オビ 企業物語1 (2)

製造業に特化したWeb。圧倒的な経験値から導かれる製造業「勝ちパターン」とは?

◆取材:加藤俊 /文:菰田将司

 

株式会社オールプレジデント 徳山正康株式会社オールプレジデント 代表取締役 徳山正康

製造業に特化したウェブ制作会社「株式会社オールプレジデント」は、今まで製造業600社のWebに携わってきた。「製造業以外のお客様のWebマーケティングを行う気はありません」。なぜ製造業にここまで心血を注ぐのか。そして、中小企業の抱える問題を解決できるウェブ・マーケティングの秘策とは。

 

「製品を売るのは当社に任せてください」

「ウェブ・マーケティングで製造業の人々をなんとかしたい、そして業界を盛り上げていきたい」そう話す徳山正康社長は、2010年に「株式会社オールプレジデント」を立ち上げた。「製造業で働く人が好き」という彼の言葉に偽りはなく、この会社は中小企業、特に製造業に的を絞ったウェブ・マーケティングの支援を行っている。

 

「そもそも当社は純粋なWebマーケティング会社ではありません。製造業のマーケティング支援という側面をもっているので、どちらかというとコンサルに近い会社です。

中小企業の多くは営業戦略まで目を配ることができずにいるので、そこの手伝いからできる会社を作りたかった。しかし、ウェブ・マーケティングで中小企業の支援をするといっても、うちのクライアントはほとんどが平均2、30人くらいの規模。この程度の規模だと、初期コストが用意できずに、ウェブ・マーケティングを導入できない、というところが多い。今でも立ち上げるためにはそれ相応の資金が必要ですが、これに躊躇してしまう。

それに、中小企業は元々宣伝に割ける予算が少ないので、こちらもそれなりのHPしか製作することができず、思うように成果を上げられない、というジレンマに陥っていました」

 

しかしMBAを有し、ウェブ・マーケティングの可能性を知り尽くしている徳山社長は、中小企業にこそ、この可能性を活用して欲しいと考えていた。

 

「ですから成功報酬型に切り替えて、初期コストを貰うことを止めました。売上が立ち、利益が出るようになってから、インセンティブを貰う。これならば、資金に不安がある会社でも持ち出し不要で広告を出すことができる。これは正に中小企業のためのプランだ、と好評を得ました。

もちろん、私たちにも無償でHPを作成するリスクがありますから、商品のメリット・将来性・市場調査などは徹底的に行います。そうしてその商品の魅力を分析し、売れる!という自信があるもののプロモーションを支援します。そうなったら一蓮托生。最後までずっと面倒を見ますよ」

 

この持ち出し資金ゼロで製品のプロモーションをプロが請け負ってくれるという、中小企業にとっての理想的なアイデアは、しかし当初から成功したわけではなかった。

 

「一件目は振動測定器のメーカーでした。商品そのものの評価は高く、ネットに上げると引き合いも多かったのですが、お客様側の体制がまだ整っておらず、取引が滞ってしまった。

そして二件目はCO2レーザーの会社。しかしこちらは、まだ開発されたばかりの製品で、これも上手くいかなかった。アイデアはよくても、メーカー側の準備も必要、ということも痛感しました。

最初に成功といえる成果を出したのは超音波ハンダコテ『ハンダッチャブル』のプロモーション支援です。これは溶接のように高熱を使う方法と違い、超音波を用いる方法なので、ガラスやセラミックス、アルミニウムといった通常のはんだ付けでは困難な素材・異素材間の接合が可能になる、という特長がある商品でした。

元々は、お客様の商品ラインナップの一つでしかなかったのですが、他に競合商品もなく、大手の会社の盲点でもあったので、これをメインに置いたページを制作しました」

 

メーカーが気づかなかった市場の動向に着目し、他が持っていないメリットを強調したページ作成の結果、ハンダッチャブルの売上は急上昇した。

 

「3、4ヶ月目くらいから、PV数と問い合わせが比例して伸びてきました。この間、我々が行ったことは、市場分析をして検索キーワードに引っかかり易くすること。『超音波ハンダゴテ』という検索に必ず上位で入るようにしました。

そして検索トップになったら、次は新しい需要の開拓。普通のはんだ付けや溶接・ロウ付けの代替案として売り出すことを考えました。それらの方法ではできないことが『ハンダッチャブル』ならできる、と。例えば、熱に弱いアルミ同士の接続は難しいが、超音波は低温なのでできる。

それを強調するために、それらの方法と比較するページを作りました。特長をページに載せることで、『アルミ はんだづけ』で検索された時に引っかかるようになる」

 

段階ごとに適切な戦略をもって当たることで、今も売上を伸ばし続けるヒット商品が誕生した。現在は、東南アジアなどこれからの需要が見込まれる地域での販売促進のために英語版の開設を、という提案も受けているそうだ。

 

オビ インタビュー

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-他社の提案との違いは何でしょう?

 

ウェブ・マーケティングの場合、他社では一般的に、HPのデザインから入ると思うが、私たちはそこまでが長い。各担当が確実に勝てるWebサイト戦略の企画を持ち込み、それを充分に練ってからクライアントに提案する。

この際、デザインが美しいとかは重要ではなく、マーケティングで勝てるかどうか、ということが何よりのポイントになります。クライアントがどういう意図があってウェブで展開しようとしているのか、そして商品にはどういう強みがあるのか。こういった分析を行い、どういうキーワードで打ち出していくのかを考えます。そういった点のピントが一致して、それからHPの製作を始めます。

こういう方法は、どこでもやっているかもしれませんが、分業はせずに全て一環でやっているところが我々の特長です。また、圧倒的な経験値を持っているのも大きな特長でしょう。私は今の会社で600社ほどの製造業のマーケティング支援を行いましたが、前の会社でも2000社以上HPを作りました。故に類似の業界での勝ちパターンを知っている。それも我が社の大きな強みです。

 

-なぜ起業しようとしたのですか?

 

大学三年の時、起業家と会うゼミに入っていたので、そこで影響を受けたのがきっかけです。起業家の人たちは皆、楽しそうに自分の仕事を語っていたのですが、私には仕事が楽しい、という人がいること自体が驚きで、それで起業家を支援する仕事がしたいと考えるようになりました。

そこで、当初はベンチャーキャピタルに行こうと考えていたのですが、ベンチャーの支援をしたかったらまず、ベンチャーで成功しろ、そうしないとベンチャーの人は話を聞いてくれない、と当たり前の指摘をもらい、それもそうだなと思い、IT系のベンチャー企業で四年間経験を積み、その後、別の会社で経営企画に携わりました。

そういう経験を経て、会社の経営を俯瞰できるようになったので、強みを活かそうと考えて、今の会社を起業したんです。どうせやるなら、前職のころから製造業で働いている人が好きだったので、彼らのお手伝いがしたい、と。

モノづくりに携わる人って真面目で暖かいんです。仕事に於いてやり直しがきかない業種だからこそ、みんな真面目で真摯です。だから、それに携わる人を盛り上げたいとも思っているんです。

 

-今後はそのような展開を考えていますか?

 

今、「ものづくり経革広場」というサイトを運営しています。そこではオープン・イノベーションの活用やブランディング支援、クラウド・ソーシングやクラウド・ファンディングの活用などを紹介しています。様々なジャンルの人や技術を巻き込んで、同じプラットフォームで何か新しいイノベーションを生み出そう、と考えているんです。

モノづくり経革広場▲ものづくり経革広場▲

特に今、注目しているのはオープン・イノベーションの活用。大学などの研究機関で生まれた新技術や、休眠特許などを製造業の人々に紹介しています。大学でも活用法が解らず、売り込み先に困っていた技術が、それを活用できる人々の目に触れることで、良い相乗効果を生み出し始めています。

「当社のサービスを導入した中小企業のお客様から、経営が安定した、という話は聞くのですが、私は将来的には下請けを脱却するようにしたいと考えているんです。そして今は人材難の時代。会社に魅力がないと人は集まりません。だからいい商品を作ってもらって、私がその魅力を広めたいんです」と語る徳山社長。彼の情熱が今、製造業に新しい光を当てている。

 

オビ ヒューマンドキュメント

徳山正康(とくやま・まさやす)…1981年愛知県生まれ。グロービス経営大学院大学(MBA)卒業。

株式会社オールプレジデント

http://www.all-president.co.jp/

〒162-0842東京都新宿区市谷砂土原町3-4-2 市ヶ谷グリーンプラザ102
TEL 03-6457-5777

従業員数:6名

 

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