株式会社Liquid Japan/代表取締役
保科秀之氏

スマートフォンに代表される情報通信端末は、今や生活に不可欠なものになっている。

しかしその反面、高度化した情報社会に取り残されてる人たちがいる。「そういった人たちのためにもっと簡単に利用できるようにすれば、そこに新しい可能性が生まれてくる」。

 

そう話すのは株式会社Liquid Japan保科秀之代表取締役。保科氏はネット社会の新たな扉を開こうとしている。

 

面倒なパスワード入力を無くしてしまおう!

株式会社Liquid Japanは指紋や声紋・目の虹彩や静脈などのデータを使った生体認証の技術開発とサービスの提供をしている会社だ。
「現在の日本で、パソコンやスマホを使ってネットにログインし、情報を閲覧したり買い物したりするのは日常茶飯事ですが、その時に毎回IDとパスワードを入力するのを面倒に思ったことはないでしょうか。

もしパスワードを忘れてログインできなくなってしまった時に、再登録したりするのはとても面倒。これはネットの普及を阻害する一つの要因にもなっています。他にも銀行ATMにも暗証番号を入力する必要があるし、そもそもスマホだって使う時には暗証番号を入力してロックを解除しなければならない。

現代社会は暗証番号やパスワードが溢れかえっているんです」(保科代表)

 

スマホの先駆けともいえるiPhoneは、新型が登場するたびに新しい認証方法を取り入れていることが話題になる。以前の機種では使用時に暗証番号を入力していたが、その後、指紋認証が加えられ、今年発売になった機種にはついに顔認証にまで発展した。
この進歩は認証をシンプル・手軽にできるように突き詰めていった歴史でもある。

 

「今、生体認証の主な方法はiPhoneのTouch ID(指紋認証)等です。登録した指紋を使って個人を確認することで、暗証番号を覚える・それを打ち込むという手間を省くことができています。また銀行口座やクレジットカードの暗証番号に同じものを使っていると、一つの番号から全てが漏れてしまうというリスクがありますが、生体認証でそれも回避できている。これらのことからiPhoneのTouch ID(指紋認証)等の利便性が証明されています」

 

しかし、と保科代表は続ける。

 

「スマホの指紋認証は、使用者一人分の指紋をスマホに記憶させればいいから、それ以外の人が利用するのを防ぐことができます。一方、銀行ATMの脇に静脈認証の装置がついていますが、まだあまり普及が進んでないと思います。この仕組みはキャッシュカードに記憶させた静脈の情報と、装置が読み取った静脈を照らし合わせるという方法なのですが、カードの情報を読み込むというのが手間なわけです。

スマホも別の場所に蓄積された大人数の情報の中から照らし合わせる、なんて方法を使っていたらここまで普及しなかったでしょうね」
なぜATMではキャッシュカードに記憶させた個人の情報を読み込んでから照らし合わせるという方法が取られているのか。それは「精度と速度の問題」と保科代表は話す。

コンピューターのデータ内に数百万人規模の生体情報を蓄積し、そこから引き出して照らし合わせるとなると、ATMの前で何分、ひょっとしたら何十分も待たされることになるからだ。

 

便利なはずなのに、精度を上げると時間がかかってしまう生体認証。保科代表はそこに着目した。

 

「当社では独自に開発したアルゴリズム解析を行うことで、瞬時に数百万人の生体情報から個人を特定し、照らし合わせることができるようにしました。これにより、私たちの装置を使えば、利用者はカードも暗証番号も使わず、手をかざすだけで瞬時に認証を行うことができるんです。それが当社の最大の武器です」

 

指先が財布になる

指紋認証はユーザーデータベースの巨大化による検索速度がネックとなっていたが、同社では独自に開発したアルゴリズム解析により、従来方式で分単位の時間がかかるところを数秒でヒットするシステムを構築した。

現在、Liquid Japanのシステムが導入され効果を上げているのが長崎のハウステンボスだ。

 

「2015年の10月からこのシステムを利用した『ハウステンボスマネー』という決済方法が使われています。これは入場者に指紋を登録してもらい、それにヒモ付けする形で場内で使う金額をチャージするというもの。

場内では財布の出し入れをすることなくお買い物やお食事をしていただき、レジにある認証端末に指で触れるだけで決済を完了するシステムです。チャージしても使いきれなかった金額はその後も3年間は蓄積されているので、次に来場した時に使うことも可能です」
この試みは各所で高く評価されており、経済産業省の「おもてなしプラットフォーム」事業の実証実験にも採用されている。

そもそも現金での決済は利用者にとっては安心かもしれないが、サービスを提供している店舗側にはデメリットが多い方法だ、と保科代表は言う。

 

「単純に現金のやりとりは店員への負担になります。毎度金額の確認を強いることになりますからね。それにお店は常にお釣りの準備をしなければならない。誰も会計の時に『今お釣りが無いのでピッタリでお支払い下さい』なんてお店では買い物をしたくないでしょう?」
現在ではハウステンボス以外にも約1000店舗が同様のシステムを導入していて、毎月100店舗ほどずつ拡大しているという。
「このシステムにはこれから見込まれる大きなメリットが二つあります。一つ目は外国人観光客の問題です。外国からの観光客はクレジット決済に慣れていて、日本で主流の現金決済には抵抗を感じているし、日本円を充分持っていないかもしれない。

ですがクレジットのシステムは脆弱なものです。サインを書いて確認していますが、そのサインは本当に本人のものでしょうか?

不正なカードを使用されないないためにも、ホテルなどではパスポートを提出してもらって確認しているところもありますが、それらは店員の手間だけでなく、利用者にも面倒を増やすことになってしまっている。

二つ目は、高齢化社会への対策です。ハウステンボスの例をお話しましたが、地方の観光業界は今、主に50代が中心となりサービス業を担ってもらっている。その方々にIT化といってパソコンやタブレットを渡しても、操作に困ってしまう。

 

だから寧ろIoT化、インターフェースをアナログ化してよりシンプルに、例えば音声で機器を動かせるようにしておくのが有効だと思います。『動け・止まれ』と指示するだけで作動するような。そうすれば、高齢者がサービスを提供する側でも負担を軽減させることができるでしょう」

 

中国ではアリババによるアリペイ(支付宝)やウィーチャットペイメント(微信支付)といったQRコードを用いたモバイル決済の利用者が飛躍的に伸び、現在5億人を超えている。特にアリペイは現在、中国人観光客の海外旅行増大に併せて海外進出を強化しており、日本でも利用可能店が急増していて、注目を集めている。
「しかしそれもスマホとQRコードを照らし合わせるという手法をとっている限りは今までの決済方式と同じ。今後生体認証が普及し、その簡易さと信頼への理解が広まれば、消滅していく方式だと考えています」と、保科代表は自信を示す。

 

次世代のインフラをつくる

保科代表に、どうして起業しようとしたのかを伺った。
「私の父は大田区で鉄工所を経営する社長でした。私も小さい時から父の仕事を手伝いながら、いつかここを継ぐのだろうなと考え、大学でも経営学を学びました。父は職人気質で、会社の拡大にはあまり興味がないような人。だから私はまず大企業の業態を知りたいと思いIBMに入社し、そこで5年ほど学んだ後、次は急成長している会社を見たいという思いから、あるITベンチャー企業の門をくぐりました。

そこは従業員が数年で数百人も増えるような場所で、そこで自分も経営に携わり、株式上場も経験しました」

 

そして、いよいよ自分の起業について考えた時、その商材をどうしようかと考えた。

 

「私は90年代後半にネットが普及し始めたのを実際に感じていた、いうなればインターネット・ネイティブ第一世代。ケータイのiモードを使ってネットアクセスしていた時からブログに、そしてSNSを使った発信の時代まで体感しながら歩んできました。

そんなIT化の時代の流れと、父のような苦労して日本経済を支えてきてくれた世代から何を受け継ぎ、次に伝えていかなければならないかを考えた時に、高齢者を含めたより幅広い世代がITを利用しその恩恵を受けること、そして今、増加していて日本経済の重要な要素になるであろう外国人への観光業を振興するための新しい時代のインフラを整備することが、自分の仕事だと決意したんです」

 

2020年までに1000万人の利用者登録を目標としているという保科代表。「免許も保険証も無くても身分を証明でき、旅行に行ったり買い物ができたりしたら楽しいじゃないですか」という言葉が示す日本の未来像はすぐそばにある。

 

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【プロフィール】
保科秀之(ほしな・ひでゆき)氏…1984年東京都大田区出身。成城大学を卒業後、日本IBMに入社。その後ITベンチャーを経て2015年に「次世代指紋認証を使った決済ソリューション」を提供する株式会社Liquid Japanの創設から参加し、現職。

株式会社Liquid Japan
〒100-0004 東京都千代田区大手町1-6-1 大手町ビル4階
TEL 03-4530-3002
http://liquidinc.asia/
従業員数:30人(2016年12月現在)