オビ 企業物語1 (2)

株式会社ロジクロス・コミュニケーション – 「現在」と「50年後」の社会に貢献を。

◆取材:綿抜幹夫 /文:渡辺友樹

物流ではなく〝流通〟へ。

システム改善を通じて、より良い日本の未来を築く。

 

メーカーの物流業務改善を事業としているが、世に乱立するコンサル会社とは一味も二味も異なる企業がある。外から意見するだけではなく、クライアント内部に入り込んで実行から改善まで携わることで信頼を集める株式会社ロジクロス・コミュニケーションの吉村武久社長に聞いた。

 

■株式会社ロジクロス・コミュニケーション設立まで

株式会社ロジクロス・コミュニケーション01株式会社ロジクロス・コミュニケーション 代表取締役社長 吉村武久(よしむら・たけひさ)氏…1974年生、関西学院大学商学部卒業。経営コンサル会社への就職、物流業務オペレーション改善を請け負うベンチャー企業への参画を経て、2006年に株式会社ロジクロス・コミュニケーション設立。代表取締役社長。

昭和49年(1974年)生まれの吉村社長は今年40歳。「漫画家か学校の先生になりたかった」という吉村少年の興味は、大学では国際開発や国際協力に向かうようになる。南アフリカで現地の生活向上のためのプロジェクトに関わるなど、精力的に活動していたという。しかし、学生の身分であればまだしも、ボランティアやNGOで生計を立てるのは難しい。社会貢献への意識を抱えたまま就職を考え始めた若き同氏は、「日本の社会、生活基盤を支えているのは経済だなと思った」といい、日本企業の99%以上を占める中小企業を支援する仕事に就きたいと、経営コンサル会社に就職する。

しかし、クライアントの社長たちに対して経営の改善点を指摘しアドバイスをするには、大学を卒業したばかりの若者では致命的に経験が足りないと感じたという。経営コンサルタントは失敗の許されない仕事でもあり、「若いうちはもっと思うことを試したり、失敗したりしないといけない」との思いから、この経営コンサル会社を5年間で退職する。

 

次に「現場に入って経験を積める仕事がしたい」という思いで入社したのが、現職と同業、現場での物流業務オペレーション改善を請け負う企業だった。大手商社出身の創業者達が8名で立ち上げたベンチャー企業に同氏も参画した形だったという。この企業の社長のことは「今でも尊敬していますし、大好きです」という同氏だが、8名で始まったベンチャー企業が大きくなっていく中での様々な経緯から、結果的に4年半で退職し、ここで得た経験や知識をもとに株式会社ロジクロス・コミュニケーションを設立する。起業時31歳のターニングポイントであった。

現在9期目の同社は、創業時点では同氏以下3名。ひとりは同氏に物流を教え込んだ前職のパートナー会社の先輩を巻き込んだ。もうひとりは経理や管理を担当する同氏の夫人である。いわば身内3名での設立だったが、現在までの9年間でその規模35名、年商45億円までに成長を遂げた。

 

■コンサルではなく、アウトソーシング

 

株式会社ロジクロス・コミュニケーション02●戦略的物流管理サービスを構成する同社の特徴…荷主企業に対して物流改革を提案し、包括して物流業務を受託する3PLサービスが、当初の期待に応えられていないケースが増えている。同社では、これらの問題を克服するソリューションとして7つの構成要素を揃えて、「戦略的物流管理サービス」を提案している。

物流業務の改善を事業とする同社だが、同氏はあくまでも「当社はコンサル会社というより、アウトソーシング会社」と強調する。メーカーの物流部門の内部に「参謀」として入り込み、実行から効果が上がるまでサポートするのが特徴だ

まずは即効性のある改善策を実行(クイック・ウィン)し、最初の診断にかかったプロジェクトフィー以上の効果を創出し、その後は1〜3カ年の経営改善計画を立てて取り組んでいく。クライアントとしても、同社に丸投げして任せっぱなしではない。クライアントの社員も共にプロジェクトに関わることが重要なのだ。同氏は「当社が保有するノウハウはすべて移管させて頂くが、経営改革・業務改善は一緒にやりましょう、というハンズ・オン型のスタンス」と語る。

クライアントの社員が関わることで、営業や生産、調達といった他部門との連携が可能になるという業務改善においての利点もあるが、何より大きなメリットは、業務改善しながらクライアント内に改善を推進できる人材を育成できることだ。同氏は「自社内でできるようになって、3年間で当社を切ってください、と言っています」と語る。こうしたスタンスが同社の大きな個性であり、明確な数値を示して提案される独自のノウハウやネットワークには絶対の自信を持っているという。

 

■「単価」を下げずに「数量」を下げてコスト削減

 

株式会社ロジクロス・コミュニケーション03●物流コスト削減系プロジェクト(※直近分抜粋)

いわゆるコンサル会社にはない独自性は他にもある。同社は物流コスト削減を手がけるにあたって、必要以上に「単価」を下げることはしないという。「単価×数量」がコストとなるわけだが、長年、単価競争を繰り返した結果、物流業界の給与水準は極端に低いという。この、単価水準を下げ、給与水準もさらに下がり……、という傾向を助長してしまっては「社会的に意味はない」との考えから、同社では効率改善によって「数量」を引き下げるコスト削減策を設計し、提案・実行している。物流会社であれば売上が大きい方がよいが、同社は物流会社ではなく、メーカー側のスタンスである。物流売上ではなく、物流コストの適正化を重要視しており、その上で効率改善によるコスト削減はいたって妥当な提案なのだ。

無駄の多い仕組みの中に多数のマージンが重なって、それらの積み重ねがサプライヤーにのしかかっているのが、今日の日本の物流のあり方だ。これは、製造者・生産者から消費者へ、より安く、よりスムーズに商品を届ける余地があることを意味する。同社は物流の在り方を見直すことで、業界のバリューチェーンをスリム化し、日本の製造業がより強い企業体質に変革できるよう貢献しようとしている。

 

■今後は中小企業への支援をさらに強化

順調に成長を続ける同社だが、今後はこれまで以上に「中小企業」への支援を強化したいと考えている。同氏は「今後3年間で中小企業100社が参画できる共同物流プラットフォームを構築することが目標」と語る。

物流業務は倉庫などの拠点数や人員など、ある程度の経済規模があってはじめて改善を図れることもあり、これまでは、年商一百億~5百億円規模の、中堅以上のメーカーがクライアントの多くを占めていたという。しかし、同社設立当初から同氏の視線の先にあるのはより小さな製造業や農業事業者だ。

「日本には、素晴らしいモノづくりをしている方たちがたくさんいます。しかし、消費者のもとに届くまでにどれだけの中間マージンが入り、流通コストが乗るかを考えると、やっぱり大企業の商品の方が安く手に入る。小ロットしか生産できない中小企業の商品は、消費者にとっては高いものになってしまう」と語る同氏。もともとの物流費が少なくても、複数の企業を集めることで1社あたりのコストを削減できるといい、具体的には、在庫を共有したり、1台の車両に荷物を相乗りさせたり、システムを共同で運営したりといった共配のスキームを提案する。さらに、「生産と営業の結果が物流に表れる」ため、物流の見直しを通じてその企業のマーケティングや生産に関する課題が抽出され、その後の商圏拡大などの戦略をサポートすることもできるという。

「物流」ではなく「流通」へ、同氏の胸にある理想の同社は「物流コンサル会社」ではなく「流通強化のサービス会社」だ。「中間流通構造の革新に向けた支援を拡げていくことで、優良なモノづくりの製造メーカーや生産者に貢献することが当社の使命」と語る。

 

■「現在」と「50年後」の社会に貢献を

株式会社ロジクロス・コミュニケーション04●戦略的物流管理サービス【4PLモデル】…同社の戦略的物流管理サービス『4PLモデル』は、荷主企業と3PL(物流会社)間に存在する様々な課題を解決し、コスト削減、物流品質の向上やKPIの達成、最適なSCM構築を通じて、荷主の物流戦略を実現へと導くサービスである。

 同社の理念は「心に誠実を刻み、我が使命を生涯追求すること」「家族・社員と、価値及び幸福を分かち合うこと」「顧客・パートナーと目的達成及び喜びを分かち合うこと」「『現在』と『50年後』の社会に対して、貢献を行うこと」の4つだ。コンサル会社らしからぬどころか、まるで社会福祉事業者のそれのようなこの理念からも、同氏が目先の利益の追求をまったく目的としていないことが分かる。

現在の同氏は家族や社員を背負う立場だが、自分に関して言えば、社会に奉仕し続けた結果、見返りがなく窮地に陥っても「どうってことない、そんなに怖くない」のだという。そもそも「そんなものだと思って」おり、見返りを求めてはいけないというのだ。この考えから、同氏は社員に利益を追求しようとする意識をいったん捨てさせ、「限りなく天に徳を積む」ことを行動指針として定めている。このため、年商だけをみれば45億円という数字を叩き出しているとはいえ、同社のビジネスは非常に薄利多売であり、利益率は非常に低いのだという。

しかし、「企業が長期的に発展・継続するためには、短期的な利益を追いかけるよりも、顧客に喜ばれ信頼される方が、ファンが集まり、結果的に社会的なステークホルダーが増える。お取引先、仕入先、協業パートナー、社員、株主が増えると、当然会社の基盤は強くなっていく」というのが同氏の考え方だ。さらに同氏は、「そもそも大金持ちになろうと思っていないんです。お金は死なない程度あればいい。大金を儲けなくてもいいんです」と言う。

 「もし僕がお金儲けをさせて頂くならば、それは自分の懐を肥やすためじゃない。自分がもっと社会をより良くできる仕事ができると思ったら、そのときはお金を稼ぎます。そして、組織を大きくし、社会に還元していく事業を興していきます」

 利益だけを考えれば、物流部門を有していないような小さな会社の支援はフィーも低い。巨大な物流規模を持つ大手メーカーをターゲットにする方がフィーが大きいのは明らかだ。しかし、学生時代からボランティア精神にその軸足を置いてきた同氏の芯は、才気溢れる経営者として同社を成長させ、不惑を迎えたいまなお全く変わっていない。

 「僕にとってのキーワードは〝シェア(共有)〟。一極集中ではなく、共有と分配を意識すると、様々なアイデアが生まれる。それを実行して、一生懸命な方々を支援し、お役立ちすることに邁進したい」

オビ ヒューマンドキュメント

株式会社ロジクロス・コミュニケーション05

●株式会社ロジクロス・コミュニケーション

〒104-0032 東京都中央区八丁堀4-1-3 宝町TATSUMIビル9F

TEL 03-6280-5950

http://www.logicross.com

 

2015年2月号の記事より
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