武井謙一 株式会社エンジョイ代表取締役

 

「お客様の声にはイノベーションの源が潜んでいる。しかしほとんどの企業はその宝の山を見過ごしている」と話す株式会社エンジョイ代表取締役武井謙一氏。ネット黎明期から20年近くの間、IT業界に身を置いてきた武井代表が会社経営の中で気づいたのは、意外にも「顧客の声を大事にする企業は伸びる」という驚く程アナログな事実だった。

日本の企業はお客様の声を集めるのがヘタ

株式会社エンジョイはシステムインテグレーションを基幹とし、来店型ビジネスでの生涯顧客化を創出するクラウドサービスなど、IT技術を用いてクライアントの経営上の悩みに応える会社だ。

「私は大学を卒業して以来、20年近くをIT業界で過ごしてきました。そこで得た知識や経験を、特に中小企業のために役立てたビジネスのお手伝いをしたい、という気持ちがこの事業の根底にあります」

そう話す武井代表が今、世に示しているサービスが「JOYボイス」だ。

「JOYボイスは、今までお客様に、紙に書いてもらっていたアンケートを、クラウドサービスを用いて行うというサービスです」とその内容を説明してくれた武井代表だが、なぜ今、アンケートに注目したのだろうか。

「どの時代、どんな業種の会社でもお客様の声に耳を傾けなければ事業は発展しません。昔、お客様との距離が近かった時代であったならばそれはカンタンなことだったのかもしれませんが……」

しかし、顧客の声を集めるということは市場の要求に耳を傾けるということであり、そこからイノベーションは生まれてくるはずだ、と武井代表は続ける。

飲食店のテーブルなどに置いてあるアンケート用紙は、店舗にとってはお客様のナマの声を聞き取ることができる非常に良いツールだ。その点を評価しながらも、武井代表は「しかし世間一般のイメージではアンケートは『面倒くさいもの』にされてしまっている」と言う。

「アンケートを書く方のほとんどは『自分の要望が聞き入れられる』『自分が気に入っているこの店をさらによくしたい』という気持ちで書いているのではなく、特典やサービスがあるから、とかやらなきゃいけないからという気持ちで書いている。一方、集める方も義務的にやっているだけだし、手書きのモノを収集してデータに起こして整理するという手間をかけてまで、これを経営に活かそうという気持ちも少ない。せっかく良い手段であっても、それがムダになってしまっている」

 

老若男女全ての人から声を集める

「ゼロから有を生み出すのは容易ではありません。だから今の日本のITサービスのほとんどは、元々アナログだったサービスをITに置き換えることで成り立っています」

例えば、名刺をスマホのカメラで撮影し、それをクラウドで蓄積してデータベース化するサービスなど。それまで人が手間と時間をかけてやっていた作業をITで行うようになっただけだ。

「だからアンケートも紙を使わないものにしました。アンケートのIT化です。すると、これまで考えつかなかった新しいやり方も生まれてきた」

弊社ではアンケートではなく「ボイスリサーチ」と呼んでいます、と武井代表は言う。

具体的なシステムとしては、携帯電話のショートメールでURLを来店客に送り、お客様がそれにアクセスするとアンケート回答画面が表示されるという仕組みだ。

このショートメールという点が重要です、と武井代表は話す。

「IT化したからといってフェイスブックなどのSNSを利用する、といった方法をとっていたのでは対象が若者に限定されてしまう。ですからまず電話番号だけでやりとりができるショートメールを使うことで、窓口を広くしている。老若男女様々な世代の人々から声を集めたいからです」

回答すると客にメリットはあるのだろうか?

「楽天ポイントとセゾンの永久不滅ポイントと提携していて、どちらか自分が欲しい方を選べるようにしていますが、しかしそれだけではアンケートのやり方が増えただけ。最も大きなメリットは、お客様各々に的を絞ったサービスの案内ができることです」

例えばアンケートの中に好みの料理メニューの質問を入れておき、そこから嗜好にあった新商品の案内をターゲットを絞って送ることができるようになる。

「アンケート結果を分析してマーケティングに役立てよう、と考える企業もありますが、中小企業ではまず利益を上げることが第一。顧客満足度を上げるだけでなく、ニーズに合わせた案内ができるツールとしても利用できるようにする。ですので利用価格は最低月額5800円から提供しています。どんどん活用してもらいたい」

IT技術を中小企業の役に立てたい、という武井代表の思いが、この価格からも表れているようだ。

「2001年に大学を卒業したのですが、当時は就職氷河期の真っ只中。周りには早々に就職を諦めてフリーターを気取る者もたくさんいましたが、私はあまり裕福とは言えない実家がなんとかして大学を出してくれたという恩義もありましたので、ちゃんと就職しなければ、と就活に走り回った。営業職を希望していたのですが、40数社に応募して尽く不採用。それで当時人気の職種だったSEに希望を切り替えた」

そう当時を思い出す武井代表。こうして就職したのは当時コンパック(現HP)のグループ会社だった日本タンデムシステムズという会社。ここで6年間勤務し、マネージャー職なども経験する。

「しかし、当時ライブドアとかが注目されていた時期で。そんな世の雰囲気もあり自分ももっとできるのではないか、と思い転職しようと思った」

そこで株式会社サイバーエージェントに移り、さらに半年後には独立、自営業の道を踏み出す。

「SEとしての実力には自信があったので、独立しました。しかしそれからは苦難の連続。第一、SEとしての知識しかないのにそれで全てができると過信してしまった。経理も法律も分からないのに。そこで自分の無力さを改めて痛感し、経営・ビジネスを勉強しました」

その成果が、中小企業診断士の資格を取得したことだろう。競合他社と差別化するために取った資格だったが、ビジネスを様々な面から分析できる目線を養うことができたという。

その後、リーマンショックや東日本大震災といった苦難を経験しながら事業を拡大、特に医師の予約管理システムや医療カルテ管理のクラウドサービスなどで高い評価を得てきた。

「そんなある時、データ管理システムを見ながら『ここにアンケート機能をつけたら利用者から意見を聞くことできて便利なんじゃないだろうか』と思いついた。すると今までバラバラだった自分のSEとしての知識や中小企業診断士の資格などのが全て繋がる気がした」

こうして誕生したJOYボイス。それが秘める可能性は大きい。

 

隠れた声を拾い上げる

「あるお店でを導入した時の話です。そのお店はカイロプラクティックとエステを併設しているお店だった。内面と外面の両方からキレイになれる、それが強みだとオーナーは考えていて、それをアピールすしかし、JOYボイスから現れてきた結果は違った。お客様からの声は『プライベートサロンだから』『予約が取りやすいから』。こういう声が圧倒的だった」

しかし、そのニーズを知ることができればそれに合わせた広告に変えることができるし、ニーズに合わせた付加価値の高いサービスをはじめることもできる。HPで強調していくことで新規を開拓することもできる。

「他にも、社内で社員の意見調査に使うこともできます。どうしても世代が違えば考え方は異なる。こういったズレを直すことにも活用でき、離職率の軽減にも繋がる。意見が届くことで様々な可能性が生まれてくる」

……「生涯顧客の創造」という言葉を武井代表はインタビュー中、何度も口にされた。

「ITで便利にするだけでは、中小企業の経営の根幹に迫ることはできない、と思っています。今回、JOYボイスが生まれたことでクライアントとより深い部分で経営について話ができるようになりました。また中小企業にとってもこのツールによってお客様との繋がりを強くすることができるはずです。今後ももっと広く、このサービスを知ってもらえるとありがたいですね」

武井代表は幕末の志士、吉田松陰を尊敬しているという。

松陰は幼い日から学業を修め、幕末の国難の中、常に自分が国のために何ができるのかを考え全力で走りきった人物だ。

人生の中で得た知識・経験を惜しげもなく思い悩む中小企業に注ぎ込んでいる武井代表の姿に、吉田松陰のその姿勢と重なるものが見えるように思えた。

JOYボイスのキャプチャ画像

武井謙一……1977年栃木県生まれ。2001年玉川大学工学部経営工学科を卒業した後、日本タンデムシステムズにSEとして入社。その後株式会社サイバーエージェントを経て独立。2007年に株式会社アックスを設立。その後、2013年11月株式会社エンジョイ設立、代表取締役に就任。

株式会社エンジョイ

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