企業カルチャーである。

 

 

大切なのは畏敬の念と感謝の気持ち

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シンボリックな事例を、一つ紹介しよう。

同社の忘年会旅行である。例年のことだが、旅行会社を通すことなく、交通手段から宿泊するホテルの手配まで、すべて社員が手づくりで準備をし、段取りを組む。とまあここまではよくある話で、ここからがこの会社のカルチャーだ。

 

まずは、「宴会の料理は通常より40%ほど減らして用意してください」と電話で注文をする。更に、「酒類はその都度飲む量だけ注文しますから、飲み放題セットはけっこうです」。これだけを聞くと何だかケチな会社のようだが、しかしその次の言葉を聞いて、ホテルの受付係は自分の耳を疑うことになる。「料金の割引きは必要ありません。通常の料金をお支払いします」。

 

要するに、米ひと粒でも無駄を出したらバチが当たるという畏敬の念と、ホテルの料金は感謝の気持ちで支払うものだから、値引きの要請などとんでもないという考え方ある。この考え方は同社が行うすべての取り引きにおいて貫かれており、どんな場合でも秋山氏は、値引きの要請を一切しない。しかしその姿勢が逆に、相手の心を動かすのだろう。

 

「届いた請求書を見ると、契約より安くなってることが少なくないんです。不思議ですね(笑い)」

とまれ宴会が終わると、今度は宴会場係が自分の目を疑うことになる。エビの尾っぽと魚の骨以外、膳部には何一つ残っていないばかりか、飲み残しのビールさえ見当たらないのだ。さらに翌朝である。チェックアウト後に今度は、客室係が呆然と立ち竦むことになる。夜具がきれいに畳まれているだけでなく、風呂からトイレ、洗面所に至るまでピカピカに磨き抜かれているのだ。

 

「まず大切なことは、畏敬の念と感謝の気持ちを自分の中にしっかりと持つことです。情けは人のためならずと言いますが、それもこれも結局、すべて自分磨きのためです。やがてそれが人間力を強くし、人間性を高めてくれるのは間違いありませんから」

 

ちなみに追い討ちを掛けるようで恐縮だが、その三日後に今度は、ホテルのオーナーが驚くことになる。その節はたいへんお世話になりましたと丁寧に認められた礼状が、60通余りも届くのである。筆者もこれまで、来客向けに取って付けたような掃除や挨拶を社員に強制する会社はゴマンと見てきたが、ここまで徹底してできるようになればもはや本物である。異を唱えようにも、唱えようがあるまい。顧客の信頼が集まるのも理の当然、というわけだ。

 

 

奇人、変人。然れど武士。

それにしても何がどうあって、このような企業風土が生まれたか。

「きっかけは25年ほど前に、中国の工場を視察して回ったことです。当時向こうは桁違いのローコストを武器に、急成長していましてね。これは早晩、日本にとって手強いライバルになると強い危機感を抱いたものです。そんな中、目を皿にして彼らの欠点を探していたら、これがあったんですよ。しかも我々から見ると致命的な欠点が」

 

ひと言で言うと、自分だけが良ければあとは何でもOKという自己中心的な人間性で、〝三方良し〟を旨とする日本の商道徳とは、まったく相容れない習性と言っていい。

 

「もしかすると、それが向こうの国民性かも知れませんよ。こちらの伝統的な職人は、錺(かざり)職人でも、指物(さしもの)職人でも、大工さんでも、一から十まで全体像を頭に描いて仕事をするじゃないですか。もちろん我々機械装置の職人もそうです。それが彼らにはまったくないんですね。要するに木を見て森を見ない。ですから次の工程のことなど一切考えない。しかも自分が失敗してもそれを認めない。認めたら責任を追及され、損をすると考えるからです」

 

それではプラスチックの日用品や安手の衣料品ならともかく、洗練された技術と感性が要求されるモノづくりなどはとても無理だ。ということは向こうにできないこと、ハイエンドなモノづくりをこちらがやればいい。そう考えると、行き着くところはやはり人間力であり、人間性しかない。

 

「話して聴かせるのはもちろんですが、リーダーの仕事はやはり率先垂範です。自分で自分を磨きながらやってみせる。少々時間は掛かりましたが、ようやくそれが実を結んできたところですね」

 

余談ながら、何人かの地元の産業人から〝秋山評〟なるものを集めてみた。冒頭に「周ちゃんがまた変なことを……」と書いたことからも分かる通り、ひと言でいうと〝奇人、変人、とにかく変わった人〟という声が圧倒的である。しかしその後に必ずこう続くのだ。

 

「然れど同時に、見事な武士(さむらい)でもあります」(法人会関係者)

確かにその通りだと、頷く他あるまい。

 

とまれ大企業を中心に、アベノミクスに期待する声が日増しに高まっているが、その波及効果が中小企業にまで回ってくるのは、おそらくまだまだ先の話である。ということであれば親愛なる経営者諸氏、ここはギュッと腹を括り、自ら率先して、急がば磨けといくのも一つの手かも知れませんぞ。

 

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プロフィール
秋山周三(あきやま・しゅうぞう)氏
1950年、山形県鶴岡市生まれ。1972年、芝浦工大を卒業と同時に都内の某工作機械メーカーに入社。1974年、同社を退職し、秋山鉄工に入社。この頃から経営危機に陥り、持ち直すまでの約10年間、「塗炭の苦しみ」(本人)を味わう。1991年、創業70周年を機に、同社3代目社長に就任。現在に至る。
【公職】庄内工業技術振興会会長、福祉法人「道形保育園」理事長、鶴岡中央工業団地管理組合副理事長他。
秋山鉄工株式会社
〒997-0011山形県鶴岡市宝田1-10-1
TEL 0235-22-1850
http://handrey.com/akiyamatekkou/

町工場・中小企業を応援する雑誌 BigLife21 2013年6月号の記事より

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