◆取材:綿抜幹夫

織物の町・群馬県桐生市に位置する株式会社コスモは、地域の伝統を受け継ぎ、テキスタイル製品を中心に開発と製造を続けてきた会社だ。

一見、時代のニーズに逆行するかのような「家庭用のれん」を看板商品として大切に育て、近年では、電子イオンクラスターを活用した独自の健康寝具が新たな注目を集めている。

 

「他社にはないモノづくり」はいかにして進められてきたのか。久保田勝利社長に話を聞いた。

 

 

地場産業の特長が危機に 突破口は「のれん」に対する自信と努力

 

株式会社コスモがある群馬県桐生市は、日本有数の機業都市である。

奈良時代から絹織物の産地として名を轟かせていたこの町は、「桐生織」と呼ばれる高級織物を特産品として発展してきた。

「西の西陣(京都)、東の桐生」と称されるほどの勢いがあり、その威光は桐生明治館、桐生織物記念館など多くの文化財でうかがい知ることができる。

 

モノづくりの観点から興味深いのは、桐生では江戸時代以降、積極的にマニュファクチュア(工場制手工業)を導入して成功したことである。

各工程を細かく分割し、分業体制で製品づくりに取り組む方法は、天保年間(1830〜43年)にはすでに確立していたといわれ、商都・大坂や錦織物の尾張と並んで、日本におけるマニュファクチュアのといえる。

そしてその伝統は、今もしっかりと息づいているのである。

 

「私どもの仕事では、絵柄を作る人は絵柄を作ることに専念し、縫う人はひたすら縫うだけ。ですから、地域の中に様々な加工業者さんがひしめきあっていて、クルマでものの20〜30分も走れば全部回れます。

お父さん、お母さん、息子さんと、ご家族3人でやられているような会社もいっぱいあります」

 

久保田勝利社長はこう話す。

日本の都市において、180年以上も昔に始まった生産方式が今日も受け継がれている例はそう多くはない。しかしながら桐生の大きな特長ともいえるマニュファクチュアが、いま、ある危機を迎えているのだという。

 

「これまでは、販売は問屋さん任せでした。〝あなたがたはとにかく良いテキスタイル製品を作ることに集中なさい。あとは私たちがしっかり売るから〟ということで長年やってきたのです。

ところがご承知のように、中小零細企業は、そのやり方ではとても立ち行かない時代が来てしまいました。

自分たちで販売戦略を考え、商品の見せ方、パッケージの仕方を工夫し、ルートを確保しなければならなくなったんです」

 

企画開発から製品化、販売までトータルなシステムの構築を迫られた久保田社長。その胸中には、こんな言葉が去来していた。

 

──黙っていても売れる商品を作れ──。

 

「私はコスモを起こす前に、宇野産業という会社に勤務していました。有名百貨店や大手量販店などとの取引も多い、地域の有力企業です。

在籍当時、日本最大の寝具メーカーのある方から、〝ウチの営業マンには売り上げノルマがあり、寝具はいいけど歴史の浅いインテリア部門は苦労している。あなた、黙っていても売れるものを持ってらっしゃい〟と言われたんです。

最初は〝なんと都合のいいことを言う人か〟と思いましたが、ハタと気付きました。〝いや違う、これは真理だ〟と。

黙っていても売れるということはそれだけの魅力が商品に備わっていて、しかも、絶対に他社で作っていないもの、ということです。当時衝撃を受けたその言葉を、久しぶりに思い出しました」

 

絶対に他社で作っていない商品。

 

それを見つけるために久保田氏が行ったのは、業界内の徹底したウォッチ&リサーチである。

その結果、たどり着いたのが、今や同社の看板商品、「家庭用のれん」だ。

人気マンガ「ワンピース」のキャラクターのれん。他社では扱えないブランドを持てたことが同社の強みとなっている。

 

「〝今どき、のれんなんて掛ける家はほとんどないですよ〟と、ずいぶん言われました。しかし、私には自信があったんです。

のれんは、すばらしい絵柄のものが1枚あれば部屋をガラリと変えてしまう力を持っていますし、日本の四季を、季節ごとにたった1枚ののれんで表すこともできます。

しかも高価な美術品と違って取り扱いにもさほど気を遣いません。相田みつを先生の書や、ディズニーのキャラクター、それから今、最も若者たちに人気のワンピースのキャラクターなど、他社が扱えないブランドを持てたことも大きいですね。

のれんという商品は、作るのはわりあい容易なのですが、毎シーズンごとに売れる絵柄を考案するのは至難の技です。カーテンなどは総柄ですが、のれんは一枚柄でしょう? これがたいへん難しい。ですから大手も手を出してきません」

 

これが、大ヒットした。最も好調な時期には、一絵柄で年間十万枚が売れた年もあったという。

ちなみに現在、日本国内で流通している家庭用のれんのうち、およそ50%が同社の製品だという。

 

 

敷いた上に寝るだけこの春、「スーパー・コスモシート」稼動へ

株式会社コスモの創業は1981年。

この30年間に取り扱い品目は、そののれんをはじめ、各種ウィンドファッションカーテン類やスクリーン、クッションなどの総合寝装インテリアテキスタイル製品、デジタルインクジェット転写プリント製品の開発・企画・製造、さらには予防医療用品の研究開発・製造と多岐に渡ってきた。

中でも近年、業績を伸ばしているのが、電子イオンクラスターを活用した健康促進商品群である。

 

きっかけは、群馬県繊維工業試験場で、マイナスイオンを発生するのれんが開発されたことにある。

群馬県は、織物とともに古くから染色業も盛んで、企業から染色の研究や技術開発、試験依頼を請け負うことが多かったため、高いレベルで様々な取り組みがなされてきた。

のれんづくりの第一人者であり、新たな事業を模索していた久保田社長が、これを見逃すわけはない。

 

「他社にはない製品をつくる、またとない機会がやってきたと直感しました。

最近ではようやく知られるようになってきましたが、老化や生活習慣病の原因の多くは活性酸素なんですね。

活性酸素を中和させるにはどうしたらいいか。大学の先生を訪ねるなど、いろいろ学んでいくうちに、マイナスイオンが非常にいい効果をもたらすことがわかってきました。

そこで、弊社がこれまで培ってきたテキスタイルのノウハウにさらに研究を重ね、健康に寄与する商品を世に送り出したいと日夜夢中で開発に取り組みました。

そうしてできあがったのが、のれんのようにちょっと触れるのではなく、ダイレクトにその上に体を横たえる寝具商品、『コスモシート』です」

 

「コスモシート」は、多種多様な天然鉱石を混合し、微粒に粉砕してから焼結、さらに再粉砕するという工程を通して、マイナスイオンを発する原料を得ている。これは「MOONパウダー」と名付けられ、もちろん商標登録済。

一定量の「MOONパウダー」を寝具(シーツ)に塗布することで、マイナスイオン、さらには遠赤外線の放射を促進するのだ。

 

また、同社の製品は「平成16年度群馬県中小企業革新支援対策費補助金」の対象となっており、県から研究開発の後押しを受けている。

こうした、いわゆる「健康グッズ」に対して補助金が支払われるケースは極めて稀だというから、それだけ高い期待が「コスモシート」に寄せられているということだろう。

 

発売以来、10万組を超える販売実績を誇る「コスモシート」は、さらに「コスモシートⅡ」(大が95㎝×160㎝、小が95㎝×53㎝)へと発展し、「夜中にトイレに行く回数が減った」(会社社長)、「関節の痛みが続いていたが、使用して2週間ほどでほぼ痛みが消えた」(60歳男性)、「2回手術をしなければダメだと言われていたアトピー性鼻炎が、このシーツを1週間使ったらスッキリ治ってしまった」(小学生男子)など、利用者の感謝の声が同社には多数寄せられている。

ちなみに発売以来、今まで一点も返品はないという。

 

「オリンピックの重量挙げで有名な三宅義信先生との出会いも重要な出来事でした。

先生は長年、アスリートとして体を酷使されてきましたから、節々の痛みで眠れない日々があったといいます。そこで様々な治療や商品を試した結果、〝あなたの商品が最高にいい〟と。

 

アスリートの方たちは、普通の人に比べて平均寿命が7歳も短いというショッキングなデータがあります。私はこれを何とかしたかった。

そこで『コスモシート』よりさらに強力にマイナスイオンを発生する『ヘキサシートⅡ』を作りました。

実は三宅先生はこの間、たいへん体調を崩されていたのですが、〝『ヘキサシートⅡ』を毎日寝る時に使用したおかげで回復も速く、もう手放せませんよ〟とのお言葉までいただきました。

今ではウチの特別名誉顧問になっていただいています」

 

そしてこの春、「コスモシートⅡ」をさらにバージョン・アップした「スーパー・コスモシート」(100㎝×200㎝)が市場に登場の予定だ。

いまや現代人の仇敵となった活性酸素の撃退に取り組み、アスリートまでも視野に入れた新たな健康事業が、コスモのもう一つの柱になりつつある。

 

 

ものづくりに最も重要なのは「絶対にできる」という信念

他社が見向きもしなかった「のれん」というニッチなアイテムに力を入れて成功し、電子イオンクラスターのような、一見するとテキスタイル業界とは縁遠く思える分野に素早く反応するなど、手腕を存分に発揮してきた久保田社長。

その洞察力は、いったいどのようにして培われたのだろうか。

 

「〝絶対にできる〟という信念を持つことが大切だと思います。

正しい動機によって、正しく行動していけば、あとは必ずや宇宙の働きによって形になる時が来ると信じること。

この場合、正しい、とはどういうことかと言えば、自分だけが利益を得ればいいというエゴを捨て、地域や国、やがては人類全体に寄与できる仕事をしようと志すことだと思います」

 

エゴを捨てること。それを仕事の実践の中に求めていくなら、より良く他者の話に耳を傾けること、良好なパートナーシップを築いて協業することなどにつながっていくだろう。

 

ここに一つの、驚くべきエピソードがある。

「ある時、やけに『コスモシート』の注文が多く入り始めた時期がありました。

調べてみたら、なんと鶴見隆史先生が開発された製品の名前が、まったく同じだったんですね。

鶴見先生といえば、日本の酵素栄養学の第一人者であり、低レベルの電離放射線を使ったホルミシス療法の推進者でもあります。びっくりして会いに行ったら、〝これはいい。ベータ線というすばらしい電子が非常に多く出ており、まさに私が求めていたものがこれです〟と、弊社の『ヘキサシートⅡ』を絶賛されました。

以来、どんどん広めてくださって、アドバイザーとしてもお世話になっています」

 

けっしてあきらめない強い信念と、社会や人々に本当の意味で貢献しようと自らモチベートすることで、ある瞬間、このような決定的な邂逅がもたらされるのだ。

 

桐生という土地が育んだ伝統を縦糸に、エゴを捨てた共生・共存の企業理念を横糸にして紡がれてきたコスモの30年越しのタペストリーがここにはある。

創業31年目に入った今年、果たしてどんな〝織物〟を見せてくれるのだろうか。

 

同社の今後と、「スーパー・コスモシート」の社会貢献に大いに期待したい。

 

 

久保田勝利(くぼた・かつとし)氏

1942年、群馬県桐生市生まれ。

群馬大学工学部応用科学科を卒業後、宇野産業株式会社に入社。

10年間勤めたのちに退社し、1981年に株式会社コスモを設立し、代表取締役社長として現在に至る。

趣味は、読書、映画、クラシック音楽鑑賞、旅行。

 

 

株式会社コスモ

〒376-0013 群馬県桐生市広沢町4-2280-1

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