大畠正嗣 大和インフィリンク株式会社 代表取締役  (撮影:周 鉄鷹)

 

生きる目標を見失い、失意の底にいた男。かつて伝説の営業マンと呼ばれたその男は苦しんでいた。

大手投資用不動産販売会社の営業成績で長年トップをひた走ってきたその男は、気づかぬうちに過度なプレッシャーを自身にかけて仕事をしていた。数字をあげなければならないストレスからいつしか頭痛に苛まれるようになる。そこから自律神経失調症を患うのにそう月日はかからなかった。

男は「生きる目標が見いだせなかった」、会社を辞めてからの日々をそう述懐している。

 

失意の底にいた男を更にどん底に突き落としたのが、妻の早産であった。職を無くした夫が目標を見失い苦しむ姿は、いつしか妻の身体にも過度な心理的負担をかけていたのかもしれない。

待望の第一子は生死の境を彷徨う早産であった。

赤色灯が乱暴に道を塗り染めていく救急車のなかで、男はけたたましく鳴るサイレンを耳にしながら、妻の手を強く握りしめ、祈ったという。

 

「神さま、この子にチャンスをやってください」

 

ほどなくして男は祈りが通じたことを知る。保育器のなかで未熟児として生まれた我が子がそれでも懸命に生きる姿に勇気づけられ、やり直そうと自らの再生を誓ったという。

 

2年後。男の会社は不動産投資会社として前年比190%という売り上げをあげ驚異的な成長を遂げる。大和インフィリンク株式会社男の名は大畠正嗣。その言葉は明快だ。

 

「人間は誰しも職を失うリスクがあります。自分と同じように職を無くしている際に収入に苦しむ人を一人でも減らしたい。大和インフィリンクのミッションは社会のセーフティーネットになること。誰もが副収入を得られることを目指しています。この観点ですべてのオーナー様にマンション経営に成功していただく、それが私共の務めです」

 

投資用マンションの販売を手がける同社は、プロスポーツ選手から公務員、年収400万円前後の一般的なサラリーマンまで多岐にわたる顧客から信用を獲得し、2015年設立ながら平均入居率98.3%を誇る。担保評価が取れる物件であれば中古でも扱っている点も特徴的だ。

 

大和インフィリンクの社員の方々

不動産投資会社として前年比190%という売り上げをあげ驚異的な成長を遂げる大和インフィリンク株式会社の企業物語

不動産のメッカ、高円寺

杉並区は高円寺にオフィスを構える大和インフィリンク株式会社。高円寺という街は、23区内でも5指に入るほど不動産(賃貸)業者が多く、ある検索サイトでは、新宿、渋谷、池袋、恵比寿に続いて5番目という結果が出るのだという。

 

「ラーメン屋さんや古着屋さんの多い高円寺で、スーツを着ている人はほぼ賃貸屋さんです。賃貸屋さんが多いので、あえて選びました」(大畠氏、以下同)

 

 

大和インフィリンク株式会社はお客様にご紹介をした物件に一分一秒でも早く入居者を付けるため、高円寺にひしめく賃貸業者とのネットワークを形成している。

 

 

少年時代・学生時代

そんな未来の社長は、どんな少年だったのだろうか。

 

「小1から中3まで、ずっとサッカーをしていました。中学のときは千葉県で2位になり、関東大会にも出場しました。サッカー推薦も数校から頂いてましたが、中3のときに感銘を受けた名ドラマ『スクールウォーズ』を観て、それがきっかけで高校からはラグビーに転向しました」

 

しかし、ラガーマンとしても関東大会などで活躍するが怪我に泣かされ、杏林大学に入学後はアルバイトをしながらのバックパッカーが生きがいとなる。学生時代に訪れた国は実に17ヶ国に及び、東南アジアを中心に、アメリカ、メキシコ、オーストラリア一周の経験もあるという。

 

 

デベロッパーに入社

そんな大畠氏は就職活動では、バックパッカーらしくツアーガイドを志し、旅行代理店に狙いを定める。

 

「ところが、2.3社ほど受けたところで、たまたま帰省した実家で、不動産会社から送られてきた投資の本をたまたま目にしたんです。染み込むように本の内容が頭に入ってきました。運命的な出会いだった。そこで、ツアーガイドになるのではなく、自分の力で稼いで旅行に行こうという考え方に変わり、投資用不動産営業職の欄を探し始めました」

その結果、めでたく採用されたのが、個人投資家向けにマンション経営を紹介するデベロッパー(総合不動産会社)だった。

 

ただ入社までは良かったが、はじめは苦労の連続だった。

 

 

契約が取れない!

朝10時から夜9時まで、ひたすら電話を掛け続ける毎日。1日300件は『ガチャ切り』をされて月に1本さえアポイントが取れなかったという。結果1年目を終えてあまり売れなかった。

ただ、辞めようと思わなかったという。

 

「こんなに素晴らしい商品が売れないわけがないと思ったから辞める考えはなかったんです。将来的に家賃収入が入ってローンを組んでいる間に亡くなったらローンが0になり、多少の節税効果があるし実物資産にもなる。場所さえ間違えなければ絶対に良い商品なのだと。

だから私は親に買ってもらったり、もちろん自分でも買いました。当時私はローンがまだ通らなかったので父が保証人になってもらって買いました。

でも売れる営業マンではなかった。周りでは既に成績を出している人がいるのに、私は売れなかったんです。

そんなある時に、お客様に『今の時代はオレオレ詐欺があるから電話だと恐い。だからみんな電話を切ってしまうんだよ』と言われまして、その時期から気づきはじめたんです。

そこで少しお話したお客様に資料を送り顔写真付きの自己紹介シートを送るようにしました。

高校、大学、出身などすべての情報を書きました。時には自分の免許書のコピーも信用してもらうために送ってね。今まで8対2で自分が話していたがお客様に7対3で話してもらえるようになってきて、属性にあった提案ができるようになりました」

 

大畠氏がそこから更に開眼したのは、入社3年目の5月のことだった。

 

 

「ジャパネットたかた」で開眼

「ある休みの日に布団にテレビをつけて布団に入って寝転んでいたのですが、背にしていたテレビから流れてくる『ジャパネットたかた』のトークに自然と耳を傾けている自分に気付いたのです。

 

 

テレビに注意を払っているつもりはないですし、扱っている商品も言ってしまえば家電量販店で同じものを売っている。それでも、耳がトークに反応して興味を引かれてしまう。これを電話で言えばいいのではないかと思い、高田社長のように元気に明るくメリハリをつけて話すようにしました」

 

すると、それまでの苦労が嘘のように、3年目は倍、4年目はさらにその倍を売り上げたという。

こうして3年目からは、退社までトップ営業の座を守り続けることになる。

 

 

チームリーダーに。しかし…

5年目からは、チームリーダーを任される。ところが、最初の半年は売れない。

 

「20チーム中5位くらいでした。これではだめだと、自分で売るのをやめるようにしました。6ヶ月で12本、月に2本は自分で売っていたのですが、自分で売るのは月に1本にして、あとはチームのメンバーが結果を残すために、教えることに注力しました。教えることに時間を注いだら、半年後から1位になりました」

 

こうして、営業力を教育力へと転換させた大畠氏。これが、経営者である現在の姿へと繋がっている。とはいえ、もともと起業への意欲を持っていたわけではない。

13年間在籍した前職を辞するに至った背景には、止むに止まれぬ事情があった。

 

「グループリーダーになったあたりから、頭痛と眩暈、息切れがひどくて。自律神経失調症です」

 

原因は仕事のストレスかもしれない。数字に追われる職業に就いていながら、ストレスの解消が上手くなかった。

 

「ストレスなど関係ないとばかりに走ってきましたが、ストレス解消も大事だと、医者からきつく言われました」

 

発症後、3年ほどは我慢して働いていたが、治療もなかなか効果が見えず、商談中に頭痛や眩暈、足の痙攣など症状は悪化していき、やがて限界を感じ、退職することになる。

ちなみに現在は、2歳半になる子どもと遊んだり、温泉に入って気分をリフレッシュしたりと、自分なりの息抜きやストレス解消法を見つけたという。

 

 

ストレスは家族にまで

2006年に結婚した大畠氏だが、なかなか子宝に恵まれなかった。待望の第一子を授かったのは、2015年のこと。ところが。

 

「本当は8月に生まれる予定だったのですが、妻にもストレスがかかっていたようで、5月に1000gで生まれてきてしまいました。前の会社を辞めて10日後のことでした」

 

同氏を蝕んでいたストレスは、家族全員に悪影響を及ぼしていた。

 

「生まれてから3ヶ月はずっと保育器に入っていて、冗談抜きに、見ていないと死んでしまうのではないかと思いました。それで、毎日通って必死に子どもが生きようとする姿を見ていたら、自分も頑張ろうという気になったのです」

 

前職時代は、あまりの忙しさに、夫婦間の会話もあまりなかったという。退職することを告げたのも5日前だった。ストレスは夫人にも深刻に影響し、退社10日後の早産を招いた。実はそれ以前にも、流産を経験していた。

仕事優先に生きることで家族の幸せを犠牲にし、自分も体調を崩し、やっと恵まれた待望の第一子は3ヶ月の早産。「こんな生き方ではいけない」と人生を改めることを決意、「必死に生きている子どもの姿から勇気をもらって」大和インフィリンク株式会社を立ち上げたのは、同年11月のことだ。

退職に出産、そして起業と、2015年は激動の年となった。

 

 

信用がなく苦難の船出

資本金500万円はすべて自己資金、たった一人でのスタートだった。起業後も、もちろん順風満帆にはいかない。もっとも苦労したのは、覚悟していたとはいえ、信用がないことだ。かつてのトップセールスマンも退職したとなれば相手にされない。

最初の洗礼として、オーナー様にローンを組んでいただくことに大変な思いをすることになる。前職で使っていた金融機関は全て使えない。自分で一から探すしかない。

さらに、事業そのものも、信用がないため契約が取れない。自身や家族の健康、家族の幸せために退職したのに、さらに病状が悪化してしまうのでは…そんな不安もよぎったという。

 

「しかし、独立してうまくいかないのは当たり前です。その苦労の中で気づいたのは、前職で教わったことが全てだったということです。難しい局面にぶつかると前職で教わったことを思い出したり、こんなときはこういう風に教わったなと気がついたりすることはとても多かったです」

 

起業の苦労の中で気づかされた、「前職で学んだこと」の大切さ。中でも大きかったのは「マネージメント力」。自分が営業するのではなく、人を教え使うことで、同社の業績も少しずつ好転してゆく。

 

 

『人材教育会社』

「弊社は営業会社ではなく、『人材教育会社』」と語る大畠氏。その好例が、大学生のインターンシップを取り入れ、しかも、彼らに営業活動をさせていることだ。現在は、早稲田、慶応、中央、亜細亜、東京経済、武蔵から6名の学生を受け入れているというが、学生にマンション経営の営業などさせても、普通に考えればまず売れない。

しかし、同社の場合は売っている。入社2ヶ月目で契約を取った学生もいるという。

 

「いま、モチベーションの高い学生はとても多い。社会人よりも学生の方が意欲が高いと思うほどです。たとえば、学生のうちにメンタルを鍛えたい、世の中の仕組みや流れを知りたい、学生のうちに稼ぎたい、そういう意欲的な学生が多くて弊社とマッチングしています」

 

 

人材紹介サイト『キャリアバイト』では、掲載時のインターンシップの応募数は同社が1位だったという。

 

 

「『将来、企業を考えている学生』や、『ストレス社会に出ても使える能力を学生のうちに身につけたい方』などと書いて、大変な仕事ということは隠さずに応募を出しました。それが良かったようで、厳しい世界に飛び込みたい、という応募をとても多くいただきました」

 

 

企業秘密の人材教育法

ではこの『人材教育会社』、具体的にどのような社員教育をしているのだろう。尋ねてみると、「企業秘密なのですが」と前置いた上で、少しだけ明かしてくれた。

 

「時間と費用はとてもかけています。常に「お客様第一主義」「お客様目線」という点を第一に考えられるような研修制度を実施しています。営業時間を削ってでも教育に充てる時間を用意していることが特長でしょうか。

営業中であってもその瞬間が教育のチャンスであれば、営業活動を中止してでも、教育しますから。この教育法も前職で学んだことなのですけどね。

 

なぜ教育が必要なのか。それは最も大切なのが『お客様目線』を知ることだからです。『こういう営業をしたら、お客様はどう思う?』というお客様目線の実戦データを振り返り、検証、改善できるような仕組みを確立しています。こうしたことの繰り返しで弊社は営業力向上を果たしました」

 

 

社会貢献

現在、大和インフィリンクは独立リーグの野球チーム「福島ホープス」、サッカーJ3「福島ユナイテッドFC」、バレーボールチーム「VC長野トライデンツ」、日本最大級の水球クラブチーム「ブルボンウォーターポロクラブ柏崎」のスポンサーになっている。

福島のスポーツチームに関しては、同氏が「大きな地震や災害があった地域は、必ず何かのスポンサーという形で応援する」と語るように、被災地支援の目的もある。

また、今現在進めているプロジェクトは「ご縁で知り合えた、ある学生ボランティア団体と協力しあって、バックパッカー時代に見てきた貧しい地域に学校を建てることもすすめています」と社会貢献活動に対して意欲的だ。

 

 

他にも、昨今の社会状況を鑑みシングルマザーを支援することを今後の目標として挙げている。雇用に関しても、元芸人や元役者といった変わり種を「彼らのように夢を持っている人は、行動力があり、周りの人を巻き込んで大きなことを成し遂げる」と、経験を問わず雇い入れている。

 

 

「本当の意味での、不動産投資のプロを育てたい」と語る大畠氏。きちんとした社員教育を受けられないために知識もなく、顧客へのフォローも行き届かない営業マンが多い中で、同社から真のプロを一人でも多く世の中に送り出したいという。

個人技を人材教育に還元してプロ集団を育て、そのプロ集団が売り上げた利益は社会貢献という形で経済に還元する。

トップ営業マンの地位を自らのゴールとしなかったとき、同氏の人生は大きく広がり前進した。2015年設立、「10年以内に上場したい」という同社の今後が楽しみだ。

 

大畠正嗣……1978年生まれ千葉県出身。東洋大学付属牛久高等学校卒業。杏林大学卒業。大手投資用不動産販売会社に13年務める。

趣味:子供とお出かけ
特技:泣いている赤ちゃんを泣き止ませる
   人に道をよく聞かれる
好きなテレビ :カンブリア宮殿、笑点
好きな食べ物 :牛丼、トマト
好きだった漫画 :キン肉マン、キャプテン翼
好きな言葉 :
①難題のない人生は『無難な人生』難題のある人生は『有難い人生』。
②大切なのはどれだけ沢山の事をしたかではなくどれだけ心をこめてかだ。

 

大和インフィリンク株式会社

〒166-0003 東京都杉並区高円寺南4-6-10 プライム高円寺 6F

℡ 03-5377-0190

http://yamato-infilink.co.jp/

設立:2015年11月13日

資本金:2000万円