◇取材:加藤俊 /撮影:唐牛航

梅村圭司 代表取締役CEO 株式会社ロイヤルゲート

キャッシュレス社会に向けた決済デバイス戦国時代、陣取り合戦の勝算は

去る4月27日、大和ハウス工業は決済サービスベンチャー、ロイヤルゲートの株式401,179株(99.9%)取得と子会社化を発表。マルチ決済サービス「PAYGATE(ペイゲート)」を大和ハウスのテナント企業約4,000社に提案し、同時にグループのホテル、ホームセンター、スポーツクラブなどでの導入を進める。訪日外国人の増加も背景に、2020年に向けて日本におけるキャッシュレス決済環境の整備を進める構えだ。

安全で便利な決済ソリューションで業界を牽引する同社が、なぜこのタイミングでM&Aなのか。背景をさぐるべく、代表梅村圭司氏の歩みから紐解いていきたい。

 

包括的な端末サービスの提供へ

PAYGATEの進化の歴史・高セキュリティで安心安全、信頼性と実績のある決済ソリューションサービスへ

 

そもそもロイヤルゲートのマルチ決済ソリューション「PAYGATE」の強みは、端末・アプリ・センター・セキュリティのすべてワンストップで提供している点。ここには同社の決済デバイスたるもの各ありきという思想が込められている。従来のビジネスモデルでは、決済端末提供・ネットワーク提供・決済代行など決済のバリューチェンにおける決済プレイヤーが非常に多いため、コストも必然的に割高になっていた。

同社は「決済端末販売だけではないので、たとえば決済代行やネットワークの利用などどこかで収益が取れれば、全体として比較的安価で提供できる。またこれまでの決済端末は、決済端末内部にソフトウェアを格納しているため、端末が高くなる要因やメンテナンス性や拡張性が無いものが多かった。当社はアプリケーションやソフトもすべてスマートデバイス側に寄せたので、端末にかかるコストを下げられる」という。

 

PAYGATE端末の構想は2011年には出来上がっていたため、自己資金のみで開発研究を続けてモック版の改良を重ねてきたが、シリーズAファイナンスを2014年に実施し製品化まで持っていくことができた。梅村氏によれば、日本には古くからの素晴らしい技術をもつ大手決済端末事業者はいても、ベンチャーで安価にスピード感を持っていいデバイス製品を作れるプレイヤーがあまりいない。mPOS(モバイルPOS)やシンクライアント型の決済の製品化にはハードウェア、ファームウェア、セキュリティ、ネイティブアプリ、ウェブアプリケーション、サーバーシステムなど、さまざまな技術をカバーするエンジニアが必要になるからだ。

また、人材を揃えられる大手であっても、部門をまたいで連携するとなるなど、どの部門の予算で、誰が責任をとってやるか、また部をまたがって稟議を上げてスピード感を持って市場投入できるのかなど、大手には大手の事情がありなかなかこの分野の製品開発が進まない理由があると推測している。

 

分からないことは徹底して可視化し技術解明へ道筋

そこを同社においては、ベンチャー企業の強みを活かし、市場導入へのスピード感と創業者の「思いの強さ」と「責任」、「感性」から大企業にはできないスピード感をもって実現してきた。これが、同社のようなベンチャー企業の強さだという。

その中でも、ロイヤルゲートの強みはハードウェアを形にする技術を保有できたことだ。背景には梅村氏が大学時代から、機械工学、電子工学、材料科学など製品製造となる基礎知識があり、HTMLやWEBシステムにも詳しいこと、そして、ITのコンサルティングから培った応用力がベースとなり、強固なエンジニアリングチームを形成したことがある。

また、梅村氏が流体力学の勉強を通じて得た、分からないことは徹底して可視化するという考え方がある。これもまた、当時決済業界にいてもわからない人が多かった技術を一つ一つ解明していく道筋となった。

たとえば、mPOSが話題になった2013年当時に流行ったように言われていた「DUKPT(Derive Unique Key Per Transaction)」対応だが、当時決済業界の有名企業に技術的なサポートを聞きに行っても名前は知っていてもアルゴリズムを知っている人は殆どいなかった。そこで、梅村氏とエンジニアのトップ藤井氏が米国のANSI9.24という工業規格(英語版)を元にすべて書き出して、どういうものがDUKPTなのかを解読し、それでも確証が持てないのでオーストラリアから知見のある企業のCTOを招聘して、正確なDUKPTのロジックをすべて解析するといったようなことを続けてきた。

 

QRコードやデュアルヘッド 様々なOSにも対応

「当社はフィンテックのベンチャーのなかでも、サービスやアイディアではなく、テックに注力してやってきているのが最大の強み」と自負する。また決済システムには必要となる認証が多く、取るだけで2年かかるといわれている。後から変更できないので、最初の段階でどれだけ将来を見すえて製品が設計されているかが肝になる。

 

現在、国内ベンチャーでmPOSサービスという、リテールの加盟店を対象としたサービスは複数存在している。しかし、mPOSの決済端末を自社製品として製造している競合他社はあまりなく、特にエンタープライズ向けの製品においては数少ないプレイヤーのひとつであろう。

大手やベンチャー企業で類似デバイスを提供しているところはあるが、FeliCa(フェリカ)やQRコード(二次元バーコード)に未対応、カードの両面読み取り可能なデュアルヘッド(JIS1,JIS2対応)になっていないなど、どこかしら欠けている。PAYGATEAIR端末はこれらに全て対応しているだけでなく、そのセンターの背後にあるのは高セキュリティで、フレキシビリティとスケーラビリティを兼ね備えたエンタープライズ向けのmPOSだ。セキュリティに関しては、たとえばカードを100万回スワイプしても毎回異なる暗号化キーを生成する、DUKPTキーマネジメント方式を採用。またアンドロイド、iOS、Windowsなど幅広いOSに対応し、アプリ間の連携を可能にするSDKやAPIでインターフェイスを用意している。

 

母の日のプレゼント選びが転機に

もともと怪我でウィンタースポーツを引退した際に、カナダに留まりたい一心から2000年に現地で学生起業したのが最初だったという梅村氏。スポーツの楽しさを伝える側に回ろうとの考えだったが、プレイヤーだった自分と、起業家としての自分の間でジレンマを感じていたところへ、2006年にふとしたきっかけからITサービスの世界に参入することとなった。

 

母の日のプレゼントにネットでカーディガンを買おうとしたところ、複数の色が選べたことで似合う色でさんざん迷い、決まったかと思うと今度はサイズがヨーロッパサイズの表記だったため選べず困ってしまう、という体験をした。「これはもらう側が選んだ方が楽しいんじゃないか」と思い、そういったサービスをあれこれ探したが当時存在しなかった。そこで弁理士に相談し「自分で作れるカタログギフト」で特許を申請・取得。実際に権利化されたのは2011年だが、特許出願をした瞬間に「ITならアイディアひとつで、世の中を変えられるかも知れない」と思い到った。

 

「私自身が目立ちたがり屋だったこともあるかも知れないけど、死ぬまでになにか一つは自分が作り上げた文化をのこしたい、何か生きてきた軌跡を残したいという思いがあった」。それが社会に新しい技術を提供し、社会に貢献できればなおいいと考えたときに、ITであれば小資本で、世の中のためになるような文化をつくれるかもしれない、と大きな可能性を感じた。そこで、何かひとつでも世の中の役に立つものをつくっていこうと、「IT社会に新しい文化を創造する」とのビジョンを掲げて、2007年に立ち上がったのがロイヤルゲートだ。

 

カタログギフトの特許で事業化したのはいいものの、当時はまだ資金調達方法もそれほど多様化しておらず、自己資金で収益を上げて自己投資を繰り返していくという方法で成長するしかなかった。同社は2007年当初から、ITコンサル、システム開発、ウェブデザイン、サーバー保守、オンライン決済等々をワンストップで提供するなど、ITサービスを幅広く提供。現在でも稼働しているという大手広告会社の広告の請求管理システムや、ミュージシャンの WEBサイトやコンテンツ作り、ファンクラブの月額課金システムなど、この時期は多角的に展開していたという。

 

泥くさい徹底検証で答えを導く

当時は「オンライン決済とかEコマースが一番伸びてきている時期だったので、そこで決済の仕組みも相当数手がけました。ネット決済においては、株主でもあるGMOペイメントゲートウェイの代理店として、多くのオンライン決済のソリューションを提供してきた。そこで得たノウハウから、次世代の決済とはどうなっていくんだろう、今我々はどういった技術革新を起こしていかなければならないのだろう、と国内・海外の決済ソリューションを調査・検証していた」。

 

09年はアップル社から第三世代の iPhone 3GS が登場し、アンドロイド端末の発表が相次ぐなど、スマートデバイス躍進の年だった。当然ながら、各社はそれらのデバイスを採用してコストを削減し、業務効率を改善しようとする。「たとえば、タブレットを使って保険の申し込み手続きをする。保険加入者は個人情報など契約項目の記入はしてくれるだろうけど、続けて決済してくださいとなったときに、自分のカードを出して番号を知らない保険外交員のタブレットに入力するかというと、僕だったらしないと思った。やはりセキュリティ面から、自分のカード番号を他人のタブレットに入れるということはしないでしょうと」。

 

そこで、カード情報を読み込むリーダーライターをスマホやタブレットと接続することで、リーダー上でカードをスワイプすれば暗号化してクラウド上に送る仕組みをワンストップで作り込むことが、次世代の決済には必要だと判断した。スマートデバイスと接続できるカード決済端末を開発し、アプリケーションを位のスマートデバイスに実装できれば、コストも下がるし、リーダーの機能を最小化して端末の価格も抑えられる。加えて、磁気、Felicaや二次元のバーコードなどにすべて一台で対応できるようにした。

現在ではmPOS と呼ばれているスマホ決済のプレイヤーとなり、国内ではかなり早くから取り組んできた先行者だ。次世代型モバイル決済システムの米Square (スクエア)も2009年にサービスを開始しており、ほぼ同じ時期に似たような構想を描いていたことになる。

 

大和ハウスとの提携に到った経緯とは

カード決済の中には大きく分けて2つの種類がある。店舗などでの決済を対面決済とネットショップなどのオンラインを中心とした非対面決済だ。このうち非対面決済に関しては、カード会社が自力で広めるにはおのずと限界があるため、「早くからベンチャーを巻き込んでやっていこうという機運があった」。現在ではGMOペイメントゲートウェイや複数のベンチャー企業が、オンライン決済代行企業として一般に知られるところとなっている。

 

対照的に、対面決済では、それまでに既に端末やネットワークを含めた技術やサービスを提供できている事実があり、そこにベンチャー企業が入り込む余地がなかなかないのが実態だった。これまでのプレイヤーが既得権益を守ろうとする動きがあったのはいうまでもない。

ところが「スマートデバイスや海外でのスクエアのようなサービスの登場で、カード会社や従来のプレイヤーだけでは乗り越えられない状況の中、我々ベンチャー企業の存在価値が出てきた」。また、日本ではCCT端末(共同利用端末)など加盟店が複数のカード会社と契約を結ぶマルチアクワイアリング方式が一般的だが、mPOSに関しては1決済ソリューションベンダーに対して1社のアクワイアラというのが一般的となっている。

同社は、複数のアクワイアラと接続されており、従来型の決済システムと、mPOSの中間を担うようなソリューションとなっている。2014年の同社の資金調達シリーズAラウンドでは、産業革新機構、トヨタファイナンス、クレディセゾン、三菱UFJキャピタル等、カード会社からベンチャーキャピタルまでが参画し、投資契約と総額として13.8億円を調達し段階的にニューマネーを投下してきた。

 

決済ビジネスというのは、事業が軌道にのるまで、構造的に長期化しやすい。客先企業の現場担当者に興味があっても、大手になればなるほどインフラと連動しているシステムを変えることに社内の抵抗もあるし、時間やコストがかかる。ベンチャーが手がけるには資金面と体力面で厳しいため、撤退も珍しくない。

2020年東京オリンピックや19年のラグビーW杯を控え、2020年までに訪日外国人旅行者を4,000万人にする政府構想も背景に、梅村氏は向こう2年間にどれだけ決済マーケットのシェアを取れるかが自社の命運を分けるとみている。そうした状況を踏まえて、ベンチャーとして単独でIPOする選択肢よりは、大手企業の傘下に入ることで足りないものを早々に補い、スピード感を持って場所取り合戦に勝ち残る判断をした。

 

「私は創業者として、また株主から期待を受けてこの決済サービスを世の中に誕生させた生みの親としての立場で、何よりもこのサービスを世の中の新しいインフラとして残すことを最優先に考えるべきであり、創業者のエゴで、株主に支えられてここまで作り上げてきたものを衰退させてしまうリスクを追ってはならない。人、モノ、金やブランド力のある大手企業に支援してもらうことで、サービスをより早く世の中に広めていった方が社会にも貢献できるし、タイミング的にも今しかないと考え、今回の大和グループ入りを進めさせていただいた。また、ここまで一緒に戦ってきてくれたチームのみんなに対しても、大きな決断であるし、創業から10年を迎え、年齢を重ね家族を持つようになったチームの仲間たちにとっても、今後いいものを作り上げていくためには、安心して事業に邁進していける家族の信頼やサポートが大事だと考え、そのための安心材料となるのではないかという判断もあった」

 

この点に関して、大和ハウス側のフィナンシャルアドバイザリーを務めたプルータスM&Aアドバイザリーの島田光太郎氏も「大和ハウスとしてもPAYGATEを手中におさめることは、同社の今後の事業展開の青写真上、大きな意味があった」と述懐する。

 

プルータスM&Aアドバイザリー 島田光太郎氏

クレジットカード業界の動きとしては、2015年10月1日には主要な国際ブランドでライアビリティシフトが適用され、ICチップ未対応の決済端末で偽造カードが使用された場合の債務責任が加盟店側に課されることとなった。また、国内では2020年3月までに決済端末の100%IC化対応が義務付けられるなど、安心・安全なキャッシュレス社会の構築に向けて追い風が吹いているものの、同社がマーケットに対する大規模な導入ができるようになったのはここ2年だという。

 

「決済インフラの定着には10年の月日が必要と言われるが、mPOSマーケットの中でもニーズから実際の導入までは数年のズレがある。このタイムロスはベンチャーにとって体力的にも非常に厳しい。本来ITのよさのひとつは、それほど資金がなくてもできることだが、決済事業はインフラ構築にもコストがかかるし、セキュリティ対策にもコストがかかる。また、当社の様にメーカーとしての機能をもてば、製品を製造しなければ販売できない。こういった、ベンチャーのジレンマを大企業との融合でクリアしていけるのではないかと期待している」。

 

日本のキャッシュレス化は進むのか

梅村社長と二人三脚で歩んできた大坂浩平取締役(左)

そもそも米国でスクエアが流行った背景には、日本よりキャッシュレス化が進んでいることにある。米国の最終消費支出に占める非現金決済比率は50%以上なのに対して、日本は、当時10%台、2016年にようやく20%を上回ったところにすぎない。そのような状況の中、町の小さな飲食店や小売店からインフラ構築しても決済の利用がされなくては収益は上がらない。

同社は、エンタープライズ企業が求める要件や仕様に耐えうるコンセプトを持って開発してきた。現在マーケットは、タクシー、ピザデリバリー、飲食店、スポーツショップ、弁当チェーン店、格安SIM会社、ホームセンターなど多種多様な導入実績をもつ。

 

梅村氏によれば、向こう3~5年の短期的なキャッシュレス化は、クレジット主要ブランドや電子マネーでの非接触型ICカードの増加やQRコード決済、仮想通貨の拡大で進む見通し。長期的には生体認証、さらには少額決済に関しては支払い行為すら発生しないペイレスに移行していくのではないかとみている。

「携帯しているスマートデバイスからGPSやBluetoothを使って個人を特定することで、一定枠内の少額決済に関してはその場所に立ち入るだけで自動的に決済が完了するようなところまで推し進めていかないと、日本でそれ以上のキャッシュレス化は進まない」

 

政府の指針にも2025年までにキャッシュレス化40%の実現とあることからも、世界的に遅れているのはみて取れる。

現金を持つことはコストにもつながってくるので、企業にとってもキャッシュレス化のメリットは大きい。とはいえ、向こう3~5年で、リーダーライターやプラスチックカードがなくなることはないとみている。

 

端末からアプリ・センター・決済代行までワンストップで担う当社がプラットフォーマーとしての地位を確立していくことでエコシステムを広げていけば、上に乗るサービスが生体認証やペイレスに移行しても、ゲートウェイは必ず必要になる

またPAYGATEは Microsoft Azure(マイクロソフト・アジュール)上で動いているため、グローバル展開も意識したエコシステムとなっている。日本発で、グローバルに向けたペイメントの仕組みとしての地歩を固めることも可能だ。梅村氏の次なる目標は、次世代社会に向けたグローバル規模の決済エコシステムを構築することにある。

 

 

<プロフィール>

梅村 圭司(うめむら けいじ)

1977年6月16日生。北海道札幌市出身。

北海道工業大学工学部 機械工学科 複合力学、流体力学専攻。

在学中にカナダバンクーバーに留学。留学中の怪我でプロスポーツ選手の道を断念。帰国後に商社勤務後、2004年に有限会社SidewayStyleを設立し代表取締役に就任、旅行関係事業、スポーツイベント、スポーツアカデミー事業を立ち上げ法人化。また10年にわたるスポーツコーチングで、延べ5,000名の指導に携わる。2006年にITコンサルの知見からビジネスモデル特許を出願・取得し、大きくITビジネスへ参入。2007年株式会社ロイヤルゲートを設立、代表取締役就任。

<会社情報>

株式会社ロイヤルゲート

東京都港区赤坂2-10-5 赤坂日ノ樹ビル4階

TEL:03-3568-4321

2007年設立

http://www.royalgate.co.jp