オビ インタビュー

【一歩先の活用法】

全ての経営者が、M&Aのプロになれる!

社長・高橋聡氏の考える「トランビ」新活用法

◆取材:加藤俊/文:菰田将司

tranbi

トランビ」を運営する高橋聡社長

 

以前、本誌で紹介したM&Aマッチングサイト「Tranbi/トランビ」。町工場が運営母体という異色のM&Aサイトだが、今、より使い易く、また便利なように機能を拡大しているという。その狙いを、高橋聡社長に伺った。

 

 

9割救われない日本のM&A

仲介業者を通さず、自分でM&Aを探すことができるサイト「トランビ」。

2011年のサービス開始以来、順調に成約実績を伸ばし、現在マッチング件数は400件を超える。また、ユーザー登録件数も1800件以上になる。

 

「日本ではM&Aは大手企業だけのもので、中小企業には関係ない、というイメージは強い。それに、専門用語が飛び交って素人には分からないもの、というイメージもあると思います。それをまず、変えないといけない」

 

サイトを運営しているアスク工業は元々、長野で創業40年以上という老舗工業資材メーカーだ。

 

「自分が経営者として業務拡大を考えた時に、一つの手法としてM&Aはどうだろう?と考えたのですが、なかなか買いたい企業を自由に探すことができなかったんです。だったら自分で作ってしまおう、と考えたのがそもそもの発端でした」

 

自身が元アクセンチュア(大手コンサルファーム)だったこともあり、M&Aが事業を拡大するときに有効だと理解していた高橋社長は、そう語る。

多くの中小企業の経営者の悩みのタネが、事業承継の問題だ。経営が良好でも、経営者の高齢化、そして後継者の不在によって、廃業を余儀なくされている企業は多い。

そんなときに、M&Aは有効な方法だ。会社を存続させながら、経営者は身を引くことができる。

とはいうものの、では実際にM&Aをするとしたら、どうしたらよいのか。

そこで登場してくるのが仲介業者だが、信頼に足る仲介業者が多くいるかといえば、そうではないのが現状だ。仲介業者は、M&A成約の際の成功報酬から利益を得ているので、互いの妥協点にてディールを成約するインセンティブが働くことがある。

また、債務超過企業を再生し、債務を法的にも整理し、かつ譲渡条件を高い専門性をもって交渉できる仲介業者も多くはないかもしれない。

 

「そんな仲介業者に引っかかってM&Aに失敗しないように、経営者が相談を持ちかける相手といえば、仲の良い税理士・会計士さんか、地銀などのメインバンク、ということが多い。

しかし、彼らもM&Aについての専門的な知識があるわけでもないので、結局、知識や経験のある大手の仲介業者を紹介するだけ。……ああいうところは大規模な案件しか取り合ってくれないので、話は立ち消えになってしまう。

悩みを打ち明ける場所も、質問する場もない。こうして、ほとんどのM&A案件は救ってもらえていないのが現状です。

しかし、だからといって、ムリにM&Aをして、条件面で妥協したとなると、売り手・買い手双方に我慢した、という意識が残る。そうならないように、自分から希望の条件を提示しておき、それを見て興味を持った企業から広く直接連絡を募ることができるサイトにしました。

売り手と買い手が、間に人を入れずに連絡先を直接に交換できる『オープンな場』を提供することが、このサイトの目的です」

 

日本全体では毎年1500件程度の中小企業のM&Aが成約していると言われている。一方、廃業している事業所数は100万程度と言われており、その件数は足元にも及ばない。

そこでふるい落とされてしまった数多くの案件を救いたい。高橋社長はそう思っている。

 

 

「M&Aは結婚のようなもの」

トランビは今回新たに、今まで売り条件が掲載されているだけだったHPに、専門家によるコラムと、一般の方からの質問コーナーを作った。

 

「コラムについては、M&Aを啓蒙しようと考えて作りました。そもそも、経営者の方が皆、元銀行マンで金融知識バッチリ、なんて人ばかりではありません。

だから、こういうところに気を付けよう、こういうのに税金がかかりますよ、と注意すべきポイントをまず知ってもらいたい。そして、質問コーナーは、専門用語の羅列になりがちなM&A情報を理解してもらうためです。

これがどんどん溜まっていけば、本当に困っている方の生の声や疑問、質問がデータベースとして蓄積され、現存する課題の解決に対して有効に使えるようになると思います。

こういうことを地道にやって、専門家だけのモノだったM&Aの世界を、敷居が低いモノにしたいのです」

 

「M&Aは結婚のようなもの、一生に一回。だからこそアドバイザーの言葉を鵜呑みにしないように、知識を身につけないとならない」と高橋社長は語る。

 

「多少なりとも知識があれば、相手のいいなりにならないで済む。トランビが目指しているのは様々な選択肢を経営者に理解してもらうことです。

いうなれば、相見積りをとってもらって比較してもらうくらいに。そういう使い方もできるサイトにしていきたいですね」

 

しかし、自由に相手が見つかるということが売りだったトランビに、これだけ専門家が参加してくるようになると、方向が変わってしまうのではないだろうか?

 

「いえ、立ち位置がブレているわけではありませんよ(笑い)。ウチを利用してくれているお客様の中には、自分で自由に選びたい人もいるし、そうでない人もいる。

専門的な知識は無いし、せっかく買い手から連絡が来ても話の進め方がわからない、という人も多いんです。だから、そんな方のフォローもしっかりできるようにして、利用しやすくしていきたい。

今まではフォローできなかったところに手を伸ばしている、と思ってもらいたいです」

 

現在、買い手企業の登録件数は2000件ほど。これが5000〜10000となれば、成約機会は劇的に増加し、どんな話も成約していけるだろう、と高橋社長は自信を示す。

 

 

ただのマッチングサイトにはしない

「ある80歳の経営者の方のお話なんですが、その方はプラント開発の専門家の方でした。技術に関しては抜群にお詳しいのですが、M&Aについてはサッパリ。

会社の売上は1億円という規模なのですが、そうなるとM&Aの額は多くて数千万円ほど。この額だと仲介業者は動いてくれません。

しかも、会いに行くと、もうお年がお年なので、話の半分以上は世間話(苦笑)。そんなこともあって一度目の商談はうまくいかなかったのですが、今、またトランビから各方面に話を持って行っています。

それがダメならまた次を。そういう粘り強さというか、面倒見の良さや、選択肢の多さも、トランビの特長ですね」

 

そう語る高橋社長だが、利益は?と尋ねると、

 

「現在は譲渡金の3%を手数料としていただいていますが、サイズが小さい規模ならほとんど数字は出てきません。

ですが、ウチとしてはまずは成功事例を紹介できたらいいと思っています。そうすることで多くの人にM&Aの有効性を知っていただけると思いますから」

 

本業のアスク工業も、忙しくなった今も変わらず経営されているそうだ。

 

「トランビ開始当初から変わらずです。ただ、会社を長野から東京に移しました。M&Aの会社なのに長野にあるの?とお客様が不安感を持つことを少しでも和らげるためです。

こういうところを直しながら、これからもっとスピードアップしていきたいですね。

M&Aをしたいけど相手が見つからない、もしくはそもそもM&Aという手段が頭になかった、という人たちに、早く知ってもらいたい。

今の目標は検索ワード『M&A』で1位になることです。今は圧倒的な件数を持っているM&Aセンターさんを超える。日本でM&Aといえばトランビ、と言われるようになりたいですね」

 

M&Aの総合ポータルサイトとして成長しつつあるトランビ。高橋社長の肩に、日本のM&Aの未来がかかっている。

 

オビ インタビュー

【取材協力】高橋 聡氏(アスク工業株式会社 代表取締役社長)

Tranbi トランビ▶http://www.tranbi.com 

 

 

◆2016年10月号の記事より◆

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