10月からは電話による翻訳サービス開始、観光ガイドも

株式会社ONE PIECE/代表取締役社長 横田和典氏

通信インフラの販売代理店から始まった株式会社ONE PIECEは、「ライフスタイルのイノベーションに貢献し、さらなる喜びと感動を与え続ける」ことを経営理念とする企業だ。

外国人観光客やビジネスマンのニーズに応えて、2017年7月には、モバイルWi-Fiのレンタルを開始。年中にはコールセンターによる言語サポートもリリース予定と、時代に合った新サービスの展開に力を入れている。

 

元自衛官という異色の経歴を持つ創業社長・横田和典氏に、起業の経緯と同社の強み、今後のビジネスの可能性について伺った。

 

陸上自衛隊空挺団から一国一城の主へ

横田氏の出身地は北海道札幌市。高校卒業後、自衛隊の中でも屈指の精鋭部隊として知られる陸上自衛隊第一空挺団に入隊し、社会人として最初の2年半を過ごした。

その生活は、毎日過酷な訓練をこなし、駐屯地から出られるのも月1、2回程度という厳しいもの。「3日間眠らずに山ごもりをしたりとひたすら演習に明け暮れていたので、月1の外出ですぐ目の前のコンビニに出かけるのにも、行く度に幸せを感じていました」という毎日の中、その反動のように外の世界へ対する興味は増し、自衛隊以外のことをしてみたい気持ちが徐々に募っていったという。

 
その思いが行動に変わるきっかけとなったのは、お笑い芸人志望の同期に誘われて、大手お笑い事務所のタレントスクールを受験したことだ。見事合格し、月1度の外出を利用してライブに出場するように。しかしすぐに上官にばれ、話し合いの末「二束のわらじは無理だから、お笑い芸人を目指すなら芸人一本で頑張れ」と励まされ、仲間に送られて除隊を決断する。

そして、生活のために始めた通信系商材の営業代理店でのアルバイトで、初めて自衛隊以外の「仕事」を経験するに至るが、そこで横田氏は非常に大きな衝撃を受けることになった。あまりも楽だったのだ。

 

「仕事は営業で、周りはみんなつらいと言っていたんですが、空挺団の訓練に比べたらあり得ないほど楽で。例えば、自衛隊では腕立てが何回できようが給料は変わりませんが、ここでは10回より100回、500回できれば、成果報酬で給料が上がるんですよ。

またできるのが当たり前じゃなくて、ちょっとできただけでもすごく褒めてくれる。これは頑張るしかないと思ったんです」。

そんな思いで無我夢中で働く横田氏はすぐに頭角を現し、たちまちマネージャーに次いで会社役員に昇進。企業のあり方やマネジメントについて学ぶうちに自分で企業経営を考えるようになり、周囲の後押しもあって独立。23歳にして一国一城の主となった。

 

 

情報を届けることで生活を便利にしたい

独立にあたり、横田氏が選んだ業種は、NTTやソフトバンクなど大手を中心とした、インターネットプロバイダなど通信インフラの販売代理店だ。1990年代半ばから急速に広まったインターネットは、生活に様々な便利さをもたらしているが、年配者やITに馴染みのない人の中には、ネット環境の構築方法や使い方がわからないという場合も少なくなかった。

一方、23歳の横田氏にあるのは、営業の現場で鍛えたモノを売る力。その2つを掛け合わせた結果が通信インフラの販売代理店だったのだ。

 

「必要な情報を届けることでその人の生活が楽になるのであれば、それはものすごくやりがいがあるんじゃないか」との思いから始めた事業は、1人ひとりに親身に対応する姿勢で着実に業績を伸ばし、安定した売上げが上がるように。関連するコールセンター事業やシステム開発などのソリューション事業、メディア事業も展開し、2015年にはグループ全体で約300人のスタッフを抱えるまでに成長した。

 

モバイルWi-Fiレンタルで観光客の悩みを解決

2017年から始まったモバイルWi-Fiレンタルサービスは、同社にとって新しいステップとなる試みだ。

通信インフラの販売代理店だと、通信キャリアの販売戦略が変わった場合は従わざるをえず、どうしても経営的に厳しい場合が出ることが避けられない。今後のことを考えれば、事業の主力を自社の製品・サービスの販売へと切り替えていくことが重要であり、その中で立ち上がったのがモバイルWi-Fiレンタルサービスだからだ。

同社がここに目をつけた背景には、日本と海外のWi-Fi事情の違いがある。

 

もともと日本では、通信キャリア各社と契約したスマートフォンを持つのが一般的なため、海外に比べてフリーWi-Fiスポットの整備が進んでいない。カフェや交通機関の中には、フリーWi-Fiサービスを行っているところもあるが、その大半はセキュリティの問題から利用には事前登録などの手続きが必要だ。

対して海外では、キャリアと契約しないプリペイド型携帯を持つ人も多いため、街中にフリーWi-Fiが飛んでいるのが普通。そんな事情の違いから、日本の街中におけるフリーWi-Fiスポットの少なさや利便性の悪さは、外国人観光客やビジネスマンの不満の種となっている。同社のモバイルWi-Fiレンタルサービスは、主にこの悩みを解消しようというものだ。

 

貸出期間は1日から長期まで選択可能で、途中解約した場合も違約金などのペナルティはなし。機器の受け取りは自宅のほか宿泊先のホテルや飛行場などででき、返却も専用の封筒に入れてポストに投函するだけで完了する。手軽にネット環境が手に入るサービスは好評で、台湾向けの特設サイト「Wi-Fi SAMURAI」は、早くもネットの口コミで広がりつつあるという。

 

同社では、日本人向けの『Mobile Peace』ならびに、訪日外国人に向けた『Wi-Fi SAMURAI』の
Wi-Fiレンタルサービスを行っている(写真はお客様への受渡しの様子)

2020年を見据えプラスアルファで差別化を図る

モバイルWi-Fiレンタル業界は、新しい分野だけに大手企業は少なく、今はさまざまな企業が独自のサービスを展開している状態だ。

その中で同社の強みは、まず自分たちでホームページの構築からWebマーケティングまで、サービス提供に必要なすべてを行えること。それから、福岡と札幌に構えた自社コールセンターと連携して、Wi-Fiレンタルにプラスアルファのサービスを提供できることだ。すでに試験的にではあるものの、Wi-Fiを借りた観光客が飲食店などで言葉が通じなくて困った場合、電話をかわってサポートするサービスを提供。

2017年中には、英語、台湾中国語、中国語、韓国語の4言語への対応を目指して、システム構築が進んでいる。

 

「将来的には、『今東京駅にいるのだけれど靖国神社へ行ってみたい』というような相談にも対応し、メールに地図を送ってあげたり、行き方をガイドするサービスも考えています。もちろんネット上でも観光情報は検索できますし、翻訳サイトやアプリは年々充実していますが、どこまでいっても電話で教えてくれる方がいいというお客さんは必ずいるはず。

たとえニッチでもそのニーズには応えていきたいなと思うんです」と、横田氏。10月にはまず、「Wi-Fi SAMURAI」利用者を対象に台湾中国語の電話翻訳サービスをスタートし、その後は英語圏20カ国を対象に、同様のサービスを展開していく予定だという。

 
その先に見ているのは、2020年の東京オリンピック・パラリンピックだ。訪日外国人数はオリンピックの開催地決定以降、2014年には約1340万人、2015年には約1970万人、2016年には約00万人万人と増え続けており、開催期間中は1日当たり最大92万人の観戦客らが東京を訪れるとも予想されている。

 
一方で先に述べたようなキャリア契約の違いやセキュリティの問題から、事前登録なしに使える国内のフリーWi-Fiスポットの数はなかなか増えず、手軽にネット環境が手に入るモバイルWi-Fiの需要は減りそうにない。2020年に先んじて、他社と一線を引くサービスの確立とブランド化を達成するのが、現在の同社の目標だ。

 

 

時代に必要とされる商品を提供し続けたい

電話での翻訳サービスが軌道にのれば、「例えばスーツケースのレンタルや旅行者と手を組んで旅行代理店になるなど、主な顧客である旅行者・ビジネスマンにマッチする商品をプラスアルファで提供していきたい」と将来のビジョンを描く横田氏。だが同社が目指すところは、決してそれだけではないとも言う。
「僕らが子どもの頃は、映像はテレビで見るもので、リモコンで操作するのが当たり前でした。でも小さい頃からスマホに馴染んでいる僕らの子どもの世代は、スマホで見るのが当たり前で、タッチ操作が普通。

この10年、20年でデジタル化が急速に進み、人々のライフスタイルも大きく変化しています。その中で、〝ライフスタイルのイノベーションに貢献し、更なる喜びと感動を与える〟という使命を果たすには、時代のニーズに合わせて僕らも変化していかなければいけません。その一つがモバイルWi-Fiのレンタルサービスですが、今後も様々な商品を企画していければと思っています」

 

未来を見通すことはできないが、指針があればどんな環境でも行くべき道を見つけることはできる。10年、20年後に、横田氏は一体何を見せてくれるのだろうか。期待が膨らむ。

 

【プロフィール】
横田和典(よこた・かずのり)氏……1983年生まれ。北海道札幌市出身。高等学校卒業後、自衛隊に入隊し、習志野駐屯地の陸上自衛隊第一空挺団に所属。20歳で除隊後、通信系商材の営業代理店に就職し、営業マンとして数々の実績を積む。役員まで務めた後、23歳で独立。2012年に株式会社ONE PIECEを設立し、代表取締役に就任。現在に至る。

株式会社ONE PIECE
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