閉鎖事業の後処理会社が、国内屈指のクラッドメタル専門技術商社に

新たな製品開発の陰に、新たな材料あり──。

電気自動車や電子家電、IT端末機器など、次々と発表される新製品の裏には、表立っては見えないが、とんでもなく精緻で磨き抜かれた材料技術が実は隠れているという。

異なる種類の金属同士を接合し、新たな性質を持った金属材料をつくりだすクラッドメタルなる技術だ。

 

この技術が今、日本のモノづくりの将来を占う意味で、大きな意味を持つとして注目されている。

そこで斯界の第一人者とも言うべき、バイメタル・ジャパン(神奈川県藤沢市)の河合禧男氏に話を聞いた。

 

 

優れた金属パフォーマンスがモノづくりの鍵を握る

まずはクラッドメタル技術について簡単に触れておく。

ひと言でいうと、ある金属の表面と他の金属(通常は異種金属)の表面に圧力を加え、延ば(圧延)し、接合することで新たな金属材料をつくる技術のことである。

互いの金属は圧力によって原子間接合される(接着剤等は使用されない)。

出来上がった材料は、単一の金属では得られない性質と機能を持つことになり、これがモノづくりのさまざまなシーンで、今や不可欠とされているのだ。

430ステンレスを芯材として銅を接合した、銅/ステンレス鋼

 

「分かり易い例を挙げますと、電気のブレーカーですかね。

ブレーカーの中には膨張係数の高い金属材料と、低い金属材料をくっつけたクラッドメタルが使われていますが、それには、一定以上の電気量が流れると、熱を帯び、必ず反り返るという性質があります。それによって金属が離れることで、電気が遮断され、ブレーカーが飛ぶという仕組みです。

このようにそれぞれ膨張係数の異なる金属材料を張り合わせたクラッドメタルを、とくに〝バイメタル〟と呼びますが、よく知られているところでは、温度制御器、サーモスタット、サーマルプロテクターとして方向指示器などのモーターにも使用されています」(河合氏、以下同)

言わずと知れた、これが同社社名の由来である。

 

接着剤を使った接合と比べると、クラッドメタルは原子間で結びつき、熱処理で強度が増強されるため、相互に相手材の領域まで入り込み、いわば「自」と「他」の区別が半ば無くなるまで結びつき合う。接着剤を用いた場合は、2つの金属はあくまでも「自」と「他」のままだ。

 

ではメッキと比べるとどうか。

メッキはそもそも層が薄く、厚くすることが困難である。例えばアルミと軟鋼を接合する場合、アルミ溶融メッキでは、鉄とアルミメッキ層の間にもろい性質の金属間化合物質ができてしまい、これが時間の経過とともに表面層に達し、錆や劣化の原因になる。

対してアルミクラッドは、金属間化合物質が発生する余地がないので、バイメタルの強度はずっと保たれたままということになる。

 

「自動車にはさまざまなモーターが使われていますが、その中には必ず制御装置が働いていて、これはクラッドなしには成立しません。冷蔵庫やコピー機なども同様です。

目の前に取り出せる分かり易い技術ではありませんが、かといって何かで代用できる安直な技術でもありません。

その意味では、モノづくりの根幹を支える、掛け替えのない技術なのです」

優れた金属パフォーマンスこそが、製造業を制す。モノづくりに携わる人なら痛いほど身に染みていることだろう。その裏にクラッドメタルあり、というわけだ。

 

 

圧倒的!!強み クラッドの生き字引とクラッドの「世界地図」

バイメタル・ジャパンの創業は、1999年。

世界的な半導体メーカー、日本テキサス・インスツルメンツ(以下、TI)の金属材料部の閉鎖に伴い、その事業継承会社として設立されたのが始まりだ。

 

「私自身、TIには30年近く勤務しました。99年の段階で金属事業部門売却の方針はすでに決まっていて、連動して営業部隊もクローズすることになりました。

しかし単に閉鎖したのではユーザーサポートができないので、後処理の引き受け会社として設立したのです。

したがって当初は、積極的に事業を展開するというより、継続業務を粛々とやらざるを得なくなったと言ったほうが実情に近いかもしれませんね」

 

しかしそれはそれ、

「引き受けた以上、私はこの会社をそれだけで終わらせるつもりは毛頭ありませんでした。

クラッドメタルというのは、非常にブラックボックス的な要素の多い技術でしてね。世の中に数多ある金属の性質を熟知していなければなりませんし、どの金属とどの金属を圧延接合させるのが適切か、そのあたりの知恵は昨日今日の会社がおいそれと真似のできるものではありません。

 

私自身、金属材料とクラッドに長年携わってきましたし、またTIはその大きなネットワーク力で、アメリカ、ヨーロッパを中心に、世界のおよそ7割のクラッドのシェアを持っていました。

もちろん、世界のどこへ行けばどんな種類の金属がどれくらいの価格で入手できるかも分かっています。そのノウハウを引き継ぎ、活かすことができれば、これほど心強い武器はありません。

 

現に、我々ほど経験的にこの分野を分かっている会社は、他にはないと思いますよ」

 

要するにクラッドの〝生き字引〟と、クラッドの〝世界地図〟が合体したようなものだ。これで後処理だけに甘んじていたら、バチが当たるというものだろう。

よりも強度や耐久性にすぐれ、且つ軽量、低コストを実現。外見は銅そのもので、古美的な美しさを生かしたままさまざまな用途への応用が可能となっている
(写真:壁面への使用例)

 

生産拠点へ材料直接投入 専門技術商社としてリスク回避

同社を語る際に、もう1つのポイントとなるのが「専門技術商社」という点だ。

 

商社であれば、事業の重心は自ずと販売に置かれる。

したがって同社では自前の製造拠点を持たない。

主に世界の提携工場に委託し、材料となる金属は産地から直接そちらへ送らせる。できあがった製品はこれまた直接、提携工場から顧客(日本及びアジア各国)に納入するという、ユニークな事業形態を取っているのだ。

 

物流コストの削減や納期の短縮を考えると至極当然のことのように思えるが、世界のどこにどんな金属があり、それをどこの誰が欲しているか、例の〝世界地図〟が手中になければ、到底できない相談だろう。

「ただし物流の逐一はあくまで日本で把握している必要がありますし、コンサルティングや特注品の開発などはすべて我々がやります。

いわば、設備や材料、生産拠点を自前で持つリスクを回避しながら、クラッドの肝心の知恵やノウハウは、国内から流出しないようにブラックボックス化しているわけです」

 

氏はこうして今、確かな手ごたえを感じているようだ。

ここ数年は海外での売り上げが急速に増えており、アジアを中心に、現在の5%から来年は10%、2年後には15%を見込んでいるという。

 

とはいっても氏の頭に、海外に工場をつくったり、本社機能を移す気などは毛頭ない。

「モノづくりの根幹を支える分野ではあっても、単価が安いですからマーケットのサイズ自体は、実はあまり大きくないんです。

その意味ではニッチと言いますか、非常にコンパクトな業界なので、現在の事業形態で十分にやっていけると考えています。

またこれからの日本は、原発事故の影響もあって、代替エネルギー技術への関心がより高まるでしょうし、その開発が進むと新しい装置が必要とされます。

その時には必ず新しい金属材料も求められる筈です。そこに我々の大きなビジネスチャンスがあると確信しています」

 

中国へ、アジアへと草木も靡く昨今の風潮を一喝するかのように、氏は語気を強めて言う。しかしそれでも氏の関心はやはり、あくまで日本と、日本のモノづくり企業にあるようだ。

 

「私は必ず、円安の時期がやってくると考えています。

そうなれば、再び日本製品の輸出が活気付きます。その時を信じて、日本の製造業を応援して行きたい。

私どもがどこに1番の重点を置いているかというと、日本に本社、研究所、開発拠点があるユーザーさんをサポートすることです。

 

異種金属を接合する技術やノウハウを新たに構築しようと思ったら、最低でも3年から5年はかかります。ですからそこは私どもの技術を活用していただく。

日本製品が再び世界で輝く日のための、黒子に徹する気持ちでこの仕事を全うしていきたいと思っています」

 

モノづくりとモノづくりの、文字通り〝圧延接合〟である。日本のモノづくりの将来を占う意味で、大きなヒントになるのではないだろうか。

 

 

河合禧男(かわい・よしお)氏

神奈川県横浜市生まれ。法政大学卒業。

1970年に日本テキサス・インスツルメンツ株式会社に入社、半導体事業に従事する。

1986年からクラッドメタルの仕事に就き、以来、同分野のスペシャリストとして活躍。

1999年。日本テキサス・インスツルメンツの金属材料部閉鎖に伴い、事業継承会社バイメタル・ジャパン株式会社の代表取締役に就任し、現在に至る。

 

バイメタル・ジャパン株式会社

〒251−0052

神奈川県藤沢市藤沢484−12

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TEL:0466(21)8387

URL:http://www.bimetal.co.jp/