ポノス株式会社/江戸オフィス スタジオ長 板垣 護氏氏

今やゲームはスマホを使って場所を選ばず楽しめる時代になった。ポノス株式会社の板垣さんは「これからのゲームは一人で遊ぶものではない、観客を巻き込むテンターテイメントにしたい」と話す。

誰も真似できない
ゲームを生み出す

ポノス株式会社は1990年に京都で創業したゲーム制作会社だ。創業当時はスーパーファミコンやプレイステーション用のソフトを作成していたが、現在では主にスマートフォンで遊ぶ「モバイルゲーム」に力を注いでいる。
モバイルゲームといえば、2016年に大ヒットしたポケモンGOが記憶に新しい。スマホにアプリをダウンロードするとすぐに遊ぶことのできるモバイルゲームは、他のゲーム機用ソフトに比べて生産コストが低く、新規の参入がし易い。2010年代から急速に普及したモバイルゲームは、近年では市場規模3兆円に達し、日本経済の大きな産業の一つになっている(業界動向SEARCH.comより)。
業界で働く者の平均年齢は若く、ほとんどが20代、30代。業種としての平均収入は比較的高いが、その反面、ゲームのヒットの如何に左右されることも多く、浮き沈みの激しい業界でもある。

 

ポノスは2012年にリリースした「にゃんこ大戦争」が2017年9月現在で3200万ダウンロードと大ヒットし、今、波に乗っている会社だ。

大ヒットしたにゃんこ大戦争

 

「にゃんこ大戦争」のヒットを機に東京に進出、「江戸オフィス」を構えて東京のゲーム業界に殴り込みをかけている。その最前線で指揮を執っているのが、今回お話を伺った板垣護さんだ。
「弊社のコーポレートスローガンは『ナナメウエ、イケテル?』。常にオリジナリティと先見性・独創性を持ったゲームを開発しています」(板垣さん)

 

ポノスを創業したのは現在の代表取締役社長兼CEO辻子依旦さんの父。当初は大阪で開業したが、その後京都へ移転した。京都はゲーム開発に必要なクリエイティビティが刺激される土地だからというのが理由だった。勿論、京都にはあの任天堂の本社もあり、ゲーム開発会社が幾つも軒を並べているメッカでもある。そこでポノスは当初は家庭用ゲーム機向けのソフト、そしてその後はガラケー用のゲームの開発も行っていた。

 

「創業以来、約30年にわたってゲームの開発を行っています。これは入れ替わりが激しい業界では長い方ですね。家庭用ゲームの衰退をいち早く予見してモバイルゲームに目を向けた辻子社長は先見の明があったと思います。私と社長は1983年生まれで同い年。二人とも独創的で他がやらないことをやるのが好き。これからも他がマネできない面白いものを考え、作っていきたいですね。それが他社との差別化にもなると思います」(板垣さん)

 

ポノスは最近「私、転がります」という人の生首を転がして遊ぶゲームをリリースしている。確かに、独創的だ。

 

 

大学進学を諦めたからこそ
学歴無用の業界で勝負する

この先鋭的な会社で先陣に立つ板垣さんとはどんな人物だろう。

 

「私は広島で生まれ高校の時まで暮らしました。通っていた高校は広島県下一の進学校。同級生は東大や京大など、名門校に進む奴ばかりのような所でした」
しかし、板垣さんは大学に進学しなかった。経済的な問題がその理由だった。

 

「そんな理由で進学を諦めたものだから大学生活を楽しんでいる同級生を見ていると、やはり思う所があって。それで学歴が関係なく、実力で上にいける業界に進もう、と思いゲーム業界を選んだんです」
そうして18歳の時、ゲーム会社が多い東京に出てくる。ゲーム業界に行きたい、とは言うものの、全くの未経験。それでもバイトとして業界に入ることができ、それからがむしゃらに働いた。ゲームのシナリオを作り、どんどん企画を持ち込んだ。そして幾つかの会社でキャリアを重ねて後、ゲーム業界の大手バンダイナムコに入社することができた。
「そこで、ソーシャルゲームに出会った。当時はまだSNSが今ほど普及する前。日本で名前が知られているのはミクシィくらいなもので、フェイスブックはまだ海の向こうで流行っているだけ。けれどもその中で注目されていたソーシャルゲームは、必ず日本で流行る!と思ったんです」

 

早速、板垣さんは日本で普及していたミクシィ用のゲームを企画した。しかし、その企画は通らなかった。バンダイナムコ程の大きな会社だと、やはりスピード感の面で難があるのかもしれない。
そんな中、板垣さんに目を付けて声を掛けたのがKLab株式会社(最近では、大ヒット作「ラブライブ!」などで有名)だった。KLabではゲーム事業の立ち上げに携わり、ヒット作を手がけた後は、株式会社ネクソン子会社のボードメンバーを勤めるまでになった。

 

「振り返ると18歳からずっとゲーム業界にいます。この業界は10本に1本ヒット作が出ればイイ方。けれどもヒットすれば大きい。ハイリスクハイリターンの世界です。だから常に新しいアイデアを探しています。そんな中で今、私が注目しているのがeスポーツです。実はこのeスポーツが面白い、これから注目していこう、という点でポノスの役員達と意気投合して、ポノスに入ったんです」

 

eスポーツが一般にも浸透し
ゲーマーが称賛される時代に

ゲーマー社員として世界的な活躍をしているガリレオ選手とがっちり握手する板垣氏

ポノスが今、力を注いでいるのが、eスポーツへの取り組みだ。
eスポーツはゲームの対戦を競技の一つとして捉えスポーツ化したもので現在、世界規模の大会も幾つか開催されている。そこでは賞金がかけられていて、優秀な成績を示した選手には年収1億円を超える者もいる。今後オリンピック競技にすることも考えられている、期待されているスポーツだ。

 

「ポノスは現在、選手の支援を積極的に行っていて、『ゲーマー社員』として社員採用なども行っています。他にも競技用ゲームの開発や、eスポーツ大会の協賛・主催などもこれから行っていく予定です」

 

ゲーマー社員として特に活躍しているのがガリレオ選手だ。彼は数々の大会で際立った成績を残していて、最近では10月27日~29日にかけてカナダ・トロントで行われたeスポーツ大会「カナダカップ2017」の一部門で優勝を飾っている。
「ゲームは一人で遊ぶもの、というイメージはあると思います。しかし今後はそれだけではないと思います。今、若い世代はユーチューブでゲームのプレイ画面を観客として楽しんでいる。だからこれからはゲームをプレイするだけではなく、実際にプレイしない観客も楽しめる一つのエンターテイメントにしていきたいと考えているんです」と話す板垣さん。

 

「目標は、ゲームが上手い人が尊敬され、ヒーローとなる世の中にすることです。昔なら、『いい大人がゲームなんか』と言われていましたが、今電車や街中など至るところでスマホでゲームを楽しんでいる大人たちがいます。これからは、ゲームが上手いことが評価される時代になる。周りから賞賛される時代になると思います」

 

そうなれば、プロゲーマーが職業として認められ、ビジネスとして確立するようになる。そしてその時、使われているゲームを自分が作りたい、と板垣さんは来るべき未来について話す。

 

 

「私は自分の作ったゲームがパクられるのは一向に構いません。寧ろそれによって多くの人がゲームをしてくれ、競技人口が増えたほうがいい。私が目指しているのはゲームを一人で楽しむものではなく、多くの人と楽しみを共有するものにすること。見ているだけで楽しめる新しいコンテンツです」

 

そう話す板垣さんの想像する未来のヴィジョンは、すぐ近くに迫っている。

 

【プロフィール】
板垣 護……1983年、広島出身、高校卒業後、上京。バンダイナムコゲームス、KLab、ネクソン子会社などを経て、二年前より現職。

ポノス株式会社
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