保険と言えば、医療保険や自動車保険、個人年金保険などさまざまな種類があるので、いずれかに加入している方も多いだろう。一般社団法人生命保険協会の調査によれば、平成29年度末の個人保険の保有契約件数は1億7,302万件で、10年連続増加しているという。だが、これからその中に「弁護士費用保険」が加わる日も遠からず来るかもしれない。

2019年7月、事業者向け弁護士費用保険「リガールBiz」をローンチしたフェリクス少額短期保険株式会社 代表取締役で弁護士の多田 猛氏に、弁護士費用保険とは何なのかについて話を伺った。

 

「リガールBiz」の2つの補償と3つの付帯サービス

リガール Biz WEBサイト

 

そもそも、社名にもある「少額短期保険」とは何なのか。一般社団法人日本少額短期保険協会の定義によれば、少額短期保険とは、保険金額が少額かつ保険期間が原則1年以内の保障性商品のみを販売する事業のことを指す。多田氏によれば、少額短期保険は共済から始まったもので、それを保険業に取り入れたのがその始まりだという。

 

「少額短期保険のメリットは、1被保険者について引き受ける保険金額の上限の規制などがあるものの、その規制の範囲内で小回りの効く商品設計ができることがあげられます。他社からもニッチで多様な保険商品が出ていますが、当社では2019年7月、事業者向け弁護士費用保険『リガールBiz』をローンチしました」

 

弁護士費用保険とは聞きなれない名前だが、どのような保険なのか。弁護士費用保険とは、一般的に、月々の保険料を支払っていれば、被保険者が法律のトラブルに巻き込まれたときにかかる弁護士費用(法律相談料や弁護士に依頼するときにかかる着手金・報酬など)を、保険会社が補償するものだ。

フェリクス少額短期保険株式会社が販売する「リガール」という弁護士費用保険には、事業者のトラブルに対応する「Biz」と個人の私生活上のトラブルに対応する「Personal」がある。それぞれ、「Lite」「Basic」「Hi」の3つのプランがあり、プランが上がるほど補償額が上がる仕組みになっている。「Hi」プランの場合、報酬額(成功報酬)や、日当、実費等もが35%補償される。

さらに、「リガールBiz」では、弁護士費用の補償の他に、3つの付帯サービスを用意している。

 

「ひとつは、弁護士直通ダイヤルという、日々の事業活動でおこる、様々な法的トラブルやお悩みについて、15分間無料で弁護士に電話で初期相談できるサービスです。日本弁護士連合会(日弁連)と協定を結んでいるからこそできるサービスだと考えています。弁護士に電話一本でダイレクトに繋がって、すぐに相談ができます。そして、直通ダイヤルで、弁護士による解決が必要だとなれば、弊社の事故受付ダイヤルで、保険を使って弁護士への相談が可能か、スピーディーに判断します。このスピード感が当社の強みです。

 

そして2つめは、弁護士紹介サービスだ。

 

「弁護士紹介サービスとは、日弁連と協定を締結して行っているサービスで、各地の弁護士会を通じて弁護士を紹介するものです。北海道から沖縄まで紹介可能なので、お客様に近いところにいる弁護士に相談できるのがこのサービスのメリットです」

 

さらに3つめは、契約書の作成から締結、保管まで無料で一元管理できる、ドキュメントサービスも提供する。

このように、弁護士ならではの強みや人脈を生かして弁護士費用保険を提供する少額短期保険の会社を立ち上げた多田氏だが、意外なことに大学在学中は弁護士になるとは思ってもみなかったという。それはなぜなのか。

 

塾講師から弁護士、そして経営者へ

多田氏は京都大学法学部で法律を学んでいたが、在学中は法律の勉強がおもしろいと思ったことは一度もなかった。

 

「大学時代は、六法の勉強はあまり面白いと思わなかったんですよね。法律って覚えるもの、暗記するものってイメージがあって。弁護士という仕事も、テレビで出てくるような裁判だけする人っていうイメージで、当時はあまり興味が持てなかったんですよね」

 

しかし、大学卒業後に勤務していた学習塾で大きなトラブルが発生したのだ。そのとき、社長が社内外への対応に奮闘している姿を多田氏は間近で見ていた。

 

「当時は、弁護士の力も借りて全社で事態の収拾にあたっていましたが、社長も相当苦労されていたんだろうと思います。社長にはとてもかわいがっていただいていて、僕も社長のことを父親のように慕っていたので、そんな社長のそばにいながら何もできない自分に歯がゆい思いをしていました。

そのとき、『弁護士になれば経営者のサポートができるのではないか』という考えが心に浮かんだのです。しかも、大学生の頃は面白いと思わなかった法律も、社会に出て生の形で遭遇すると、『法律って案外面白いやん』と」

 

その後、多田氏にとって父親同然だった社長が急逝するが、それがさらに弁護士への道へと多田氏を駆り立てた。そうして、弁護士 多田猛が誕生したのである。2012年に弁護士登録をし、その半年後に独立して法律事務所を立ち上げた。そこで転機が訪れる。

 

企業と弁護士をつなぐサービスを構想

2013年のある日、某保険会社の営業担当が事務所にやって来て、弁護士費用保険というものがドイツをはじめヨーロッパで普及しているという話を聞いたのだ。多田氏は、直感的に「弁護士費用保険は必ず日本でも必要なサービスだし、普及する」と思ったのだった。

その後、ロースクール支援や司法制度発展のためのロビーイング活動などを行う「ロースクールと法曹の未来をつくる会」の活動に事務局次長として活動を開始し、それが縁で、国家戦略特別区域法に基づいて設置される「雇用労働相談センター」の立ち上げにもかかわった。そこで、企業の弁護士へのニーズが高いことに改めて気づくことになる。

 

「雇用労働相談センターでは、費用のことが不安で弁護士は使いづらいと思っていても、こういう場所に来て無料で弁護士に相談できるのであれば相談したいという経営者の方にたくさん出会いました。

そこで、雇用だけでなく、債権回収や取引先とのトラブルなど、困りごとを抱えておられる方がたくさんいることがわかったんです。そこで、弁護士と企業を結び付けられるようなサービスがあればいいのではないかと思いました」

 

そして、企業と弁護士を結びつけるマッチング・プラットフォームの会社を立ち上げることになる。しかし、単にマッチングを行うだけでは限界を感じ、以前耳にした弁護士費用保険を事業者向けでもやってみようと2017年設立したのが「フェリクス少額短期保険」なのである。

 

当時、日弁連で弁護士費用保険に力を入れていく機運が高まっていたことも多田氏の背中を後押しした。2017年、日弁連が発表した「中小企業・小規模事業者に対する法的支援を更に積極的に推進する宣言」の中で、「中小企業・小規模事業者から弁護士への費用面でのアクセス障害を取り除くために、弁護士保険や弁護士費用に関する共済制度の研究開発を検討・推進する」と明言されたのだ。

 

「当社がまだ準備会社のときですが、設立して間もなく、日弁連の会長、副会長、事務次長の先生方にご挨拶に伺いました。そのときに、会長や副会長の先生方から、口々に『中小企業向け弁護士保険の普及は、弁護士業界としても念願だし、弁護士がこの事業を始めることに意義がある。ぜひ、がんばりなさい』と言ってもらえたのが、とても励みになりましたね」

 

弁護士ならではの付帯サービスを充実させていきたい

事業者向け弁護士費用保険「リガールBiz」は、もともと、弁護士相談へのハードルを下げ、中小企業の経営者を応援することを第一に考えて設計した保険商品だ。では、具体的にどのような場面での利用を想定しているのだろうか。

「日弁連の中小企業向けアンケートなどによると、中小企業から弁護士への相談が最も多いのは債権回収と雇用問題と言われています。また、取引先とのトラブルも少なくありません。たとえば、ある機械部品メーカーが、注文された部品を機械メーカーに納入したところ、部品に欠陥があって、機械メーカーに大きな損失が生じてしまい、その会社から巨額の損害賠償や逸失利益を請求されているとか。そういうときに早い段階で弁護士に相談できれば、大きなトラブルは防げるはずです。」と多田氏。

 

弁護士費用保険は、いわばかかりつけ医ならぬ「かかりつけ弁護士」のようなものだ。「ちょっとお腹の調子があまりよくないな」「熱があるな」と思ったら、大きな病気がないか近くの医者に診てもらう人も多いだろう。それと同様に、ちょっとした困りごとがあるときに、早めに弁護士に相談することで、トラブルが大きくなるのを予防することができるのだ。それも1日あたりたった約230円*前後、つまりコーヒー1杯分の値段で備えることが可能だ。

 

「弁護士費用保険『リガールBiz』を利用することで、会社にミニ法務部やミニ顧問のような機能がもてるイメージ」と多田氏は言う。

 

会社が新たに法務部を立ち上げようとすれば、非常にコストがかかる。また、顧問弁護士を雇うのも、毎月数万円から数十万円のランニングコストがかかる場合もある。一方、事業者向け弁護士費用保険『リガールBiz』であれば、1日あたりコーヒー1杯分、約230円ほどの負担で、何かあった時に弁護士に頼ることができるのだ。これほど心強いことはないだろう。

 

今後、フェリクス少額短期保険は、代表が弁護士だからこそ提供できる新しいリーガルサービスを順次展開する予定だ。多田氏は今後の展望についてこう述べる。

 

「契約書関係のリーガルテックは、他社で優秀なものが世の中にたくさん出始めています。そのようなサービスのいくつかを付帯サービスとして提供することが考えられます。また、事故受付をAIを利用して行うなど、お客様にスピーディーかつ正確に保険金をお支払する仕組み作りも、リーガルテックの一つだと考えています。当社は、先進的なリーガル・インシュアランスカンパニーであり続けるために、新しいことにどんどんチャレンジしていこうと考えています」

 

保険の名称である『リガール』は、ポルトガル語やスペイン語で「つなぐ」を意味する。まさに、企業と弁護士をつなぐこのサービスにぴったりの名前だと言えるだろう。「弁護士は費用が心配で使いづらい」「弁護士に相談するのは敷居が高い」経営者のそういった不安や心配な気持ちにそっと寄り添えるサービスを、フェリクス少額短期保険はこれからもつくっていくつもりだ。

 

【プロフィール】

多田 猛(ただ たけし)

1979年兵庫県姫路市生まれ。2002年京都大学法学部卒業。

一橋大学法科大学院(ロースクール)修了。

弁護士としては、政府のベンチャー企業・グローバル企業支援事業である雇用労働相談センターの運営にあたるなど、中小企業・ベンチャー企業の法務を中心とし、様々な企業法務案件を手がけてきた。

司法アクセスの改善などをライフワークとし、フェリクス少額短期保険株式会社を設立。弁護士費用保険を通じて、中小企業にとって弁護士が身近で使いやすい存在になることを目指す。

 

フェリクス少額短期保険株式会社

所在地:東京都千代田区平河町2-10-4 2F

設立:2017年(平成29年)4月7日

登録:2019年(令和元年)5月7日 関東財務局長(少額短期保険)第90号

事業内容:少額短期保険業及びこれに付随する業務

(1日230円注釈)

*弁護士費用保険「リガール Biz」標準プランLite の場合の月払い保険料を30日で割った金額です。

(法律相談料補償:年間限度額・10 万円、1事案限度額・2.2 万円:弁護士費用補償:年間限度額・100 万円、1 事案限度額・50 万円)