株式会社エージェント・スミス ‐ 「ITコストの無駄を省く」 独占状態のビジネスを創出した着眼点とは?
株式会社エージェント・スミス ‐ 「ITコストの無駄を省く」 独占状態のビジネスを創出した着眼点とは?
◆取材:綿抜幹夫 /文:渡辺友樹
株式会社エージェント・スミス 代表取締役社長 山菅 利彦氏
独占状態のサービスで驚異的な伸びを見せる株式会社エージェント・スミス。35歳でSler企業の役員へと駆け上がった男は10年後、IT業界に新たなビジネスを創出した。「クラウド化が進めば、メーカーやベンダーはその殆どが行き場を失う。これからはサービスの時代」と語る山菅利彦社長に聞いた。
■IT企業役員の地位から独立
同氏は昭和38年(1963年)、製造業を営む父親と、美容室を経営する母親の元に生まれる。家に住み込みの美容師がいるような環境で、苦労も含めた自営業の生活を目の当たりにしながら育ったためか、漠然と「自分もいずれは何かの商売を起こしたい」と思っていたという。
大学を卒業後、すでに形が出来上がっている大会社には興味を持てず、来たる起業に向けて新設間もないシステムインテグレーター(Sler)の企業に就職。会社を成長させた実績が評価され、34歳で役員となる。
11年間を役員として過ごしたのち、IT業界の課題を解決したいとの思いから独立。平成21年(2009年)、45歳で株式会社エージェント・スミスを立ち上げる。
■「2〜3割は削減できると断言します」
IT投資の無駄を省く
同氏が感じたIT業界の課題は、無駄が多いことだ。
企業が行っているITへの投資は非効率で、この傾向は大企業の大きなプロジェクトほど強いという。システムの構築から運用までのプロセスをみると、大きなシステムの構築はほとんどが失敗に終わり莫大な損失を生んでいるほか、運用の部分にも浪費が多い。
また、そもそもコンピューター業界は売り手主導のマーケット。メーカーやベンダーが、自分たちが作りたい製品を作り販売することによってトレンドを作っている。ユーザーのニーズに合った製品やサービスが提供されておらず、ここにもユーザーにとって多くの無駄がある。
さらに、企業の中でITを扱っているのは、ITの専門的なスキルを持たない社員である場合が殆どであり、ここにも無駄が発生している。
このように、企業のIT投資はその様々な部分で無駄が嵩んでいるが、これを解決するのが同社というわけだ。
具体的には、世の中に出回っている膨大なIT製品やサービスを把握した上で、クライアントに適した的確な選択と実装をサポートするのが同社のサービスだ。ITの中でも難しい部分をプロである同社が支援することで無駄を省くことができ、同氏は「当社なら、IT関連のコストを少なくとも2〜3割は削減できます」と断言する。
■独占状態のビジネスモデル
同社のようなサービスを行うには、システムについて企画やプランニングから構築・製造、そして運用・保守まで、上流から下流に至るすべての領域をカバーするスキルが必要だ。エンジニアにはプランニングはできないなど専業化されているIT業界において、これを満たす人材は少ない。
また、IT業界は中流域である構築や製造のプロセスに6~7割ほどの人材が集中している。これに対し同社のビジネスは、プロジェクトの計画段階や要件定義・設計といった上流工程主体でクライアント内に入り込み、クライアントの立場でIT業界側からの提案や営業に適切に対応するサービスだ。
このビジネスモデルは狭義では競合はゼロ、独占状態だという。層の厚い部分を避け、競争を回避しての創業は見事というほかない。
さらに、同社のビジネスは、ブルーオーシャンだからと追従したところで一朝一夕で模倣できるものではない。高度で幅広いスキルが必要なことに加え、たとえば大企業が同社のビジネスを行おうとした場合、社内の各部署から優秀な技術者を選抜してチームを新設するほかなく、割に合わないのだ。同氏が「大手は参入してこないと思っています」と語る中小企業ならではの強みがここにある。
■「ITもBPOを」今後は支援から代行へ
当初、あくまでもITの難しい部分のみを「支援」するものとしてスタートした同社のサービスだが、起業して6年間が経過するうちに、「IT関連業務を組織ごと同社に任せてしまいたい」という要望が増えてきたという。
こうした声を受けて、すでにIT業務全体を丸ごと代行する形で関わっているクライアントもあるというが、IT業務全体を請ける場合、特に高度なスキルを要しない部分も多い。そこで同社では、そうした部分を担当する要員として200名ほどを協力会社で調達し、本来の「支援」サービスで携わっていた高度なスキルを要する部分についてのみ、同社のプロパー社員が担当している。
こうして体制を整えた同社は、今後はこうした「代行」のサービスを推し進めるという。総務や人事、経理などを専門企業に外部委託する「BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)」を活用する企業は増えているが、「ITもBPOを」という発想だ。同氏は「ITは組織ごと当社に投げて、お客様は本業に専念してほしい」と語る。
■「来期の目標は30億円」業績は極めて順調
1月には7期目に突入した同社。立ち上げ時にターゲットとして描いていたユーザー層も狙い通りに獲得でき、収益もほぼ計画通りに推移している。これまでは極めて順調だという同社の業績は5期目が10億円、6期目が15億円。同氏は「当初考えていたよりもはるかにニーズがあった」といい、来期の目標として設定している30億円も決して非現実的な数字ではないという。
創業の着眼点は満点ともいえる同社、今後売り上げを伸ばすためには、いかにサービスのクオリティーを落とさずに、提供する量を増やせるかが勝負となる。
社員数については現在38名まで拡大し、その全員が技術者だ。現在は社の未来を担う若手の採用に力を入れているといい、同氏は「30歳前後で、ある程度得意分野を持っている人材。幅を広げれば戦力になるな、という人材を採用しています」と語る。
■「クラウド化が進み、メーカー・ベンダーは仕事が激減」
IT業界の今後とは
急速に普及が進む「クラウド」。現在は開発や構築のプロセスに人材や企業が集中しているIT業界だが、今後クラウド化が加速すれば、その部分の仕事が急激に減少する。出来合いのものを借りる形のクラウドを利用してしまえば、業者を使って設計や開発を行う必要がなくなるからだ。そうなれば、現在層の厚いメーカーやベンダーの多くが仕事にあぶれることになる。
同氏が、自分たちでは開発しない支援という立場のサービスで創業したのは、こうした流れを見越していたからでもある。IT業界で生き残るためには「サービス」の立場にシフトしていくしかないと考える同氏は、「マーケットの変化は2020年前後からかなり加速し、10年後には相当変わっていると思います」と語る。
■「課題を見つけてから、動くか動かないか」が
ビジネス創出のカギ
Sler企業での経験から、IT企業の課題を見出し、そこからビジネスを創出した同氏。IT業界に身を置く大勢の人間の中で、同氏がパイオニアとなりえた要因を尋ねると、「問題点に気付くこと自体は、他の人にもできます。重要なのは、そこから動くか動かないか」と語る。
目の前の仕事を追いかけるのではなく、誰も手がけていないビジネス、今までにないビジネスを見つけようとする姿勢の重要性だ。変化を追い求める姿勢は、クリエイティブな業界といわれるIT業界であれば、なおさら必要だろう。
実は同氏は、前職でクライアントを抱えていたために、独立が理想よりも5年ほど遅れてしまった。それだけ多くのクライアントから信頼を得ていたことの表れだが、その分、いざ独立してからのスピード感は目を見張るものがある。
■業界の発展のために、業界を変えたい
ITの無駄を省き、クライアントの経営パフォーマンスを上げる同社のサービス。
「こういうサービスが生まれなければ、IT業界は発展しない。この業界に十数年身を置いてそう痛感し、変えなければと思って起業しました。当社の存在が、業界を発展させる一助になれば」と語る同氏。
「いま当社が行っているサービスはまったくのホワイトスペースです」と語る同社のビジネスには、まだまだ伸びる余地が広く残されている。
同社のようなパイオニアが他のホワイトスペースにも登場すればIT業界全体の裾野が広がるが、逆にいえば、そうならなければメーカー・ベンダー主導の業界はクラウド化社会の前にシュリンクしていくほかない。
同氏は「当社が他のホワイトスペースでもビジネスを創出できるかどうかは、私の発想力次第。まだ見つけていませんが、見つければもちろんやりたいと思っています」と語る。
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社名のスミス(Smith)は「Service Mining IT Holdings」の頭文字を取って名付けられ、『優れたIT技術と人間力を持ってお客様に有益なサービスを創出し、提供し続ける企業でありたい』との思いが込められている。六本木ヒルズの高層から、エージェント・スミスがIT産業を牽引する。
◉プロフィール
山菅利彦(やますげ・としひこ)氏…昭和38年(1963年)、栃木県に生まれる。文教大学情報学部を卒業後、Sler企業に就職。34歳から11年間役員を務めた後、平成21年(2009年)に株式会社エージェント・スミスを設立。代表取締役社長。
株式会社エージェント・スミス
〒106-6137 東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー37F
TEL 03-5786-0660
http://www.agentsmith.jp
従業員数:41名(2015年7月)
年商:15億円(2014年度)
株式会社インプリメンテーション
〒106-6137 東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー35F
TEL 03-5786-0660
http://implementation.jp/