NPO法人鴻鵠塾 代表理事 上田圭祐氏

日本初の非営利セクター専任営業という肩書きを持ち、日本中を飛び回る株式会社セールスフォース・ドットコムの上田圭祐氏は、もうひとつの顔を持つ。

 

高校生、大学生へキャリア育成支援を行うNPO法人鴻鵠塾の代表理事だ。

 

 

同塾のプログラムでは、他の就活塾ではありえないキャリアを持つ人々の話を聞くことができ、つながることができる。有名企業とコンタクトを取りたい学生にとっては、未来へのパスポートのようなプログラムだ。

 

 

しかし、上田氏はそんな就活にこれからの日本を危惧する。たった数ヶ月だけその先のキャリアを考え、大手企業だけを狙う。その先に見える人生に真の成功はあるのだろうか。

 

多くのエリートたちを巻き込みながら学生たちの未来を作ってきた上田氏に、人材育成にあるべき姿勢を聞いた。

 

 

大きな社会を知り大成を得る者となる

鴻鵠塾は、学生のためのキャリア支援を行う塾だ。企業向けソフトウェアサービス事業を行う株式会社セールスフォース・ドットコムの上田圭祐氏が同塾の代表を務めるNPO法人である。

 

難しい漢字の塾名は、司馬遷の「史記」にある「燕雀いずくんぞ鴻鵠の志を知らんや」という言葉から来ている。燕や雀のような小さな鳥には、大きな鳥である鴻鵠の志はわからないという意味だ。この鴻鵠のように、世の中を俯瞰的見ることができる人材を育てるという意味で名付けられた。

 

「日本の学生は、どうしても目の前にある進路や就職先を追いかけがちですが、もっと広い視野で、なぜ社会に出るのか、何のために働くのかを考えて欲しいですね」と上田氏は語る。偏差値や有名企業への就職はわかりやすい相対的な評価かもしれないが、未来の大きな可能性に目を向けて欲しいという思いが込められている。

 

 

鴻鵠塾のプログラムの三本柱は、勉強会と参加型プロジェクト、都立高校でのキャリア教育の出前授業だ。就職活動にも対応しながら自身のキャリアを考えるプログラムとなっている。

 

玉木雄一郎議員との打ち合わせの様子

特に勉強会は業界の第一人者の講義や懇親会があり、有名企業や人気の業界の内定への足がかりが欲しい学生たちにとって、垂涎の的だ。

講師たちは、Googleの元社長村上憲郎氏などそうそうたる面々。全て、上田氏の人脈でお願いしている。

 

 

 

 

体験型プロジェクトも人気のプログラムだ。

 

「就職活動の面接で他の志望者と差別化できることはもちろんだが、人の成長には経験、体験、そしてその先にある成功体験が必須です」というプログラムは、四国の島でお祭りを企画、運営し、観光客を数千人集めたり、島の高齢者のために共助の仕組みを確立、藍のスイーツを商品開発、観光まちづくり支援など、学生の体験の枠を超えている。

 

 

 

中には、旅行会社から日本初の学生が旅行商品化してうることまでした企画もあるという。実際、後に現実化した企画もあり、大々的にメディアでも取り上げられた。現在は、新潟、三重、岡山、鹿児島と協力地域が増え、学生たちがそれぞれの地域でプロジェクトを起こしている。

 

 

地元の方達と学生との打ち合わせの様子

これら企画の内容は、現地の社会人や参加する都心部の学生や社会人メンターがチームで話し合って決める。さらにその企画に「支援したい」「コラボしたい」という企業が現れ、四国では県をあげてのプロジェクトとなった。

 

 

この注目を集める同士のエネルギーと人脈の源流はどこにあるのか。その答えを読み解くには、同氏の新入社員時代へと遡る必要がある。

 

 

100人規模の飲み会は月一!携帯のアドレスは7000件

上田氏が大学卒業後に入社したのはIBM。同氏の就活方法は徹底してOB訪問を行っていたという。

「理系で大学に週6で通いながら40〜50人くらいに会いましたが、人の話を聞くことが面白くて」。

 

そうして内定が決まると、今度は同期が集まる飲み会を主催。人と話し繋がることに魅せられた上田氏は情報交換の場を作り、多くの人々をマッチングさせ、自分もたくさんの同期と知り合って行った。しかし、飲み会の参加人数が増え始めた頃に赴任先が決定。場所は慣れ親しんだ東京から遠く離れた大阪だった。

 

「東京で育って、東京の大学を出た自分がなぜ大阪に赴任しなくてはならないのか」と、意気消沈した上田氏。同郷の同期とともに、大阪でも年に3回の飲み会を始めた。「カフェを貸し切って、最初からいきなり110人くらいの飲み会になりました。2回目は190人と口コミでひろがっていった」。

 

 

こうして自力で大阪生活を充実させていた矢先に、再び東京へ帰還。大阪にいた時と同じような飲み会を始めるため、人が集まる場所として聞きつけたフレンチレストランに夜な夜な通っていると、携帯のアドレスや名刺が集まり始めた。

 

「モデルやタレント、ミュージシャン等とのつながりができました。なぜか私が芸能人ばかり集めた100人規模の飲み会を主催することになるなど、大阪でやっていたような飲み会が始まりました」。

 

15年のうちに主催した飲み会は400〜500回、集まったアドレスは7000件、名刺は2〜3万枚にものぼる。天性の人を集める能力とる魅力を、上田氏は兼ね備えているのだ。

 

 

人とのつながりと学生のニーズがビジネスへ

上田氏の人脈の広さは、有名大学の就活生たちにも知れ渡るようになってきた。「上智の帰国子女の学生が「IBMに興味があるので話を聞かせてください」と言ってきたんです。渋谷で食事をしながら話をすると、今度は「友人も連れてくるので同じ話をしてもらえませんか」と」。

学生たちにとって、電通などの大手広告会社、テレビ局、一流大企業の人脈や、同氏が勤めるIBMと繋がることは、とても魅力的なものであったのだ。

 

 

「キー局や大手広告代理店、総合商社、企業の人事担当者などを集めて、学生たちとの飲み会を主催しました。企業にしてみると、有名大学の優秀な学生がいる、学生たちにとっては企業の人事担当や業界の人たちに会えるという、ニーズがマッチングしたのだと思います」。

 

 

そうこうしているうちに、仲間たちが勉強会を支援してくださったり、学生時代に参加してくださった方々が社会人になってからボランティアで手伝いを始めたりなど、活動が広がり始める。「ビジネスになるかもしれないと考えるようになりました」。

 

 

地元の子たちとの交流を行う体験型インターンシップの一環

学生たちは、まだ社会や企業を知らない。ならば、社会や企業の実態と、キャリア形成の大切さを伝えられる自分たちの活動が、学生たちの未来に貢献できるのではないか。

 

そう考えた上田氏は、2008年NPO法人鴻鵠塾の活動を開始する。「ニーズに応えていたらビジネスになっていう感じですね」。

就活成功のためだけではない、高校生・大学生のためのキャリア形成が目的の就活塾。上田氏の人脈と能力と熱意が、ついに社会貢献組織という形となったのだ。

 

 

 

日本でただ一人の非営利セクター専門営業
活動は全国へ成長展開

現在上田氏は、セールスフォース・ドットコムの非営利セクター専門の営業担当業務を行いながら、鴻鵠塾運営も行う。寝る暇を惜しむ活動だが、楽しいことが先に立ち、活動範囲は広がり続けている。

 

車椅子の生活を疑似体験するプロジェクト

「NPO法人専任の営業は日本法人では初めてです。私がいる会社はボランティア活動が盛んで、こんな企業は日本にはありません。

また、商品のクラウドソフトを使っていただくことで、NPO法人の会員管理、寄付者管理、ボランティア管理、ファンドレイジング等に還元できることは画期的で、新しい社会貢献モデルだと自負しています」。

 

 

 

また、鴻鵠塾は就活テクニックや勉強会だけではなく、地方での就業体系、学生の企画による事業経営体験を行っているが、今年度から主軸を高校生や大学1、2年生へのシフトを試みているという。

営業力やマネジメント、マーケティング力を社会で発揮するためには、早いうちから社会と関わり、問題解決の思考力をつけることが必要だ。

 

 

就活成功のためだけの付け焼き刃では、社会に出てもすぐにメッキが剥がれてしまうだろう。「勉強会に来る学生は就活成功だけが目的となりがちで、1回だけしか会わないということも多いのです。そうではなく、3年、5年とその学生の人と成りをみて、個人に合わせたキャリア支援をしたいと思っています」。

 

そのために、高校生、大学年1年または2年生など、早い段階からに人材育成を考えているという。さらに、企業とのコラボレーションなどを積極的に行い、優秀な人材を輩出できる就活塾として認知度を高めていく考えだ。

 

「たくさんの学生や企業、人を巻き込んで、社会全体のモチベーションを上げていきたいですね」。

上田氏と鴻鵠塾は大きな翼を広げ、ますますエネルギッシュに高く飛び続けている。

 

 

上田圭祐
鴻鵠塾 代表理事

株式会社セールスフォース・ドットコム 非営利セクター専任営業日本支社責任者

中央大学理工学部卒業後、日本アイ・ビー・エム株式会社へ入社。

2015年11月に株式会社セールスフォース・ドットコムにて日本初の非営利セクター専任の営業として就任。
2008年6月 NPO法人鴻鵠塾の活動を開始。

2012年2月 NPO法人として登記。

 

鴻鵠塾
http://koukokujyuku.org/