リスク恐れず「夢のあること、人のやらないことに挑戦したい」

もはや太陽を独り占め、と言っていいかも知れない。

斬新なアイデアと技術力で、この国のトップライト(建造物の天窓)の機能と景観美を劇的に向上させてきた斯界のパイオニア、トクテックグループ(東京都墨田区)だ。このほどまた、太陽光を一層効率良く採り込み、住空間をより快適化するばかりか、なんと発電、蓄電、節電までやってのける次世代型多機能トップライトシステムを開発し、これまでにも増して脚光を浴びているのだ。

 

 

そこでグループCEOの山佳哲氏に話を聞いた。「どちらかと言うと営業肌」(本人)だそうで、なるほど聞くと、いわゆる職人気質の経営者にはない、型破りな発想力がそこかしこに窺えるのだ。新製品の紹介と併せて、詳しく報告しよう。

通常の固定式ソーラーパネルに比べて 発電量が2倍

まずはシステムの中核を成す、「Tokteck Sunシリーズ(X=クロス、A=エース、T=テラスの3機種)」のXを例に、その概要を簡単に述べる。

 

 

驚くなかれ。日の出から日の入りまでジリジリと太陽を追い続ける、太陽自動追尾式採光装置に、ミラーダクトユニット(採り入れた太陽光を屋内に運び、快適な状態にして照らし出す装置)、更には太陽光発電装置~蓄電システムと、余分な熱籠りをなくす自動換気・空気循環システム、そしてLED照明を一体化させた、世界で初めての〝24時間完全ECOシステム〟である。

 

「近い将来、これにプラスして光ファイバーを活用した、これまでにない導光システムを開発する予定でいます。それが完成しますと、キッチンや地下室など、普通は陽当たりの悪い場所でも、太陽の光と温もりを存分に楽しむことができますよ」(山佳氏、以下同)。

 

もちろんそれら各装置やシステムの稼動に当たっては、すべて付設された蓄電システムを主電源とし、大本は太陽光発電装置=太陽電池である。太陽電池モジュールを搭載したトップライトという一面だけを見ても画期的で、一体型としては業界初の快挙だ。

 

ちなみにその太陽光発電装置~蓄電システムというパッケージについては、同社では別途、「UPS(無停電)機能付き蓄電器システム」として開発、構築し、すでに発表もしている。簡単にいうと、これまた太陽自動追尾式の可動ソーラーパネルを用いた、発電効率のめっぽういいシステムで、いわゆるメガソーラーを除く移動可能なタイプとしては、やはり日本でも初めてだという。

 

 

「最大の特長は、ソーラーパネルが太陽追尾ユニットと連動して、常に太陽に対し、発電するのに最適な角度で、最適な方位を取り続けることです。通常の固定式ソーラーパネルと比べると、発電量は最大で2倍以上違ってきますよ」

 

パネルは3連まで増設可能で、移動や工事が簡単なタイプだから、設置場所が極端に限定されることもない。独立した電源として使うのはもちろん、商用電源と連携させておけば、台風や豪雨などによる電源喪失も、予め防ぐことができるというわけだ。

 

工場に隣接された実物大の実験棟で、シリーズのA、Tなど、他の機種も含めてとっくり見せてもらった。なるほど、これまでにも増して脚光を浴びている理由が、よく分かるというものだ。関心のある向きは同グループのホームページをご覧になるか、ご連絡のうえショールームに足を運ばれ、是非ともそれらをご自身の目と耳、肌でじっくりとご確認ありたい。

 

とまれここまで見てきただけでも、時代の最先端をいくトップライトメーカー、また、エンジニアリングメーカーの、文字通り面目躍如と言ったところだろう。

 

超有名スポットがズラリの施工実績

驚かれるのはしかし、むしろこれからかも知れない。

 

話は前後して恐縮だが、トクテックというこのグループ会社は、冒頭から何度も登場しているトップライトの、全国で数社という数少ないメーカーの一であり、部材づくりから完成品までの一貫体制を敷いている〝専業〟という意味では、ほぼ国内唯一のメーカーと言っていいのだ。

 

「ああ、あれがそうか」と、気付いていただける読者もあろうかと思うので、ここで主な施工実績を幾つか挙げておこう。

 

 

 

羽田空港第二旅客ターミナルビルに懸けられた28台の三次元切妻トップライト。新千歳空港国際線旅客ターミナルビルに設けられた大型偏芯菱形四角錐トップライト。博多駅前広場の幅22m、長さ60mの三次元(スプライン曲線)トップライト。ホテル・グランパシフィック・ル・ダイバの、商業スペースのエントランスを覆うアーチ状の大型トップライト。他にも成田空港第一旅客ターミナルの南サテライトや、川崎駅東口広場、慶應義塾大学日吉キャンパスの複合施設、目黒雅叙園などなど、全国の超有名スポットがズラリ勢揃いなのである。

 

しかしかといって、いわゆる〝大会社〟のグループではない。1986年設立の特殊技研金属(千葉県旭市)を中核に、トクテック、特殊技研販売の3社からなる、スケールや華やかさという意味では大会社並みだが、れっきとした中小企業である。ちなみに今回取材した山佳氏は、昨年7月に特殊技研金属の社長を退任し、現在はトクテックの代表取締役社長を努める、グループの柱石ともいうべき立場の人だ。また、特殊技研金属の退任後はグループの新製品開発と研究に努めている。

 

ということで以下は、その山佳氏の〝これまでと今後〟を、自身の信条などを交えながら、ご本人の口からじっくりとお聞きいただこう。

 

スクラップ&ビルドの仕事人生

─それにして今年の巨人じゃありませんが独走ですね。まったく他社の追随を許しません。その秘訣は一体、どこにあるとお考えですか。

「独走も何も、競争相手が出てこないんですよ。と言うか、出てきてくれないんですよ。ホントは並行して何社か出てきてくれると助かるんですけどね。社会の認知とか周知がそれだけ早く進みますから。ところが今のような状況だと、ウチだけで宣伝やら展示会やら、営業活動をやらないといけないんです。競合相手がいないからいいよねって言う人もいますが、たいへんなんですよ。それはそれで」

 

─そう言えば確かにそうですね。ではなぜ、競合相手が出てこないんでしょうか。

「ひと言でいうと面倒臭いからですよ。正直言ってたいへんなんです、トップライトの世界は。いい建材がつくれるというだけではダメなんですよ。雨、風、紫外線から鳥の糞まで、ありとあらゆる自然現象に対応しながら、太陽光を屋内に引き込まないといけないんですから。それも一般家庭だとせいぜい4~5m四方のモノじゃないですか。こう言ってはなんですが、大した売り上げにはならないんですよ。それで皆、入ってきてもすぐにやめていくんですね。昔は大手のメーカーだってやっていたんですよ。でも今はどこもほとんどやりません。要するに間尺に合わないんです」

 

─しかしトクテックグループはそれで成功しています。その成功の秘訣は後で聞くとして、どうしてそんな業界に、足を突っ込む気になったんですか?

「一番はやっぱり生き残るためですよ。もともと性格がお金の問題で動く方ではないんです。だから自分で何かをやりたいと思うんですよ。でも周りを見渡したらどれもこれも競争相手が多くて、とてもその中で勝ち抜けるとは思えません。だったら人のやらないことをやるしかないと思いましてね。それで始めたのがこの仕事というわけです」

 

─なるほど。しかし人がやってできないことでも、自分がやればできると思ったから始めたんですよね。その自信はどこから生まれたんでしょうか。

「それですよ。とくに自信があったということではなく、人のやらないこと、人のやれないことをやるというのは、若い頃からの僕の信条でしてね。実は、主に建材関係の仕事でしたけど、何度も新しいことを始めては潰し、潰してはまた新しいことを始めるといったことを繰り返してきたんです。いわゆるスクラップ&ビルドですね。結局どうでしょうか。7つか8つの事業を立ち上げては潰してきたと思いますよ。その意味では、僕の仕事人生はスクラップ&ビルド。このひと言に尽きると思いますね」

 

─それがどうして、今日のような成功をおさめられたのでしょうか。

「成功したかどうかはこれからの話ですが、いずれにしても今ある僕、今あるこのグループは、そのスクラップ&ビルドの仕事人生があったからこそある。そう確信しています。と言うのも、そのときの技術と経験がすべての基礎になっているんですよ。僕はそれらを全部経験してきたんです。いいも悪いも。酸いも辛いも。そのうえでのスクラップ&ビルドですよ。その経験が僕にとって掛け替えのない貴重な〝引き出し〟になったんですね。他人には見えないアイデアが、僕には見えたんですよ。なんだ。こうやればこうできるじゃないか。こうすればもっとこうなるじゃないか、といった具合に。確かに少々面倒くさくてたいへんでしたけど、諦めずにしっかりやっていけば必ずモノになる、という自信めいた思いがあったのは事実ですね」

 

国のエネルギーの在り方が 根底から変わる!?

ーおぼろげながら分かってきました。でも、その引き出しからいろいろ取り出して新しいモノをつくっても、今どきですからすぐに真似をされるじゃないですか。そんな中でどうやって勝ち抜いてこれたのでしょうか。

「それが仮に同じようなモノだとしたら、後は価格しかありません。どうやって値段を下げるか。これですよ。一般的に高いは高いなりにとか、安いは安いなりにと言いますが、僕の考えは違います。あとひと手間、ふた手間かければ、安くてもいい商品が出せるんです。例えばウチでは今、台湾製のモーターを使っています。しかしただ台湾のメーカーに任せるのではなく、設計から製造工程、出荷体制まで徹底して話し合い、極力100%に近い完成度を目指してつくってもらいます。それでもどうでしょう。あえて言えば70~80%ですかね。そのうえにウチのひと手間、ふた手間、さらにひと工夫を加えて製品化するわけです。ちなみにウチでは、どんな場合でも24時間のエイジング試験運転を必ずやって、それに合格した製品だけを出荷するよう徹底していますよ」

 

 

─なるほど。秘訣といえばそれが秘訣なんでしょうね。最後に今後のビジョンなどがあれば聞かせてください。

「実はすでに、次のことを考えています。詳しくはまだ話せませんが、今度は太陽熱を利用した発電・蓄電システムです。ご期待ください」

 

─それもまたたいへんな事業になりそうですね。

「おっしゃる通りたいへんです。もしかしたら、僕が生きている間は完成しても採算ベースに乗らないかも知れません。でも、さっきも話しましたけど、新しいこと、誰もやらないことをやるというのが僕の信条です。第一、夢があるじゃないですか。夢にはリスクもコストも付き物です。それを恐れていたら、モノづくりなんて一歩も進みませんよ。そう思いません?」

最後のひと言には、筆者も無意識のうちに何度も首を縦に振ってしまった。間違いなく、ある種の〝オーラ〟を持った人物である。

 

山佳哲(やまよし・てつ)

1948年、千葉県生まれ。金物、建材、トップライトなど様々な業種の様々な職業を経験する中で、仕事の面白さに目覚め、1986年、特殊技研金属を設立する。代表取締役社長に就任。しかし暗中模索のうちに10年余が経過。1997年頃から事業をトップライトの企画・製造に特化し、全国展開を図る。2011年、退任と同時にトクテックの代表取締役社長に就任する。

株式会社トクテック

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