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絶滅危惧!「よせもの」職人

このままだと結婚式のティアラがなくなる!?

Masaaki Takahashi  有限会社アトリエ・エイト /代表取締役 髙橋正明氏

◆取材・文・撮影:加藤 俊

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DSC_0718髙橋氏が手掛けたティアラ「和の輝き 三光─陽・月・星」「星」のティアラ

今年6月、都内お茶ノ水にある喫茶店「みじんこ」で、ジュエリーデザイナー髙橋正明氏の個展が開かれた。

しかし、見るものを惹きこむティアラの眩さとは対照的に、作者である髙橋氏の胸中は晴れなかった。実は、ティアラを作る 「よせもの(※)」職人の世界は、悲壮な現実に直面している。後継者育成に苦しみ、技術の継承が危ぶまれているのだ。なにせ髙橋氏をいれて残っている職人は、僅か数名だけ。風前の灯。消えかかった技術なのだ。

「よせもの」を認知させる。その悲壮な使命に突き動かされた髙橋氏の戦いに密着した。

※イミテーションの宝石をあしらったティアラやネックレス、通称コスチュームジュエリーを作る技術。

 

「産業革命」がはじまり

DSC_0816三光 「陽」のティアラ

住宅街の一角にある作業場アトリエ・エイト(東京・葛飾)。個展に出品した「陽」のティアラを持ちながら、「よせもの」の背景を説明してくれた。

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「イミテーションだからこそ、実際の宝石では作れない華美な世界を表現できるんです。大振りな石をちりばめるといった大胆な使い方ができるため、花嫁さんの装飾品や、演劇舞台などの世界で長らく愛用されてきました」(髙橋氏)

 

よせものの歴史は産業革命にまで遡る。もともとジュエリーは高価ゆえに王侯貴族しか持つことが許されなかった。それが革命によって中産階級が登場すると、本物の宝石や貴金属を持つまでの余裕がなかった彼等の間でイミテーションが流行り、同時によせもの技術も花開くことになる。

ところが、1950年代以降に鋳造技術(キャスト)が発達したのを境に、よせものは衰退していく。キャスト品で細かいものまで鋳造できるようになったからだ。例えばペンダントを作るにしても、一つ一つのパーツを土台の爪で固定していくよせもの技術で1個作る間に、鋳造なら50~100個も作れてしまう。こうして、手間を嫌った多くのよせもの職人たちがキャスト屋になっていった……。

 

 

「キャスト」と「よせもの」の違い

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しかし、よせものならではの良さがあると髙橋氏は言う。

「例えば、キャストは金属を型に流して作ります。よせものであれば接点を溶接で留められますが、キャストだとシャープさに欠け、ぼたっと肉厚になるんです。だからといって薄くすると、今度は複数個作ったときに不良品がでてしまう。薄くできないから、結果重くなる。その点、よせものはシャープで軽いですから、いまも劇団など演劇の世界で愛用されているのです

 

ただ、一つ一つスワロフスキーを繋ぎ合わせていくため、どうしても手間がかかってしまう。問題なのは、その手間への理解が進まないこと。世間はよせものの価値判断を持っていないため、職人としては価格設定が難しいと髙橋氏は嘆く。

DSC_0807胡粉(ごふん)という貝の粉を砕いた泥を皿に盛り、その上に、ツメやパーツを並べる「よせ」の工程。「よせもの」の工程はアトリエ・エイトのHP「職人の仕事」より確認できる。

「陽が当たらない世界。よせものに限らず、職人の世界はみなそうですが(笑い)。お客様は職人の作った作品にどういうストーリーがあるか知らない。背景を知らないんです」

農業だってトレーサビリティ―が進み、各生産者の顔が分かるようになった時代。しかし、下町の職人の顔は未だ陰に隠れている。「よせものを世間に認知させるには、職人が表に出るしかない」と髙橋氏は意気込むが、旧態依然とした世界では、職人が表に出ることへの理解は相変わらず低い。

とくに仕事の発注側は、職人の名前が表に出ることを良しとしない。髙橋氏はそこに憤る。

「歌だったら作詞作曲誰々と、名前が出ます。ところが、職人は名前が出ることが少ない。せっかく有名企業さんと組ませてもらっても、よせものをアピールすることが難しいんです」

 

 

存在を知られていない「町工場」

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「世間の若者たちは就職活動に企業を何十社も回ります。でも、町工場は素通り。〝町工場に勤める〟という発想自体が一般ではないのでしょう。そもそも、存在さえ知らないんだと思います」

だからこそ、職人の世界が認知されれば、就職先の選択肢になり得るのではないか。

「そのために、自分は表に出なければならないんです」DSC_0814

実際に髙橋氏の弛みない努力の甲斐あって、状況は好転しはじめた。きっかけはテレビ朝日の取材だった。番組制作の過程で、髙橋氏の作品がスワロフスキー社の目にとまったのだ。技術力を認められて、スワロフスキー社からお墨付きをもらったことは、髙橋氏の自信になった。「MASAAKI  AKAHASHI made with SWAROVSKI ELEMENTS」。スワロフスキーの商標が入ったブランド名は一際目立つ。

 

「ブランド契約していなかったら、『スワロフスキー』の名前は名乗れません。単に『スワロフスキーを使ったジュエリーです』ではなく、『マサアキ・タカハシのブランドでは、スワロフスキーのクリスタルを使っている』と表だって言えるようになったことは、大きな前進です」

よせもの職人の再起をかけた、髙橋氏の飽くなき挑戦。前途は決して平坦ではないだろう。しかし、髙橋氏は臆していないようだ。TIARA「和の輝き 三光─陽・月・星」の3部作を見て、そう思った。そのティアラには、自らが先頭に立ち、戦っていくという髙橋氏の確かな決意が込められているようだった。

 

自家焙煎珈琲 みじんこでの個展の様子

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三光 「月」のティアラ

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DSC_0734抹茶のシフォンケーキと小倉の組み合わせが絶妙で美味しかった。淹れたてのコーヒーを氷で急冷しているアイスコーヒーは、苦味が浅め。

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●プロフィール

たかはし・まさあき氏…1972年生まれ。日本大学大学院・理工学研究科建築学専攻卒業後、フィンランドの建築家Juha Leiviskä氏に師事。帰国後、有限会社アトリエ・エイトの代表取締役として現在に至る。

 

●有限会社アトリエ・エイト

〒124-0006 東京都葛飾区堀切1-39-9

TEL 03-3693-8860

E-mail:office@eight-takahashi.com

http://www.atelier8.co.jp/

 

2013年7月号の記事より

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