オビ 企業物語1 (2)

株式会社ワカ製作所 ‐ 国内メーカー初! JAXA認定の高周波同軸コネクタを作る凄腕職人の正体とは?

◆取材・文:加藤俊

オビ ヒューマンドキュメント

ワカ製作所 製品群

2013年3月、高周波同軸コネクタでJAXA(宇宙航空研究開発機構)の認定を受けた日本企業がある。国内メーカーとしては初。

50年前、SONY製テープレコーダーの足やスイッチボタンなどの樹脂製品から始まったこの企業が、高周波同軸コネクタやケーブル、リチウムイオンバッテリーなど最先端の電子部品メーカーになったその強さに迫る。 

 

■国内初のJAXA認定、厳しいハードル

認定を受けるまでの道は険しかった。ロケットや人工衛星の利用が想定されるのは宇宙という環境。部品一つといえども、要求されるレベルは非常に高い。ワカ製作所の同軸コネクタも、極限環境で、正確に働き続けるかの厳しい試験が課されてきた。
「おかげで、高品質な製品の完成に漕ぎ着けることができた」と同社の若林佳之助社長(以下、若林氏)は言う。

 

ワカ製作所 若林佳之助氏 (2)

若林佳之助氏(わかばやし・よしのすけ)…1975年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後、三菱電機株式会社に入社。FA機器の営業を経て、2005年、株式会社ワカ製作所に入社。2011年社長に就任して、現在に至る。慶應義塾普通部運動部会空手部監督現任。

そもそも、宇宙開発用共通部品として国内メーカーに採用されるには、欧米の人工衛星で搭載実績があるか、JAXAの認定品に限られる。同社は同軸コネクタでは国内で初めてJAXAの認定を取得。現時点で、紛れも無く国内トップクラスにある製品と言えるだろう。

その同軸コネクタとはモジュールなどをつなぐ部品。同軸ケーブルと装置の入力または出力端に装着し、高周波信号をロス無く接続できる器具を指す。

特徴としては、周波数が高くなるほど、材料と構造に気を配り、より緻密に設計する必要がでてくること。これは、ケーブルの径や寸法、絶縁体の誘電率のほんの僅かなズレで、本来の性能が引き出せなくなるから。そのため、求められる加工精度は非常に高い。

ところが、その組み立ての多くは、機械より手作業で行われることが多い世界だという。つまり、匠や職人と呼ばれる限られた技能者しか作ることができないのだ。では、こうした要求水準の高い製品をどういった職人が作っているのだろうか。意外にも、「多くが主婦」だという。

 

半田付けは100分の数ミリの世界

株式会社ワカ製作所 麻績工場外観

麻績工場の外観

長野県麻積村、信州の真ん中あたりに位置するその地にワカ製作所の麻績工場はある。「ひじり曇れば雨となる」といわれる雨乞いの山、聖山(ひじりやま)を遠くに望む美しい自然に囲まれたその静かな工場で、その一帯に住む農村の主婦たちが、世界でも最先端を行く高周波同軸コネクタの組み立て、ケーブルへの装着を行っている。

「組み立ては全て手作り。精密な半田付けは100分の数ミリで位置決めを行います。極小製品等は、極細のはんだごてを指先で摘みながらその先端で失敗の許されない作業をしていると想像してもらえば」(若林氏、以下同)。

季節によっては、畑作業などを行う主婦たちが、その同じ手で芸術的な半田付けを行うという在り様は女性(ウーマンパワー)の逞しさの表れか。同時に日本のモノづくりの地力の深さを感じずにはいられない。

株式会社ワカ製作所 麻績工場作業の様子 (4) 株式会社ワカ製作所 麻績工場作業の様子 (2)
麻績工場で働く主婦たち。JAXA認定の高周波同軸コネクタを作る凄腕の職人とは彼女たちなのだ。

 

■110GHz対応の1㎜Wコネクタ

株式会社ワカ製作所 プレイステーション

AVマルチコネクタ、マルチケーブル、マルチAVケーブルなど、同社ではプレイステーション向け製品も手がけていた。

創業から56年間、ソニーとはその間、長い協力関係にある同社。「要求される技術レベルが高く、クリアする苦労はあったが、そのおかげで鍛えられた」という典型的な日本型中小企業だ。ちなみに、これまでに製造したコネクタは10億個以上。SONY製品で言えば、プレイステーションのAVマルチコネクタなども過去には製造していた。

そんな同社の現在の主力製品は、高周波同軸製品。コネクタ・ケーブル・コンポーネントなどだ。特に10GHz以上の高い周波数帯の製品を得意としているという。

ワカセイサクショ 1.0mmWコネクタ

データ容量を多く送信するためには、周波数が高くなる必要がある。ワカ製作所のコネクタは中心導体など非常に複雑な形状をしているのがわかる。

高周波同軸ケーブルとは、大容量の信号を送るケーブルのこと。無線機やアンテナ、光伝送システムや計測機器、レーダー等に使われている。この分野は、日進月歩で技術革新が進んでおり、年々要求されるデータ送信容量は上昇していく。つまり、高周波同軸製品メーカー各社は、日夜、大容量を送信できる高周波製品の開発を進めている。

その中で、ワカ製作所は、最先端を行く。同社の1.0mmWコネクタは110GHzまで対応する。「100GHz以上の高周波製品を開発・製造できるのは当社を含め数社のみ」。

ちなみに、一般的な家庭用のテレビのF型コネクタは1GHz以下である。

 

■利益が出ない新事業を信じること10

初期製品のピンジャック

同社初期製品のピンジャック

当初はAV機器の入出力コネクタを作っていた同社が、こうした高周波同軸製品に着目するきっかけは、「80年代に価格競争が激しくなり、先代(社長)がこれからは通信だと考えた」ことだった。それから実際に富士通などで採用されて軌道に乗るまでに、時代がまだ通信機器に注目が集まっていなかったため、10年かかった。

それが90年代に携帯電話が普及し始めると、各地で設備の切替えが始まり、需要は急激に高まる。先代社長の読みは見事に当たった。

「当時、ソニーのヒット商品だったウォークマンのモーターコイルはほぼ100%弊社で作っていました。ウォークマンがカセットケースサイズになった時は、ソニーの技術者がウチの工場に泊まり込みで来て、一緒に作ったりもしたそうです。しかし、そのように順調な時期にも、先を考えて、新しい分野に挑戦した。利益が出なくてもそれを10年間やらせ続けた先代の選択のおかげで、今日があると言える」。 

いったい、先代社長とはどんな人物だったのだろうか。

 

テープレコーダーから宇宙へ

「何か仕事をさせて頂けないでしょうか」。昭和33年、高度経済成長に沸き立つ東京。当時は品川にあった東京通信工業株式会社がソニー株式会社と社名を改めたその年。そのソニーの社屋に、足繁く通う一人の青年がいた。ワカ製作所の創業者若林佳郎、18歳。この年に会社を立ち上げ、大学に通いながら経営に勤しむ青年実業家だった。

その真摯さと熱意がソニー技術者たちに通じて、「試しに、これをやってみろ」と樹脂成形の仕事を請け負うことに。そこで認められたことから、SONY製テープレコーダーの足に始まり、オーディオやVTR部門、ピンジャックや携帯型カセットプレーヤーに使われるモーターコイルを手がけるようになり、業績を伸ばした。それが、ワカ製作所の生い立ちだ。電子部品メーカーとしての地位を確立できたのは、やはり若林佳郎氏の慧眼に寄るところが大きい。

 

しかし、日本のモノづくりが輝きを失った昨今、同社もまたリーマン・ショックを境に、往年の勢いは失っている。そして、日本の黄金時代を縁の下で担った同社が「今」向いている先には、広大な宇宙が広がっている。数年の後には、ロケットや人工衛星の部品として、同社の同軸コネクタは、宇宙を巡るだろう。ところが、そこはアメリカ勢などライバルも多い世界。

ドラマが多かったはやぶさのように、絶望と奇跡の旅路を辿るのではないだろうか。それでも、挑戦を続け、最後は微粒子の入ったカプセルを帰還させるという偉業をやってのけてくれると期待したい。

 

ワカ製作所 若林佳之助氏 (1)

「弊社も色々なことをしてきました。例えば、ゲーム製作の仕事。ゲーム画面をパソコンのディスプレイに映すコンバータから、『サターンミュージックスクール』という音楽ゲームを作ったりもしています(笑い)。先代はよくやらせたなあと。この挑戦する姿勢は私も受け継いでいきたい」

インタビュー

―コネクタやケーブルは、中国でも作られるようになっていると聞きます。何れは技術レベルでキャッチアップされることも考えられますが。

若林 まだ携帯電話に活用されるレベルの製品が殆どとはいえ、胡座をかいてはいられない。我々はもっと上を行く。宇宙・医療・防衛などが考えられる。こうした分野では更に高性能化、周波数の高い方向へと進んでいる。周波数が高くなればなるほど、コネクタを、より緻密に作る必要が出てくる。そうした要求の高いニーズを確実に拾っていけるよう努めます。

 

―しかし、宇宙産業はマーケットとして期待できるのか?

若林 もちろん、この分野は手間がかかるが生産数は少ない。市場として非常に大きな発展は見込めません。事実、弊社が同軸コネクタのJAXA認定を受けるまでは足掛け4年かかりました。本当に苦労の連続だった。ただ、だからこそ認定が取れた時、努力してきたものが実った瞬間は、皆で喜びを分かち合えたのです。こういう挑戦を行う副次的効果は大きい。社内の纏まりや自社の品質管理レベルの高まり、ブランド力という観点で見れば、十分に挑戦する価値がある市場と言えます。

 

―他にはどういった分野への進出を見越しているのか?

リチウムイオンバッテリー

同社のリチウムイオンバッテリー

若林 信州大学と協力してクララという生活動作支援ロボットを作っています。次の動きを察知してサポートするロボットです。また、同じく信州大学と提携して2014年2月に打ち上げられた信州産人工衛星『ぎんれい』には、リチウムイオン二次電池使用バッテリーユニットが使用されています。

 

―次代の青写真は?

若林 今必要なのは、新しい世代の実績と考えています。高周波同軸製品の市場では、今までに確立した地位があります。しかし、好調な時こそ次を考えなければならない。企業の寿命は30年と言われますが、私たちが高周波に目をつけたのもちょうど30年前。30年やり続けてきてようやく今、成果となっている。だから今、次を考える。

 

―海外展開は?

若林 グローバル展開もこれまで以上に進めていく。元々高周波関連の技術は軍事技術からスタートしているので、古今本場はアメリカです。現在も関連企業が多い。これまでは、アメリカ進出は難しいと思っていたが、3年前海外の展示会に出たら、向こうの専門家から弊社製品の品質に注目が集まった。そこで、いけそうだと。さすがに値段はこなれているが、充分戦っていけると思っている。他にもシンガポールや台湾などにも今以上に入り込みたい。こういうところでJAXA認定は強い武器になる。

 

―経営者として大切にしていることは?

若林 会社という場は、お金を稼ぐ為だけにあるのではない。社員には何かを成し遂げることを意識してもらいたいし、私はそういう場を提供したいと思っている。社員ひとりひとりが目標を見出せる場、向上心を持ちえる場を提供していきたい。そのためにも、先代がやってきた、手堅く慎重でありながらも、常に次の一手を打ち続ける、挑戦者としての姿勢をしっかり継承していきたい。

 

■工場スナップ

松本工場
株式会社ワカ製作所 松本工場外観株式会社ワカ製作所 松本工場 (2) 株式会社ワカ製作所 松本工場 (1)
松本工場では、コネクタの金属・樹脂パーツの製造が行われている。社内一貫生産の為に様々な機器が設備されている。松本工場で製造した製品が麻績工場に送られ、主婦たちの手で組み立てられる。

麻績工場

株式会社ワカ製作所 麻績工場作業の様子 (3)株式会社ワカ製作所 麻績工場作業の様子 (7)
株式会社ワカ製作所 麻績工場作業の様子 (8) 株式会社ワカ製作所 麻績工場作業の様子 (6) 株式会社ワカ製作所 麻績工場作業の様子 (5)株式会社ワカ製作所 麻績工場作業の様子 (1)

 

オビ ヒューマンドキュメント

ワカ製作所 ネットワーク図

株式会社ワカ製作所

所在地:東京都新宿区南町6番地

℡:03・5228・3161
http://www.waka.co.jp/

売上:10億円

社員数:100人

2015年3月号の記事より
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