株式会社VALCREATION 藤村雄志氏

伝説の外資系トップとして知られる新将命(あたらし まさみ)氏を塾長とする「新志塾」といった経営私塾の展開や、一般社団法人100年経営研究機構の運営事務局として永続する経営の秘訣を学ぶ場を創り出している株式会社VALCREATION(東京都渋谷区)。
その代表取締役を務める藤村雄志氏は、ベンチャー企業のインキュベーターとして、多くの創業と拡大を支援してきた。

藤村氏は、若手経営者にとって最も重要なものは「信用」であり、その信用を育てるために必要なのは「教育」であると話す。その真理にたどり着くまでに、どんな学びがあったのか。

そして、〝人創りを通じて社会に貢献する〟ことを理念に掲げ、着実に実績を積み上げてきた藤村氏が見据える100年後とは、どのようなものなのか。話をうかがった。

 

スタートアップ時に出合った生涯のメンター

藤村氏が起業したのは2004年のことだ。大学を卒業後に、中小企業の支援事業を主とする会社に就職した藤村氏は、そこで学んだことを礎にITを活用しながら経営者同士のネットワークを構築・事業化する会社を立ち上げた。株式会社VALCREATIONの前進である。

 

事業を通し、自身と同じ立場にある若き経営者たちと交流していくなかで、藤村氏はあることに気づく。それは事業を軌道に乗せ、会社の歴史を5年、10年と重ねていける経営者が、必ずしもビジネスマンとして優秀だとはいえないということだ。志半ばでやむなく廃業した経営者の中には、これまでの経歴も申し分なく、意欲も十分にある。藤村氏も一目置くような経営者が少なくなかったのだ。

 

起業の成功が、経営者の優秀さだけでは決まらないのだとするならば、成功する経営者と失敗する経営者、その違いはどこにあるのだろうか……。

 

その疑問が、藤村氏を駆り立てた。事務所を構えている渋谷界隈で、活路を模索し続ける若い経営者たちと一緒に勉強会を立ち上げ、まずは自分たちが学ぶ機会を設けることにしたのだ。

 

「上の世代から学ぼう」をコンセプトに掲げ、趣旨を説明すると、自身の若かりし頃に思いを重ねたのか、たくさんの先輩経営者が賛同してくれ、その経験を存分に語ってくれた。

 

「私も含め、若い経営者は同じ悩みを抱えていたということでしょうね。これがとても好評で、会員は経営者に限定していたのですが、毎回200名ほど集まりました。当時の経済界をけん引する方々とお会いすることができ、貴重な体験になりました」(藤村氏、以下同)

 

この勉強会を通して、藤村氏は「人生を変える出合い」を経験する。ジョンソンエンドジョンソンやフィリップスなど外資系日本法人のトップとして数多くの実績を残してきた経営のプロフェッショナル・新将命氏だ。この出合いをきっかけに、藤村氏にとって新氏は、知識や見識を教えてくれる先生(teacher)ではなく、人として、そして経営者としての在り方や考え方を授けてくれる生涯の師(mentor)となった。

 

何をやるかよりも、誰とやるか

新氏と出合った当初の藤村氏は、海外赴任歴も長い新氏からは、米国流株主資本主義に寄った話が聞けるのではないかと思っていたが、実際に話してみると、その予想は大きく裏切られることになる。

松下電器(現パナソニック)の創業者である松下幸之助が、松下電器は「人を作っている会社だ」と語ったのはあまりに有名な話だが、新氏も〝人財〟という言葉を使い、ことさら〝人〟の重要性を説いた。国籍や会社の規模は関係ない、ビジネスの原理原則の核となるものは人であると、わかりやすいフローチャートを使い、丁寧な解説を受けた。

 

「事業を成功させるために、本当に必要なことは何なのかを考え続けてきたのですが、結局のところ事業は〝何をやるか〟よりも〝誰とやるか〟が肝心なのだという結論にたどり着きました。そう聞くと、そんなことかと拍子抜けされるかもしれませんが。また、そのような方に私と一緒にやりたいと思っていただける自分にならないと、事業は成功しないと気づいたのです
若手起業家を成功に導くためには、会社に収益をもたらす良い取引が必要であり、良い取引はすでに成功した先輩たちの良い人脈に紐づいていることが多い。つまり、先輩方との良い人脈に恵まれると会社や事業は拡大・存続することができる。

 

そして、その良い人脈を築くには、何よりも〝信用〟が大事になる。ビジネスマンとしてのスキル、経験、キャリアが信用を勝ち得るならば、倒産しなくて済んだ若き経営者はたくさんいたはずだ。新氏に学ぶうちに、スキル、テクニック、キャリアを上回る何かが見えてくる。

 

ほどなくして藤村氏は新氏の講演会のマネジメントや、Webサイトの制作などを手伝うようになる。

ビジネスに重要なのは、〝人〟と〝信用〟であるという気づきを、多数の企業に顧問として迎えられ、コンサルタントを行いながら、次々と著書を出版する新氏の仕事ぶりを間近で見ることで探求したい。そんな思いがあったという。

 

日本は世界に誇れる長寿企業大国

新氏と行動を共にするなかで、藤村氏の考えを揺るぎないものにする出合いがあった。

ある日偶然目にした新聞記事で、一般社団法人事業承継学会の存在を知った藤村氏は学会に入会し、研究会に参加するようになる。同法人は、日本の老舗企業の事業承継に対する考え方や取り組みを研究し、そこから得たものを現代の企業経営にいかすことを目的に活動している。

100年、200年と会社を存続させるためには何が必要なのかを学ぶ機会を得ていくなかで、講師として参加していた日本経済大学の後藤俊夫教授に出合った。

 

後藤教授は、日本における長寿企業研究の第一人者として知られ、世界各地の長寿企業のデータベースを独自に作成していた。

 

「講演後に、勇気を出して名刺交換をお願いし、深く話を聞かせてもらいました。教えていただいたのは、長寿企業大国である日本の真実。日本にはなぜそんなに長く続いている会社があるのかなど、今まで考えたこともありませんでしたが、後藤先生のデータベースを拝見し、長寿企業大国の真実を知ったとき、本当に驚きました。膨大なデータの蓄積は、何にも勝る説得力を持っていましたね」

 

実は、日本で100年以上続いている長寿企業は2万5321社あり、第2位のアメリカの1万1735社を引き離し、ダントツの世界一であるという(2014年現在、出典100年経営研究機構)。

新氏との出会いで〝人と信用〟の重要性に気づきを得ていた藤村氏は、顧客を大切にしながら、これまでの歴史に恥じない商品をつくり続けることで暖簾を守ってきた長寿企業の経営、ひいては日本的な経営に深く興味を持った。

 

「そこから6年ほど後藤先生のかばん持ちで、講演会場などについて歩くうちに、会社や事業は、『永続しないと意味がない、世の中にどれだけ良いことをやっていても、続かないと意味がない』という価値観を得ることができたのです」

 

教育と信頼を育む場、経営私塾の立ち上げ

生涯のメンターである新氏、後藤教授をはじめ、さまざまな人との出合いを経験した藤村氏は、感銘を受けた先輩方の考え方や経営のメソッドを、より広く伝えたいという思いを強くしていく。経営者自身が信用を得られる〝人財〟となるためには、より多くの教育の機会が重要だと考えたのだ。

 

信用というものは何に紐づくのかと考えると、それは教育なんですつまり誰の薫陶を受けたのかが重要になる」との思いから、2011年に株式会社VALCREATIONを設立。『「人を創る人」を創る』をコンセプトに、教育とブランディングを軸としたサービスに特化した企業へと前進した。

ちなみに社名のVALCREATIONとは、「世の中に価値を創造する」という意味が込められている。

 

「新先生が日頃お付き合いされているのは、日本を代表するような大企業の幹部クラスばかりです。新先生の立場を考えれば当然のことなのですが、特に地方に拠点を置く経営者、そして若手の経営者にこそ、新先生のメソッドが必要なのではないかと考えました。

私が感銘を受けた新先生の言葉を多くの人に届けたいと思い、新先生の講義をDVD化したり、地方からでも参加しやすいように2日間に絞った研修を企画しました」

 

この2日間に絞った研修こそが、2013年にスタートした新志塾である。

東京・大阪・山口と各地で開催しているが、東京校はすでに11期を迎え、卒業生は120名を超えている。これまで経験してきたことのすべてを次世代リーダーに託したいと考える新氏の熱量は、毎回受講生を強く刺激・鼓舞する。

わずか2日間と思われるかもしれないが、朝から晩までみっちりと新氏の講義を受けながら、共に考え、ディスカッションを重ねた仲間の絆は強い。勉強会を立ち上げるなど、卒業生独自の活動も定着し始めている。

 

「新先生から薫陶を受け、密度の濃い時間を一緒に過ごし、同じ釜の飯を食った仲間。この結びつきは本当に強く、とても心強いものになります。新志塾の卒業生であるということも一つの信用になり、未来につながるネットワークを生んでいます」

 

新志塾で得たノウハウをいかし、新氏以外にも著名経営者の経営私塾を次々とプロデュースしていった。どの私塾も熱心な受講生が集まってくる。藤村氏が考えている以上に、教育の場は少ないのだと気づかされた。

 

過去を振り返ることで、現代をいきる経営者が学べること

新志塾などの経営私塾はあえて受講生の人数を絞り、小規模だからこそ実現できる密度に重きを置いているが、前述の後藤教授の研究成果をいかし、より広域な学びの場を創造することを目指して、100年経営研究機構を2015年に立ち上げるに至った。

オフィシャルサイトを見れば一目瞭然だが、3年以上の準備期間を経て各方面に呼びかけただけあり、そうそうたるメンバーが名を連ねている。もちろん藤村氏のメンターである新氏にも最高顧問として参画を快諾いただいた。

 

100年経営研究機構はその名のとおり、世界的にみても唯一無二、100年以上続く長寿企業大国を生み出した日本の風土や特殊性を尊び、その智慧と教訓を次世代に伝えていくことを目的に活動している。

後藤教授から日本的経営について学ぶなかで、藤村氏は江戸時代に活躍した思想家・石田梅岩を知る。百姓の次男として生まれた梅岩は、11歳で呉服屋に丁稚奉公に出た後、紆余曲折を経ながらも思想家への道を歩み始め、45歳で無料の私塾を開設し、神道・儒教・仏教を学ぶなかで確立した「石門心学」と呼ばれる思想を説いた。

 

その思想は、特に商人に広く受け入れられ、梅岩に影響を受けたと語る経営者も少なくない。

 

日本になぜ長寿企業が多いのか。その答えは、『実の商人は、先も立、我も立つことを思うなり』という梅岩の考え方が根底にあると藤村氏は言う。

 

「日本の長寿企業が営んできた商売と現代一般的にとらえられているビジネスは、似ているようで全然違います。ビジネスというのは、同業他社からいかに市場を奪うか、1円でも高く売るにはどうすればいいのかに主眼が置かれている。でも商売は、梅岩が唱えたように〝先も我も立つ〟ことが前提にあります

 

また、長い歴史を重ねてきた老舗企業は、非常に長期的なビジョンを持って事業に取り組んでいることも知られている。たとえば一般的な企業の事業計画は、短期1年・中期3~5年・長期10年程度を見越しているのに対し、老舗企業は短期10年・中期30年・長期100年と、今の市場や社会経済に捉われていない。

 

とはいうものの、頑なにカタチを変えずに事業を継続し続けているわけではない。たとえば、和菓子の名店である虎屋は、「伝統と革新」を家訓としている。

古いものを守るだけでなく、新しいものにもチャレンジする。価値観、考え方のベースにあるスタンスが変わらないだけであって、事業を守りぬくためには変化をいとわない果敢な姿勢が、老舗企業の歩みには見てとれる。こうした老舗企業の取り組みが、現代の経営にも十分にいかせると藤村氏は考えている。

 

新しい過去から学ぶことが、未来を創造する

長く愛される老舗企業は、共存共栄の精神や長期的ビジョン、そして改革の精神を備えている。確かにそうかもしれないが、そうした精神はどのようにして日本人に宿ったのだろう。

 

「結局のところ、日本人だからという話になるのだと思います。さらに言うと、日本人的な考え方が醸成された背景には、神道があると思います。私たち日本人は、ご先祖様に感謝しましょうと言われて育ってきました。都会ではなかなか見られなくなりましたが、田舎には先祖代々守ってきた墓があり、仏壇に手を合わせてご先祖様を敬えと教わってきました。

そうした日本人らしい思想が、ご先祖様から引き継いだものを良いかたちで守り続けようという自然な気持ちにつながるのだと思います」

 

明治13年創業のすき焼き店「ちんや」の六代目・住吉史彦氏は、100年経営研究機構主催とハリウッド大学院大学とで運営をする「100年経営アカデミー」の講義中で、「日本に長寿企業が多いのは、震災や天災が多かったからだ」と語っている。

 

天災に見舞われても、不屈の精神で乗り越えようとする。東日本大震災などの大災害に見舞われた際、その日本人の精神が世界中から賞賛されたが、どんな状況においても、「八百万の神様」に感謝し、自然と共存してきた日本人には、「おかげさま」という気持ちが根強くある。

さまざまな「おかげさま」に感謝することで、「新しい過去に触れて、懐かしい未来をその先に創造していく」という在り方に至ったのではと藤村氏。

 

100年経営研究機構で行っている活動は、過去の歴史を学んでいくことに違いはないが、その「過去」というのは、歴史の教科書に出てくる昔話ではない。老舗企業はこれも日本人特有といわれるが、控えめで謙虚な姿勢を美徳とし、表に情報を出していないと潔しとするところが多いため、まだまだ学ぶべき新しい発見がある。

藤村氏はそれを「新しい過去」と表現する。

 

「新しい過去を学ぶ100年経営研究機構では、社会を変えるというより、良い状態を次世代に託すために活動しています。過去から未来を創造していくので、未来はまったく未知なものではなく、懐かしさを備えている。懐かしい未来の中に、新しい時代を創っていきたいですね」と藤村氏は語る。

 

 

長寿企業のさらなる探求を、現代の経営に活かすために

2017年9月某日。渋谷区SYDホールのイベント会場を貸し切り、100年経営研究機構の第2回年次総会が開催された。上述の新将命氏や、一般財団法人日本総合研究所名誉会長を務める野田一夫氏といった日本を代表する経営者や研究者が参加するとあって、数百名が収容できるというイベント会場は参加者で埋め尽くされていた。

 

これだけの人数が集まるということは、やはり今、日本的経営が見直され、世の中に求められているからではないだろうか。経済だけでなく文化や生活スタイルまで、あらゆることに欧米の影響を受けた高度成長期を経て、成熟したとされる日本は、これから先の未来に向け、温故知新の精神に立ち返る必要があるのかもしれない。

 

自分がまず学びたい、そんな思いから始めた勉強会。その勉強会から人と人がつながり、多くの学びが生まれていった。その一つの集大成として、100年経営研究機構の活動がカタチになったことを思うと、「感慨深く、ありがたいと思います」と藤村氏。次世代に日本の宝ともいえる日本的経営、先人たちの英知を伝えなければという思いを新たにしたという。

 

「私たちが次に目標にしているのは、高等教育機関にすることです。同一の国家で、歴史から一度も消えることなく千数百年以上も続いている日本は、継続性という視点でみると、中国やイギリス、フランスよりも長い歴史を持っています。

たとえばハーバードでは、日本に滞在して日本的な経営を学ぶというカリキュラムが実施されていますが、長寿企業大国・日本というフラッグシップに基づいて100年経営を学べる場所をつくりたい。

教育機関という器ができれば、もっと多くの方に学びに来ていただけます。こうした教育に紐づく信用のネットワークを、世界中に広げていきたいのです」

 

そう語る藤村氏の瞳は100年先を見据えていた。

 

【プロフィール】
藤村雄志(ふじむら・ゆうじ)氏…1978年山口県生まれ。同志社大学商学部卒業後、株式会社ベンチャー・リンク入社。2004年起業後は、多くのベンチャー企業に経営参画し、経営企画、営業支援に注力。2011年、株式会社VALCREATION設立、代表取締役就任。2015年、一般社団法人100年経営研究機構設立、事務局長に就任。教育機会の創造を通じ次世代リーダーの育成に情熱を注いでいる。

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