「不動産会社に言われるがままに始めたアパート経営だったが、気がつけば入居者は無く、ただ重いローンに苦しめられている。そんな人が多すぎる」と話すのは賜典(してん)株式会社代表取締役沖村鋼郎氏。

彼は今、賃貸併用住宅という不動産会社が嫌ってきた方法で、それを解決しようとしている。

 

 

学生時代はミュージシャンを目指す

品川区戸越。多くの人で賑わう戸越銀座にもほど近い、東急大井町線戸越公園駅の傍に、賜典株式会社はある。

「平成19年の創業ですから今年11年目。ずっとこの城南エリア(世田谷区・品川区・目黒区・大田区)で不動産業を営んでいます」

 

そう話してくれたのは、同社代表取締役沖村鋼郎氏。

今年49歳になる沖村代表が不動産業をはじめた、そのきっかけから伺った。

賜典(してん)株式会社 代表取締役
沖村鋼郎氏

「実は最初から不動産の仕事をしていたわけではないんです。学生時代はミュージシャンになりたかった(笑)」

 

沖村代表が学生時代を過ごしていたのは、バブル真っ只中の1980年代。

千葉県柏市で育った沖村代表は「数字が苦手で(笑)」、税理士だった父の跡は継がずに音楽の専門学校に進む。

 

しかし卒業後に、すぐ音楽で身を立てることも難しく幾つかの職を転々としていた。

 

「多くは販売の仕事でした。そんな暮らしをしながら26歳になった頃にはすっかり世間は不況に向かっていた。

そろそろちゃんとした職に就かないとと考えて、何か稼げる仕事はない? と友人に相談した時に出てきたのが不動産の仕事だった」

 

 

コンビニよりも多い不動産会社 需要があるからこそ商機も多い

沖村青年が不動産会社の門をくぐった頃、全国に不動産業者は14万社を超えていた。

その後、不動産ポータルサイトの普及や不景気などを経て数は減ったが、とはいえ現在でも12万社以上あり、これは全国のコンビニエンスストア(約5.5万店)の倍以上ある。

 

住まいという生活に必要不可欠な仕事を担う不動産業は、常に求められていて儲かる。

そう沖村青年は考えた。

 

「ではどこで仕事しようと考えた時に、高級住宅地もあり地価も高い城南エリアがいい、と思ったんです」

そんな動機から不動産の仕事を始めた沖村青年は必死で駆け回って業績を上げた。持ち前の営業力と人好きするその笑顔で多くの顧客を獲得していった。

 

「色々やりましたね。不動産業の手法は今も昔もあまり変わりませんが、物件の情報が書かれた紙の看板を電柱につけて回ったり。随分と町の景観を汚していました(笑)」

 

以来12年。

不動産業のノウハウを身に付けた沖村代表は40歳を前にして独立、賜典株式会社を起業する。だがそこには沖村代表が長年不動産営業をする中で気になっていた1

つの問題があった。

 

 

利益第一主義で顧客軽視の業界 昔ながらのやり方に罪悪感

「不動産営業では基本、お客様の希望より少し高めの物件で決めてもらい、ローンはギリギリいっぱいで組ませます。しかしそれだと、何かのきっかけですぐにローンを払えなくなってしまう」

 

好景気の時代なら、収入は右肩上がりで雇用も終身。ローンの支払いが滞ることも少なかっただろう。

しかしバブル以後「失われた30年」となりつつある今、それらの神話は崩壊し、昇給もなくリストラなどで急に無収入になることも多々ある。

 

結果、ローンが払えず泣く泣く夢のマイホームを手放していく姿を、沖村代表はいつも後悔の念をもって見つめていた。

「不動産の世界は、利益第一。

しかし、そういうお客様の姿を見て、私の心には罪悪感が残っていた。業界を見渡せば倒産していく会社も多く、そんな昔ながらのやり方が浄化されることなく続いている」

「不動産業界を変えたい」と熱っぽく語る沖村社長

不動産購入で不幸になる人が多すぎる。それをお客様が勉強不足だから、で済ませていていいのか。

 

「特に多いのが、アパート経営での失敗。家賃収入を得て充実した老後を送れる、という幻想を不動産会社に焚きつけられて、無理してアパートを建てたが、結局部屋が埋まらずに手放すことになってしまう」

 

どうして部屋が埋まらないのか。

その原因は不動産会社にある、と沖村代表は指摘する。

 

 

不動産で不幸になる人を防ぐ業界のあり方を改めようと決意

建てる前から、およそ不可能な家賃を設定し「この家賃なら○年でローンは完済できる」と顧客をそそのかしてアパートを建てさせる不動産会社が多い、と。

 

「今、相談を受けている物件なんですが、駅から徒歩20分、1部屋8平米しかない物件に家賃6.9万を設定させていたものがありました。しかも、調べてみたら水道管が繋がっていなかったんです! そんな状態で引き渡されていた。

当然入居者は無く、ローンの返済が大きな負担になっていた。

今、家賃を適正まで下げて何とかやっていこうとしていますが、これは不動産会社だけでなく、ローンを通した銀行までグルになってやっている。

こういうところとは徹底的に戦っていきたい」

 

不動産会社によってアパートを2つも建てさせられて、しかも預けていた金を持ち逃げされた、という人も知っているという沖村代表。

「不動産会社に失敗させられている、という人が沢山います。勿論、お客様を全力で守っている会社も存在しますが、そんな不動産業界を改めていかないと、業界がどんどんダメになっていく」

 

 

大家も住む「賃貸併用住宅」 約3割がローン上回る収入に

そこで沖村代表が今、積極的に推しているのが「賃貸併用住宅」というスタイルだ。

「大家が同じ建物に一緒に住んでいる、というもの。

ローンは家賃収入を充てることができるし、最悪の場合でも家を手放すようなことがないようにできる。地方ではよくあるスタイルですが、都内では珍しかった」

 

大手ハウスメーカーが扱っていることが多く、対象顧客も資産家が主だった。

 

しかし、むしろ都内では普通の人にこそ持ってもらいたいと沖村代表は言う。

「弊社では、まずお客様のニーズを伺い、土地を探し充分に入居が見込める場所を選ぶところから始めます。価格もお客様が余裕を持ってローンの支払いができるようにする。

大事なのはお客様のニーズを中心に考えること。不動産会社の利益優先ではない」

 

また投資用の物件を持つ場合は高金利・融資のアパートローンになるが、賃貸併用住宅の場合は低金利の住宅ローンを使うことができる(住居スペースを50%以上にすることが条件)。

「弊社のお客様の約3割は、月々のローン支払いを上回る家賃収入を得られていますよ」と沖村代表は自信を覗かせる。

 

 

しかし、これほどのメリットが大きい賃貸併用住宅が、なぜあまり知られていないのだろうか。

 

「それは不動産会社が勧めていないという点が大きいです。賃貸併用住宅はお客様にとっては利点が多いのですが、不動産会社にとっては旨みが少ない。むしろ面倒なものです」

 

賃貸入居のニーズのある土地の選定・賃料の設定、そして管理。必然的に一人の顧客と接触している時間は長くなり「客離れ」は悪くなる。

 

それに不動産業は売買・建築・賃貸に各々専門性が強く、1つの会社が一切を担うのが難しくなっている、と沖村代表は言う。

 

例え利益率は低くても構わない お客様と長く付き合い続けたい

一般の不動産会社にはノウハウがなく面倒な仕事も増え、しかも利益は少ない賃貸併用住宅。

 

しかし沖村代表はこれを積極的に展開している。

住居用と賃貸用に玄関が2つあるのが賃貸併用住宅の特徴。
「はたらくおうち」サービスは購入から入居者募集、トラブル解決まで一括で行う

 

「例え利益率は低くても、従来のように『売れればいい』というやり方ではいけない。

弊社では賃貸併用住宅の購入から入居者募集・家賃集金・トラブル解決までを一括で任せてもらうサービス『はたらくおうち』を推進しています。

『はたらくおうち』とは、お客様の自宅そのものが利益を生み出して、家族を豊かにしていくということ。お客様が安心して暮らしを営んでいける絶好の方法だと考えています」

 

「なので、お客様一人ひとりと長くお付き合いを続けていくことになる。その弊社の姿勢と合わないと感じられたらお話は止めましょう、と来店されたお客様に話しています」と沖村代表。

 

その姿勢は徹底していて、今後は現在同じビジネスモデルを展開するフランチャイズも検討しているが、その時もこの考えに賛同してくれる不動産会社としか手を結ぶことはないという。

 

 

賜典という珍しい名前は、長続きする会社にしたい、という思いから良い運気の言葉を選んだものだという。

「不動産購入で不幸になる人を無くしたい」という願いを時間をかけても叶えてみせる。

そんな沖村代表の気持ちがこの社名には込められている。